呼び声に応えるもの
|
■ショートシナリオ&プロモート
担当:蓮華・水無月
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月17日〜12月22日
リプレイ公開日:2008年12月23日
|
●オープニング
そこは広大な草原だった。
遠くにはかすむ森が見え、その向こうには険しい山脈がそびえている。一体どれほどの高さがあるものか、見ているだけでは想像もつかない。
冬、雪もちらつく季節となれば草原に茂る草木も枯れ、寂しい光景が広がっていそうなものだ。だが、見渡す限りそこにあるのは緑の草原。瑞々しい芽生えの蒼。
(『夢』だわ)
トーリャはそれを自覚した。眠りの中で見る夢の光景。ならば季節にそぐわぬ景色も当然の事。
だが、ただの夢ではない――その事もまた、トーリャは理解していた。彼女は時折、眠りの夢の中にやがて来る未来を垣間見ることがある。この夢が、そういった類の『夢』である事は、疑うべくもなかった。
説明するのは難しい。だがトーリャにとっては歴然と異なる、現実へと繋がる『夢』。
遠く、山脈に抱かれた森の中から黄金の光が飛び立つのが見えた。否、それは生き物だ。巨大な、強大な生き物――黄金竜。
トーリャは知らず、息を呑んだ。ゆっくりとこちらへ近付いて来る竜の優美な姿を、惹き付けられる様にじっと見つめる。
直接、垣間見た事はもちろんない。だが少し前まではいつも夢で見ていたその姿。
黄金竜はゆっくり、鮮やかな鱗に月精霊の光を浴びながらトーリャの立つ草原の上空に辿りついた。大きな羽根を動かす音が聞こえないのは、これが夢だからに相違ない。
ああ、とトーリャの唇から吐息が漏れた。彼女にとっても竜は信仰の象徴。その竜の夢を一度ならず二度までも見る事が出来た幸運は、幾ら感謝しても足りない。
感激に打ち震える少女を見下ろし、黄金竜は厳かに告げる。
「世界の闇を打ち払う剣を、此処へ」
「剣――?」
「そう、剣。そなたの願いに応えて我が元へ参ったかの剣らを、此処へ」
「冒険者の事‥‥?」
告げられた言葉に、トーリャは戸惑い、首をひねった。先日、彼女が見た悪夢と黄金竜の正体を突き止めて欲しい、と願ったのは冒険者ギルド。そして応えてくれたのは冒険者。
黄金竜は、冒険者を呼んでいる?
かすかな呟きに、黄金竜が目を細めた。肯定。やはり竜は、冒険者を呼んでいるのだ。
「我らが属の偉大なる竜が、世界の闇を打ち払う剣を呼んでおられる。かの竜は剣を助ける力を授ける事をお決めになった。竜の助力を得るに相応しき力を持つ事を示した剣に」
「え‥‥え‥‥‥?」
「竜の助力を望む剣を、我らが元へ。望み、力を示した剣に、我らが竜の助力を」
黄金竜はそれだけをトーリャに告げると、再び森へと戻っていく。トーリャの混乱などお構い無しだ。同時に急速に夢が色褪せ、目覚めの気配が少女の意識を包む。
抗う暇もなく、少女の意識は彼女の現実へと押し流されていった。
冬の澄んだ空気に満ちた朝のウィルの街を、トーリャがパタパタと駆けて行く。
(冒険者を、竜の元へ)
目指すは冒険者ギルド、歴戦の冒険者が集う場所。そこで依頼を出さねばならない。黄金竜の言葉に従い、竜の助力を望み、その力を示す冒険者を西方山脈へ―――
●リプレイ本文
それは巨大な、美しい竜だった。丘ほどもあるかと思われる巨体は虹色の鱗に覆われ、ほっそりとしたシルエットに映える翼の内側は艶やかな黒。遥か高みから冒険者達を見下ろす瞳には、深遠な光が宿っている。それは空に輝く月精霊の光にも似ているように思えた。
その前に立つのは、黄金竜の呼び声に答えるべく集まった7人の冒険者達。今1人、竜に挑まんと名乗りを上げた者は居たのだが、都合により訪れる事が叶わなかった。
彼らの前には彼らを案内してきた黄金竜が頭を垂れ、彼らの後ろには黄金竜の啓示を受けた少女が居る。2度も竜の啓示を受けた彼女にはその資格があると、グラン・バク(ea5229)が差し出した手を彼女は取った。
