ゴーレムを護送せよ!

■ショートシナリオ&プロモート


担当:蓮華・水無月

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:3人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月13日〜12月18日

リプレイ公開日:2008年12月23日

●オープニング

 その日、冒険者ギルドに張り出された1枚の依頼書。
 幾人かがその依頼書を見ては、手すきのギルド職員を捕まえて質問をしたりしている。
 そのうちの一人である受付嬢もまた

「はい、その依頼書ですね。間違いありませんよ、当ギルドから皆様へのご依頼になっております」

 ニッコリ笑顔で、立て板に水を流すようにすらすらと説明する。

「この頃はカオスの魔物の暗躍も激しく、各地で不穏な事件が相次いでますので、ギルド総監が王宮に掛け合って今回の決定となりました」

 すなわち、とある領地に配備されていたゴーレムのうち、新規配属によってウィルに戻される何機かを冒険者ギルドの格納庫に移送し、ギルド預かりとする。これは王宮の決定であり、移送には王宮より派遣された鎧騎士の一団があたる。ついては冒険者達に、ゴーレム移送の護衛にあたって欲しい、と。
 それが今日、張り出された依頼書の概要。
 受付嬢は言葉を続ける。

「何しろ物がモノです。もちろん移送は秘密裏に行われますが、カオスの勢力が襲ってくるとも、それ以外の何らかの敵対勢力の妨害が入るとも限りません。護衛には万全を期して頂ければと思います」

 なお、ゴーレム移送は基本的に鎧騎士のみが当たるので、冒険者のゴーレム操縦の可否は問わない。また襲撃があった場合、ゴーレムのみならず鎧騎士達も守ってもらいたい。

「鎧騎士の皆様はゴーレムの操縦に疲労されている事が考えられます。それにギルド用格納庫まで運んで頂くためにも、出来る限り鎧騎士の皆様は温存して頂きたい、と言うのが総監のお考えです」

 なるほど、と質問をした冒険者が難しい顔になって腕を組む。思いの外、これは難しい依頼なのかもしれない。
 そんな内心を知ってか知らずか、受付嬢はまっすぐ冒険者を見て微笑んだ。

「移送して頂いたゴーレムはいずれ、冒険者の皆様にもご利用して頂けるよう調整するとの事ですよ」
(‥‥なあ、あれ全部暗記してんのか?)
(ばっか、手元よく見ろ、カンペ持ってるだろ)

 同僚たちのヒソヒソ声に、受付嬢のこめかみに立った青筋は見ない事にして、説明を受けた冒険者は「考えてみよう」と再び依頼書と睨めっこを始めたのだった。

●今回の参加者

 eb4181 フレッド・イースタン(28歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb9419 木下 陽一(30歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec5470 ヴァラス・シャイア(37歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)

●サポート参加者

元 馬祖(ec4154

●リプレイ本文

 国家機密であるゴーレムの護送依頼。それゆえか依頼自体も明確な情報が提示されておらず、詳細な地点も出発当日になって口頭にて言い渡されたのみ。さらに、今回の依頼について後日よそへ漏れるような事があれば‥‥と言外に圧力をかけられる始末だ。

「ゴーレム6体の移送だろ? それで鎧騎士が疲れるなら、ゴーレムに自分で歩かせる‥‥? 幾ら機密でもフロートシップか大型馬車使えば‥‥って言うか何で機密にする必要があるんだろ?」

 くれぐれもお気をつけて、と冒険者ギルドの受付嬢に笑顔で見送られ、移送元の某領地へと向かう道すがら、木下陽一(eb9419)はぶつぶつ呟きながら首をひねった。はっきり言って、フロートシップや馬車でも目立つだろうのに、ゴーレムに自走なんてさせたら目立って仕方がないと思うのだが。
 フレッド・イースタン(eb4181)が苦笑しながら同意した。

