さよならの理由、はじまりの理由。

■ショートシナリオ


担当:蓮華・水無月

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 97 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月06日〜01月13日

リプレイ公開日:2009年01月12日

●オープニング

 さて、冒険者ギルドにて受付嬢を勤める彼女にも、顔なじみと言うのは存在する。プライベートでの知り合いはもちろん、よくやって来たり印象的な依頼人や冒険者なども、一方的に覚えている場合もあり、それなりに言葉を交わす場合もあり。
 彼の場合は、後者。

「どもっ、お久しー」

 そんな挨拶を放ってよこす彼は、シルレイン・タクハ。生業、冒険者‥‥を目指している何でも屋。格好だけを見ればレンジャーのようにも見えるが、能力は本物に遥か及ばない。
 ああ、と営業スマイルではない笑みを浮かべかけた受付嬢は、シルレインが手を引く子供の姿に気付き、そのままコクリ、と首をかしげた。
 年の頃は10歳前後。なでつけられた真っ黒な髪はいかにも柔らかそうで、ちょっと警戒を滲ませてこちらを見てくる幼い瞳は澄んだ翠。
 どう贔屓目に見てもシルレインの血縁関係には見えない子供だ、と感想を抱く。
 だが、子供のことを問い質そうとシルレインに視線を戻した受付嬢が見たのは、殆ど二つ折りにならんばかりに深々と頭を下げた彼の、赤毛の後頭部だった。

「このとーりッ! 助けてくんね?」
「シルレインさん?」
「俺の稼ぎ、全部つぎ込んでも良いからさ、頼むッ!」
「と、仰いましても、お話を聞いてみない事には」

 何があったんですか、と尋ねる受付嬢に、シルレインが「実は」と語ったところによると。
 簡単に言ってしまえば、よくあるお家騒動。とある町まで商人の護衛を請け負ったシルレインが、ウィルに戻る途中に今度は別の、お忍びと思しき母子の道行に行き会った。どうせ向かう方向は同じ、対価は払うので護衛をしてくれまいか、と頼まれ請け負ったは良いものの、2日後にはもうウィルが見えるか、と言うところまできて謎の襲撃を受け、一行は壊滅。辛うじて子息だけは連れ出し、逃げる事が出来たものの、子息を殺し損ねたことに気付いた連中が未だ付け狙っており、目的のお屋敷まで連れて行くことが出来ないのだ、という。
 受付嬢は思わず頭を抱えた。

「良く、ここまで無事に来れましたね‥‥」
「それは俺も心底不思議だ」

 そこは胸を張って言うところじゃない。
 シルレインは取り合えず置いておいて、受付嬢は子息の方へと向き直った。

「貴方を狙った方の、お心当たりはありますか?」
「‥‥お父様の奥さんだって、お母様が言ってた。奥さんの産んだお兄様がこないだ死んじゃって、だから僕がお父様に呼ばれたんだって。それが奥さんは嫌なんだって」
「そう、ですか」
「僕はおうちから離れるのが嫌だって言ったら、お母様は、じゃあお父様にそう言いに行きましょう、って。だからお父様にお会いして、僕はお兄様の代わりにはなりません、って言うつもりだったのに」

 その母は、正妻が送ったと思われる手の者によって儚くなり。今もまだ、彼自身の命も危険にさらされている。
 そうですか、と受付嬢は眉を寄せた。ちら、とシルレインを見やれば、両手を合わせて拝むように頭を下げている。依頼を全うしたい―――というよりは多分、この少年の境遇にほだされ、何とかしてやりたい、という思いが強いのだろう。
 ふぅ、とため息。

「冒険者に依頼を出しましょう」

 依頼用紙を取り出しながら言った言葉に、シルレインの言葉がぱっと明るくなる。

「そちらのご子息の護衛と、お母様を襲った者の正体の調査、相手を突き止められたら二度とご子息を襲わないようにお話し合い、といった所ですか」
「‥‥っ、ああ、頼むッ! 助かるよ」
「報酬はシルレインさんの稼ぎを全部、でしたね」