「――この竜に挑む勇を持つ剣が7振りもここに揃った事に祝福を」
黄金竜の言葉を聞き、冒険者達の名乗りを聞いた竜は、満足そうに頷いた。黄金竜が翼をはためかせて場所を譲り、巨竜と冒険者達を隔てるものは今や何もない。
僅かに巨竜の瞳が細められた。
「して。汝らは『力』を何と考えておる?」
「‥‥やはり連携の力だと思う。どうあがいたって個人の力には限界がある。俺も人の中ではちょっとしたものだと思うが、それにしても一人でなんでも解決できるはずもない。しかし、皆で力を合わせた結果混沌竜にも打ち勝つことが出来た」
「自分にとって力とは信念。どの様な相手にも恐れず立ち向かい、己の信ずる道を貫くことです」
「武器を持ち恐怖を糧とし困難に挑むのが皆様の『力』でしたら、いかなる状況であれその困難で負傷した仲間をいかなる手段を使っても治療し癒し救い続けるよう努め続けるのが私の『力』です」
突然の問いに、アリオス・エルスリード(ea0439)はしばし考え、答えた。フルーレ・フルフラット(eb1182)、ゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)も同様に、己が信ずる所を竜に告げる。
巨竜は頷き、残る冒険者達を見渡してそこに異論を差し挟む者がない事を確かめた。そしてバサリ、と巨大な翼をはためかせ。
「ならば、汝らの信ずるままにこの竜の前に力を示すが良いよ」
大気を震わせて巨竜が告げた言葉が、始まりの合図だった。
挑戦1日目終了後、2日目朝。
「眼の付け所は良かったと思うのじゃが」
ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)が呟く。彼はシャドウフィールドを警戒して、暗闇に巻かれた場合でも巨竜の位置が判るようパッシヴセンサーを仲間にかけておいた。その方向性は、決して間違っては居ない。
だが、巨竜が冒険者達に使用したのは同じく視界を奪う技だが、シャドウフィールドではなく特殊効果を持つ暗闇の息。これでは、魔法の発動を感知するパッシヴセンサーも手が出せない。
効果は巨竜を中心とした30m。手に手に武器を取って挑みかかった直後にこの息を吐かれ、視界を奪われた冒険者達は、表現するなら「ヒョイと転がすように」巨竜の爪の一撃を受けて重傷。グリフォンに騎乗して空中より巨竜に挑んだシン・ウィンドフェザー(ea1819)とフルーレも例外ではない。ディアッカ・ディアボロス(ea5597)とゾーラクが事前にレジストメンタルを付与していたとは言え、視界を失ったグリフォンらが恐慌に陥るのは必然と言えた。
弓と言う獲物ゆえ、遠方に居たため暗闇の息を免れたアリオスも、いかに矢を放とうとも巨竜の身を守るムーンフィールドは崩れる事を知らず。ユラヴィカとディアッカを除く全員が動かなくなり、ゾーラクが決死の覚悟でムーンフィールドを楯に治療に当たる中、暗闇の効果が切れたのを見計らってのムーンシャドゥにて移動してきた巨竜に同じく爪で攻撃をされて重傷。
そうして夜が明ける頃には、今日はこれまで、と言い残してエクリプスドラゴンは姿を消したのだ。
「‥‥殺し合いが目的じゃないにせよ、こりゃ命懸けの試練になりそうだな」
懐を押さえながら呟いたシンの言葉が、深く冒険者の胸のうちに染み渡っていく。
巨竜は、冒険者達を殺すつもりはない。試しているだけだ。だから冒険者達に重傷以上の傷を負わせなかったし、ろくな攻撃の術を持たぬ3人には見向きもしなかった。
つまり手加減して貰っている、訳だ。
「思うのですが‥‥まずは竜と話をしませんか? 昨夜は巨竜に言われるがままに戦いに入ってしまいましたが」
ディアッカが提案する。ギルガメシュの背を撫でながらフルーレが頷いた。
「自分もそう思うッス。以前の依頼の時は、黄金竜とは話が出来て居たッスよね?」
「今回の巨竜も深遠な知識を持つと聞きます」
「竜の助力も気になるしの〜」
冒険者達の意見が、次第に一つ方向へと収束する。先ずは巨竜と話を。それで何かが変わるかも知れないし、変わらなければまた考えれば良い。
