羽音と共に訪れたモノ

■ショートシナリオ


担当:蓮華・水無月

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月10日〜01月15日

リプレイ公開日:2009年01月19日

●オープニング

 この頃、町で病気が流行っている。
 始まりは風邪のような症状。喉や頭が痛くなり、熱っぽく、気力が湧かない。そうか風邪か、と思って寝込んでいると、そのうち起き上がれなくなり、高熱が続いて死に至る病。
 最初の1人、2人は風邪をこじらせたのだろう、今年の冬は寒いから、と噂していたものだったが、やがて5人、6人と病で命を落とす者が増えるにつれ、これは流行り病じゃないか、という噂に変わってきた。慌てて発病した者を町外れに隔離して様子を見てみたが、病で倒れるものは増える一方だという。


 また、時期を同じくして町には、大人の手の平ほどもある巨大なハエが見かけられるようになった。追い払っても追い払ってもやって来るし、大きさが大きさなので不気味なことこの上ない。おまけに噂に寄ればこのハエは、背中に髑髏模様を背負っていると言う。
 町に流行る病と関係があるのではないか、と疑う者は多いが、退治しようにも近づくと不気味な息を吐くので、遠くから棒で追い払うのが精一杯。


 そんな町から、病とハエの関係を調べ、この不気味なハエを退治して欲しい、と依頼が来た。
 どうか助けてあげて欲しい。

●今回の参加者

 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 eb4219 シャルロット・プラン(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4410 富島 香織(27歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 ec0583 鳳 美夕(30歳・♀・パラディン・人間・ジャパン)
 ec4371 晃 塁郁(33歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

「ハエが関係しそうな病気は幾つか考えられるけど‥‥」

 町外れに急造で拵えられた隔離病棟。そこに隔離され、だが治療らしきものを受ける事もなく高熱に呻き声を上げる患者を診察しながら、富島香織(eb4410)はため息を吐いた。
 冒険者達が町に到着した時点で、町のほぼ半数が体調を崩していた。ここに居るのはその中でも末期、高熱を出してただ死を待つばかりとなった者ばかり。すでに、病に倒れた全員を収容する事は出来なくなっている。
 診察には発泡酒でアルコール消毒した布巾を使用。診察する香織に病が移っては元も子もないので、出来うる限りの感染対策を行っている。

「せめて毛布とかで温かくしてもらって、食事と水分をしっかり摂取してもらうことで体力を少しでも温存・回復してもらうしか‥‥摂取する水は、この浄化水筒で少しでも綺麗なものをね。苦しくて寝れない人が居たら、スリープをかけるから言ってください」
「ありがとうございます‥‥でもここに居る人は皆、もう、食べる事も飲む事も」

 患者達の世話をしている者が、浄化水筒を受け取りながら泣きそうな顔で首を振る。香織は唇を噛み、ならせめて水分補給だけは、と励ました。唇を湿らせるだけでも多少は違うだろうし、水分摂取が出来るようになればスープなども飲めるようになるかも知れない。
 さらに患者達にテレパシーで呼びかけて、希望者にはスリープを施していく。原因が判らない以上、出来るのは対処療法だけだ。
 一方町の中でも、香織の手伝いを申し出た晃塁郁(ec4371)が、隔離されるほどではないが病に寝付いている者の家を回り、応急手当を行っていた。こちらも香織と同じく、暖かくする事、食事や水分補給をしっかり行う事を指導する。
 幸い、町中に居るのは隔離病棟ほどには病状も進んでいない患者ばかりだ。しっかり体力をつけて病に打ち勝たなければ、と励ますと、頑張ります、としっかりした答えが返ってくる。
 家族にも同じ事を伝え、患者が食欲がないと言っても無理矢理にでも食事を取らせるよう頼む。もちろんそれは、看病する家族にも言える事だ。人数の都合で隔離されていないだけで、うつらないと保障されたわけではない。

「皆さまの中で理由もなく異常に腹が減る、などといった症状が出た方はいらっしゃいませんか?」

 病を突き止める手がかりになるかも知れぬ、と念の為に人々にそんな事を尋ねて回り、スクロールに記録していく。後で香織に見せれば、より詳しい事が判るかもしれない。
 そうして塁郁が動き回る中を、問題の巨大バエは羽音を高らかに鳴らし、飛び交っていた。





