【聖夜祭】とある姉弟の訪れるその日

■ショートシナリオ&プロモート


担当:蓮華・水無月

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月11日〜12月16日

リプレイ公開日:2008年12月18日

●オープニング

 この頃は、空の色ももうすっかり冬本番の気配を漂わせている。暖炉の火が恋しい季節だ。
 だがそんな寒空の中にあっても、元気なのが子供。

「ただいま戻りました!」

 一応は貴族に名を連ねるジュレップ家、そのウィルにおける屋敷にあってもそれは変わらない。3ヵ月半ほど前に屋敷に引き取られ、ジュレップ家の一人娘ローゼリットの弟として暮らす事になったアルス・ジュレップもまた、一人の子供に相違なく。

「お帰りなさいませ、坊ちゃま。お嬢様にもご挨拶しましょうね」
「うん、ただいま、ニナ! ただいま戻りました、ローゼリット様」
「お帰りなさい、アルス。怪我などしませんでしたか」

 新しく出来た姉ローゼリットに向ける笑みは、まだぎこちない。けれども少し前、アルスが実母を探して姿を消した頃から、ちょっとずつ変わってきた物も、ある。
 それはアルスが、ローゼリットをまっすぐに見上げるようになった、とか。それはローゼリットが、アルスと話す時に腰をかがめてくれるようになった、とか。
 そんな些細な事だけれど。
 外へも遊びに出るようになったアルスは、毎日あった事をお気に入りの侍女ニナとローゼリットに一生懸命話して聞かせる。

「今日はね、東の一番大きなお屋敷の傍まで行って来たんだ! 何だかね、お祭をするんだって。それで冒険者のお兄ちゃんやお姉ちゃんが準備をしてるんだって。僕、お話してきたんだよ!」
「へ〜。坊ちゃま、どんなお話をして来られたんですか〜?」
「んっと‥‥んっと‥‥お祭の話!」

 アルス少年の中で、取り合えず聞いた話は全部『お祭の話』で集約されたようだ。
 そうなんですか〜、と笑ったニナが手を変え品を変え、言葉を変えて巧みにアルスから話を聞き出した所に寄れば、何でもそのお屋敷では、屋敷の主人が後援者となって天界の祭典を催すとかで。お祭と聞いて目を輝かせたアルスに、相手をしてくれた人物は「何なら見においで」と誘ってくれたらしい。
 と、そこまで話したアルスが目を輝かせ、でも遠慮がちな態度でおずおず自分を見上げてくれば、幾らローゼリットでも判る。

「あの、ローゼリット様。僕、行っちゃダメですか?」
「そうですね‥‥せっかくのお招き、お断りするのは失礼ですが‥‥アルス、そのお屋敷は東の一番大きなお屋敷、と申しましたね? ならば恐らく」

 イムンはルオウを治める伯爵エルガルド・ルオウ・フロルデン、その子息にして子爵が住まうという屋敷。ローゼリットも幾度か遠目に見た事だけあるが、さすがはフロルデン家、下級貴族に過ぎぬジュレップ家の敷地などとは比べ物にもならない。
 その、フロルデン家の屋敷にアルスが招かれた。勿論行かせてやりたいのは山々だ――この頃アルスは本当に、見違えるほどに明るくなった。その明るさに翳りを落とすことはしたくない。
 だが――

「行っておいでなさい」

 不意に第三者の声がして、ローゼリットははっと視線を巡らせた。アルスがピンと背筋を伸ばし、お行儀良くする。
 ローゼリットの母リディアだった。娘に良く似た面差しの貴婦人。

「行っておいでなさい、アルス。せっかくのお招きです、楽しんでいらっしゃい。ローゼリット、そなたも。アルス一人ではまだ心許ないですからね」
「ですが、お母様。恐れ多くも領主家の若君のお住まいに」
「だからです、ローゼリット。フロルデン伯爵は優れた方と伺っています。ならばご子息ウルティム様も劣らず聡明な若君に相違ありません。それにウルティム様は多数の冒険者と親交がおありだとか。ローゼリット、そなたの方が私よりも、冒険者の事を存じておりましょう?」
「冒険者と――そう言えば今度のお祭も冒険者が準備をなさっていると。ええ、お母様、先頃アルスを助けて頂いた方は皆、尊敬に値する素晴らしい方ばかりでした。あのような方々と親交をお持ちなのであれば、若君のお人柄も推して知れますね」

