【聖夜祭】もちろんステキなお料理を
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■イベントシナリオ
担当:蓮華・水無月
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 83 C
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月21日〜12月21日
リプレイ公開日:2008年12月30日
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●オープニング
聖夜祭。ジーザス教における聖ジーザスの生誕したもうた日。とは言えアトランティスに置いては『天界の有名なお祭』という印象の方が強いのだが、そんな特別な日の為に、多くの冒険者達が珍獣屋敷にて準備を重ね、血と汗と涙を流してきた(ウルティムが)。
そして祭りと言えば欠かせないのがご馳走だ。いかに催しが盛り上がろうとも、そこに添えられた料理がなければ画竜点睛。そういうことにしといてください。
「と言うわけで料理を考えなくちゃね」
「何人分作ればいいんでしょうか」
渋面を作ったのは実質メイド長のレモン(パラ・23歳)。応えてため息を吐いたのがノラ(人間・11歳)。何故ここにミルク(毒入り)(パラ・年齢不詳)が居ないのか、それは永遠の謎にしておいた方が良い。色々と。
何はともあれ、聖夜祭当日にお客様に出す料理だ。メニュー、未定。ゆえに材料、未定。そもそもどのくらい冒険者が来るのか判らないのでメニューが決められないとも言う。
「で、あの、何で私がここに‥‥」
冷や汗を流しながらおずおずと手を上げる女性、1名。冒険者ギルドの受付嬢である。本日は非番。たまの休みに市場で買い物を楽しんでいたら、偶然出会った珍獣屋敷の2人のメイドに拉致されて現在に至る。
しかし、勇気を振り絞った受付嬢の言葉は華麗にスルーされた。
「冒険者に全部お願いしちゃったら良いんじゃないですか?」
きっぱり無視してノラが言う。まぁもっともな発言だ。実際、今までの準備も全部冒険者がやってくれている訳だし。それ以外のハロウィンやら新年会なんかも冒険者が準備してくれている訳だし。
もっともな発言、なのだが。
(あの方に美味しいご馳走を作って差し上げて、それからそれから‥‥)
レモンさん、妄想の翼が力強く羽ばたいているご様子。ていうかキャラ違いませんか。
そんなメイド長の空気が伝わったか、或いはウィルに満ち満ちているお砂糖な雰囲気に影響されたのか。
(もしかして王子様もいらっしゃるかしら?)
ノラさんも何やら羽ばたかれているようです。
ふと、二人の視線が同時に相手に向かい。目が合った二人は内心を誤魔化すように笑う。笑って、部外者1名にようやく視線を向ける。
「あんたは何が良い? 5秒以内、4、3‥‥」
「うぇッ!? あの、取り合えずワインに合うつまみがあれば」
「却下」
「いや、却下って言われても」
割と横暴なレモンの言葉に、受付嬢はだらだら汗を流す。何が良いって聞かれたから素直に答えただけなのに。苛められてる気分だ。て言うか苛めですよね、コレ?
その後、延々「他には」「うぅ、じゃあチーズ」「切るだけじゃないの! 却下、次」「え、じゃあ干し葡萄‥‥」「馬鹿にしてんの? 却下、却下」「うぇ、じゃ、じゃあハムは」「当然却下!」 と言うやり取りを繰り返したものの、建設的な意見は得られず。
そして話題は振り出しに戻る。
「ま、ちょっとは私達も頑張らないとね(あの方の為に)」
「料理、何を作りましょうか(王子様の為に)」
「‥‥いい加減帰して下さい‥‥‥(涙)」
――ウィルを包む甘い空気は、こんな所にもしっかり伝染していたりする。受付嬢が無事解放されたかどうか、それはまた別の物語だ。
●リプレイ本文
パーティー会場における調理場。それは戦場の代名詞である。
その瞬間に立ち会ってしまった料理人なら誰もが必ず味わう戦い。包丁という名の武器を手に、エプロンという名の戦闘服を身に纏い、数多の戦略知略を駆使して野菜やら肉やら魚やらに戦いを挑むのだ。
して見るところ、今回の戦いに名乗りを上げた戦士達は、装備・能力共にかなりハイレベルであると言えた。
「いや、存分に腕を振るういい機会だね」
朝も明けやらぬうちから爽やかな笑顔と共に額に浮いた汗を拭ったのは、天の腕の料理人との二つ名を持つカルナック・イクス(ea0144)である。彼の前には持参の鉄人グッズが並び、様々の食材が下拵えされ、または彼の手によって生まれ変わるのを待っていた。