が、何はともあれ、今は先ず休息するべき時だった。
挑戦2日目、夜。エクリプスドラゴンは月に属する高位竜であり、基本、夜行性である。
その日も冒険者達の前に雄大な肢体を現した巨竜は、話がしたい、と言う冒険者側からの申し出に、ふむ、と頷いた。
「この竜に話があるとの。うむ、良かろ」
割と気軽な返答だが、そんな中でも威厳が感じられる(様な気がする)のはさすがは高位竜といった所か。
冒険者達は礼節を持って謝意を述べ、巨体を地に横たえた竜の前に立つ。が「これ、その様にしゃちほこばったものではないよ」と苦笑される。
先ず、口火を切ったのはグランだった。
「知恵司る竜よ。我らへの助力―それは魔物達が持つ『禍しき力』の正体、それを打破する術という理解でいいのだろうか」
直球である。ふむ? と巨竜が僅かに瞳を動かした。興味を持ったようだ。
「汝らも同意見かな」
「ああ、俺的にしてほしいことは、やはり情報の提供かな。竜たちはいろいろ見通せるかもしれないが自由には動けないし、俺達は自由に動けるが、情報がないと動けない」
「私は――月に属する竜の眷属の助力となると、考えうるのは、過去の伝承に関する知識か、あるいは、現在開いている月道や門の開閉に関する助力辺りかと」
「竜は自分達の事を『剣』と呼んでいたそうで。ならば、剣を助ける力、とは‥‥切れ味を増す為の砥石か、身を護る盾か? と」
促され、アリオスやディアッカ、フルーレがそれぞれに思う所を述べた。さらにグランが言葉を募らせる。
「『世界』は何を求めている? カオスの穴とその奥に棲む混沌竜は封じた、だが、それだけではなかったということか」
勢い込むも、最後は少し言いよどむ。だが巨竜は、言わんとする事を理解した、とでも言うように一つ、頷いた。
クルリ、と瞳を動かす。
「ふむ。汝らの問いは、今この時に答えるは難しいの。この竜は世界を視るが、世界ではない故に。月道にしても同じ事、あれらは月に属する力に寄るが、それのみではない故に――だが、そうさの、嬢の問いには答えられよう。嬢らは世界の闇を打ち払うべく研がれた剣であり、世界を闇より守るべく鍛えられた盾である。何れでもあり、何れでもない。剣も盾も、使い方を知らねばただそこに在るだけのもの。汝らは、汝らと言う剣の、盾の使い方を承知しておるか?」
咄嗟に、返る言葉はない。各々が、各々の胸の内に問いかける、或いは答える言葉を捜している。
彼らを温かく見守る光を宿し、巨竜は低い声で言葉を紡ぐ。
「かの闇ども、その力の片鱗は教えよう、汝らが剣たり、盾たるに相応しき力を示した暁には」
だが今はまだ、と。言い残し、その日も巨竜は姿を消した。
挑戦3日目、最終日。
改めて作戦を熟考した冒険者達は、オーラエリベイションなどの事前準備も万端に、三度姿を現した巨竜に挑みかかった。基本配置は前回と同じく、遠方に弓手のアリオスを配置、上空にレジストメンタルを施したグリフォンに騎乗したシンとフルーレ、地上との連絡やレーダー役にディアッカとユラヴィカ、地上からの攻め手がグラン、救助役にゾーラク。
だが前回と違い、今回は巨竜の手の内が僅かなりとも判っている。
「‥‥ッ、息を吐きましたッ!」
巨竜が吐き出した暗闇の息は、瞬間的に辺りを覆い、巻き込まれた者達から強制的に視界を奪う。レジストメンタルがあってなお訪れる恐怖と混乱。幾たび味わおうとも慣れる事はない。
視界を奪われた冒険者達に巨竜が爪を向く。これもまた前回と同じ。
だが。
「行くッス、ギルガメシュ!」
圏外に逃れていたフルーレが掛け声も勇ましく、全力のランスチャージで巨竜に挑みかかった。言うなれば、残る冒険者達はただこの瞬間の為の囮だ。巨竜は高速詠唱でムーンフィールドを展開、だがフルーレの全力の一撃に堪えきれず崩壊する。
「今だ!」
ムーンフィールドが破られる、まさにそのタイミングを計ってアリオスが続けざまに矢を射掛けた。有効打を与えられるとは期待していない、彼の役割は元より巨竜の気を引き、攻撃を仲間から逸らす事。