「そうですね。もしくは、敵を炙り出すために国でわざと見せているのか‥‥」
「確かにキャペルスが移動するとなると、普通に目立ちますよね‥‥」

 ヴァラス・シャイア(ec5470)も不審を口にする。
 移送任務に当たる鎧騎士は、すでに目的地で冒険者が到着するまで待機していると言う。だから往路は今回の任務に当たる3人の冒険者のみの道程だ。
 ゆえに道すがら、思いつくままに今回の任務に対して様々な予測を立てて行った冒険者達だったが、概ね彼らの予測は正しかった。
 確かに移送ゴーレムは自走移動だったし、移送にあたる鎧騎士は6名組で、ただし3交代+補欠2名との予測は3交代+補欠1組の計24名と言う事で僅かに逸れた。が、大勢に影響はない。ゴーレムの操縦に当たる6名以外は2台の馬車に分譲して移動すると言う。
 今回の任務に当たる鎧騎士のまとめ役に当たるらしい男が、代表して冒険者達に挨拶する。

「ご苦労様です! リグ・ディビアス、此度の任務を拝命した鎧騎士であります。冒険者諸氏には護衛の任、何卒よろしくお頼み申し上げます!」

 何か、体育会系の匂いのする男であった。鎧騎士と言う時点で十分体育会系なのだが。
 そのリグも勿論、今回の任務について詳しい事は知らされていないと言う。

「自分達は此方より冒険者ギルドへのゴーレム移送を命じられただけでありますから!」

 そう力強く言い切った後、ふと小声で不安を漏らす。

「ですが此度の任務に疑問を感じておる者が居ない訳ではありません。ゴーレムは国家機密でありますが、冒険者諸氏の仰る通り、此度の任務はいささか目を引きますので。中には、我らは敵性勢力を誘き出す為の囮ではないかと申す者もおります」

 とは言え、その為にゴーレム6体はいささか餌が上等すぎる。それに元より捨て駒ならば護衛を雇うはずもない、と不安を紛らわせているのだとか。
 その様な事を漏らした後、これはどうか上には内密に、と懇願して、リグは鎧騎士達の元へと戻っていく。わらわらと戻ってきたリグに群がる鎧騎士達。どうやら頼られているようだ。
 さて敵は出るのか、それとも何事もなく格納庫まで辿り着けるのか。こればかりは、幾ら歴戦の冒険者といえど蓋を開けてみなければ判らぬ事であった。





 復路、ゴーレム護送の道すがら。
 フレッドの提案によって前後にグラシュテとキャペルスを相互に配置し、間に馬車と騎馬の鎧騎士を挟む形で、隊列は出発した。ちなみに冒険者達の配置は、陽一とヴァラスが馬車に同乗、フレッドが周囲を警戒しつつ愛馬ブレーに騎乗。
 さすが、ゴーレム移送に選ばれただけあって、鎧騎士達は全員一定レベル以上のゴーレム操縦技術を習得しているとの事であった。いざとなればヴァラスとフレッドは代行出来るだけの技術はある(陽一も一応動かす位なら問題ない。多分)が、この分では大丈夫そうだろう。
 移動復路、1日目は問題なく終了。時間を見てローテーションに従い操縦を交代。小休止の折にはヴァラスが出発前に市場で購入した岩塩と蜂蜜で作成したドリンクを全員に配り、水分補給を図る。その間も冒険者達は油断なく辺りを監視し、気配を探り、双眼鏡で見張っていたが、怪しい影は見当たらなかった。
 夜営時は全員をローテーションに振り分けて警戒。宵、深夜、夜明けの3交代で、冒険者1人と鎧騎士6人を1チームとする。夜闇に紛れてゴーレムを奪われぬよう、これも鎧騎士6名に交代で制御胞で待機してもらった。起動せずとも万全を期すに越した事はない。また、姿を消して近付いたりする魔物への対策に、夜営地は周りが砂利の場所を選び、さらに周囲に踏んだらすぐ判るよう枯枝をばら撒いておいた。
 の、だが、しかし。

