ウチの猫しりませんか?
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■ショートシナリオ
担当:蓮華・水無月
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月30日〜01月04日
リプレイ公開日:2009年01月04日
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●オープニング
「猫を探しておりますの」
冒険者ギルドの受付カウンターに思い詰めた表情で座った女性が、開口一番そう言った。まるで、親の仇を探しているんです、と言わんばかりの口調だった。
「はい?」
思わず聞き返す受付嬢。重々しい口調と言葉の内容がかみ合わなかったせいだ。聞き間違いかと思った。
だが女性は繰り返し、深刻な口調で「猫を探しておりますの」と言う。5回も聞き直したのだから、よもやこれで聞き間違いと言うことはないだろう。
はぁ、と受付嬢は気の抜けた声で頷きながら、受付用紙を取り出した。何はともあれ依頼は依頼。羽ペンにインクを浸し、準備万端で問いかける。
「どのような猫でしょう?」
「とても珍しい猫なのですわ。額に赤い宝石を頂いております」
「‥‥はい?」
受付嬢は再び首を、今度は反対側にひねった。額に宝石を頂く猫?
「ええと、つまり、赤い宝石の額飾りを着けた猫ちゃんでいらっしゃる?」
「いえ‥‥‥飾りではありませんの。額に、こう、埋め込むように収まっているのですわ。それに全身を覆うように飾りを着けておりました」
それ、本当に猫ですか?
言いたい気持ちをぐっと堪え、受付嬢は女性の言った特徴を取り合えずそのまま書き写す。額に赤い宝石が埋まった猫。駄目だ、ファンタジーだ。
受付嬢の思考が飽和状態になりつつあるのを、気付かぬ女性は暗い瞳で言葉を続ける。
「どこに住んでいるのかは判らないのですが、時々うちに来て居りました。とても臆病な子で‥‥でも一週間ほど前から姿が見えなくなりましたの」
「それでご心配になられて、ご依頼に来られたのですね」
「ええ‥‥それもあるのですけれど‥‥‥」
「‥‥? 他にも、何か?」
言いよどむ女性に、受付嬢はパチパチ目を瞬かせた。女性の顔は今や土気色だ。もしかして気分が悪かったりするだろうか。
だが、気遣う言葉をかけた受付嬢にゆっくり首を振り、女性は細いため息と共に言葉を吐き出した。
「馬鹿げた事を言うとお思いでしょうけれど、昨年亡くなった私の祖父は良く、あの猫は良くない魔法を使うから決してかまってはいけない、と申しておりましたの。もちろんそんな事、誰も信じておりませんでした。けれど一週間前、町外れの空き家で火事が起こりまして、そこにその猫が居た、と言う人が居るのですわ」
「‥‥その猫ちゃんが家事を起こしたのではないか、と?」
「ええ‥‥」
つまり、こういう事だ。魔法を使うと言われていた猫が居た。誰も信じていなかったが、偶然町で起こった火事の現場でその猫を見たと言う人が現れた。そして町の人々は、次には自分の家に現れて火をつけるのではないか、と関係のない猫の影を見ても石やら棒で追い払うほど警戒しているらしい。
そして女性は、その額に赤い宝石を抱く猫を探して欲しい、と言う。
「町の人に見つかる前に見つけたいのですわ。お願い出来ませんでしょうか――だって、あまりにも可哀想じゃありませんこと」
女性は暗い瞳でそう言って、お願いします、と頭を下げた。
●リプレイ本文
依頼人の住む町は、メイディアから徒歩で1日ほどの所にある。そのわりにかなり緑が豊かで、年頃の子供が目を輝かせて『ここオレの秘密基地な〜!』 とか言いそうな枝振りの大きな木などもそこかしこに見られる、そんな町だ。
その町並みを眺めつつ、依頼人リエッタの家へ向かいながら
「ふむ‥‥ジュエリーキャットかケット・シーか‥‥」
精一杯の難しい顔をして(だがともすれば『にくきう』の甘美な想像に頬を緩ませながら)アマツ・オオトリ(ea1842)が呟いた。今回の、額に宝石を頂く猫を探して欲しい、という依頼。その容貌からただの猫でない事は判るが、さて、その正体は? と首をかしげる。
シファ・ジェンマ(ec4322)も
「全身に装飾をつけた猫さん‥‥。思いっきり目立つと思うんですけど」
「一度見たら、当分は忘れられ無さそうな猫ですよね」
なのに一体なぜ誰も居場所を知らないのか、不思議で仕方がない、と頬に手を当てた。土御門焔(ec4427)も完全に同意見。はっきり言って、目立つな、と言う方が無理じゃないだろうか、その特徴。
道端をテコテコ歩いてる猫を見かけては問題の猫ではないか、と視線を配りながらあれこれ考えていた一行だったが。
「とまれ、考えて居っても仕方在るまい。予断は出来ぬがな、憎き闇の者どもと新年早々から死合うよりマシぞ」
「そう、ですか‥‥?」
「うむ、戯れるならまだ猫の方がいい。あのふわふわとした肉球、ちょこまかと動くしぐさの可愛さよ! そなたらもそう思うだろう、思うだろうとも!!」
「‥‥‥‥」
ふはははは‥‥ッ!
