お正月へようこそ!

■イベントシナリオ


担当:蓮華・水無月

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 83 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月06日〜01月06日

リプレイ公開日:2009年01月13日

●オープニング

 年明け一発目の冒険者ギルド、その受付カウンターにて。

「も〜い〜くつね〜る〜と〜、お〜しょ〜お〜が〜つ〜‥‥♪」
「あの、ホント、営業妨害ですよ?」

 ベチャリとほっぺたをカウンターに押し付け、擬音語で表現するなら『ボゲ〜ッ♪』が一番相応しいであろう音程の妙技を披露している一人の青年に、青筋を立てた受付係が注意をしていた。何しろ他の依頼人やら冒険者やらが、さっきから足早にギルドから出て行くんですけど。
 だが青年はもちろん、苦情など聞いたこっちゃない。そもそも素直に聞くくらいなら、最初からこんな所で不貞腐れたりしていない。

「だから〜、おしょ〜がつじゃないですか〜?」
「天界の行事ですねぇ」

 冷静に突っ込みながら書類整理に精を出す受付係。この人が営業妨害してくれるので、他にやることが無かったりする。
 青年、辻サトルは受付係の冷たい対応に多少傷ついた顔になったものの、席を立つ事はしなかった。彼は天界・地球からやって来た人物で、時々冒険者ギルドに顔を出してはこうして管を巻いていくのだ。
 むぅ、と頬を膨らませてサトルは身を起こした。ほっぺた、赤いですよ。

「こちらの年越しもまぁ、それはそれで楽しかったんですけれど。お正月と言えばやっぱり僕としては、お餅を食べたりお年玉を貰ったりおみくじを引いたり、振袖のあの子の艶姿におっとドッキリ☆ とかですね」
「知りませんよ」

 にべも無く言い切った。いえホント、かなり情熱的に語られてるのは判るが、そもそもアトランティスにそんな文化がないのだからして。彼とて冒険者ギルドの受付係、知識として断片的に知っている事もあるが、知らない事の方が圧倒的だ。
 あ〜あ、とサトルがぼやく。

「誰か一緒にチキュウ的お正月、付き合ってくれませんかね〜」
「はい、どうぞ」
「‥‥‥これ、なんですか?」
「依頼書です」

 チキュウ的お正月とやらに付き合ってくれる冒険者を募集してみれば? と言う訳だ。
 むぅ、とサトルはまた頬を膨らませたが、それも一理ある、と思ったらしい。すらすらとアプト語、セトタ語、日本語、英語で依頼書を記入していく。天界から来てまだ半年程度なのに、すでにアプト語やセトタ語の読み書きまで出来るらしい。

『おっとドッキリ☆チキュウ的お正月へようこそ!』

 ‥‥‥いかに読み書きが達者とは言え、ネーミングセンスの無さは何如ともしがたかったようだが。

●今回の参加者

風 烈(ea1587)/ ルイス・マリスカル(ea3063)/ ゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)/ アルトリア・ペンドラゴン(ec4205

●リプレイ本文

 チキュウ流お正月を一緒にお祝いして欲しい。
 チキュウ・ニホン出身の天界人である辻サトルのそんな願いに応えるべく集まってくれたのは、総勢4人の冒険者であった。うち2人はサトルと同じくチキュウ出身だが、チキュウにも色々と地域があるようで、サトルの居たニホンとはまた別の国からやって来た様子。
 とはいえそのうちの1人、アルトリア・ペンドラゴン(ec4205)は

「正月といえばおせち料理! もち! 年越しそば!」

 実はちょっとニホン通だった様子。お正月にちなんだ楽しみな料理を作るんだ! と張り切っている。
 一方、もう1人のチキュウからの参加者ゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)は

「チキュウ式のショウガツ‥‥。なんかジャパンのそれっぽいですね。楽しみです」

 当然ながらあまりチキュウ・日本のお正月については知識がないようだったが、何しろウィルからわざわざ参加してくれたぐらいだ。期待(?)のほどは伺えよう。
 残る2人は同じく天界と呼ばれるジ・アース出身の冒険者。ルイス・マリスカル(ea3063)はどうやら噂に聞くジャパンの文化に近いようだ、と装いもジャパン風の呉服に羽織を身につけ、さらに連れてきたエレメンタラーフェアリーにも巫女服を着せるという徹底振りを見せ。風烈(ea1587)は逆に、故郷の正月を懐かしく思い出しつつ、話をしてやるか、と酒瓶などぶら下げながら考えている。
 そんな4人がサトルの暮らす、決して大きくはない一室を訪れると