 ローゼリットの答えに、良く出来ました、とリディアはニッコリする。そうして愛しい自慢の、聡明で美しい娘に繰り返す。

「だからローゼリット、アルスと共にフロルデン家へお伺いしていらっしゃい。そなたはいずれジュレップを負って立つ娘です。ウルティム様のお人柄をお傍で拝見して、良く学んでくるのですよ」
「はい、お母様。アルスも、良いですね?」
「ローゼリット様も一緒に行くの?」

 そうですよ、と頷けば少年の面に浮かぶ、くすぐったそうな笑み。それを見てローゼリットも嬉しくなる。
 アルスに寄ればまだお祭の準備は最中だと言うが、きっと学ぶべき所は多いだろう。アルスも喜ぶに違いない。

(それに、若君と親しくさせて頂ければいずれ、アルスの母君を探すのにお力添えを頂く事も出来るやも知れません)

 その為にもしっかりと若君のお役に立たなければ――そう考えるローゼリットは、勿論、かの若君の『現実』など知るべくもなかった。

●今回の参加者

 ea0760 ケンイチ・ヤマモト(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea1466 倉城 響(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb2093 フォーレ・ネーヴ(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))
 ec4065 ソフィア・カーレンリース(19歳・♀・ウィザード・エルフ・アトランティス)
 ec4371 晃 塁郁(33歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

 さて、その日。
 実に複雑な胸の内を抱えつつ来訪者の到着を待っていた冒険者達の前に、問題の姉弟は姿を現した。馬車での登場だ。
 まず降り立ったのはローゼリット。そこで待っていた冒険者達の姿に、すっ、と優雅に膝を折る。

「ご案内下さる冒険者の皆様ですね。ローゼリット・ジュレップと申します」

 ええ、そう言う事になってます。何しろ『若君』の正体を知らないので、護衛が必要だなどと夢にも思ってませんので。
 宜しくお願いしますね、と再度一礼する少女。その後ろから馬車を降りてきた子供が弟のアルスだろう。
 倉城響(ea1466)がローゼリットに、そして小さなアルスにもしゃがんで視線を合わせながら会釈した。

「私は倉城といいます。よろしくおねがいしますね」
「よほ〜。私、フォーレだよ。よろしくしく♪」
「初めまして! 僕、ソフィア・カーレンリースっていいます‥‥あ、アルス君来てくれたんだ〜!?」

 フォーレ・ネーヴ(eb2093)があははと笑って挨拶し、さらにソフィア・カーレンリース(ec4065)がアルスの姿を見つけて嬉しそうにぎゅ〜っと抱きしめた。抱きしめられたアルスも「ソフィア姉ちゃんだ〜」と嬉しそう。
 二人のやり取りに、不思議そうな表情になったローゼリットにアルスが、お祭りの事を話してくれたのがソフィアなのだと説明すると、まぁ、とローゼリットの頬が緩んだ。

「ソフィア様、この度は弟がお招き頂きまして、本当にありがとうございます。アルス、そなたもお礼を申し上げなさい」
「はい、ローゼリット様。えっと、ソフィア姉ちゃん、おまねきありがとーございます」

 思い切り棒読みだった。多分言ってて意味判ってないですね、はい。
 それでも満足そうに「良く出来ましたね」と弟を褒めるローゼリット嬢、実は弟バカ属性と見た。色々な意味で将来が楽しみだ。
 今回唯一二人とは顔見知りである晃塁郁(ec4371)も

「ご無沙汰しております、ローゼリットさん、アルスさん。お元気そうでなによりです」
「まあ、塁郁様、その節は本当にお世話になりました。塁郁様も若君と親交があられるのですね」

 感謝を述べるローゼリットに、頷く彼女が身に纏うのは、華やかかつ視線のやり場に困る羽飾りの衣装。お祭り用の衣装かとローゼリットは一人納得していたのだが、この衣装の真価が発揮されるのはこの後すぐの事である。

「えっと、ローゼリットちゃん、少しいいかしら?」

 と、様子を見守っていた加藤瑠璃(eb4288)がため息交じりに告げた。

「物事には必ず例外があるの。フロルデン伯爵は確かに聡明な方だけど息子もそうだとは限らないのよ。ウルティムさんは素行の悪さで一度は本国に連れ戻されたバカ息子なの。悪人じゃないけど、彼の女癖の悪さは有名よ」

