【収穫祭】お料理部隊奮闘中!!
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:蓮華・水無月
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月21日〜10月26日
リプレイ公開日:2008年10月30日
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●オープニング
ウィルの町から、徒歩で半日ほど行った場所。そこでは現在、あちこちに飾り付けをしたり、簡単な舞台のようなものが作られたり、天幕のようなものが張られたり――つまりは収穫祭の準備の真っ最中。
当日は演劇なども行われると言うことで、準備に励む人々の頬にも自然と笑みが浮かぶと言うものだ。他にも色々と催し物があるようで
「一体どんな収穫祭になるんだろうなぁ!」
「冒険者さんも参加してくれるんだろう? まったく楽しみだ! さすがセゼリア夫人は考える事が違うよなぁ」
「セゼリア夫人と言えば、当日の料理も楽しみじゃないか? 何しろセゼリア夫人の処の肉は美味い!」
「野菜もセゼリア牧場の堆肥で育てたんだ、絶品だぞ!」
暇さえあれば寄り集まって、そんな噂話に花を咲かせている。そうしてしばらく盛り上がって、おっとこうしちゃ居られない、当日のためにもう一働き、と互いに活を入れあっている。
さて、冒険者達の手も借りて、収穫祭の当日に必要な食材の準備は整っている。あとは簡単、これらの食材を使って収穫祭に集まった人々に振舞う料理を作るだけ。
とは言え、収穫祭にやってくるのはかなりの人数が予想される。となれば振る舞う料理を考えるのも、下ごしらえや調理、収穫祭に集まった人々に料理を出すのだって人手が必要だ。
何より、せっかく冒険者たちが催し物を考え、参加してくれるのだ。料理がありきたりなんて面白くないではないか。
「どうせならこっちも、料理を考えるところから冒険者さんに手伝ってもらいましょうよ?」
「そうねぇ、せっかくだものねぇ」
「きっと冒険者の方なら、色々な料理を知っているのじゃないかしら」
「きっとそうね! 早速セゼリア夫人に相談してみましょう」
収穫祭当日の料理を任された女達は、そんな風に話し合い。
その日のうちに、セゼリア夫人の名で冒険者ギルドに新たな依頼が張り出されることになる。
●リプレイ本文
開催を間近に控えた収穫祭予定地では、今日も当日を楽しみに待つ人々が老若男女、楽しそうな表情を浮かべながら祭準備を進めている。向こうの方では当日に上演すると言う劇の練習に勤しんでいる姿も見られ、
「おぉ〜、熱がこもっとるな〜」
「何でも天界の伝統的な演劇らしいぞ」
かなりの勢いで期待を集めていた。
そんな中、収穫祭当日の料理準備の手伝いのために集まった5人の冒険者が仮設厨房に姿を現す。そこには幾人かの女衆が居て、祭準備に勤しむ人々のために昼食を準備していたのだが、彼らがセゼリア夫人からの依頼の事を告げるや否や、満面に喜色の笑みを浮かべて冒険者達を歓迎した。
「しふしふ〜! 飛 天龍だ、宜しく頼む」
「いやぁ毎年この時季は心が躍りますなぁ。竜と精霊の御恵みを一年で最も感じられるのですから。それに皆々様の笑顔は、僕の詩人の魂に刺激を与えてくれるのですよ!」
「まったくですね。こちらこそ、夫人からお話は伺ってます。宜しくお願いしますね」
飛天龍(eb0010)とギエーリ・タンデ(ec4600)の言葉に女達が笑み返す。続いてカルナック・イクス(ea0144)、ゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)が自己紹介をした所までは順調だったが。
「‥‥イシュカ・エアシールドです‥‥」
イシュカ・エアシールド(eb3839)がたおやかに名乗った瞬間、女達から「キャァッ」と小さく黄色い歓声が聞こえた。
「セゼリア夫人の言ってたあの方ね?」
「そうよ、あの方よ!」
「キャッ、お会いしちゃった!」
どうやらセゼリア夫人がここの女達の人心を完全に掌握している事は間違いないようだ。