「あ・はっぴぃ・にゅー・いやー♪ アケマシテオメデトー、ですよ〜☆」

 妙なテンションになっているサトルが、そんな事を叫びながら万歳&小躍りして冒険者達を出迎えた。一緒にお正月をやってくれる人が居たのが、どうやらものすご〜く嬉しかったらしい。
 こうして、チキュウ流お正月は始まったのだった。





 まずは、チキュウ流お正月を迎える為の準備から。
 サトルも冒険者がやって来るのを楽しみにして、依頼を出してからこっち、ずっと準備に没頭していた。だが彼1人で出来ることにはもちろん限界があるし

「‥‥これは?」
「カルタって言うんです。こっちの札に書いてある事を読んで、それを表している絵札を探して取って、一番たくさん取った人が勝ちなんですよ。チキュウのニホンでは、お正月にはみんなで集まってこういう遊びをするんです」
「‥‥‥ちなみにこの絵は、サトルが書いたのか?」
「もちろん! その犬、なかなか良く描けてるでしょう?」
(‥‥‥あれ、猫かと思ってました)
(私はジャイアントラットかと‥‥)

 能力的にも色々限界があったようだ。センスがないのは文才だけではなかったらしい。ちなみにサトル曰く猫だと言う絵は、どう贔屓目に見ても牛だった。
 用意された木札は96枚。半分が読み札と言う事で、そこにはジャパン語に似た形の文字(らしきもの)が綴りつけられていた。残る48枚が絵札、うち絵が描き終わっているのは10枚程度。
 成り行き的に、烈とゾーラクが彼の手伝いをすることになった。その2人も絵画スキルを持ち合わせているわけではないのだが、センスという部分においてはサトルより遥かに上にいる。サトルにどんな絵を描けば良いのか尋ねつつ、試行錯誤で線を引いていった。
 一方、ルイスとアルトリアはお料理担当。

「米、醤油・味噌がないのでジャパンの正月料理は再現できないのが残念ですが」
「頑張って色々作りましょうね!」

 おもちもそばもアウトだったが、ゴマメは市場で売っている干し魚に蜂蜜を絡めて炒ったもので十分代用できるし、カマボコは魚のすり身をゆでたもので代用すればなんとか。
 ルイスはボニートを持参していて、酒のあてに、と言う事で塩タタキを作成した。ボニートを捌き、表面を炙り、冷水でしめてから塩をなじませ、スライスオニオンなどを添えてレモンで香りをつければ完成。日本酒がうまそうな一品だ。清酒「般若湯」に缶ビールまで持参しているのだから侮れない。
 良い匂いに釣られてふらふらとやってきたサトルが、

「うちのオセチは、縁起物以外はほとんどみんなの好きなものでしたよ。鳥の照り焼きとか、ゆで卵とか」

 言外に「食べたいな〜」と言うオーラを振りまき、またカルタ作成へと戻っていった。カルタ班からは時折、「なんですかこれッ!?」「む、線が曲がったか‥‥」などと楽しそうな声が聞こえてくる。あちらはあちらで盛り上がっているようだ。
 ゾーラクからはワイン類にケーキの提供があったので、洋酒に合う料理も幾つか作っておいた方が良いかもしれない。本場のオセチは日持ちがするように作るものだが、何しろこれは出来上がったらみんなで食べてしまうので、その辺りは気にしなくて良さそうだ。
 どんどん使ってください、と家主お墨付きの食糧貯蔵庫から食材を選びつつ、足りない物は市場へ買いに行きつつ、さらにサトルに意見を尋ねつつも、ルイスとアルトリアは順調に料理をこしらえていく。
 そんな物音が美味しそうだなぁ、と思いながら延々絵を描き続けるカルタ班。もうあと数枚、という所までこぎつけている。
 のだがしかし

「俺の故郷では、正月は先ず起床後に年配者に対して長寿を祝う言葉を述べに行き、年始の挨拶に来た目下の人達への返礼として、大人には酒や料理を出し、子供にはお菓子やお金を与えて礼をするんだ」
「へぇ! 華国って、僕の居たところのチュウゴクみたいな感じなんですね〜。お菓子やお金を上げるのは、ニホンのお年玉と同じですね」
「私のいた国では新年祭というんですが、サトルさんのいた国の表現で申しますとオショウガツとクリスマスをいっぺんにやるお祭りみたいな感じです」
「へぇ〜。賑やかで楽しそうですね! でも一緒にやっちゃうと、何かもったいない気もするなぁ」