その隣で、やはり持ち込みの調理道具一式を華麗に操るのは西萌不敗・マスターウィル氏(本名に非ず)。かなりマルチタスクな一面を持つ彼は、料理も達人級の腕前を持っている。
「うん、これまで最初から準備にかかわってきたものとしてはしっかりやらないとね」
そんな事をうそぶきながら鉄人のエプロンを装着した瞬間、何かが乗り移ったように見えましたが、取り合えず害は無さそうなので置いときましょう(ぇ)。
残る1名、信者福袋(eb4064)氏は、2人の戦士によって生み出される料理の数々、それをプロデュースする予定。
「実は切るだけのチーズやハム、干し葡萄も不正解ではありませんね。要は、演出ですよ」
ほくそ笑みながら頭の中で忙しく計算を巡らせている。ちなみに残念ながら、彼の希望による七面鳥の丸焼きは、問題の七面鳥がアトランティスには存在しないため断念せざるを得なかった。
饗するメニューは、鮭と野菜のマリネ、ポークソテーのワイン煮込み、ローストチキン、ガーリックトースト、野菜のスープ、ナッツのクッキー、リンゴの赤ワイン煮、一口大の肉やサラダ、エトセトラ、エトセトラ。ケーキもデコレーション用と日持ちのするフルーツケーキを用意する予定。
そんな訳で、名乗りを上げた戦士達の士気は非常に高かったのだが
「‥‥‥王子様ぁ‥‥‥」
「うっ、うっ‥‥‥耳が‥‥耳が襲ってくるぅ‥‥‥」
「ええい、うっとうしいわね、あんた達! 何さ耳ぐらいッ!」
戦士達を募った当の珍獣屋敷のメイド+αの士気は、対照的なまでに非常に低かった。なにしろ調理場の隅でどんよりと膝を抱えている女性二人に、イライラと当り散らす女性が一人。ちなみに前者がノラと冒険者ギルドの受付嬢、後者がレモン。
うっとおしいなぁ、とは思っても言わないのが大人のマナーである。
戦士2人、即ちカルナックとアシュレー・ウォルサム(ea0244)はまず、時間のかかるもの、また冷めていても問題ないものや冷めた方が美味しいものから準備に取り掛かった。
時間のかかるものは、何と言っても煮込み料理。ワイン煮込みにする為の豚肉はたっぷり用意済み、それを適当な大きさに切ったり、叩いたり、調味料を擦り込んだり。その間に一緒に煮込むタマネギやにんにくなどを刻み、摩り下ろし、スライスする。
同じく、くつくつ煮込めば煮込むほど美味しいのが野菜スープ。煮込む野菜は、先ずは根菜類から皮を剥き、ざっくり大きめに切りつつ、火の通りやすいように隠し包丁など入れたりして。出来上がった頃には何も言わずとも鍋が用意されている。根菜は水から煮込むのが基本。
共に戦ったことは殆どない。だが彼らはそれぞれにひとかどの料理人だ、言葉などなくとも通じるものがある。通じあえない部分は
「隠し包丁は、こう‥‥ここに入れた方が見栄えも良いし‥‥‥」
「下味はこの段階でつけた方が‥‥」
「ナッツは細かく刻んだのと、大きめにごろっとした食感のクッキーとあると良いよね?」
「燻製肉以外にもワインに合う料理があった方が良いかな?」
語り合えば通じ合う様子。さすがは料理人。
爽やかな汗をかきつつマリネにする鮭をさばくカルナック。「うおぉぉぉッ!」と気合を込めながらカッと目を見開いてリンゴの皮を剥きまくるアシュレー。そこには、料理人だけが共有しうる完璧な調和(?)があった。
火の加減を見て薪を引いたり、または足したりしながら煮込み料理を終える頃には、前日から酒に漬け込んでおいたドライフルーツたっぷりのフルーツケーキ、それにデコレーションケーキ用のスポンジ土台も焼きあがっている。本当ならフルーツケーキは焼き上げた翌日が味が染みて上手いのだが、こればかりは仕方ない。せめてパーティーが始まるまでにしっかり冷まし、味を染みこませて置こう。スポンジもしっかり冷まさないと、デコレーションしたクリーム類がデロデロになるので注意が必要。
出来上がった料理は随時、アシュレー持参のヤギの大皿を始めとする大皿に盛り付ける。さすが、ひとかどの料理人は盛り付けでも並じゃない。今回は立食形式と事前の話し合いで決まっているので、それを考慮して少量でも取りやすいよう、調理段階からも工夫が施されている。
時間のかかる料理を終え、すでに2人の戦士はガーリックトーストやサンドイッチ、香辛料の匂い香ばしく焼き上げた肉を一口大に切ったものや、サラダの準備に取り掛かっていた。ローストチキンはお腹の中にたっぷり詰め物をして、オーブンの中で焼き上がるのを待っている。これも薪を足したり引いたり、細心の注意を払ってオーブンの中の温度を保たねばならない。
「ふん、せいぜい頑張って頂戴!」
現場監督、という名目のレモンはすっかりやさぐれて、出来上がった料理の味見などを担当していた。ノラは何とか立ち直り、せっせと料理の載った皿をパーティー会場に運んでいる。
「だって、もしかしたら王子様が突然いらっしゃるかもしれませんから」