 子供の夢を壊すのは忍びないが、勘違いしたまま珍獣に会うのはあまりにも危険。ローゼリットがウルティムの言葉を鵜呑みにしないように、出来れば自戒を持って貰えるよう、伝えられる範囲で説明しておくべきだった。
 ローゼリットは告げられた言葉に目を丸くし、首を傾げている。ちなみにアルスはすでにソフィアやフォーレと意気投合して遊んでいるので、こちらの話は全く聞いていない。
 少女は明らかに困った様子で、他の冒険者を見回した。一様にうんうんと頷きが返る。瑠璃の言葉が紛れもない事実だと、彼らは嫌と言うほど理解している。
 全員一致で肯定されて、ますますローゼリットは困惑の表情を浮かべた。

「ウルティム様は一体、どのような‥‥?」
「まあ、お会いしたら三十年くらいは忘れられないくらいの方ですよ」

 あとは実際に会ってみてから判断しては、と塁郁が微笑む。いかにも思いやりに満ちていたが、実はウルティムといざ対面した時のローゼリットの反応を楽しみにしていた。
 そうですね、と戸惑いながらローゼリットが頷く。頭の中ではぐるぐると、ウルティムに対する想像が錯綜していた。





「うほッ! 塁郁たん、ボクのためにそんなセクスィーなドレスをゲブはァッ!?」
「お久しぶりです、ウルティム様。相変わらずお元気そうでよろしゅうございました」(にっこり)
「うぅ‥ッ、塁郁たんのパンチ、効く‥‥ッ! でも響たんとソフィアたんのメロンが目の前にブギュルッ!」
「天誅ッ!」(ドガッシャーンッ!)
「あらあらウルティムさん、余り調子に乗って迷惑をかけない様にお願いしますね?」(おっとり)
「スリープ」(爽笑)
「うッ、眠気が‥‥ッ」

 だがしかし、『若君』に挨拶をするべく訪れた珍獣屋敷の一室で、足を踏み入れた瞬間に目まぐるしく起こった出来事を目の当たりにしたローゼリットは、さすがに己の認識を改めざるを得なかった。
 ちなみに解説すると、ローゼリット達に突撃しかけたものの露出の高い塁郁に目を奪われ目的変更、飛び掛った瞬間顔面にカンフーマスターを「めきょり」とめり込まされ、挫けず豊かな女性の象徴を持つ2人に手を伸ばしてソフィアのライトニングアーマー付の銀のトレイでお仕置きを受け、すかさずケンイチ・ヤマモト(ea0760)の唱えたスリープによって撃沈。
 ちなみにただ動きを封じるだけなら他にもシャドウバインディングがあるが、なまじ意識があると面倒くさそうだ。この珍獣、本当にMじゃないのかどうかおおいに疑問である。

「効果は1日です。今後の平穏の為にもこのままの方が」
「あははは♪ ウルティムにーちゃんって、面白い人だね〜」

 爽やかに提案するケンイチの横で、腹を抱えて大笑いするフォーレ。面白い、といえば面白い人物には違いない。自分に被害が及ばない分には。
 ローゼリットが明らかにコメントに困った様子で、一応の礼儀として気遣う視線を床に沈む珍獣に向けた。

「え、と、あの、大丈夫なのですか、若君は‥‥?」
「だ、大丈夫だよ〜‥‥ローゼリットたん慰めて☆」
「きゃ‥‥ッ!?」
「スリープが切れた‥‥ッ!? そんなバカな」

 見た目からは予想もつかない素早さでグァバッ! と宙に舞う珍獣。落下地点にはもちろん、驚きで足のすくんだローゼリット。ケンイチの呆然自失の叫びには「我慢したんだ☆」と意味の判らない返答が。
 何と言うことでしょう、珍獣氏はスリープの魔法抵抗に成功なさっていたのです(ぇ)
 すかさずローゼリットの前に黒髪が翻った。

