聖なる母に願いを込めて‥‥
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■ショートシナリオ
担当:蓮華・水無月
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月19日〜02月24日
リプレイ公開日:2009年02月27日
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●オープニング
打ちひしがれていた。
彼女がかつて居た場所。彼の場所で、彼女は聖なる母セーラを信じ、信仰に生涯を捧げることを誓った。それは彼女にとって当然の選択で、そして聖なる母こそが彼女の世界のすべてだった。
だが、彼女がやって来た場所。聖なる母の教えを広めるべく、若い理想に情熱を燃やしてやって来たこのアトランティスと言う地で、彼女は打ちひしがれていた。
アトランティスには神は存在せず、神という概念もない。竜と精霊を崇め、だが『己が何か大いなる存在によって創られた』という思想すらない人々が暮らす、異教の地。
解っていて、この地に来ることを選んだのは、彼女。神を知らぬ人々に神の存在を知らしめ、救うのだと――聖なる母の名の下に普く救済を世界に広げるのだと。
だが、この地。実際に訪れたこの地で、彼女の理想は打ち砕かれ、情熱は深い絶望に取って代わられた。
この地に暮らす人々は神を知らぬ。神の救いを知らぬ。だがそれは彼らが救われていないわけではなく、神に救いを求める必要すら感じていないからなのだと、聖なる母を信仰し、だが聖なる母を盲信するわけではない彼女は気付いてしまった。
そして彼女は絶望し、打ちひしがれた。
この地に普く聖なる母の慈愛を伝える事が彼女の目的で、存在理由ですらあった。なのにこの地ではそれが通用せず、彼女は目的を、理由を失った。逃げ出したいと願った。ここから。この地から。
その人の事を知ったのはそんな時。
「ヨアヒム・リール師?」
彼女よりも前にこの地に至り、ウィルの都に教会を打ち立てる事を許された人。今もこの地にあって聖なる母を信じ、教えを広め、時に各地を回ってその教えを説くという神父。
彼の存在を知り、彼のなした事を知って、彼女は己を恥じた。己の弱い心のあり方を深く恥じた。
聖なる母を信ずると言いながら、拒絶にあい、絶望した自分。きっと彼は自分などよりはるかに強い拒絶を受けながら、なお忠実な聖なる母の僕であり続けていると言うのに。
同じく生涯の信仰を誓いながらなんと自分は弱いのか。聖なる母にこの身を捧げると誓った己の信仰心は、だが彼のなした事の足元にも及ばぬではないか。
その思いは彼女を揺り動かし、やがて一つの結論に至らせる。
「ヨアヒム師。どうか私を貴方の弟子にして下さい」
「‥‥は?」
とある早朝。一日の務めの最初の祈りを主に捧げるべく聖堂を訪れたその人に、彼女は跪き、祈るように手を組んだ。
彼の表情に困惑の様な色が見える。当然だろう、と彼女は真摯にその感情を受け止める。
彼女には本来、師は必要ない。師とは未熟な者を教え導き、聖なる母の愛への理解に至らせる存在で、その愛を理解したと信仰を告白してシスターを名乗ることを許された彼女は、導かれる必要がない。
だが。
「私はこの地に来て己の未熟さに気付かされました。ですから是非、ヨアヒム師の下で今一度研鑽を積み、改めて聖なる母に信仰を誓いたいと思うのです」
「はぁ、それは素晴らしい事です。ですが‥‥」
まだ困った様な表情をするヨアヒム師に、解ってます、と彼女は頷く。
勿論、何もなしに弟子にして貰えるなどと考えては居ない。教会を運営する、と言うのは想像以上に激務である事を彼女は知っている。そんな忙しいヨアヒム師の時間を頂こうというのだ。
「こちらに伺う折、街中で怪しい者を見かけました。おそらくあれはこの地を揺るがすカオスの魔物。お忙しいヨアヒム師に成り代わり、不肖ながらこのヴィアが母なるセーラの御名において彼の魔物を退治して見せます!」
「っ!? いえ、あまり危険な事は‥‥それよりも、ヴィアさん‥‥」
「大丈夫です。私とて母なるセーラの僕。ヨアヒム師、見事使命を果たした後にはどうか、私を弟子にして下さい」
にっこりと微笑んで彼女は十字を切り、立ち上がった。教会の外へと駆け出す。
町に幾つかある広場の一つ。そこでは旅回りの芸人が大道芸を披露していたのだが、集まった人々から少し離れた場所にまるで人目を憚るように隠れていた、全身に煌びやかな羽根を生やした男の姿を思い出す。
