痛みの過去に君を想えば
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:蓮華・水無月
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月11日〜11月16日
リプレイ公開日:2008年11月16日
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●オープニング
「人を探して欲しいんです」
その日、思いつめた表情で冒険者ギルドを訪れたのは、少年と青年の狭間の只中で揺れ動いているような年頃の、素直そうな瞳をした人間だった。ほんの少しクセを残した金色の髪が、かろうじて彼がまだ幼さを兼ね備えた年齢であることを示している。
言ったきり、しばらく何かを堪えるように視線を落としてじっと唇をかみ締めていた彼は、だがそうしていてはまったく話が進まない事にようやく思い至り、おずおずと視線を上げた。そっと、伺うように受付嬢の顔を見る。
迷うように唇が一度動き、二度動き。幾度か繰り返した後に、ようやく喉の奥から絞り出されたような声が、悲壮な言葉を紡ぐ。
「僕の村で半月ほど前から、次々に人が居なくなる、という事件が起きているんです」
「人が居なくなる‥‥? もう少し、具体的にお聞かせ願えますか?」
「はい‥‥‥」
促した受付嬢の言葉に、彼は瞳を曇らせて小さく頷く。頷きながらそれでもなお、言葉にする事をためらっているような表情を見せたが、やがてポツリ、ポツリと語り出す。
―――始まりは、一人の女の子が『友達と遊んで来る』と言い残したきり姿を消した事だった。
いつもの様に女の子を見送った母親は、けれどいつまで経っても娘が帰って来ないので心配になり、村の同じ年頃の子供の家を尋ねて回った。そうして知った事実は、娘がここしばらくは村の子供の誰とも遊んでおらず、時々、どこの子供か誰も知らない女の子と遊んでいる姿を目撃されていた、と言う事だった。
当然ながら村中が総出で女の子を捜し求めた。或いは人攫いにかどわかされたのでは、と悲観的な意見も出たが、誰もが真剣に女の子の姿を探して村の回り、草原や森の中までもくまなく捜索した。
そんな中で次なる悲劇は起きる。居なくなった女の子の捜索に当たっていた村の少年の一人が、『向こうの茂みに居るよ!』と森の茂みの中に消えたきり、消息を絶ったのだ。
次には、少年が居なくなって嘆き悲しんでいた母親が、突然『あの子が帰ってきたわ!』と叫んで走り出し、そのまま戻ってこなかった。その翌日には姿を消した少年の妹が、父親に『お母さんが向こうで呼んでるわ』と言い残して森に消えていった‥‥
共通点は、誰もが直前に消えた人間の姿を見ている事。状況を聞いていた受付嬢は、憂いを帯びた表情でかすかに眉をしかめ、そっと息を吐く。
「‥‥つまり、人の姿を写す魔物が居ると?」
「そう、じゃないかと‥‥今では村の皆も、お互いが本物かどうか疑ってるような状態で」
受付嬢の言葉に、小さく同意の頷きを返した彼の表情は暗い。勿論、そんな不可思議な事件が降りかかり、村人が疑心暗鬼に囚われているのであれば当然の反応ではあるが。
それだけではない何かが、憂える彼の背後にはある。それは受付嬢の、長年冒険者ギルドの受付を努めてきた者としての勘だ。
だからそっと、問いかける。
「‥‥他にも何か、ご心配な事が?」
柔らかな言葉に、彼は弾かれたように視線を上げた。それから、そんな反応を返してしまった自分自身を恥じるような頬を赤らめ、ぎゅっとこぶしを握り締める。
また、しばらくの沈黙。
そして。
「‥‥姉、なんです」
そっと、囁くように言葉を紡ぐ。