「普通さぁ、動いてるゴーレムを襲うよりは、何か来るなら休憩や野営中じゃないのか!?」

 陽一の非難の叫び声も、さもありなん。なんと敵は真昼間、ゴーレムを操縦しての移動中に、当たり前に現れたのである。
 とは言え、

「数は私達より遥かに多いようですが」
「ウルフの群れに、カオスの魔物が1体、ですか」

 ぐるりと周囲を取り囲んで唸り声を上げる獣の群れを冷静に分析するフレッドとヴァラス。これを手強いと捕えるか、雑魚と捕えるかは人によるだろう。何しろこちらは3人の冒険者に18人の鎧騎士、おまけに起動中のゴーレムが6体も居る。
 ウルフの向こうに居る、黒い翼を背中に負った炎纏うカオスの魔物が、事前の打ち合わせ通りに展開しようとする一同に向かい、芝居がかったお辞儀なぞしながらニヤニヤ告げた。

「さて、冒険者に鎧騎士にゴーレムのご一行、参上が遅れてまことに申し訳ない。何しろ準備に手間取ってね」
「準備だと?」
「ええ、準備。せっかくのゴーレムの能力、敵が居なくては真の成果は発揮できますまい?」

 昨今、カオスの魔物との戦いも相次ぎ、彼奴らの本拠地たるカオスの穴、そこに繋がる地獄への侵攻も進められている。そこでもゴーレムは使用されており。
 だがかの地での戦闘に使用されるのはアイアンゴーレムまでであり、今回の護送対象であるキャペルスはまだ使用許可は出て、いない。
 だからね、とカオスの魔物はほくそ笑む。

「我々も、我らが王もお知りになりたいと思うんですよ。未だあなた方が秘匿するゴーレム、その能力はいか程のものか。そしてそれを操るあなた方に、果たしてどの程度の戦闘力があるのか――」

 冒険者が脅威であることは十分に判っている。彼らが良くゴーレムを操縦する事も。だが鎧騎士、彼らは果たしていかにゴーレムを操り、そのゴーレムはいかな力を発揮するのか。地上を制圧するのに彼らは脅威たりうるのか。
 それを見せよ、とカオスの魔物は観察者の瞳で笑う。
 パチリ、と魔物が指を鳴らした。途端、一行を取り囲んでいたウルフの群れが一際大きな唸り声を上げ、力強く地を蹴る。戦闘態勢を取るキャペルスに、それぞれに襲い掛かった。

「‥‥ッ! 一先ずキャペルスは待機です!」

 フレッドは咄嗟に判断し、指示を出した。キャペルスの能力を偵察に来たのが向こうの狙いなら、みすみすそれに乗ってやる事はない。それでなくともまだグラシュテが3体居る。
 ヴァラスがガードとスマッシュを繰り返しながら、キャペルスに危害を加えようとするウルフに攻撃する。だが守る対象は3機、ヴァラスは1人。馬車から飛び出してきた鎧騎士達が、手に手に剣を構えながら戦闘に加わった。
 その隙にフレッドはシルバーアローを番えるが、悟った魔物はひらりと身を翻し、あっさり射程圏外へと逃げ出す。同時に陽一が魔法の詠唱に入っている。

「困りますねぇ。私は戦いに来たのではないのですよ?」
「ヘブンリィライトニング!」
「おっと、話の通じない方達だ」

 さすがに当たったら不味いじゃないですかソレ、とか言ってから魔物は一呼吸、黙り込んだ。やがて魔物の身体を黒い靄が包み込む。
 矢の射程圏外にまで逃げられたカオスの魔物は陽一の魔法に任せ、フレッドはウルフの群れ撲滅に力を注ぐ事にした。
 ウルフの厄介な所は、群れをなし、連携して襲撃を行う事だ。さらに今はカオスの魔物に操られ、思考から逃げると言う選択肢はほぼ失われている。彼らは牙を、爪を駆使して鎧騎士らに襲い掛かり、グラシュテの腕を潜り抜け、果敢にキャペルスに近付こうとした。
 フレッドは弓に矢を番えて対ウルフ戦に参戦する。戦況を見据えて危なそうな所に矢を打ち込み、ウルフを退け、倒しながら愛馬を駆る。ヴァラスも戦況を見たり、フレッドの叫ぶ声に従って防御網の薄い所に走り、ウルフの撃退に努めた。
 やがて。

