【聖夜祭】幼き少年の大きな一歩
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:蓮華・水無月
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月06日〜12月11日
リプレイ公開日:2008年12月13日
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●オープニング
リンデン侯爵家、別荘地。ファティ港から南に行った所にある海辺の別荘、つい2ヶ月ほど前には精霊招きの歌姫の療養と冒険者達の慰安にも提供されたそこが、来たる聖夜祭の会場として提供される事になった。
そしてさらには。
「兄上、本当!?」
喜びの声を上げて大好きな兄を見上げたディアス・リンデン。幼い少年の無邪気な笑顔に、セーファスは穏やかに頷いてみせる。
冒険者達に別荘を提供する事を決めた以上、侯爵家から誰も顔を出さないというのはいかにも具合が悪い。何しろ侯爵家は今までに、冒険者に数々の恩義を受けている。
とは言え、冒険者に一番なじみが深いと思われるセーファスは、所用で顔を出せない事も多い。そこで白羽の矢が立ったのがディアス、という訳だ。
役割は主に、冒険者の便宜を図ること。具体的には滞在中に不便がないように取り計らったり、聖夜祭の催しに必要な資材などを冒険者から聞いて手配したり。時には催しのスケジュールの調整なども必要になってくるかもしれない。
大好きな兄から言い付かった用事、しかも大好きな冒険者と一緒に居られると言う事で、ディアスは満面に笑みを浮かべて大喜びだ。あまりのはしゃぎっぷりに、セーファスは微笑ましく思いながら、しっかり釘を刺すことも忘れない。
「あんまりはしゃぎ過ぎて、みなさんにご迷惑をかけないように。イーリスにも同行してもらうから、何かあったら彼女に相談しなさい」
「はい、兄上!」
「よろしくお願い致します、ディアス様」
元気良く返事をするディアスに、控えていたイーリス・オークレールが礼を取る。彼女の任務はディアスの補佐兼お目付け役。別の任務が入ることもあろうが、その場合は別の者が彼女の代わりにやって来るだろう。
今回のディアスの大抜擢は、侯爵家の人間としての教育が主な目的。やがて成長した暁には、兄セーファスを助けて差配を振るわねばならない事も出て来るかも知れない。そのための教育は、早ければ早いほど良いだろう。
侯爵がそう決めた以上、イーリスが成すべき事はディアスを助け、任務を全うする事だけだ。
さて、別荘は普段から管理人が常駐し、侯爵家の方々がいつ訪れても快適に過ごせるよう状態を維持している。とは言え、それはあくまで最低限には、と言う話。通常、貴族というのは何日も、時には何ヶ月も前から予定が決まっているものなので。
という訳で今回の事は、管理人らにすれば寝耳に水の話。おまけに侯爵家の子息がやって来ると言う事で、準備のために殆どお祭り騒ぎである。
時には彼らを助けてやって貰えれば、今後の協力も得られやすいかもしれない。
●リプレイ本文
リンデン侯爵領は、メイディアからゴーレムシップで片道1日程度の距離にある。今回の会場となる別荘はそのファティ港から南へ。別荘と言う性格上、多少町から離れている。
その別荘で冒険者達の到着を、今は遅しと待ち構えていたリンデン侯爵家の子息ディアスは
「あッ! 冒険者さん達来たよ!」
のっけからハイテンションだった。やって来た冒険者の中に顔馴染みの面々を見つけ、さらにヒートアップしてピョンピョン飛び回っている。このテンションに付き合っていたイーリス及び別荘の管理人の皆様、心からお疲れさまです。
そんなイーリスも、彼女と縁の深いクリシュナ・パラハ(ea1850)やルイス・マリスカル(ea3063)、風烈(ea1587)と言った面々の姿を見ると、生真面目な表情がほんの少し緩んだりもして。もちろん初対面の人々には礼儀正しく、
「リンデン侯爵家に仕える騎士イーリス・オークレールと言う。宜しく頼む」
「あ、こちらこそ宜しくお願いします」
「おう、よろしく頼むぜ、姉さん!」
深々と頭を下げた日野由衣(ec5881)はともかく、村雨紫狼(ec5159)の挨拶には一瞬顔が強張ったようだが、多分気のせいだろう。多分。
先ずは何をおいても
「依頼の前に別荘の管理人さんにご挨拶しましょう!」
‥‥である。とはいえいつ見ても忙しそうに走り回っている管理人をその為だけに呼び出すのも気が引け、クリシュナだけがイーリスと挨拶に向かった。相手が現在どこに居るか、そればかりは運である。
残る6人の冒険者とディアスは用意された一室に移り、各々考えたり、話し合ってきたパーティー計画をつき合わせる事にした。
とは言え仲間の中には聖夜祭そのものに詳しくない者も居る。雀尾煉淡(ec0844)が早速ファンタズムのスクロールで、ジ・アースのイギリスにいた時体験した聖夜祭の光景を作り上げると、ディアスとシファ・ジェンマ(ec4322)が驚きに目を見張った。ディアスは会場確保の際に、シファは道中に由衣などから話は聞いていたものの、見ると聞くとは大違い。
残る経験者4人は自身の記憶の中の聖夜祭の光景と比べ、異なる点を上げていく。一口に天界と言っても、チキュウとジ・アースでは全く異なる祭。さらに地域によっても異なるのだから、様々な反応が出るのは当然の事。
煉淡がせっせと幻影を調整する中、
「実はクリスマスツリーを持っているのですが、よろしければ会場に置いては頂けないでしょうか」