「最初に目撃された、村の女の子が遊んでいた『友達』は‥‥5年前にやっぱり同じ様に行方不明になった、僕の姉にそっくりなんです」
「え‥‥ッ!」
「勿論、実際に会った訳ではないですけれど‥‥あの時は、姉は森で迷って戻って来れなくなったのだろう、と大人達は諦めてました。でもあれから5年経って、姉の姿を見た人が居て、姿を写す魔物が現れて‥‥もしかしたら姉は、姉もまた同じ魔物に誘われて行ってしまったのかもしれない、って」
熱に浮かされるようにそう語った彼は、だが次第に瞳の色を暗くした。視線が再び下に落ち、口元に自嘲の笑みが浮かぶ。
「そりゃ、姉が生きているとは思ってないです。でも、もしかして姉がどうなったのか、手がかりでも掴めれば、って。その、勿論、居なくなった村の人が見つかれば、それに越した事はないんですけれど」
「‥‥そうですか」
家族を思う気持ちは当然のことだ。なんら恥じる事はない。居なくなった家族の手がかりが、突然目の前に現れたのなら尚更のこと。
「では、ご依頼は確かに承りました。姿を写す魔物から居なくなった村人達を取り戻す事と、可能ならお姉様の手がかりを掴むこと‥‥ですね」
「え、ええ‥‥よろしくお願いします‥‥ッ!」
ガバッ!と勢いよく彼が頭を下げて、幼さを残す柔らかな金色のクセ毛が遅れてふわふわとそよいだのだった。
●リプレイ本文
村には痛々しい程の緊張が張り詰めていた。出歩く者は殆ど居らず、いても足早に姿を消す。最初は見慣れぬ冒険者に警戒を抱いているのかと思ったが、村人の間に流れる空気もぎこちない。
互いが本物かどうか疑っている村人達。先ずは村で聞き込み調査を、と思っていた冒険者達とて有意義な情報は得られそうにない。
「まずは依頼人に協力を仰いでみるか‥いや、それすらも警戒されるだろう‥最悪の場合、村内で隠密行動を取るなどという羽目になるかもしれんな‥」
「ほんと、人の姿を写すなんて嫌な魔物」
オルステッド・ブライオン(ea2449)の呟きにラマーデ・エムイ(ec1984)が憤然と同意する。他の冒険者も返る言葉こそないが気持ちは同じ。魔物の恐怖はかなり深く人々の中に浸透しているようだ。
とは言えこのまま手をこまねいている訳には行かない。先ずは依頼人に会いに行く事にした。道中、オルステッドとリュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)を先頭に、雀尾煉淡(ec0844)と晃塁郁(ec4371)がそれぞれデティクトライフフォースとデティクトアンデッドを用い、出会った村人の中に魔物は居ないか、家屋の中から魔物の反応はないかを確認する。ラマーデも後から様子を探りながらの移動だ。
やがて依頼人の家が程近くなった頃
「居ました、この家の中に1体」
塁郁が一軒の家を指差し、注意を促した。扉は堅く閉ざされており、昼間だと言うのに窓板すら下ろされている。中からは
『お外で遊びたいよ〜! おばあちゃん、遊ぼうよ〜』
『おばあちゃんにワガママ言わないの! 外は危ないから出ちゃダメ!』
泣き喚く子供と叱りつける母親らしき声が漏れ聞こえた。恐らく現在、どこの家でも似た光景が繰り広げられているだろう。
この家の中に魔物が。だが蹴破って押し入る訳にも行かず、と言ってこちらの事情を聞いてくれるかどうか。
「考えても仕方ありません――失礼、どなたか!」
リュドミラは一歩進み出て、問題の家の扉を叩いた。ピタ、と中から聞こえていた声が止む。
しばしの沈黙の後、細く開けられた扉の向こうから覗く怯えた女の顔。奥では老婆が少女を守る様に抱いていて、その腕の中から好奇心溢れる瞳がこちらを見ていた。
塁郁がすっと指差す。
「あの少女です」
煉淡がアグラベイションのスクロールで少女、否、魔物の動きを抑制した。途端、向けられていた無邪気な瞳が驚きに、そして憎悪へと変化する。