 鳳美夕(ec0583)とオルステッド・ブライオン(ea2449)は、町中を飛び交う巨大バエに立ち向かっていた。

「‥‥石の中の蝶が羽ばたいている‥‥やはり魔物か‥‥」

 手に持った石の中の蝶に視線を落とし、オルステッドは険しい表情になる。塁郁からもディテクトアンデッドや聖なる釘に巨大バエが反応した、と連絡があった。
 町中のあらゆる所でその異様を見せ付ける巨大バエ。これが魔物だとすると、彼が抱いていた懸念が事実である、とまた1歩証明されたと言う事。
 巨大バエは水場に止まったり、時には開いた窓や扉から人家にも飛び込んで、食卓の上に置かれたパンなども狙っている。その度に悲鳴が上がり、家から人々が飛び出してくる、その繰り返しだ。
 美夕はバーニングソードをかけた小太刀を一閃し、巨大バエを斬り落とした。一撃では止めを指す事は出来ず、2度、3度と小太刀を振るう。
 町からの避難を希望する者があればその手伝いをするつもりでいた美夕だが、依頼人である町長に

「それは止めてくれ」

 と頼まれた。病の事が他所に知れれば、今後この町は孤立するかも知れない。それに原因不明である以上、誰が病原菌を持っているか判らない状態での避難は、逆に他所の町に病を伝播させる恐れがある。
 オルステッドも手にしたローズホイップとダガーofリターンを使い分け、飛び交う巨大バエを打ち落としていく。個体ではそれほどに強くはないが、近付くと吐き出す酸のような息が厄介だ。二人ともワインで消毒した布などで極力露出部を減らしてきたが、息はその布もものともせず、チクチク肌を痛めつける。
 目に付く巨大バエをあらかた打ち落とし、オルステッドが手袋をはめた手で地面に転がる死体を検分した。

「‥‥成る程、確かに羽根に髑髏が浮かんでいる‥‥こんな魔物は見た事がないな‥‥」
「宮廷図書館にも情報はなかったの?」
「‥‥ああ‥‥新たに現れた魔物か、或いはジ・アースから来たのか‥‥」

 ジ・アース。その言葉に、まさに月道を渡ってジ・アースからこちらにやってきたばかりの美夕も顔を引き締める。
 ジ・アースではアトランティスとは異なり、デビルと言う魔物が横行している。彼らを従えるのは7大魔王。そのうちの一人に、まさに『ハエの王』と呼ばれるデビルが居た。

「まさか、魔王がこの世界に?」
「‥‥それは判らないが‥‥」

 巨大バエがカオスの魔物である以上、少なくともその眷族である可能性は捨てきれない。だとすれば、巨大な魔の侵攻という可能性も考えられ。
 考え込むオルステッドに、美夕が小太刀を構えながら言う。

「魔王でも魔王でなくても、困ってる人がいる事にはかわらない! 頑張らないとね」

 先ずは目の前の困った人々を。その為には今、目の前に居る巨大バエを退治しなければならないのだ。





 サイレントグライダーを操りながら、シャルロット・プラン(eb4219)は上空より事態の把握に努めようと視線を凝らしていた。
 最初にある程度聞き込んで、町の人々から情報収集は行っている。まず流行り病の傾向が出てきた時期を。そして、その前後に町で巨大バエ以外に何か変わった出来事はなかったかを。
 大きな変化・異変だけでなく心当たりがあれば何でも、と言うと、人々は不安と言う潤滑油の元、口々に天候が不順だとか、だれそれが怒りっぽくなったであるとか、様々な出来事を並べ立てる。町長とは違い、一般の町民の中には、隙あらばこの町から逃げ出そう、逃げ出したい、と見えない病に恐怖を抱いている者も多い。
 それらの町民をやんわりと宥め、聞き出した被害状況などを用意した周辺地図に落とし込み、睨みつけるように思考を巡らせる。

「祠や他など特記事項もない‥‥と、とすると”偶々”選ばれたのか」

 町の中で、巨大バエが目撃されなかった場所はない。だが町の周辺ではどうか、と言う質問に答えられる者は少なかった。この冬場にあえて町の外に出て行くものは少ない。旅回りの商人がやって来る時期ではなかった事も災いした――否、この場合は幸運にも、と取るべきか。
 一先ずはこの町だけが目的と考えて良さそうだ。そう判断したシャルロットは、美夕やオルステッドがわざと逃がした個体を忍犬ローゼンに追わせ、自らもサイレントグライダーを駆って町を飛び出したのだ。
 どうやらカオスの魔物らしい、と言う事は仲間たちの情報で判っている。と言うかこの冬場に動き回るハエとは、さすが魔物、空気が読めていない事この上ない。
 ローゼンは直向にハエを追い、地上を駆けて行く。その様子を見、巨大バエが向かっていく方向へと視線を凝らしたシャルロットは、脳内に叩き込んだ地図からその先にあるモノに思い至り、渋面を作った。

(墓場か)