グッと両手を握り締めて、どこかを見つめながらこの空に響けよとばかりに高笑いをするアマツ(猫好き)。ザッ、と何かを感じた周囲の町人(含む2名の冒険者)が反射的に身を引いたが、彼女のリビドーは留まる所を知らない。
教訓。猫好きに理屈は通用しない(いえ本当に)。
依頼人リエッタに挨拶と、改めて目的の猫の特徴やその後の様子などを聞き込んで、冒険者達は行動を開始した。
まずは猫が最後に目撃された場所であり、今回の依頼のもう一つの目的でもある、町外れの火事現場へ。リエッタから教えられた道をその通りに行くと、すぐに人通りがまばらになり、やがて黒々と炭化した骨組みばかりとなった現場に到着した。それほど大きな町ではないらしい。
いまだ放置されたままの現場は、それでなくとも物寂しい町外れに在っては痛々しいほど。ここで焔が、先ずはパーストで火事の瞬間の過去視を試みる。が
「やはり無理、ですか‥‥」
幾度か条件を変えて試みたものの、見えるのは今目の前にある焼け落ちた廃屋のみ。道すがらにも簡単に聞き込みをして確認したが、火事が起きたのがリエッタがギルドに依頼を出す1週間前、つまり今から13日前のこと。焔のパーストでは1週間以内の過去視しか行えない為、もとよりダメもとだ。後はさらなる聞き込みで、1週間以内に起こった事件に関係ありそうな出来事が出てくることを祈るのみ。
気にせず、今度はこの辺りに住み着いているという野良猫・野良犬の類を誘き出す準備に取り掛かった。集まってきた犬猫達に、テレパシーで聞き込みをするのだ。
焔が持参した珍酒「化け猫冥利」を来る前に市場で購入してきた器に入れ、地面に置く。少し離れた場所にはシファが持参した鰹で作った餌を置き、さらに離れた、廃屋の裏側にあたる場所に、やはりアマツが市場で購入してきたキャットニップを。
本来はマタタビを購入したかったようだが、あまり一般的な品ではないようで、市場には置いていなかった。代わりに、と市場のお兄ちゃんに薦められたのが、同じ効果を持つというキャットニップ。また、餌用に魚のアラなども購入したかったのだが、タイミングが悪かったのか適当なものが無かった。
仕掛け終わると、焔が少し離れた所で犬猫達がやって来るのを待ち、アマツとシファは近隣の人々への聞き込みに乗り出した。のだが、
「猫さんの事を聞くのは難しそうですね‥‥」
「うむ‥‥」
顔を見合わせてため息を吐き、町の人々の反応を振り返る。
何しろ火事が起こってからこっち、ただの猫ですら姿を見かければ「シッ、シッ、あっち行けッ」と追い払うとかで、聞き込みの間ですら幾度かそんな場面を目撃した位だ。猫のねの字でも出そうものなら嫌そうに顔をしかめ、まして問題の装飾猫の事になればそそくさと立ち去ってしまうか「あんたらがあいつの飼い主かッ」と今度はこちらに怒り出す始末。
何とか聞き出せたのは、やはり火事以降で装飾猫を見たものは居ない、ということ。ちなみにそこに至るまでに散々猫の悪口を聞かされ、アマツの手が1度ならず腰の日本刀に伸びかけたのだが、それはまた別の話。
とは言え、話題が猫に及ばなければ、人々はけっこう協力的に話を聞いてくれた。仕方なく、そちらを中心に聞き込みを進める。
一方、犬猫達をターゲットに待機していた焔の方も、それなりに収穫を収めていた。
『あたち見たわよ』
ペロリと口の周りを舐め、満足そうな表情で顔を洗いながら言ったのは、小柄だが態度の大きな三毛猫だ。他の犬猫は一心不乱に餌を食べ、酒を舐め、キャットニップにゴロゴロ喉を鳴らしている。