「少しは自重しなさい、この変態!」
「グハァッ! 瑠璃たんパンチキター!」

 瑠璃がナックルでツッコミを入れ、続けざまに鞭で捕縛。これで足蹴にしたら完璧女王さ(自主規制)。
 ほわり、と微笑んだ響がローゼリットに声をかけた。

「ローゼリットさん。宜しければ聖夜祭の準備を一緒にしませんか? 楽しいですよ♪」
「え? あ、はい、それは是非‥‥ですが、あたくしまだ若君にご挨拶を」
「そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ。此処は難しい隔たりが無い所ですから♪ アルスさん、フォーレさんも」
「あ、じゃあ僕も行くよ〜♪」

 響の言葉にソフィアが手を上げ、行こっか〜、とアルスの手を引いた。その背中を「ダンスの練習見に行こうよ〜」とフォーレが追い、響に背中を押されてローゼリットが部屋を出て。
 残されたのはウルティム、そして3人の冒険者。

「さてウルティムさん、覚悟は出来てるわね?」
「やはりシャドウバインディングですか‥‥」
「ウルティム様、本っ当にお変わりなくて何よりですね、ええ」
「み、みんな‥‥?」

 不気味な笑みを浮かべてジリジリと輪を縮めてくる冒険者の背後には、炎が燃え盛っているようだった(byウルティム)。





 さて、どこかで蛙の潰れる様な悲鳴が上がった頃、ローゼリットはクリスマスツリーなる木の前に居た。見上げれば首が痛くなりそうなほど大きな木だ。こんな大きな木が収められるフロルデン屋敷にもつくづく感心する。
 大きな枝の下辺りにまとめて置かれているのは、毛皮を長く繋いだものや数々の飾り。ぽけっと笑った響が「少しでも進めておこうかと思いまして」と、これらの飾りをこの木に飾るのだと教えてくれる。
 もちろん見るのも初めての事、ローゼリットは控えめに飾りやツリーを観察した。一つずつゆっくりと飾りを付けていく響を手本に、見よう見まねで飾りを枝に結わえ付ける。あまり数は飾れないが、見栄え良く。
 それからふと、首をかしげた。

「聖夜祭とは一体、どのような意味なのですか?」
「そうですねぇ‥‥」
「聖夜祭とはジ・アースでは偉大な存在の誕生日を祝うお祭りと言われています。が、一年のうち陽精霊が活動する時間が最も短い日、私たちは『冬至』と呼んでおりますがこの日を境に日が出る時間が長くなっていく、つまり陽精霊が新しく生まれ変わる事を祝う祭りが聖夜祭のもとになったとも言われています」

 おっとり同じく首をかしげた響の代わりに、答えたのは塁郁だった。どうやら追いついたらしい。瑠璃やケンイチも居て、誰もが一仕事終えた後の疲労と充実に満ちた顔をしていた。
 瑠璃が肩をすくめながら頷く。

「そっ。お祭り自体は天界から伝わったまともな物よ。ウルティムさんはアレだけど、彼の主催するお祭りが不埒なもの、ってわけじゃないわ。バカ殿にはバカ殿の使い方があると言うか‥‥」
「瑠璃さん、幾らホントの事でも」

 苦笑いのケンイチの発言も、全くフォローになっていない。フォローする気も無さそうですが、ええ。
 そのケンイチ、竪琴を抱えて爽やかに笑った。

「ご安心ください、ローゼリットさん。アレは成敗しておきましたので――ところで、そろそろダンス練習の見学に行かれますか?」
「あ、はい‥‥ですが、アルスがどこに行ったのか」
「たぶん心配ないですよ♪」

 おっとり根拠なく請け負う響。ちなみにアルス・フォーレ・ソフィアは早くも行方不明だった。





 さて、その3人。広い屋敷内をウロチョロ探検しまわっていた。

「こういう屋敷は、探検しないと納まらないワクワクする『何か』があるよねー」
「村だと良く友達と探検ごっこしたんだよ」

 普段から仕事で屋敷に忍び込んだり、訓練として夜の宮廷図書館に潜り込んだりしてるフォーレと、ジュレップ家に引き取られる前は一介の村の子供として育ったアルス。通じ合うものがあったらしく、あっちをキョロキョロ、こっちをコソコソと覗き回りながら探検に興じている。
 流れで付いてきたソフィアが苦笑する。