 受付嬢の言葉に、シルレインは実に情けない顔になって「‥‥‥‥‥うん」と頷いたのだった。

●今回の参加者

 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0760 ケンイチ・ヤマモト(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 ec4112 レイン・ヴォルフルーラ(25歳・♀・ウィザード・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

 いかにも下町、と言った風情の町並みの中に、溶け込むようにその建物は存在した。

「昔の仲間の隠れ家なんだけどさ」
「す、すごい所ですね‥‥」

 そう言いながらシルレインが冒険者達を連れて来たのは、案内がなければとてもそこに家があるとは思えないような、そんな家。ボロイと言う訳ではない、何となく見過ごしてしまうのだ。風景の中に埋没している、と言えば良いか。
 何だか驚いてしまったレイン・ヴォルフルーラ(ec4112)に、ひょい、と肩をすくめる。ギルドに依頼を出してから冒険者がやって来てくれる今日まで、カタルスと二人、この家に隠れていたらしい。食料は備蓄と、携帯食と、足りない物は昔の仲間に頼んで調達して貰ったとか。
 冒険者達を案内してきたのはシルレイン本人。その道程も尾行を警戒して何度も道を替え、建物の中を通り抜けるなどの用心を怠らない。
 辺りの様子を観察したエリーシャ・メロウ(eb4333)が、ここならば大丈夫だろう、と頷いた。必要なら別に隠れ家を調達するつもりだったのだが、その必要は無さそうだ。
 中は古いながらも清潔に保たれていて、造りもしっかりしている様だった。扉を閉めると途端、外からの音が静かになる。
 その、広くはない家の一室に、その少年は居た。

「‥‥ッ」

 冒険者達が姿を見せた瞬間、翠の瞳に警戒と怯えを滲ませ、シルレインの傍にパタパタと走り寄る。そうしてシルレインの服をぎゅっと握り、冒険者から隠れるようにしてジッと見上げてくる。
 シルレインが困ったような顔になって、冒険者達とカタルスの顔を見比べた。柔らかな黒髪をガシガシ混ぜて「この人達は味方だぜ」と言うと、ほんのちょっと警戒の色が薄れたものの、動こうとはしない。
 少年の境遇を思えば無理からぬ事かもしれない。冒険者達は無理強いする事なく、代わりに自己紹介と微笑を少年に与えた。僅かに、驚いた様に大きくなる瞳。
 何分冒険者ギルドに出ていただけでは情報が足りない。カタルスの父親の事や襲撃者の事など、聞くべき事は幾らでもあった。
 カタルスに無用な緊張を与えないよう心を配りながら、その辺りの事を詳細に尋ねた冒険者達だったが、その殆どの質問に答えたのはシルレインの方だった。とはいえ護衛の途中、亡くなった母親の方からそれとなく聞き出した程度の情報しかない。
 辛うじて判ったのは、父親がヒューステッド・ヴァディンと言う有名ではないがそこそこの地位を持つ貴族であり、母子が向かっていたヴァディン家の屋敷はウィルから馬車で1日ほどの場所にあると言う事。身分証明書代わりにヒューステッドから送られてきた書状は、襲撃の際にどこに行ったか判らなくなったきりだとか。
 何より良く判った事は、亡き母はカタルスに、彼の出自に関する一切の知識を徹底して与えていなかった、と言う事だ。父から正式な息子として認める、と言う使いの者が来て初めて彼は父の存在を知り、自分の母がいわゆる愛妾と呼ばれる立場に居た事を知り、自分がヴァディン家の庶子である事を知った。
 そんな少年に、父の家の事など判るはずもない。父の顔だって知らない。絹の服だって父に会う為に生まれて初めて袖を通した。ウィル近くまで来た箱馬車だって乗るのは初めてで。
 この世界でシルレインだけが頼り、とばかりにぎゅっとしがみつくカタルス。その絶対の信頼を受けて、シルレインは冒険者達に頭を下げる。