鈍い動作で逃れようと、魔物は老婆を乱暴に突き飛ばした。小さく悲鳴を上げて老婆が転倒し、女がビクリと振り返る。その隙に冒険者達が飛び込み、リュドミラとオルステッドが挟み込む様に魔物と対峙し、ラマーデが老婆の元へ駆け寄って助け起こす。
オルステッドがモンスター知識で見抜いた弱点は、通常の子供となんら変わりなく。だがそれこそが人の姿を写す魔物の特徴。
魔物は敵意の篭る目で冒険者達を睨みつけ、不意にその姿を変化させた。少女の栗色の髪が漆黒に染まり、グイと頭一つ分大きくなり。少女から青年、今まさに自分を拘束している者の姿へ。
「なんと‥‥」
「‥やはりドッペルゲンガー‥」
流石に驚く煉淡の喘ぎに、魔物の正体を見破ったオルステッドの言葉が重なる。冒険者は勿論、女と老婆も驚きを隠せない。
アグラベイションはまだ有効だ。はっと我に返った塁郁がホーリーを放つと、
「ギィ‥ッ」
魔物は苦しそうに呻き、破れかぶれに殴りかかってきた。だがガードするまでもなくひらりと避けたリュドミラが素早く足を傷つけ、オルステッドがピタリと首筋にダガーを当てる。見た目が見た目なので、割とシュールな光景だ。
無意識に自分の首筋をさすりながら煉淡(本物)は魔物を睨みつけた。
「お前の化けた村人はどこにいる?」
「ギ‥ッ! 森、ダ‥‥森ノ奥、ニ‥‥」
少女の姿の時は器用に言葉を操っていた魔物だったが、傷付けられ、さらにチクチクとホーリーで攻撃されてはそうも行かない。拙い言葉が嘘ではない事をリードシンキングで確かめ、煉淡は仲間に頷いた。
首に当てたダガーを力強く引く。姿を写すと同時に弱点も写す魔物は血飛沫を上げてよろめいた。それでもやはり人ではない。首から血を噴出しながら飛び掛ってきた魔物を、躊躇いなくリュドミラが一閃する。
断末魔、どさりと床に崩れ落ちる音、そして沈黙。どうやら死してもすぐには魔物の変化は解けないらしく、自分の死体を見てしまった煉淡はさすがに渋い顔だ。
と、わななく女の声が聞こえた。
「ど、して‥‥?」
「おばさん?」
「あの子はどこ? あんなに気を付けていたのに、あの子はファラと仲が良かったから連れて行かれるかも知れないって、なのにどうして」
「おばさん! 大丈夫、あたし達が見つけるわ」
ラマーデが慌てて女の傍に駆け寄り、落ち着かせようと肩を抱いた。だがそれすら気付いていない様に女はブツブツ呟き、宙を見つめて涙を零す。その傍で老婆が呆然としている。
要救助者1名追加。魔物の被害は、今も着実に進行していた。
騒ぎを聞きつけて集まってきた村人達に気丈にも老婆が事情を説明してくれたお陰で、冒険者達はどうにか当初予定していた情報収集を行えた。無論、全員が協力的だった訳でもなく、この騒ぎの中でも家に閉じ篭ったままの村人も居たが、多くは『居なくなった村人が帰ってくるかも知れない』と言う希望に縋り付かんばかりだ。
「まずは家族に聞いて、髪型や服装の特徴だけ掴んだ簡単な似顔絵を描いてみるわ。後は勿論名前と‥んー。何か本人や家族しか知らないような事無いかしら。お祖父ちゃんの名前とかお父さんの誕生日とか」
そう言ったラマーデには村人が手頃な板切れを用意し、家族だけではなく友人や近所の者も一緒になって、特徴やら何やらをあげつらっていく。すらすら手を動かして似顔絵を描きながら、不明な所は尋ねたり、オルステッドや煉淡に頼まれて、直近で居なくなった人の親類縁者に対し失踪した人や昔と同じ外見で接触してくる存在が居なかったか、一週間以内に村人が消えた際の詳しい時間や場所などを、手際良く質問する。
その間に残る4人で村中を捜索したが、集まってきた村人の中にも、堅く扉を閉ざした家の中にも反応はない。村に入り込んでいたのは1体だけだった様だ。