「う〜ん、僕はここは何度か来てるからな〜」
「そうなの? ソフィア姉ちゃんすごいね!」
「ソフィアねーちゃんが隊長だ〜!」
「た、隊長? 僕が?」
「やったー! 隊長!」
「隊長〜! いざ探検にしゅっぱ〜つ♪」
「オーッ!」
「お、をーッ!?」

 後にウィルの歴史に名を残す(ワケがない)珍獣屋敷探検隊、結成の瞬間であった。





 ダンス練習は珍獣屋敷の一室で行われている。

「あの方達が皆様、冒険者なのですか?」
「ん〜、違う人も居るけど。知り合いも居るわよ‥‥って、こんな所に居たわ」

 ローゼリットの質問に答えていた瑠璃が、呆れたように肩をすくめた。視線の先を追えば、幾人かの男女が楽しそうにダンスの練習をしている後ろで、見よう見まねでステップを踏んでいるフォーレとアルス、そして知り合いらしき冒険者をからかっているソフィアの姿がある。

「ローゼリット様!」

 アルス少年が姉の姿を見つけ、満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきた。

「僕、ソフィア姉ちゃんやフォーレ姉ちゃんとだんす練習してたんです」
「‥‥そなたにダンスの嗜みがない事はよく判りました」

 軽く額を押さえたローゼリット、脳裏には先ほど見たアルスの、フラフラ踊りとでも呼ぶべき姿がくっきり映っている。まあ、まだ8歳ですから。
 と、ダンス講師をしていた少女がこちらの騒ぎに気付いたようだ。

「やっ、みんなも参加かな?」
「こんにちわ、かえでさん。お邪魔でなければ伴奏など」
「おおっ、ケンイチさん、ありがとうだよ♪ 他のみんなもちょっとだけでもやってくかな? えっと、そちらは‥‥」
「申し遅れました、あたくし、ローゼリット・ジュレップと申します」
「ローゼリットちゃんだね。どもども、天界人の彩鈴かえでだよ♪」

 差し出された手を、握り返せば返ってくるのは人懐こい満面の笑み。気が付けば「それでは是非」とローゼリットは頷いていた。それでなくとも、彼女の日々の勉強の中でダンスは好きな部類。
 控えめにかえでの後を付いて行ったローゼリットを、見守っていた瑠璃と塁郁はふと、顔を見合わせた。

「そう言えば」
「ウルティム様はどうされてるでしょうね」





 その頃、珍獣氏。

「ローゼリットたんのメロンをこの手に掴むまではデブホッ!?」
「ウザイです〜」(何かを力いっぱい振り下ろしてミルク(毒入り))

 はい、お元気そうですね。





 しばしダンスを楽しんだお嬢様一行、その後一通り屋敷の中を見学し、すべての行程を終えられた。途中、聖夜祭の詳細な講義を受けつつ、時々何かの襲撃(笑)を素早く冒険者達が退けながらの道程である。皆様、ご苦労様でした。
 迎えの馬車を待つ門前で、瑠璃がローゼリットに問いかける。

「ウルティムさんに頼みごとは良かったの? ローゼリットちゃんみたいな美少女が目を潤ませて頼めば、2秒で応じそうだけど」

 2秒どころか瞬殺だと思います。
 瑠璃の言葉に、ローゼリットは「良いのです」ときっぱり首を振る。

「あたくしはまだ、アルスの母君を探す為のすべての札を出し終わった訳ではありません。手札が無くなって、それでも母君が見つからぬ時には若君にお願いに上がる事にします」

 言い切ってしまってから、ちょっとだけ不安そうな表情になる。件の『若君』の姿を思い出したのだろう。だが意志は変わらぬようだ。手の中のシルクのショールに視線を落とし、それから珍獣屋敷を振り返る。

「ところで、アルスとフォーレ様、ソフィア様はどうなさったのでしょう。お貸し下さったショールもお返ししなければなりませんのに」

 ダンス練習の最中にまた姿を消した3人組、現在行方不明続行中。





 その頃、珍獣vs探検隊。

「ハァハァ、ソフィアたんにフォーレたギャフンッ!」
「再び天誅ッ!」(ドガッシャーンッ!)
「隊長つよーい!」
「強いね〜♪」

 ま、楽しそうだから心配ないだろう、うん。
 問題は馬車が到着するまでに、彼らの戦いが終わるかどうか、である。