腐敗する町の怪異?

■ショートシナリオ&プロモート


担当:蓮華・水無月

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月16日〜11月21日

リプレイ公開日:2008年11月23日

●オープニング

 特に何が変わっていると言うこともない、深い木々に覆われた山裾にある村。決して多くない住人は、収穫祭を終えた今は冬支度に向けて着々と準備を進めている。
 薪を蓄えたり肉や魚や野菜を塩漬けにしたり、そんな準備でまだまだ村は活気付いているのだが

「きゃああぁぁぁッ、まただわッ! 村長、村長〜ッ!!」

 このところあちこちで、こんな叫び声が聞かれるようになった。ひどい時には一日に十回も。
 これだけ呼ばれるとまるで大安売りをされているようだ、と思いながら村長ことフレッドは手に持っていた魚を放り出し、叫び声の起こった方へと走っていく。まだワタ抜きの途中だったのだが。
 向かった先には幾人かの住人が野次馬に集まっていて、その中心で叫び声の主らしい若い女が髪を逆立てて怒っていた。

「村長、見て頂戴ッ! 今度は水桶が腐って穴が開いちまったのよ! 朝汲んだ時は平気だったのに」
「リティのとこは、この前は鍋蓋が腐っちまったんだったか?」
「うちなんざ、腐り落ちた窓板をいまだに直してねぇよ」
「俺だってこないだ腐っちまった皮の上着、この冬はあれで寒さを凌ぐはずだったのによ」
「いやいやいや、村長が一番被害受けてるだろ。何しろ食ってたパンが腐っちまったんだから」
「まったく、なんでこうも色々、物が突然腐っちまうんだか」

 ―――とまあ、そういう訳で。
 この村では現在、それまでなんともなかった木材や皮、食物などが、目を放した隙にグズグズに腐ってしまう、という怪異が続発しているのだった。勿論、怪異と言うだけあって原因不明。被害はもう数え切れないくらい。
 フレッドは腹の底から大きなため息をつき、リティが指差す問題の水桶を見た。確かに彼女の言うとおり、木製の水桶は全体が見るからに古びて、長い間水に浸かっていたかのようにぬるりとした質感を持っている。ボロボロに崩れ落ちた側面からちょろちょろと水が漏れ出しているのが哀愁を誘った。
 まったく、今までの事件と同じである。確認するまでもなく、完全に腐っている。

「絶対に、なにか魔物が潜んでいてものを腐らせて回ってるのよ!」
「そうだ、そうでなきゃこんなことが続くはずがねぇ」
「村長、どうにかしてくれ!」

 そんな事を言われても。
 フレッドは無意識に腹をさすりながら、さてどうしたものか、と考える。彼自身、村人が言った通り食事中にまさに食べていた瞬間のパンがいきなり腐り、うっかり口に入れてしまったために腹を下してしまった。腹をさするのはその後遺症である。

(冒険者ギルドに頼めば、何とかしてくれるかの?)

 このままではそのうち、冬越しの食料まで腐りだしかねない。そうなっては村中が飢えて死んでしまう。
 それまでには何とかしなければならないのは確かだ―――フレッドはそう考え、また大きな、大きなため息を吐いた。




「はい、では突然物が腐りだす原因を特定して、今後同じ事が起こらないようにして欲しい、と言うことですね。ご依頼、確かに承りました」

 冒険者ギルドの受付嬢は、ニッコリ営業スマイルで依頼人のフレッドを見送った。それから手元の、たった今自身がしたためた依頼書をもう一度頭から眺める。
 突然物が腐り出す怪異。確かにそれは恐ろしい事態、なのだが。

(ここの村、確か近くに美味しいお酒が名産の町が在ったような‥‥‥)

 それも滅多なことでは手に入らない上質のワイン。ゆえにその町はその筋では【妖精の加護を受ける町】と噂されている、とか何とか。
 もし受付嬢の記憶が正しく、そして推測が正しかったとすれば。

「上手く解決出来れば、もしかすると美味しいお酒が飲めるかも知れませんねぇ。便乗で依頼出しちゃおうかしら♪」

 そんなことを言いながら鼻歌交じりに依頼書を張り出す受付嬢。実はどうして酒好きなのは、同僚には決して言えない秘密なのだった。

●今回の参加者

 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea2179 アトス・ラフェール(29歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ec1984 ラマーデ・エムイ(27歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)
 ec4873 サイクザエラ・マイ(42歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec5004 ミーティア・サラト(29歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)