シファがそう言いながら小さなツリーを差し出せば、それを参考にもみの木を調達して大きなツリーを造って庭に飾ろう、と言う話になり。ならば飾りは白い綿を雪に見せかけるとか、ガラスのビーズをちりばめては、と由衣が提案する。
ガラスはチキュウでいう電飾の代わりだったのだが、生憎この世界ではガラスもかなりの高級品。ならば代用品は、と考え込んでいると、
「イーリスさん、ガラスの飾り、工房とかにお願い出来ないッスかね? ダメもとで」
「判らないが、確認してみよう。宜しいですか、ディアス様」
「うん」
戻ってきたクリシュナがそう提案し、イーリスがディアスに確認の上で頷いた。さらにはルイスが、所持品のレミエラ素体を見せてくれる。これも立派なガラス。形は加工出来ないが、飾りに出来ないことはない。
後はプレゼントの交換会や、会場の装飾。発起人の調香師のために、香水を好み、購買層になりそうなやんごとなき方々を招く事も提案された。それにここはリンデン、精霊招きの歌姫も忘れてはいけない。
更には当日は立食パーティが良いとか、客を招待するなら宿泊や移動の足はとか、招待状の手筈とか、プレゼントはどんなものを幾らまでとか。会場の食事を賄う調理人の確保と食材の発注、七面鳥は居るのか否か、会場の装飾に用いる品々の購買や製作依頼、ダンスの際の音楽の演奏者の確保等々、数え上げればきりがない。
勝手気ままに流れがちな意見を、シファがせっせとスクロールにまとめていく。時折はディアスやイーリスの意見も求め、
「じゃあ、ツリーに関しては手頃な木を下見した上で、許可が貰え次第伐採だな。ディアス、それで良いか?」
「うん、烈お兄ちゃん。イーリス、良いよね?」
「はい、ディアス様」
最終決定は必ずディアスの了承を得るようにした。これはお祭だが、同時にディアスの教育の場でもある。ならばリンデン侯爵家の代表として立てるべき所は立てるのが、ディアスの自覚を促す事にもなるだろう。簡単な事はあえて結論を出さないままディアスに判断させ、足りない所をイーリスや冒険者が補う形にする。
が、やはりまだ幼い少年。ようやく納得の行く幻影を作り上げることに成功した煉淡のファンタズムが発動すると、たちまち目を輝かせて意識を奪われた。聖夜祭を知らないシファやイーリスはもちろん、他の冒険者達も思わず目を奪われる出来栄えだ。
同じく目を奪われていたルイスが、おっといけない、とばかりに荷物をごそごそ漁り、幾つかの品を取り出した。サンタクロースローブ、ハット、つけヒゲ。さらには連れている妖精にも同じデザインの衣装を着せている。
「聖夜祭の当日は、このような衣装を着たりもします。これはサンタクロースと言う、人々に贈り物をする存在の衣装です」
「ふぅん。あのねぇ、イーリスが‥‥」
「言わないで下さい、ディアス様」
珍しくきっぱりと言葉を遮るイーリス。一体彼女に何があったのか、知るのは彼女とディアス、そしてこの場には居ない調香師だけである。
そしてルイス(の連れているエレメンタラーフェアリー)を見て、沸々とテンションを上げている男が一人。
(いえふう☆ コスプレコスプレ♪)
どうやらエレメンタラーフェアリーの纏う、赤地に白のふわふわで縁取りした膝丈の衣装(判ってください)が紫狼の情熱に火をつけた模様。胸の内には溢れ出る泉の様に当日の衣装案が次から次へと湧いている。
――まぁそれは置いておくとして。
気付けばすっかり陽精霊が月精霊にタッチ交代している時間でもあり、収拾も付かなくなってきたので、その日の話し合いは切り上げる事にしたのだった。
翌日、冒険者達はそれぞれの行動を開始した。というか、話し合いを再開しても纏まりそうになかったので、取り合えず決まってる事から段取りをつける事にしたとも言う。
烈は近くの森に、手頃なもみの木を探しに。クリシュナは別荘を詳しく見て回ってツリーの設置場所やその他飾り付けを考え。シファは事前に仲間からリサーチしておいた情報を元に、当日に饗する料理の案をスクロールにまとめ。そんな二人の暇を狙って紫狼が迸る情熱を形にするべく奔走し。
煉淡と由衣はディアスと一緒に留守番をしながら、更に詳しく聖夜祭の事を教えたり、どんな装飾を作るか、材料はどんなものを揃えれば良いのか考える。天界では偉大な存在の誕生日だと言う煉淡の説明に、なぜプレゼントをお祝いされる側ではなくお祝いする側が貰うのか、ディアスには謎だったようだ。何故なんでしょうね。
午後からは烈とクリシュナ、イーリスは当日の警備体制について話し合いを始めた。活発な魔物の動向を鑑みれば、用心は必要だ。
「歌姫さんのコンサートは厳しいッスかね」
「イーリス、警備には何人割ける? 避難経路も考えておかないとな」
「うむ。歌姫殿については私から予定などを確認しておこう。警備も、侯爵家の方々も居られるのだから万全は期すつもりだ」
生真面目に頷くイーリス。もちろん冒険者も可能な限りサポートする事を約束すると、ありがたい、と言葉が返る。
その空気に気付いているものか、紫狼は「コスプレー!」と叫びながらシファを拉致していった。何でも聖夜祭当日に着る衣装のデザインと試作をするのだとか。発表は明日だそうだ。
残るメンバーは午前中に引き続き、聖夜祭の飾りつけの考案と、前日に出た催しの案をどう思うかなど話し合いを重ね。
彼らがそれぞれに活動が出来たのは、ルイスが別荘の管理人を手伝ってハタキを使っての清掃や水くみ、調理・暖房用の薪の調達などを手伝ったからだと言う事を、謹んでここに記して置きたい。もちろん二人のエレメンタラーフェアリーも奮闘した事を付け加えておく。
別荘が会場に決まってからこっち不眠不休の勢いで働いていた管理人以下使用人一同、感涙にむせび泣いたとか。
さらに翌日。
「シファたん、姉さん、ディアス! 俺の情熱を見てくれ!」
ドーン!