「何度もお屋敷に行こうとしたんだけど、すぐに物騒な奴らに追い回されて、逃げるのが精一杯でさ。俺の力じゃもう、どうにもなんなくって。何とか、カタルスを親父さんトコに連れてってやりたいんだ」

 だから頼んます、と下がった赤毛の頭に、やれやれ、とアシュレー・ウォルサム(ea0244)が肩をすくめた。

「まぁ、まかしときなよ。シルレインにも協力してもらうけど」
「もちろん俺に出来る事なら」
「カタルス君はその間、私とシルレインさん達の帰りを待ってましょうね」

 レインがそう言うと、シルレインの顔をチラリと見上げてから、うん、と頷く。
 その様子を見つめながらエリーシャが、労う様に言った。

「シルレイン殿、よく頑張りましたね。その意気に応え、必ずやカタルス殿を護りましょう」

 その言葉に息を呑んだシルレインは、次の瞬間くるりと冒険者達に背を向けた。胸の奥からこみ上げてくるものがあったが、それを素直に見せるのは恥ずかしかったのだ。





 さて一方、加藤瑠璃(eb4288)は一人ベソムに乗り、母子が暮らしていた町へと向かっていた。

(冷静に考えたら、二人が無事にギルドまでたどり着いたのは不自然な気がするもの)

 もし、二人が逃げ延びた事が幸運ではなく必然だとすれば、襲撃者の狙いはただ母親のみにあった事になる。我が子に取って代わろうとする少年を、果たして本妻が生かしておこうと思うだろうか?
 そうすると考えられるのは、例えば身分の低い母親が邪魔で、少年のみを手に入れる為に画策した、第3の存在。少年の父親こそが真の黒幕かも、と言う仮説だって成り立つのだ――そもそも、本妻が黒幕だと言う情報は亡くなった母親の予想に過ぎない。
 辿り着いた町は小さく、人々は純朴そうな顔をしていた。郊外には大きな屋敷があるのが見える。
 町人に尋ねながら母子が住んでいた家に辿り着くと、そこでは1人の老婆が細々と生活を営んでいた。聞いた話に寄れば、母子は祖母に当たるこの老婆と3人暮らしだったと言う。
 瑠璃は老婆に声をかけた。振り向いた、やはり純朴そうな顔をした老婆に名乗り、自己紹介する。

「はぁ。冒険者様がこの婆に何の御用で?」

 そう首を傾げた老婆は当然ながら、彼女の娘と孫を襲った悲劇など片鱗も知るはずが無かった。いずれは知れる事だとしても。
 瑠璃は巧みに話題をぼかし、母子や、父親の事などを聞き出そうとした。さらには母親が狙われる心当たりなども尋ねる。暮らしぶりを見る限りでは、身分の釣り合いが取れてるとは言い難いが、それほど身分違いとも思えない。
 だが、その事を尋ねた瞬間、老婆は目に見えて困った表情になり、深々とため息を吐いた。

「ええ、ありますとも、アンリエット嬢ちゃまは何があっても娘を許さない、と仰ったんですから」
「アンリエットさんて?」
「お屋敷の嬢ちゃま。娘がお情けを頂いた旦那様の奥方ですよ」

 そう言って指差した先にはあの、郊外の大きな屋敷がある。
 この町の住人の多くは、領主家である郊外の屋敷に勤めている。彼女の娘レナは末娘のアンリエットと年が近く、遊び相手兼侍女としてやはりお屋敷に勤めていた。
 やがてアンリエットは年頃になり、さる貴族の青年と婚約した。貴族の結婚は政治の手段。だが彼女は青年に一目惚れし、結婚式の日を指折り数えて待っていた。
 だが花嫁がそうでも、花婿もそうとは限らない。青年はアンリエットの後ろにいたレナに心を奪われ、レナもまた青年に。それを知ったアンリエットはレナを罵り、絶対に許さない、と言った――