●リプレイ本文

 もうすぐ冬の声が聞こえてこようかと言う季節。ウィルから馬車で1日ほどの所にある、深い木々に覆われた山裾にある小さな村。
 謎の怪異の解決を依頼してきたその村では、

「きゃああぁぁぁッ、まただわッ! 村長、村長〜ッ!!」

 今日も村長ことフレッドの大安売り、もとい怪異に困る人々が村長を呼びつけ、いや頼る声が聞こえていた。村の外に居た冒険者達にまではっきり聞こえてくるほどの大声だ。
 自然、顔を見合わせた冒険者達。どうやら、件の怪異は相変わらず猛威を振るっているようだ。

「ふーむ、物が急に腐りだすか。まあ、自然現象でないことは確かだね。妖精の悪戯かカオスの魔物の仕業か、とりあえず調べてみないとね」
「そうね、大変ね。本格的に冬になる前に、是非何とかしてあげたいわね」

 アシュレー・ウォルサム(ea0244)の言葉に、おっとりとミーティア・サラト(ec5004)が相槌を打つ。
 ここまでの道すがらで冒険者達の方針は決まっていた。まずは村内の調査や聞き込み、その結果次第でギルドの受付嬢が漏らした【妖精の加護を受ける町】での調査、である。
 と言うのは、この依頼を受けた瞬間にアトス・ラフェール(ea2179)が

(物が腐る‥珍しいワインと妖精の加護? 持ち物に確か‥)

 彼の所有するシェリーキャンリーゼなる銘酒、これがまさに妖精の加護によって作られるワインである、と言う事を思い出したからであり。
 それを聞いたサイクザエラ・マイ(ec4873)が

「おい、どっちも腐るという部分は共通してるから、ひょっとしてそのワイン作ってる妖精が何かの手違いで別のもの腐らせてるとか、発酵といいかえてもいいが、そういうことはないよな?」

 そんな可能性を示唆したからだ。
 勿論アシュレーの言うようにカオスの魔物の仕業と言う可能性も十分にあり、物騒な昨今ではむしろ否定する要素の方が少ない。と言う事で、先ずは原因が魔物と妖精のどちらなのかはっきりさせる事が第一目標。

「よーし、頑張って原因を探すわよー!」

 ラマーデ・エムイ(ec1984)の気合の掛け声が、調査開始の合図となった。




 依頼人に挨拶を済ませた一行は、それぞれに行動を開始した。
 リヴィールマジックのスクロールを広げたアシュレーは、アトスと共に実際に腐り落ちたものを調べて見て魔法がかかわっていないかを確かめて回る。物によってはすでに処分されたものもあったが、調べた限りではリヴィールマジックに反応はなかった。つまり、魔法によって腐ったのではない、と言う事。石の中の蝶の反応も確かめたが、こちらにも全く反応はなし。
 合わせて被害にあった村人達に、実際腐った所で何か見かけなかったか尋ねてみるも、大方の人間は「目を離した隙に腐っていたから」とか「気が付いたら腐ってたんでなァ」などと、割と役に立たない証言しか出てこなかった。て言うか本当に役に立たない。
 一方ラマーデとミーティアは、村の見取り図を作成しながら、事件が起こった場所や時間帯などを村人から聞きだしてマッピングしていく。しかしこちらも、何しろ元が小さな村なのでほぼ満遍なく誰もが何かしらの被害に合っており、時間帯も朝から夕方まで多種多様。強いて言えば夜間はないらしい事(何しろ寝ているので気付かないと言う説も)と、比較的男性よりも女性の方が被害に合った回数が多いらしい事が特徴か。

「それにしても食べてる最中のパンはご災難ね。村長さんは、その時周りに何か見てないかしらね?」

 ミーティアがおっとりフレッドに尋ねてみたが、やはり何も見ていないとの事。
 その間サイクザエラはインフラビジョンで不自然な熱のある場所、つまり腐敗現象が起こってる場所を探していたが、なかなかこれと言って有力な反応は得られず、こちらも手詰まり感があった。とは言え本人の気になる所は、腐敗の反応が見つからない事よりは

(妖精という存在はいまいち信じられないんだが。まあそれは横に置くとして、その妖精とかの機嫌をなおせば腐る騒動がおさまるとか、なんてオチは勘弁してくれよ?)