『一昨日もうちょっと向こうで誰か探ちてたわ。ちょっとあんた、この美味ちい魚、もっと出ちなちゃいよ』
「ええと‥‥その、もうちょっと詳しく教えて頂けたら」
『あんた生意気よ。ちょうがないわね、あいつはいつもここに誰かを探ちに来てたのよ。でもここが焼けちゃったから裏の林に行ったのよ。ちゃあ、美味ちい魚出ちなちゃいよ』
猫相手のみならず、人間相手にも態度の大きなお猫様であった。この猫を『お猫様』と呼ばずして、一体他の誰を呼べというのか。
残る餌も差し出して、ちょうど戻ってきた仲間達に今聞いた情報を伝える。するとアマツとシファは顔を見合わせ、自分達が聞いてきた情報を焔に報告した。
曰く、この廃屋は元々リエッタの父が所有していたもので、何か大事なものを隠していたらしい、と噂だった。だが彼の死後、何らかの事情で手放した後は荒れるに任せられ、犬猫のみならず、噂の財宝目当てにやって来た柄の悪い若者の溜り場になっていたとか。
「ちょっと強引な気はしますけど、もしその『大事なもの』が探してる猫ちゃんだとしますと」
「集まった良からぬ輩が装飾猫が財宝と突き止め、追い詰められた妖猫が火を放ったか」
「猫が探しているの誰なんでしょうか?」
問題の廃屋に集まっていた若者達は、火事の際に軽い火傷を負ったものの全員無事で、どうやら懲りたらしくすでに町には居ないとの事。となれば真相を問い質すには、装飾猫を捕まえて聞くしかない。
とまれ、日も暮れた。猫は夜目が効くだろうが、効かない人間は明日以降に仕切りなおさねばならなかった。
三毛猫のお猫様に聞いたポイントでパーストを試みた焔は、まさに聞いていた通り、額に赤い宝石を頂き全身に装飾を纏った猫の姿を捉える事に成功した。すぐさまファンタズムで仲間達にもその姿を見せる。キラン、とアマツの瞳が鋭く光った。
幾度かパーストを試み、装飾猫がどこから来たのか突き止めようとする。だがその試みは、すぐに頓挫せざるを得なかった。
「この中から来ている様なんですが」
言いながら困った顔で指差したのは、人間には覗くのが精一杯の木の洞。おまけにその向こうは壁があるやら、溝があるやら、藪もあれば水路もあり。何とか回り込もうとしたが、すぐに障害物に行く手を阻まれてしまう。
成る程、このルートで移動していれば、滅多な事では人目に付きはしないだろう。そして追いかけるのは無理。最初の木の洞の段階で。
仕方なく、待ち伏せ作戦第2弾。幸い珍酒「化け猫冥利」はまだ残っている。これを器に入れて装飾猫が現れるというポイントに置き、ジッと息を殺して姿を現すのを待つこと数時間。
ジッと目を皿のようにして見張っていたにも拘らず、負、と気付けば目の前にその猫は居た。赤い宝石を額に頂く装飾猫、ジュエリーキャット。いつ現れたのか、全く気付かなかった。
幸い、冒険者達の気配には気付いていないようだ。器の酒をクンクンと匂い、ペロペロと舐め始める。風体は異なれど、嗜好等は通常の猫と全く同じだ。
しばし、落ち着くのを待って。
「猫さん、猫さん」
焔がテレパシーで呼びかけた。ビクッ、と飛び上がった猫が慌ててガサガサと茂みの中に姿を消す。だが珍酒の魅力には抗い難いらしく、しばらくするとまたおずおずと茂みから出てきて、酒を舐め始めた。
今度はカウンセリングスキルも駆使し、再度接触を試みる。