夢見る少女は強かった。
さて、こちらはパーティー会場。
「ああ、その料理はこちらに置いた方が見栄えが華やかです。ワインは多めに用意しましょう。いえ、その料理はそこではなく‥‥」
立食会場 ぷろでゅーすど・ばい・福袋 現在開店準備中(ぇ)
パーティー会場における人々の胃袋をも幸せにするべく、仲間達が手がけた料理をもっとも効率的に配置せんと、知略の限りを尽くす男がそこに居た。この場合、効率的、とは様々な意味を含み
(酒を多めに用意しておけば酔っ払って少々の味には鈍感になります。食事も酒も順番に工夫して、最初にいいものを出し、酔いが回ってきたら安物にしましょう)
チキュウにおける聖書の昔からの、宴会における人々の知恵である(これ豆知識)。繰り返すようだが、これはケチなのではなく、宴会におけるマナーなのである。
とはいえ福袋の聖夜祭にかける情熱は本物だ。彼とアシュレーは今回、すべての催し物に関わるべく全精力を傾けている。彼らの意識は今、聖夜祭のみに集中していた。
と、ふらり、と影のように現れた女性が一人。
「ワイン‥‥」
打ちひしがれる冒険者ギルドの受付嬢(スキル・酒飲み)であった。どうやら酒の話題に釣られて現れた模様。
「あああ‥‥燻製肉とはまた、赤ワインが合うんですよねぇ‥‥‥」
「まだ食べるなです〜」
シュピーン! 銀色の閃光が、フラフラと手を伸ばした受付嬢の目の前を通り過ぎた。‥‥いや、ミルクさんまでお呼びした覚えは(記録係混乱中)
ビクリ、と動きを止める受付嬢を一瞥し、ふふん、とミルクさんは去って行かれました。ブツブツと「あいつも来てるですね〜‥‥」とか仰っていたのは聞かなかった事にさせてください。心から。
何か色々ととばっちりを受けた受付嬢、あうあう、と滂沱の涙を流す。さすがに目の前でそんな事態になって、放っておくと寝覚めが悪い。福袋は(いやいや)声をかけた。
「どうかしましたか?」
「ああ、信者さん‥‥私はただ、ちゃんと聖夜祭のお料理を調べてご報告に来ただけなんですぅ‥‥‥(号泣)」
いや、縋りつかれても。ついでに珍獣屋敷のメイド達に買い出しも行けと命令され、行った先が冒険者とふわふわミトンを始めとする耳を愛する某夫人の牧場で、猫耳仕様で買い物に行くと割引してもらえるかも!? という噂を聞きつけたメイドに無理矢理猫耳にされた事などを涙ながらに語られたが、そんな事を語られてもコメントに困るのだからして。
チキュウで鍛えたアルカイックスマイルで適当に受付嬢をあしらい、さて、と会場を見回す福袋。泣きながらワインを飲み出した受付嬢は、辛気臭いので適当なところで放り出そう、うん。
「いやはや、このパーティーのお陰でウィルの消費行動はずいぶん活性化したでしょうねぇ」
満足げに呟く彼が今回参加した目的は、言葉通りウィルの経済活性化。まぁ、これだけ盛大なパーティーである。出す料理一つをとっても、かなりのお金が動く事は必至だ。
チキュウのビジネスマンは、いつでも社会経済の事を考えているようである。
パーティーが始まった後も、調理場ではもちろん戦いが続いている。
ローストチキンはこんがり焼きあがり、添え物の野菜などと一緒に皿に乗せられて、メイド達の手によって会場へと運ばれていった。参加者達からは歓声が上がった事だろう。
他の催し物に参加している者は出たり入ったりしながら、そうでないものもパーティー会場の料理の減り具合を覗きに行って、適時料理を追加したり、引っ込めて温め直したりする。とは言え殆どの料理が参加者の胃袋に収まる事となり、むしろ追加の料理を作るのに忙しかったのだが。
ある程度メインディッシュがはけてきたら、お料理の中心は簡単につまめるチーズやナッツ、燻製肉やローストチキンの残った端切れを細く切ってマスタードであえたものなどに変更。ナッツのクッキーやフルーツケーキも増量され、もちろんデコレーションケーキも満を持してお目見えした。
会場では参加者達が笑顔でダンスを楽しんだり、お喋りに興じていたりする。その笑顔を支えているのは、きっと美味しい料理の数々。見た目にも華やかに、舌にも美味しい、最高のエッセンスだ。
パーティー会場における調理場。それは戦場の代名詞である。
その瞬間に立ち会ってしまった料理人なら誰もが必ず味わう戦い。包丁という名の武器を手に、エプロンという名の戦闘服を身に纏い、数多の戦略知略を駆使して野菜やら肉やら魚やらに戦いを挑む。
そして彼らが勝利を味わう瞬間は、料理を口にした人々の『美味しい!』という喜びと満面の笑み、これに尽きるのだ。
「みんなが笑顔で聖夜祭を過ごせるように、美味しい料理で応援できればいいな」
そんなカルナックの願いはもちろん、これ以上になく叶ったのである。