 天界出身の彼にとって妖精と言う存在は未だに何かしら違和感をもたらすものなのである。
 無論アトスも有力な手がかりは得られなかった。だが、原因が魔物ではない、と判っただけでも大きな一歩だ。改めて、今度は妖精をターゲットに再調査する。
 とは言えやはり芳しい成果は得られなかったのだが、

「妖精‥‥と言えば、ここから半日ほど行った所に【妖精の加護を受ける町】と呼ばれる町がある事を、皆様はご存知ですかの?」
「シェリーキャンリーゼの名産地なのよ」
「何でもシェリーキャンって言う妖精が住んでいて、ワイン作りを手伝ってくれるらしいぞ」

 受付嬢が言っていた町の事は良く知っていた。だが誰もその姿は見た事がないと言う。町の者でも、ワインギルドの者でなければ姿を見る事は稀だとか。
 やはり、その妖精が原因か。調べてみる価値は十分にありそうだ。




 さて、翌日。何故か張り切っているアトスを先頭に、男性陣は件の町へやってきていた。女性陣は村で引き続き、聞き込み調査等を行う予定。可能ならシェリーキャンを見つけてみせるわ! と意気込んでいたが、さてどうなる事か。
 町に辿り着いた男性陣、先ずは行き交う人々に、依頼の村と同じ怪異が起きていないかを聞き込んでみる。ここは人当たりの良いアシュレーの本領発揮。何故かターゲットが女性に偏っていたが。
 閑話休題。
 聞き込みの結果、この町では腐敗の怪異はどうやら発生していない様である。

「妖精は原因じゃなかったのかな?」

 アシュレーが肩を竦めた。もし予測が正しければこの町にも腐敗の怪異は現れているだろう、と思っていただけに、冒険者達は困惑の色を隠せない。
 だが、すべてを調べ尽くした訳ではない。まだワインギルドが残っている。行き交う人にワインギルドの場所を確認し、とにかく訪ねてみると。

「あんた達、シェリーキャン様の事を知ってるのか!?」

 腐敗の怪異の事を尋ねた瞬間、血相を変えたワインギルドの男(筋肉質)にガバァッ! と勢い良く詰め寄られた。かなり暑苦しい。もうすぐ冬だと言うのに。
 だがアトスは臆さなかった。むしろキラリと瞳を輝かせ、ずいと男の前に足を進める。

「詳しくは知りませんが、妖精は発酵を自在に促せると聞いた様な気がします。難しい条件でのみ醸造される酒をこの妖精は容易に造れるそうですが」
「その通りだ! あんた良い奴だな!?」

 酒を愛する者同士、通じ合うものが合ったようだ。

「シェリーキャン様はこの町の守護妖精って所だ。この町の葡萄はあまり質が良くない。だがシェリーキャン様のおかげで最高級のワインに生まれ変わる」
「なるほど‥‥」
「時々は悪戯もなさるけどな。あんたらが言ってた、木やら皮やらパンやらが腐る、ってのは多分シェリーキャン様の仕業だ」

 はっはっは、と白い歯を見せて筋肉を盛り上げながら、男はさわやかに断言した。そのポーズに意味があるのかは不明だ。むしろ引く。ものすごく見てはいけないモノを見てしまった気分だ。
 さりげなく、と言うよりあからさまに視線を逸らしながらアシュレーが原因と対策を尋ねる。それにまた、別のポーズで筋肉を盛り上げながら答える男。出来れば回れ右して帰りたい。
 ちなみに仲間達の苦行を一歩引いた所で眺めながら、

「こっちの世界じゃ妖精とかがそのワインとかを作ってんのか? いつも思うんだが、この世界はえらく変わってるな」

 うんざりと呟いたサイクザエラは

「何、そっちの兄ちゃんは天界出身か。ちょうど良い、天界ではどうやってワインを作るのか教えてくれ」

 別のワインギルドの男(オタク風)に捕まった。いかに天界知識を駆使しても、さすがにワインの作り方までは判らないだろう。多分。どうにもなかなか解放してもらえそうにない空気だが。
 アトスのペット、オウルが腹一杯に葡萄畑の鼠を詰め込み終わっても、ワインギルドはまだまだ賑やかだった――合掌。