取り合えず、これ以上村人が消える事だけは無さそうである。後は居なくなった村人を探し出し、残る魔物を倒すだけ。
4人が戻ると、要救助者6人の似顔絵を描き終えたラマーデが
「お帰りー! この子、依頼人の」
「ウォルフです」
少しクセのある金髪をフワフワ揺らす少年と待っていた。聞いていた通り、素直そうな瞳が戻ってきた4人に向けられ、礼儀正しくペコリと頭を下げる。
隣にはウォルフとよく似た壮年の男が立っていて、同じく冒険者達に頭を下げ「この度はありがとうございます」と礼を言った。
「この子の姉、メリッサも探して下さるそうで‥‥遺品でも見つかればウォルフも喜ぶでしょう」
「無事保護出来れば良いのですが」
リュドミラが頷いて言うと、男は複雑な笑みを浮かべる。姉が生きているとは思っていない。ウォルフがギルドで言った様に、彼も娘の生存を期待していないのだ、と判る笑み。
それでも、手がかりを見つけて欲しい、と言うのが依頼。ならば冒険者達は全力を尽くすだけだった。
要救助者の匂いを覚えさせたラマーデの愛犬オロを先頭に冒険者達は森の捜索を開始した。
事前に村人から得た情報に従い、煉淡がパーストのスクロールで過去視して大まかな方向を掴んでいる。オロもまた同じ方向に向かった事から、消えた村人達がそちらに居るのは確実と思われた。
森に慣れているオルステッドとラマーデが先に立ち、塁郁と煉淡がその後ろで魔物の気配や村人の生命反応を探り、後衛をリュドミラが務める。
冒険者達はラマーデが描いた似顔絵を元に、村人達の名前を呼びながら森の奥へと足を進めた。
深い森の中には様々な生命反応があり、その殆どは森に暮らす動物の物だ。だが一箇所、不自然に複数の生命反応が集中している場所を煉淡は感知した。恐らく人間の物。
さては消えた村人か、とそちらに進路を取るとやがて、塁郁が魔物の気配を感知する。どうやら目的の場所の様だ。
「村人達を見張っているのかも知れません」
塁郁は分析し、恐らく正しいだろう、と仲間達は同意した。改めて気配を探り、生命反応が5つ、魔物が1体居る事を確認する。
慎重に進むと、すぐにほんの少し開けた場所に行き当たった。そこに広がっていた光景に息を飲む――物の様に無造作に転がった5人の人間の、固く瞼を閉じた青白い顔。メリッサの姿はない。
傍には1人の女の子が立ち尽くし、倒れている人間達を無表情に見つめていた。ラマーデの似顔絵の中に居たファラと言う子供。行方不明の母に呼ばれて姿を消した。
見れば、倒れている人間の中にも全く同じ姿の子供が居る。他の人間同様血の気のない顔。それを見下ろすもう一人の子供。同じ姿でありながらあまりにも対称的な光景。
この場合は当然ながら
「‥立っている方が魔物か」
呟きと共にオルステッドは素早く駆け寄り、ダガーを一閃した。ハッ、と魔物が身を捩る。だが生命力以外の身体能力はすべて写し取る魔物だ。動きも無防備な子供のそれに過ぎず、危うくダガーを避けるもステンと転んで尻餅をついてしまう。
その間にリュドミラが背後に回って動きを封じ、両脇に塁郁と煉淡。また冒険者の姿を写された時に備えて距離は保つ。魔物はそれでも逃げ道を探してキョロキョロ瞳を動かしたが、冒険者達の囲みは完璧だ。
ピタリと動きを止めた所で、倒れている村人達の方へ向かったラマーデが声を上げた。
「大変! 皆、殆ど息してないよ!」
「え‥‥?」
「呼んでも揺すっても起きないし、心臓も殆ど‥‥」
ギクリ、と冒険者達は身を強張らせた。間に合わなかったのか。否、まだ息はある。
厳しい顔で魔物に向き直った塁郁はホーリーを発動。さらに煉淡のブラックホーリーも魔物を苦しめ、あどけない姿の魔物は苦しげに顔を歪めた。
「ガ‥ッ!」