巨竜は続け様に暗闇の息を吐き、爪を振るった。次はフルーレも巻き込まれる。だがその間に視界を奪われた仲間は射程範囲外へ避難しており、ゾーラクによる治療でダメージと、そして視界をも回復させている。有効時間は大体6分程度。前回の挑戦でそれは判っている。
視界を奪われたフルーレの代わりに、今度はシンが上空より巨竜を狙う。息や爪の有効範囲に入らないぎりぎりの位置からソニックブームにて牽制。どれほど効いているものか、巨竜の頭がぐるりとシンの方を向く。地上ではグランが同じく、攻撃を仕掛けながら好機を伺っている。
フルーレが回復したと連絡があり、すぐに彼女と彼女のグリフォンが上空に舞い戻ってきた。勿論、まだ士気は高い。
「もう一度行くッスよ!」
再びチャージングにて巨竜のムーンフィールドに特攻。だが今度はそのすぐ後ろに、シンと愛騎ヴァルグリンドがついている。
「‥‥とんでもねー奴を相手にする際、必ずどっかで捨て身にならざるを得ない場面ってのはあるもんだ。‥‥そして、それは‥‥今、この時っ!」
カッと目を見開いて、ムーンフィールドが崩れた瞬間グリフォンから飛び降り、得物を構えたまま巨竜に突っ込んだ。さらにディアッカ達のテレパシーでタイミングを合わせたアリオスが射撃の手を早め。
シンの猛攻に、バランスを崩した巨竜にグランの渾身の、スマッシュを載せたソニックブレードの一撃が放たれた‥‥!
冒険者達の協力によって放たれた一撃は、見事巨竜に傷を与えるに至った。とは言え
「うむ、ま、合格かの」
余裕そうにそんな発言をする辺り、せいぜいが軽傷、といった所だったのかもしれない。だがそれでも確かに巨竜に傷を負わせた。その事実に、或いはこの竜は幻の姿では、と疑っていた冒険者も胸を撫で下ろした様だ。
ゾーラクに傷の手当てを受けたシンが肩をすくめ。
「‥‥さて、竜の助力ってのがどんな力なのやら?」
有名な某剣は別の場所で暗黒竜を封じるのに使われたしな、と懐辺りを押さえながら一人ごちる。
そうさの、と巨竜が瞳を細めた。
「かの闇どもの力、その片鱗を教える、と約した故な。彼奴らは幻よ。この地上にあるが如し、だがそれは地上に現れたる夢幻が如し。すでに気付き始めておる者らも居るようだが、彼奴らがこのところ力を増幅させたるは、地の底と地上が通じたが故よ。彼奴らの真はの底にあり、そこに真の姿のある限り、地上の幻は幾度でも蘇る。そうして彼奴らの崇める王の為、地上の鍵を捜し求めて居る」
「鍵‥‥?」
「鍵とも、また冠とも。或いはまた別の何かとも」
それ以上は今は判らぬが、と巨竜は言葉を切る。それからふと、視線を遠くへ投げかける。釣られて見やった冒険者達の前に、試練の間は危険だから、とフロートシップへ戻らせたトーリャが黄金竜と共に姿を現した。
驚きに目を見張るが、さらに続けて現れた姿に、ぽかん、と口まで開く者も現れる始末。
「あれ、は?」
「あれらは我らが月の属の若子よ」
「いや、それは判るが」
俗に言うドラゴンパピー、それらが7匹、コロン、と揃っている様は割と壮観だ。何しろ竜なだけに。
巨竜が笑う。黄金竜が頭を垂れ、トーリャが困ったように首を傾げる。
「え、と。あの、この子達を、ですね、皆さんにお預けする、そうです‥‥?」
「うむ。この子等にもそろそろ修練が必要な時よ。汝らなればこの子等を、良き剣とし、良き盾と育て得るだろうよ」
それは巨竜が、冒険者達を彼らの若子を預けるに足る、と認めたと言うこと。つまり、竜の信頼を勝ち取ったと言う事、だ。
「汝らは己が力の使い所を知り、仲間の為に力を尽くす事を知る。それが力だと知って居る。この竜は、その様な心の在り様は、尊きものだと思っているよ」
「また一手、ご指南頂けるか」
冒険者の言葉に、いずれまた、と巨竜は頷く。いつかは判らない、すぐかも、或いは遥か未来かも知れぬが、その時が来れば、と。
こうして、竜の試練は終了した。いずれ必要な時が来ればまた、巨竜は彼らの前に姿を現すことだろう。