 知りたがりの虫が発動したサトルの「皆さんはお正月はどんな風に過ごされるんですか?」という質問に端を発した、各国お正月講座開催中だった。同じチキュウ出身でも地域が変わればお正月も変わり、ましてジ・アースと言う世界まで変われば、文化が変わって当然だ。
 逆にサトルはどんな正月を過ごしていたのか? と質問されると、ちょっと首をひねる。

「えっと、そうですね。やっぱり大晦日は紅白見ながら年越しそば食べて、カウントダウンしたあとに友達と近くの神社に行って初詣して、おみくじ引いて甘酒飲んで、朝になったらオセチ食べながらお年玉もらって、年賀状来るまでだらだらして、年賀状分け終わったら今度は別の友達と初詣しておみくじ引いて?」

 チキュウ・ニホンの典型的な大晦日・新年の行事を羅列する。というか、明らかに通じない言葉を羅列するのやめなさい。
 案の定首を傾げた冒険者二人。それに気付いたサトルは、一つずつ「これはこういう意味で、それはこういうもので」と説明した。どうやら判ってもらえたようだ。
 やがて料理班が、準備が出来たと声をかけに来た。カルタも最後の木札が描き終わったところ。
 チキュウ流お正月 in アトランティス、開催である。





「まずは〜、ここでビッグなゲストの登場で〜す!」

 ルイスの持参した(どうやって‥‥?) ちゃぶ台を部屋の真ん中に置き、絨毯の上にクッションやらシーツやらを引いて、ジャパン風に直接床に座った一同。ちゃぶ台の上にはルイスとアルトリアが作成した数々の料理が所狭しと並び、冒険者達が持ち寄ったお酒が添えられている。
 いざ手をつけん、と勢い込んだところでのサトルの気の抜けるような発言に、冒険者は「何が始まるのか」と概ねは不審そうに視線を交わし、サトルの行動を見守った。ま、何かあったら止めれば良いだろ。
 が、「ジャカジャ〜ン」とやっぱりセンスの無い登場音楽と共に現れた「ビッグなゲスト」に、ゾーラクを除く全員が目を見張った。

「えへへ、冒険者ギルドに行ったらお呼ばれしちゃった!」

 はにかみながらそう言い、活き活きと碧の瞳を輝かせているのは、ミレイア・ブラーシュ(ez1189)。はい、お呼びしてみました!(by記録係)
 普段はウィルにいるゾーラクとは初対面だが、他の冒険者達とはそれぞれ面識があり。とくに凍りついた若干1名様とは、大ホールでもあれこれあったり、求婚されたり、婚約なんかもしちゃったりして。

「ミレイア、か?」
「そうだよ。烈、なんで?」
「これは‥‥随分と、その、化けたというか‥‥それはジャパンの衣装、ですか?」
「この服? うん、よく知らないけどそうみたい。誘ってくれた人が、どうせならうんとおめかししてごらん、って♪」

 似合う? と嬉しそうにくるりと回ったミレイアが身につけているのは、アルトリアの言葉通りジャパンの民族衣装の1つ、振袖。
 白ともクリーム色とも付かない独特の手触りの布地に、足元と膝下まである長い袖の裾の辺りはミレイアの瞳とも通じる淡いブルー。肩から零れ落ちるように、足元から咲き誇るように配置された赤い花の模様が、清楚ながら華やかな雰囲気を演出している。
 帯は白地に引き立つ揃いのブルー。華のように飾り結びも施して、黄色い帯締めの上にも華のコサージュの帯飾りを配置。振袖に合わせて結い上げられた髪を飾るのも同じ華のコサージュだ。ほんの少し唇が赤いのは、化粧をしているからか。
 簡単にミレイアと他の冒険者との繋がりを聞いていたゾーラクが、自己紹介をしつつ、感心したようにミレイアの姿を頭の上から爪先まで観察した。

「これがニホンの着物ですか。この帯はご自分で?」
「ううん。さすがに自分では着れないから、記録係さんに着せてもらっちゃった」
「おおーッ、これぞ艶姿ッ! やっぱりお正月と言ったら可愛いあの子の着物姿にドッキリですよねッ!」

 サトルが歓声を上げた。なぜお前が興奮する。

「に、似合ってるかな、ルイス‥‥?」

 サトルの歓声に頬を赤らめながら、先ほどから何も言ってくれない今一人の冒険者に不安を覚えて視線を向けてみれば、未だに凍りついた表情でミレイアを見つめているルイスの姿がそこにある。
 ルイス? と再び呼びかけると、ハッ!? と意識を取り戻したルイスが