「とんでもない事をしたもんで」

 老婆はため息を吐く。レナのした事はお屋敷に逆らうも同然。こうしてこの町で暮らす事を許され、ましてその子を育てる事を許されたのは破格の扱いだ。
 他にも色々と話を聞いたが、とりあえず有力な手がかりは無さそうだった。老婆に礼を言い、瑠璃は再びベソムの上の人となる。この情報を、一刻も早く仲間の元に持ち帰らなければならない。




「やれやれ‥‥とりあえず全員片道の旅行に行ってもらうけどいいよね」

 アシュレーの言葉に、縛られ転がされた男達がふてぶてしく鼻を鳴らした。が、見上げた青年の口元は笑んでいるものの、冷酷な光を湛えた目がこちらを見下ろしているのに気付き、ゾクリと背筋を震わせる。
 隣にはエリーシャが険しい顔に怒りを宿した瞳で男達を見下ろしていた。手には抜き身の剣。
 取りあえず、手っ取り早いのは迎撃ではなく攻撃である。2人の意見の一致によって見事白羽の矢を立てられたシルレインを囮に、いかにも襲撃されそうな場所ばかりを狙って歩き回らせ、見事襲撃者達をおびき出したのだ。
 インビジブルでこっそり近付いて縄ひょうで急所を狙い暗殺していくアシュレーに、罠に気付いてシルレインに襲いかかる処を待ち構えて返り討ち、見事捕縛して見せたエリーシャ。歴戦の冒険者にかかれば、はっきり言って雑魚レベルだ。
 捕縛した連中を隠れ家に連れ帰り、以後尋問を試みているのだが、中々黒幕を吐こうとしない。アシュレーは容赦なく襲撃者達を痛めつける。カタルスはシルレインと共に別室に居るので、残酷な場面を見せる心配もない。
 エリーシャが一喝した。

「此方は口さえ利ければ其で構いません‥‥無力な母子に刃を向けた報いを受けなさい!」

 ギラリ、と白刃を見せ付ける。
 それでもしばしの間彼らは粘り、持ち堪えた。だが、肉体的苦痛が理性を屈服させる。さらにレインが作り出した母親の幻を、母親に化けた魔物に殺される、と思い込んだ襲撃者達は、ついに黒幕を白状した。
 彼らに今回の襲撃を命じたのは正妻。だが命じられたのは母親を殺し、目撃者を消す事――子息の殺害はそこには含まれて居ない。
 冒険者達は顔を見合わせた。不可解な命令。正妻からすれば、カタルスの殺害も命じるのが自然ではないのか?
 だが襲撃者達に聞いても、それ以上の事は何も知らない、と泣きながら訴えるばかり。

「カタルス殿、シルレイン殿、何か心当たりはありますか?」

 2人の待つ別室にいってエリーシャが尋ねるも、当然ながら首を振る。何も知らされずに育った少年は勿論、偶然護衛に雇われたシルレインとて把握している情報には限りがある。
 ふむ、とアシュレーが言った。

「なんにせよ、黒幕は判ったんだし、行ってみるしかないのかなぁ‥‥と、カタルス。確認しとくけど、本当にお父さんの後を継ぐ気はないの?」
「‥‥うん」

 カタルスが悄然と頷く。幼いなりに、自分のせいで母が死に、シルレインが狙われた事は理解した。自分のせいで。それが悲しい。
 じゃあこれからどうしたい? と聞かれれば泣きそうな顔になる。

「おうちに帰りたい」
「でも‥‥お母さんがいなくて、寂しくない?」
「おばあちゃんがいるもん」
 
 だからおうちに帰りたい、と繰り返す。叶うなら父親にも、その奥さんにも会いたくない。祖母の元に帰って、母の死を嘆いて、そうして何もなかった事に出来たなら。
 だが、向こうはこのままでは終わらないだろう。ならば決着をつけに行くしかないのだ。