朝一番からうっとお‥‥失礼、賑やかに盛り上がる男の前には、赤と白で彩られた3着の衣装。以前にルイスが見せたものと似たデザインだが、それぞれにタイプが違う。
1着はスカート丈の短いワンピースタイプ。1着はスカート丈は長いがスリットが入っており、セパレートで上着の丈が短い。残る1着は半ズボンタイプ。
‥‥一同の上に凍てつく沈黙が降り注いだ。特に指名を受けた女性2人。
「こっ、これは‥‥ッ」
「まさか私だとは‥‥」
衣装を握る手がブルブルと震えている。特に衣装作成に協力していたシファは蒼白。お気持ち、心よりお察しします。
だがディアスは渡された半ズボンを見て目を輝かせている。少年はあくまで無邪気。着ても良いの!? と嬉しそうだ。
「やった〜。僕も着てみたかったんだ!」
他に誰が着たのかは、聞いてはいけないお約束です。ギクリと背筋を強張らせた白花の騎士にも気付いてはいけません。
いそいそと着替えたディアス少年。赤白衣装で嬉しそうにパタパタと部屋を走り回り、それからふと凍りついたままの女性2人に首をかしげる。
「シファお姉ちゃんもイーリスも着ないの? 僕、お姉ちゃん達のお洋服も見てみたいな♪」
無邪気な少年は、時に世界最強の破壊力を持ち合わせているものだ。言われた2人は視線を交わし、引きつった笑みを浮かべた。見守る冒険者達も何とコメントしたものか判らず、視線を彷徨わせながら沈黙を守る。
そしてやっぱり一人でテンションぶっちぎりの男が一人。
(ひゅう〜、テンション爆アゲ! これを量産して、当日の会場警備の冒険者(女性)に着てもらうんだ。スゲーいいよな! あとは来客の女の子にも、着ればプレゼントありって事で着てもらえば‥‥)
取り合えずこの男、帰りのゴーレムシップの中では暗がりに気をつけた方が良いと思われた。まぁどこにでも一人はいるものだが。
「セーファス兄上も喜ぶかなぁ♪」
そこはノーコメントで、はい。
こうして日程を終え、ひとまずの聖夜祭プランを練り終えた冒険者は帰路についた。記録した数々のスクロールはディアスの手に。シファのツリーもクリシュナがスクロールに写し、現品はひとまず本人に返却された。
多少の心残りはあれども、見送るディアスの無邪気な笑顔にイーリスの生真面目ながら穏やかな笑み、そして感謝にむせび泣く使用人一同の姿を見れば、充実感も得られると言うもの。
ファティ港へと向かう冒険者達の中から、だが烈がふいに駆け戻ってくる。
「烈お兄ちゃん?」
「一応言っておく。ディアス、人の上に立つなら心から信頼出来る、裏切らない者を早く見つける事だ。1人で出来る事は多くない。それは少しは判ったと思うが?」
突然の言葉に目をパチクリさせたディアスだが、この数日の事を思い返し、少年はきゅっと唇を引き結んで頷く。イーリスにも、冒険者にも一杯一杯助けて貰った事をちゃんと判っている。頑張って一生懸命考えて、それでもちっとも力及ばなかった。
烈の言葉は難しすぎてちゃんと判ったとは言い難いけれど、でも精一杯の理解で頷いた少年に、頷いて烈は踵を返す。それを言う為だけに戻ってきてくれたのだ。
それが嬉しくて、ディアスはブンブン両手を振って大声で叫んだ。
「ありがとう、冒険者さん達! お祭にも絶対来てね!」
その答えは聞こえなかったけれど。
振り返された手が何よりの答え、だった。