「にににに似合ってると言いますか、その、はい、ええと、よよよよよくお似合いですよミレイアさん」

 動揺してます。もんのすごく動揺してます、ルイスさん。逆に見てるほうが恥ずかしくなる動揺っぷりです。何かミレイアにさん付けになっちゃってますし。
 良かった♪ と嬉しそうに笑うミレイアも、顔をますます赤くしながらチョコン、とルイスの隣に座り。事情を知っている者達は知らない者に教えつつ、そんな様子を微笑ましく見守る。

「では改めまして〜。オセチの前にお正月の挨拶から始めましょう。せ〜の」
「「「「「アケマシテオメデトーゴザイマス」」」」」

 はい、今年もよろしくお願い致します。





 各国お正月講座はまだ続いている。

「華国では、獅子が吉祥をもたらす聖獣とされている。だから新年には獅子舞という、獅子を模した被り物をして祝いの舞を踊るんだ」
「シシってライオンの事でしたっけ?」
「チキュウだと、この場合の獅子はライオンじゃなくて想像上の生き物なんです。ペガサスやユニコーンみたいな‥‥って、こっちじゃどちらも実在の生き物ですけど」
「ドラゴンは信仰の対象ですしね。私がいた国では、大晦日には家庭やレストランでパーティーしたり、人の集まる場所で朝まで飲んで踊ってお祝いするんですよ。12時に鳴る鐘の音でシャンパンを飲み、鳴り終わるまでにグラスを飲み干すとお願い事が叶うと言われています」
「へぇ〜。天界では色んな新年のお祭があるんだね。ここでは月龍祭だけど。ルイスの所は?」
「生誕祭と年末年始のお祝いも一緒で、派手なイベントはないですな」

 ルイスとアルトリアが作った料理に舌鼓を打ちながらの談笑。そのうちお腹が一杯になると、ちゃぶ台を片付けて場所を空け、今度はサトル・烈・ゾーラクの力作カルタがお目見えした。
 読み手はサトル。なぜなら彼しか読めないチキュウのニホン語で書いてあるから。

「ねこにこばん〜」
「ん、猫? どこ?」
「多分これ‥‥かなぁ?」
「たなからぼたもち〜」
「‥‥ぼたもちってなんですか?」
「確かジャパンにそんな名前の食べ物が」
「そんなの見た事ありませんよ」

 とまぁ、トラブルも多々あったようだが、それはそれで楽しんでもらえたようだ。
 大騒ぎのカルタ大会も終わり、小腹がすいた所でゾーラク提供の手作りケーキを。烈とルイスはその輪から少し離れて、塩タタキをあてに酒を飲み交わしている。
 ひょい、とサトルがその間に顔を突っ込んだ。

「烈さん、烈さんの国ではお年玉を上げる習慣、ありましたよね?」

 はい、と満面の笑みで両手を差し出す20歳男子に苦笑を禁じえない。

「お年玉か、大人を子供扱いするわけにもいくまい」
「ちぇ〜」
「立派な大人はこちらで酒でも飲むか」

 ほら、と酒瓶を差し出せば、サトルはちょっと唇を尖らせたものの、素直に自分のカップを差し出した。20歳と言えば、チキュウ・ニホンではお酒の飲める年。サトルとて例外ではない。
 ミレイアはゾーラクとアルトリアという2人の大人の女性と一緒に、なにやら色々尋ねたり、お喋りに興じて楽しんでいるようだ。酒をちびちびやりながら、そんな女性達をルイスが目を細めて眺めている。
 割合いける口でコクコク酒を飲んでいたサトルが、ポツリ、と言った。

「やっぱり、お正月はこんな風に、皆でわいわいやるのが一番、ですよね」
「サトル?」
「チキュウに居た頃は家でお正月とか、うっとおしい、って思ってた事もあったんですけど。やりたくても出来ない、って思うとど〜してもやりたくなっちゃいまして」

 おみくじは引けませんでしたけどね〜、と苦笑いする。
 烈は無言のまま、グシャリ、と子供にするように乱暴にサトルの頭をかき混ぜた。何となく、そうされるのを望んでいる気がした。





 チキュウ流お正月 in アトランティス。1人の青年の突発的思い付きによるささやかな宴は、まだもう少しだけ続くようだ。