「村人達に何をしたのですか!?」
「‥‥魂‥‥グッ! 捧ゲル‥白イ石‥‥アノ方‥カオス‥‥」
「どこにある?」
「別‥ノ、仲間ガ‥‥」
カオスの魔物が村人達の魂を白い石に変えた、と言う事らしい。煉淡は以前にその様な依頼を受けた事があり、今回もその類ではないか、と疑っていた‥‥村で姿を写す魔物の正体がドッペルゲンガーと判り、一度は否定した予想だったが。
仲間達にその事を手早く説明し、白い石を取り戻さなければならないと訴えれば、即座に同意が返った。リュドミラとオルステッドが魔物を始末し、塁郁は他の魔物の気配を探る。ラマーデは魂を奪われた村人の身体を、せめて毛布で覆って体温を奪われないようにした。
そのままラマーデは村人達の元に残る。本来なら誰か護衛に残るべきだが、相手はカオスの魔物。ならば戦力は一人でも多い方が良い。
念の為辺りに魔物が居ない事を確認してから、残る4人は再び森の奥へ進んだ。だが今度はそれ程かからず人影を発見する。やはり子供。12歳かそこらの年頃の女の子が、木の幹に背を預けて立っている。
それは依頼人の姉メリッサの姿をしていた。だが塁郁と煉淡の魔法に引っかかる者が人間の筈はなく、そもそも5年前に消えた少女がそのままの姿の筈もない。
迷う必要はなかった。たちまち冒険者達は魔物に肉薄し、相手が気付く暇も逃れる暇さえ与えず取り囲む。ダガーと刀を同時に突きつけられ、魔物はギクリと身を強張らせ、冒険者達を見回した。
「お前の化けた相手はどこにいる?」
塁郁のホーリーを仕掛けながらの質問に、フルフルと首を振る。姿だけを見れば哀れを誘ったが、これは魔物。続く煉淡のブラックホーリーを受けると苦悶の表情を浮かべた。
「アノ方ノ所ダ‥ッ!」
「それはカオスの魔物ですか?」
「ソウダ‥‥ッ。ココニハ居ナイ‥‥ッ」
ここには居ない。逆に言えば別の場所に居るという事で、つまりは
「‥生きているのか‥?」
オルステッドのため息のような呟きに、ブンブンと魔物は首肯する。リードシンキングで確認した煉淡が頷いた。少なくともメリッサの生存は確認出来た。
続いて白い石の場所も問い質し、魔物の背後の木の虚の中に隠されていたそれを発見する。どうやらこの魔物は白い石を守っていたようだ。
この魔物も始末して、一旦白い石を持ってラマーデ達の元へ帰る。村人達に飲み込ませると、やがてゆっくりと目を覚ました。リュドミラのポーションや煉淡のメタボリズムで体力を回復させ、ラマーデが子供に甘い保存食を与え、大人には気付けの酒を飲ませると、村人達も落ち着いた様だった。
保護した村人達を送り届けた後、冒険者達は改めて森を隅々まで捜索したが、カオスの魔物は発見出来なかった。メリッサに化けていた魔物の言葉を解釈すれば、カオスの魔物もまた「ココニハ居ナイ」事になるので当然かも知れない。その他の魔物も居ない様だった。
村人達を取り戻してくれた冒険者達には、村中から感謝が送られた。特にメリッサの生存を知らされたウォルフの喜び様は格別で、何度も何度も深く頭を下げて「ありがとうございます」と感謝を述べた。
依頼は終了した。だが事件がこれでは終わりそうにない事を、冒険者達は感じ取っていた。
「石を取り返されてしまったわ」
不吉を思わせる深い闇の中。残念そうな響きを滲ませた少女の声が言葉を紡ぐ。
「せっかく我が君に捧げようとしたのに‥‥あの村の連中なんて、その程度の役にしか立たないのに、ね?」
クスクスと楽しそうに少女は笑い声を漏らす。追随する様に闇がざわめく。
ひとしきり笑った少女は、そうね、と呟いた。
「今はその時ではないという事ね。帰りましょう‥‥私を虐げ続けたあの村を滅ぼして下さると、我が君は仰ったのだもの。さぁ、我が君に捧げる次なる魂を探さなきゃ、ね」