「あーッ、畜生、逃げられた!」

 背後で陽一の叫び声が上がったのは、ウルフの群れがあらかた動かなくなったのと同時だった。用意したウルフが倒されたのでは、キャペルスの能力を見るのは叶わない、と諦めたのか。
 聞けば結局、ダメージを与える事は叶わなかったらしい。最初、間違って弱い魔法を放った時は避けもしなかったが、ダメージを受けてはいなかった。その後は、魔法で抵抗力をつけたと思われ、魔法に当たりながら逃げ続けたとか。
 どこら辺まで逃げられたのか、と聞けば指差されたのは遥かかなた。この距離で魔法を放てる陽一の視力も対したものだが、逃げた魔物も魔物だ。

「最後のは効果があった気がするけど、でも逃げられたからな」
「それでも当たったのなら、木下さんのお手柄ですよ」

 ぼやく陽一を、フレッドが慰める。ヴァラスは新たにドリンクを作って戦闘に疲労した人々に配布、さらに特に負傷の酷い者にはリカバーポーションを飲ませて回復に努めた。フレッドも1つ提供。
 あらかた配り終え、2人の仲間にもドリンクを運んできたヴァラスが、眉を寄せる。

「どころであの魔物は、気になる事を言っていましたが」
「ああ‥‥」

 2人はそれぞれに思い出し、頷く。言葉には出さずとも恐らく、全員が考えている事は同じだろう。

『参上が遅くなってまことに申し訳ない』

 あのカオスの魔物は、彼らにそう言ったのだ。






 冒険者ギルド・ゴーレム格納庫にて。

「皆様、ご無事のご帰還で何よりです」

 任務を終えた3人の冒険者を、ニッコリ営業スマイルで受付嬢が出迎えた。彼らが護送して来たゴーレムは、係員の指示に従って移動していく。これからゴーレム工房職員によって様々のチェックが行われ、調整されるのだとか。

「途中、カオスの襲撃を受けたと聞きました。魔物は逃げたものの、操られたウルフの群れは全滅なさったとか」
「それで聞きたい事があるのですが」

 受付嬢の言葉をフレッドが真剣な表情で遮った。陽一が後を続ける。

「コレ、まさか出来レースじゃないよね?」
「出来‥‥? 当ギルドが仕組んだという事ですか? なぜその様な?」
「私たちが戦ったカオスの魔物は、まるで今回の事を誰かに聞いていた、とも取れる言動を取りました」
「それに、ゴーレムを移送するだけならフロートシップや馬車の方が目立たないのではないでしょうか。なのに今回、あえてゴーレム自走と言う移送手段を取った訳は?」

 畳み掛けるフレッドとヴァラスの質問に、うッ、と受付嬢は言葉に詰まる。つ、と一筋の冷や汗。
 これは何かある。冒険者達は視線を交わしあった。
 ジリジリと無言の圧力で迫る冒険者達に、受付嬢はしばし迷った後、『言わないで下さいね』と念を押し、ようやく口を割った。

「当ギルドが今回の襲撃に関与した、という事はあり得ません。カオスの魔物と通じるなど持っての外――ですがこの情勢、不穏分子は幾らでも居ります。あわよくばそれらの勢力の尻尾でも掴めれば、と言う狙いは確かに有りました」
「その為に、わざわざ目立つ方法で移送を?」
「いえ‥‥それは、ですね。何と申しますか‥‥今回の依頼の工房側の責任者が、ゴーレムに非常に愛情を抱いておられる方でして。ゴーレムは動いてこそ価値がある、フロートシップや馬車で荷物の様に運ぶなら当ギルドへの譲渡は何があっても白紙に戻す、と‥‥」

 ‥‥‥沈黙が、しばし、その場に降り積もった。その沈黙の意味を正確に理解した受付嬢は、すっと冒険者達に頭を下げる。

「今でしたら工房の方に居られるかと」

 ――やがて踵を返した冒険者達がどこへ向かったのか、それは受付嬢には与り知らぬ事である。もちろん、工房側責任者と冒険者の間にどんな話し合いがあったのかも。