 冬に程近い良く晴れた日の、村の広場の真ん中で。

「ね、ラマちゃん。あのね――」
「やだ、ホントですか、ミー先輩?」

 肩を寄せ合い、クスクス笑いながら熱心に何かを覗きこむ、二人の女性の姿がある。何を話しているのかは聞こえない。楽しそうな空気だけが伝わってくる。
 何を見ているのだろう? とても興味をそそられた。何だか楽しそう。好奇心のままに近付いてみる。
 ふわりと宙を舞い、女性達の陰に隠れた何かをどうしても見たくて、一体何をそんなに楽しそうに話しているのか聞きたくて――
 いきなりクルリと二人が振り向いて、女の子のぬいぐるみがバァッ! と目の前に現れた。ビクゥッ! とつま先からてっ辺まで驚きが走り、身に着けた葡萄の葉っぱがガサリと音を立て。

「こんにちわ。貴女を待ってたの、良かったらお話しを聞いてくれる?」

 そう話しかけられて、初めて自分が姿を現している事に気が付いた。ビックリしすぎたせいだろうか。それとも。
 気が付くと広場には他にもたくさんの人間が姿を現し、ジッと自分を注視している。この半月ばかり、ずっと見てきた人達。それから数日前にやってきた人達も。
 これ食べるかしらね? と差し出された、見た事がないけれど美味しそうな物。それはサイクザエラが妖精の機嫌をなおすためのお菓子として提供した、コールドミントや雪大福だ。甘い、良い匂いがする。
 妖精は受け取り、一口食べて、たちまち夢中になってあぐあぐ頬張り出した。その勢いが落ち着いた所で、えらく気合の篭った笑顔のアシュレーが「それで」と尋ねる。

「大体の所は町で聞いてきたけどさ。どうしてこんな事をしたのかなぁ?」
「そうねぇ、どうしたら悪戯をやめて貰えるのかしら」

 口調は笑みを含んだものだったが、生憎目は笑っていなかった。おっとり追随したミーティアは相変わらず、彼女が怒る事は果たしてあるのだろうか、と疑念を感じさせるほどだったが。
 対照的な二人の視線、さらにアトス、サイクザエラ、ラマーデといった冒険者達に村人達の視線を受けて、妖精はだが、プクンと頬を膨らませた。

「だって約束を破ったのはあいつらだもん」

 だからだもん、と駄々っ子の理論を展開させる。
 ――町で聞いて来た所によれば、そもそもの始まりは収穫祭に、毎年やって来る吟遊詩人が今年はやって来れなくなった事だった。吟遊詩人の弾き物語を楽しみにしていた人々はがっかりしたが、来れないものは仕方ない。
 だが仕方ない、で済まなかったのが町の守護妖精ことシェリーキャン。知りたがり屋の話好きな妖精もまた、弾き物語を誰より楽しみにしていた一人だった。町に伝わる言い伝えでは、昔々にとある吟遊詩人が巧みな弾き物語で妖精の心を惹き、ワインに加護を与えてくれるなら毎年物語を聞かせよう、と約束したと言う。
 本当か嘘かはともかく――拗ねているからには本当なのかもしれないが、とにかくその楽しみにしていた弾き語りが聞けなかった事で、シェリーキャンは拗ねた。しかもはた迷惑な事に町を出てこの村までやってきて、腹いせに手当たり次第物を腐らせて回っていた、と。
 要約するとそういう話だ。

「だっていつもこの山を越えてくるから、すぐに僕を見つけてくれるかな、って思ったんだもん」

 可愛らしく拗ねても、やっている事はきっぱり迷惑である。
 その後、事情を理解した村人達と冒険者達の共同作業により、宥めすかし脅し付けられた妖精は、何か新しい話をしてくれたら悪戯を止めて町に帰る、と譲歩した。何でも町の人間が話す物語は聞き飽きていて、ソレも町を出た一つのきっかけだったらしい。
 そんな訳で始まった物語大会は、冒険者達をもしっかり巻き込んで翌日まで続き。お腹一杯に物語を堪能した妖精は、すっかりご機嫌で葡萄の葉を揺らしながら飛び回り、村にあった梨や葡萄を醗酵させて人々に感謝の美酒を振舞った。




 その後、妖精を無事町まで送り届けた冒険者達は、そこでもワインギルドから感謝を込めてワインを振舞われた。仲間達と共に美酒に舌鼓を打ちながら、アトスはしみじみ至福を噛み締め、この依頼を受けて良かった、と感謝する。

「今回の依頼参加はこの点が重要です。受付嬢も喜んでいるでしょう」

 ちなみにその受付嬢、別口で冒険者ギルドに届けられたお礼の美酒に、飛び上がって奇声を発しながら喜んだとか――