夫人とはすっかり顔馴染みのイシュカと飛は夫人がどんな話をしたのか大体正確に想像し、ギエーリは春頃の夫人の様子を思い浮かべて推し量る。ゾーラクとカルナックは夫人と直接対面したことはなかったが、まぁ何となく想像した。当たらず言えども遠からず。
とにもかくにも、こうして収穫祭お料理部隊(仮称)の戦いの火蓋は切って落とされたのである。
まずは当日のメニューを決めるところから始めなければならない。
「俺からの提案は玉葱・人参・カブ・鶏肉を使ってポトフだね。野菜はごろっと大きく切っても煮込めば柔らかくなるし下準備も楽」
「俺が思いついたのはありきたりだがシチューだな。新鮮な旬の野菜をじっくり煮込むだけでも美味い物が出来るに違いない」
「お、いいね。あと鳥を捌いて鶏がらスープとミートボールってのも考えたんだけど」
飛とカルナックがそんな風に話し合えば、イシュカもそっと横から
「‥‥でしたら私はそれ以外の献立に‥‥」
カブと人参のサラダや蒸鳥と玉葱とキャベツのマヨネーズサラダ、人参と胡桃のサラダに玉葱と人参のかき揚げなどを候補に上げる。
聞いていたゾーラク自身は残念ながら料理は不得手のため当日の給仕として立候補済みだったが
「でしたらマヨネーズ作りはお手伝いできますよ。使い捨てパック入りマヨネーズも持ってますし」
こちらにも名乗りを上げ、さらに手作りケーキやミックスベリージャム、サーモンなども提供した。それらの品を見てイシュカが目を輝かせる。
「あ‥‥でしたら人参パンケーキにジャムを塗ってお出ししてはどうでしょう‥‥」
「なら俺もジャムを作ろうかな。蜂蜜と果実が手に入るのなら」
「サーモンはシチューに入れても、他の料理にしても良いだろうな」
何しろ家事・調理のプロが揃っているので、当然メニューの話題は果てしなく盛り上がった。その横ではギエーリが、今上がったメニューがどんなものなのかをゾーラクに尋ねている。彼もまたゾーラク同様に当日の給仕に立候補済みだ。
「此処はひとつ、“天界人の方々がお考えになり、その指示で調理された料理”を大々的に押し出すようお奨め致します。材料も然ることながら、まさに祭りに相応しき呼び物となりましょうとも!」
という発言から察するに、当日の料理を一番楽しみにしているのはむしろギエーリだと思われる。
厨房を任された女達も、冒険者達が話し合う料理には興味津々のようで、ギエーリと一緒になって料理の説明を聞き、想像を膨らませて目を輝かせた。使える食材について質問された時にも「出来る限り揃えて見せます!」と胸を叩き、希望のメニューはあるか尋ねられた時には
「今出てきた料理を全部!」
揃って強く力説するので、逆に冒険者達の方がタジタジになったほどだ。
それから夕方までたっぷり話し合った結果、女達の希望通り考えてきた料理は全て作成する事にした。果実はこの季節なら梨が用意出来ると言う事で、ジャムの他にコンポートも作る事にする。サーモンはシチューに入れ、手作りケーキは梨と一緒にサイコロ状に切って蜂蜜を混ぜた生クリームと混ぜ合わせてデザートに。
必要な調味料、足りない材料などを確認して、その日はお開きとなったのだった。
翌日、再び厨房に集まった一同の前には、女達が揃えてきた梨やにんにく、胡桃と言った食材や調味料と、セゼリア牧場から購入した活きの良い、まだコケコケそこらを走り回っている鶏達と、産みたての卵や搾りたての牛乳と
(本当に可愛いわ)
(セゼリア夫人もきっと喜ばれたわね)
なぜか頬を上気させながらヒソヒソ囁く女達の注目の的になっている、猫耳仕様のイシュカが居た。猫耳なふわふわ帽子と子猫のミトン着用で食材3割引、ペット同伴で2割引。主にセゼリア夫人の趣味によって出された条件は未だ健在だ。
ちなみにふわふわ帽子と子猫のミトンは、支出を抑えるべく‥‥と言うより純粋に猫耳イシュカを見てみたかった女達の準備したもの。そして収穫の際にはその姿を見れなかった反動で夫人の興奮は5割増しだったとか。
まずは時間がかかる煮込み料理や、今から仕込める下拵えに取り掛かる。女達が走り回る鶏を捕まえては絞め、それをカルナックが手際良く捌いていく。一方でイシュカとゾーラクがマヨネーズ作りに精を出し、その向こうの調理台前では人参を剥く飛に指導を受けながら、ギエーリが慣れない手つきで真剣にカブを剥いている。