「猫さん、私達は貴方を探しに来たのです。貴方はリエッタさんのお父様の猫ですか?」
ピクリ、と耳を動かして猫は顔を上げ、呼びかける焔の方を真っ直ぐに見た。忙しなくひげが動いているのは、警戒している証拠だ。フーッ、と背中の毛を逆立てる。
密かに装飾猫の背後に回りこんだシファが、逃げられないよう退路を絶った。最悪、力づくでも捕獲できる位置だ。もっとも、ただでさえ怯えている猫を背後から捕まえたりしたら、その後の惨事は目に見えているが。
焔のテレパシーで通訳してもらい、アマツは説得を試みる。
「良からぬ輩に悪さでもされたのか。ならば案ずるな、すでに奴らはこの町を去った。リエッタ殿もそなたの事を心配しているぞ」
『リエッタが‥‥だが私はご主人様の指輪を探さなければ』
「指輪?」
『ご主人様が大切にしていた指輪。火事の時にどこかに行ってしまった』
パタパタと尻尾をはためかせながら言う事には、リエッタの父は生前、猫の装飾の一部に彼の指輪を結わえ付けたのだと言う。もしリエッタに困った事があれば、この指輪を届けておくれ、と言い添えて。
だが件の若者どもが、装飾猫に目をつけた。猫の全身を飾る装飾は本物ではなく、猫から外せば消え去る、猫の身体の一部。しかし、そんな事は知らぬ若者どもに宝石を剥ぎ取ろうとされ、必死の抵抗で若者達を引っかき、噛み付き、火を放って逃げ出したは良いが、その戦いの折にどうやら預かった指輪まで無くしたらしく。
火事の後に若者達の会話を盗み聞き、指輪が彼らの手に渡っていない事は判っている。なら自分が逃げ出した道筋にあるのだろう、と火事以来毎日探し続けているのだとか。
「なら、私達もお手伝いします。指輪が見つかったらリエッタさんの所に行きましょう?」
「そうですね。猫さん、どんな指輪か教えてもらえますか?」
『‥‥良いのか?』
「うむ。猫のためとあらば寝食も惜しんで指輪探しに取り組もうぞ」
多分それはアマツだけだと思われたが、冒険者達の気持ちはちゃんと伝わったようだ。猫はふんふんと匂いを嗅いだり、ぴくぴくひげを動かした後、ナァ、と小さく鳴いた。頼む、という意味だった。
幸い、指輪はそこから10mほど先の藪の中に引っかかっていた。シファが見つけた指輪を見た猫は、それに間違いない、と頷いてパクリと口にくわえた。
その後、約束通り大人しく冒険者の胸に抱かれてリエッタの家に連れて行かれた装飾猫は、ポロポロと涙を流したリエッタに歓迎の抱擁を受け。ナァ、と鳴いて指輪を渡し、頬をペロペロと舐めた猫に頬ずりしたリエッタは
「ごめんなさいね」
謝罪を口にした。どうやら装飾猫との間に何かがあったらしいが、冒険者には預かり知らぬことだ。
その夜はリエッタの家で、感謝の印に、とご馳走を頂き。元々猫好きの家なのか、リエッタの家には廊下にも庭にもとかく、どこかには必ず猫が居たものだから
「ふ‥‥この新年の寿ぎに、我が斬奸刀の出番の無い事こそ無上の喜びよ。無事に装飾猫も見つかった事だ、たっぷり猫たちと戯れよう」
「あら‥‥アマツさん、猫がお好きですの? ご存知でして、こうして肉球をもみほぐしてやると、たいていの猫は喜びましてよ」
「ふむ、どれ‥‥おお、この肉球の甘美な感触‥‥ッ」
リエッタとアマツの間で、なにやら妖しい世界が展開されていた様だが、見なかった事にしよう。ちなみにこの『にくきう』奥義は人に慣れた猫でないと危険ですのでお気をつけを。
こうして無事に装飾猫を保護する事に成功し、冒険者達は帰宅の途についたのだった。