 被害にあった町民が埋葬される墓地。アトランティスにはそこに故人が眠る、と言う感覚はない。それでも、巨大バエによって病に倒れた人々が葬られた場所に、その巨大バエが巣食っている、という想像は気持ちの良いモノではない。
 予想通り、巨大バエが墓場の一角に吸い込まれる様に消えていくのを確認し、シャルロットはグライダーの機首を翻した。巣は押さえた。後は根絶するだけだ。





 聞き込みにより、巨大バエは夜は目撃されていない事が判っている。ならば奴らの稼働時間は昼間、と判断するのが妥当だろう。
 念の為にもう1日かけて巨大バエの行動習性を確認し。

「行きましょう!」

 シャルロットが勇壮な掛け声と共にサイレントグライダーからグライダーランスでチャージングを放ち、それが攻撃開始の合図となった。
 夜明けである。可能なら夜の間に殲滅したかったが、墓場に居る事は判っても、どこに潜んで居るかまで見つけることがどうしても出来なかったが故の選択。出鼻を叩き潰すか、町から戻ってきたのを迎え撃つかで、前者を取った。
 冒険者達の殺気に気付いた巨大バエは、町へ飛んで行こうとせず、群をなして冒険者達を取り囲む。その数、20か、或いはもっとか。はっきり言って、巨大バエがそれだけ揃うと不気味を通り越して威圧的ですらある。

「‥‥油断するな、強大な魔物である可能性も否定できない‥‥」

 ダガーと鞭を使い分けながらオルステッドが警告する。巨大バエ自体の戦闘力がたいした事がなくとも、その後ろには何が潜んでいるとも知れない。今の所その気配はないが、十分に気を付けて無駄になる事はなかった。
 香織が狙い澄ましてムーンアローを放つ。巨大バエが酸の息を吐く以上、遠距離攻撃は必須。塁郁も兎跳姿で巨大バエの攻撃を交わしつつ白の聖水をかけ、ホーリーを唱える。念の為ニュートラルマジックも試みてみたが効果はなかった。別の魔物が姿を変えている、という訳ではないようだ。
 ファイヤーバードを唱えた美夕が巨大バエの群れに突っ込み攻撃する。グライダーから降りたシャルロットもサンソードをふるい、飛ぶものは叩き落し、仲間の攻撃で傷つき地に落ちたものには止めを刺す。

「デスハートンで魂を抜き取った事が病の原因か、とも考えましたが」
「それほどの知性は無さそうですね」

 ホーリーを放ちながらの塁郁の言葉に、同じ予想を立てていたシャルロットが応じた。それはそれで、良かったのか、悪かったのか。
 考えている暇はない。今はひたすら、目の前の巨大バエを叩き落し、止めを刺すのみだった。





 昼が近くなる頃、ようやく巨大バエの最後の1匹に止めが刺された。あんなに探しても何の痕跡も見つけられなかった墓場の隅には、巨大バエが巣食っていたと思われる穴が見つかり、念の為そこにも生き残りも、卵のようなものもない事を確認して全員で埋め戻す。
 カオスの魔物であった巨大バエの死体は、自然と消える。だが彼らに接した部分である布や手袋などには痕跡があるだろうと言う判断で、顔を覆っていた布や手袋などはその場で焼き捨てる事にした。装備などは念入りにアルコール消毒を施す。
 町に戻った冒険者達は、同じ判断で巨大バエが触れたものはとにかく消毒し、可能なら焼き捨てるよう町民に指導した。何しろこの冬場の事、食料は貴重品と言う事で、巨大バエがたかった物も「もったいない」と多少火を通したり洗ったりしただけで食べていたらしい。
 普通のハエならそれでも良かろうが、カオスの魔物でもある巨大バエ相手にそれは通じまい。その事を説明し、巨大バエが触れたものはカオスに汚されたものだから口にしてはいけない、と訴えるとようやく、焼き捨てる事に同意した。

「ただでさえハエは病原菌を運ぶものです。カオスの魔物だったあのハエも、何かの病原菌を持っていた可能性が高いです」

 香織はそう分析したが、調査用に個体を持ち帰ろうにもすでに死体はない。だが少なくともこれ以上、町民が新たに病に侵される危険は減ったわけだ。人から人に移る可能性だけは、時が経たねば判らないが。
 この間にも病で亡くなった人々は居る。それらの人々は、宗派違いを断った上で塁郁が丁重に葬り。

「‥‥さて、結局、奴らの背後に魔王は居たのか、それとも‥‥」
「どうでしょうね。それにしても、王か‥‥隣国ハンに関する報告書でも似たような名が出てきた記憶が‥‥何か関係が‥‥?」

 思いを巡らせるオルステッドの言葉に、シャルロットも冬の空を見やって思いを馳せた。
 これは単なる偶然なのか。それとも、その先に『何か』が居るのか――?
 大荒れになりそうな予感を胸に、冒険者達は様々な思いを巡らせていた。