 屋敷までは空飛ぶ絨毯で移動した。道中はエリーシャがグリフォンで絨毯の護衛をする。
 そうして辿り着いた屋敷の前で、タイミング良く一行に追いついた瑠璃と合流し、先ずは情報交換を。その上で屋敷を訪れ、出迎えた執事にカタルスの名を告げると、一行はすぐに主の部屋へと通される。そこに居たのは壮年の男性。そして女性。
 険の強い光を湛えた瞳をしてなお誇り高さを伺わせる、その女性こそすべての黒幕の正妻である事は、状況を鑑みれば疑うべくも無かった。
 冒険者達は警戒を強め、カタルスとシルレインを守れるよう位置をずらす。この場で正妻が仕掛けてきても可笑しくないし、その正妻と共に居る父親が共謀者である可能性もまだ捨て切れない。
 だが、何も起こらぬまま。

「失敗したのね。情けない事」

 正妻が一同を見渡し、感情の伺えない声色で呟いた。父親は動かない。仮面の様な表情でむっつりと座っている。
 正直、言い逃れするようなら証拠を突きつけよう、とメモリーオーディオに襲撃者の証言を録音していた一行は、あっさりと己の罪を認めるがごとき発言に拍子抜けした。エリーシャが厳しい声で問いかける。

「貴女がカタルス殿の母君を殺害した事はすでに判っています。この事が国王に知れれば、家の取り潰しも免れません。それを判っているのですか」
「いいえ」

 だが正妻は静かに首を振り、父親は無言を通した。その夫をチラリ、と見ながら告げる。

「その時は私一人がすべての咎を負う用意は出来てるわ。貴女方が来たと言う事は、私の負け。みっともなく足掻きはすまい」
「アンリエッタさん‥‥そんなにレナさんが許せなかったの?」
「ええ――夫の望みです、子供は許しましょう。我が子の亡き今、家督を継ぐ者は必要ですし。けれども、あの侍女ごときに妻の座を奪われる事は、何があろうと許し難い」

 正妻は淡々と、感情を抑えた声色で言葉を紡ぐ。だがそれこそが、逆に彼女の感じている憤りを表しているようにも思える。
 底の知れない瞳で一同を見渡し、最後にカタルスの上でその視線を止めると、正妻は「さあ」と促した。

「何をしてるの。そのみすぼらしい服を着替えていらっしゃい」
「でも‥‥ッ! カタルス君はここのお家の子にはならないって」
「そんな戯言。騙される訳がないでしょう?」

 フン、と鼻で嘲う。彼女の信じる世界の中で、それが絶対の真実なのだろう。家督を望まぬ者など居ないと。自らそれを捨て去るはずが無いと。
 レインはそっと石の中の蝶を見る。この酷い所業が魔物の仕業であれば――そう思っての行動。だが蝶は、羽ばたく気配もなくそこにある。一連の出来事は紛れもなく、正妻本人の考えによって行われたと言う事。
 正妻はにっこりと微笑んだ。

「あの侍女を断罪出来て、思い残す事はないわ」

 心から嬉しそうな笑顔だった。





 その後、正妻の居なくなった応接室で改めて父親と向き合ったカタルスは、元の家で祖母と暮らす事を告げ、父親はそれを受け入れた。彼はレナが亡き人になっていた事に受けた衝撃が大きかったらしく、最後までろくに喋りもしなかったが。
 父子の名乗りすらなかった。だが結果としてそれで良かったのかもしれない。
 シルレインはカタルスを祖母の所まで送り届けると言い、冒険者達に何度も頭を下げて謝意を述べた。放っておけなかっただけなのだから報酬はいらない、と言う言葉には

「でもそれ、今回の護衛で貰った金だし」

 結果として果たせなかったのだから貰えないんで、とこちらも受け取り拒否をした。彼なりに、依頼を果たせなかった後悔があるようだ。
 こうしてお家騒動は一応の決着を見た。カタルス少年を襲う者は、今後2度と現れる事はないだろう。