何しろ近隣の面々が揃って参加する収穫祭なので、用意しなければならない料理の量も半端ではない。最初はにこやかに始まった下準備だったが、やがて時間が過ぎ、日が経つごとに全員が黙々と鳥を捌き、骨を叩き、肉を挽き、カブや人参の皮を剥き、玉葱や胡桃を刻み、牛乳から生クリームを掬い、さらに時間が過ぎて収穫祭当日になると
「魔法の絨毯で水を汲んできますね」
「大量に頼む!」
「カルナックさん、鍋が吹き零れているようですが」
「そうしたら薪を引いて‥‥ジャムが焦げてる!?」
「‥‥私が混ぜましょう‥‥」
「こっちに塩くれ!」
「飛さん、キミの傍の壷だよ!」
かなり修羅場になった。
勿論、冒険者達の手際が悪かった訳ではない。むしろ彼らは料理担当の女達の想像を超える働きを見せたのだったが、何しろ量が量。幾ら下準備を入念にし、煮込み料理の類は味を染ませる為にも先に作っていたとしても、こればかりは避けて通れない現実である。
「デザートは後から出すべきなのかな?」
「構わないだろう。お祭だしな」
カルナックと飛が目の回りそうな忙しさの中でも絶えず手を動かしながら相談している傍で、イシュカがたおやかな手つきでパンケーキを焼いていく。その様子を見ながら女達がこっそり「旦那にするならカルナックさんと飛さんとイシュカさん、誰が良いかしら?」と噂をしていた事を、知らずに済んだのは三人にとって幸いだったのかも知れない。
これだけ料理上手で働き者が亭主だったら‥‥女達は各々の夫を思い浮かべ、そっとため息を吐くのだった。
「さぁ、農場で採れた野菜を、天界人の方々がお考えになった料理で食べられる又とない機会。どうぞ皆様、是非お召し上がりになって下さいませ」
そうして始まった収穫祭。厨房では変わらぬ戦いが続いていたが、給仕役を買って出たギエーリとゾーラクにとってはここからがまさに戦いの正念場と言った所だ。
詩人を夢見るギエーリは水を得た魚の如く、謡う様に朗々と料理の宣伝を行っている。
「此方の皿は、天界の秘伝を元にした料理人お奨めの一皿ですよ。ああ、其方ですか? 其方はマヨネーズと言う天界の調味料を使った一品。おっとお目が高い、其方は料理人が数日かけて煮込んだシチューにポトフと言う料理でして‥‥」
宣伝の効果かざわめく祭の空気のおかげか、かなりの勢いで料理の皿はどんどん空になっていく。それらの空いた皿をゾーラクが魔法の絨毯で厨房まで運び、新たに料理をよそった皿を載せて取って返して会場に並べていく。
他にもワインの樽を運んだり、空いた時間を見て厨房の皿洗いを手伝ったり、親とはぐれて泣いている子供を見かけて魔法の絨毯に乗せて一緒に親を探したり。
さらに収穫祭の宴もたけなわとなってくると
「ゾーラクさん、また飲み過ぎで倒れた人が出ました!」
「食べ過ぎて気分が悪くなったお爺ちゃんが!」
そんな叫び声もあちこちで聞かれるようになり、その度にゾーラクは彼女自身が提案して設けた救護所に向かって患者を診察し、薬を出したり簡単な治療を行ったりした。おかげで安心して楽しめた、とは後日参加者から聞かれた言である。
勿論ひっきりなしに人々を盛り上げ、巧みな話術で料理を勧め、料理について聞かれたら予め尋ねておいた知識を惜しげなく披露して答え
「おや杯が空ではありませんか。新ワインをもう一杯如何です? おお、見事な呑みっぷり!」
「おっと、ようこそいらっしゃいました。何、まだ料理を召し上がっていない? それはいけません。すぐ此方に新しい席をお作りしますので、少々お待ちあれ」
如才なく人を誘導したギエーリも中々の評判だった。多少、饒舌が高じて言葉が過ぎた面もあったようだが、祭の席の事、人々は好意的に受け流したようだ。
大いに盛り上がった収穫祭。その成功の影には5人の冒険者達の料理にかけたドラマがあった。
主催者の一人であるセゼリア夫人は後にこう話している。
「ええ、とても素晴らしい、期待以上の収穫祭でしたわ。ただ、あの方の猫耳姿の給仕が見れなかった事が、唯一の心残りですけど」
‥‥来年も冒険者ギルドには、夫人の収穫祭依頼が張り出されるのかもしれない。