旅回りの芸人なら堂々と姿を現せば良いのに、あのような奇異な姿をしながら人目を憚るのは、人に見られたくない理由がある証拠。人々を伺うように見る目つきも、思い返せば怪しかった。あれはきっと、人々を傷つけようと企むカオスの魔物に違いない。
ヨアヒム師に認められる為にも、あの魔物を討ち果たすのだ。あいにく彼女はホーリーぐらいしか使えないが、足りない力はこの地の冒険者ギルドで冒険者に助力を請えば良い。
だから彼女は冒険者ギルドを目指す――かつて『お前は思い込みが激しいのだから気をつけなさい』と先輩シスターに言われた事は、勿論すっかり忘れ去って。
そして残されたヨアヒム・リール師。
「‥‥弟子入りはともかく、滞在して頂く部屋がありませんよ、と言いたかったのですが」
勢いに飲まれて言い損ねてしまった、とため息を吐く。が、そういう問題じゃないだろう、とどこからか突込みが聞こえてくる気がした。
●リプレイ本文
その日、ウィルは眩しい位に快晴だった。つまり雲一つなく、陽精霊の恵み妨げるもののない、良い天気。
「初めまして。倉城です、宜しくお願いしますね」
穏やかな笑顔でおっとりと会釈した倉城響(ea1466)を始め、集まった冒険者は3名。彼女達の姿を認め、ヴィア・カンティーナが浮かべた笑みも本日の天気の如く、曇りなく晴れやかなものだった。
胸元で十字を切りながら、軽く膝を折って挨拶する。
「ありがとうございます。皆様方に母なるセーラのご加護がありますように」
「いえいえ、弟子入りを認められんが為の魔物退治とは、実に勇ましい。まるで英雄譚の出だしの如き志しではありませんか! 是非ご協力させて頂きますとも」
「はい、何としてもこの試練を乗り越え、ヨアヒム師に認めて頂きたいのです‥‥‥と言うわけで皆様、いざ魔物退治に参りましょうッ! 一刻も早くッ!」
「‥‥って、ヴィア、ちょっと待って!?」
歌うように告げられたギエーリ・タンデ(ec4600)の言葉に、大きく頷いて即座に街に駆け出そうとするヴィア。慌ててラマーデ・エムイ(ec1984)が引き止め‥‥ようとして勢い余って首根っこをぎゅむりと掴む。
「キュッ!」
「あ、ごめんねー。でも、いきなり向かって行くんじゃなくて、まずは色々調べた方が良くないかしら?」
「そうですねぇ。魔物なら退治しても構わないと思いますけど、そうじゃない可能性もありますし。例え本当にカオスの魔物だとしても、調べてから戦っても遅くは無いと思いますよ」
ラマーデの提案に、うんうん、と頷きながら言葉を添える響。キョトン、と目を丸くしたヴィアが、意見を求めるように今1人の冒険者へと視線を向けると、向けられたギエーリも「ラマーデお嬢さんと響さんの仰るとおりかと」と大きく頷く。
三方からの反対を受けて、む、とヴィアは困ったように眉を寄せた。
「ですが、こうしている間にも魔物は人々を苦しめているのです。ならば一刻も早く魔物を退け、人々に安寧をもたらすのが聖なる母の僕たる私の役目」
いや、だからそれをまずは確認しよう、と言っているわけでして。だが「さあ行こう、早く行こう、今すぐ行こう」と全身全霊で訴えているヴィアは、こちらの言うことなど全く聞く耳を持っていない。悪気は全くない、ということは良く判っているのだが。
ならばどうするか。
この瞬間、集まった冒険者達は親しい者の間ですら時にコミュニケーションを誤らせる、アイコンタクトによる意思疎通を完璧にこなして見せた。役割分担からセリフの割り振りまで。嘘みたいなほんとの話。
「ええ、ええ、お気持ちは良く判りますとも、ヴィアさん。実に素晴らしいお志です。ですが、急がば回れ、と申します。魔物の正体も判らぬまま闇雲に突っ込んで行っても、返り打ちに遭う事は必至ではありませんか?」
「そう、でしょうか‥‥? ですがこれは聖なる母より与えられた試練。危険を恐れていては‥‥」
「だったら尚更、ちゃんと魔物さんのことを調べた方が良いと思いますよ。与えられた試練を確実にこなす事も大切な事ですし、討ち漏らしたらそれこそ被害が出ちゃいますし」
「は‥‥ッ、そうですね! 敵を知るにはまず味方から、ですね!」
それは今の会話とはまったく関係のない格言なのだが、とりあえずこちらの言いたい事は伝わったらしい。「ならばまずは調査です!!」 と空に拳を握って燃え上がっている。
上手く行った、と微笑みあうギエーリと響。その微笑を背中に隠すようにして、ラマーデがニッコリ笑みを浮かべた。
「それじゃまず、その『魔物』を見た場所を教えてくれる? その辺りへ行って、他に見た人がいないか探してみましょっか」
「はい! よろしくお願いします!!」
大声で返事をするヴィアの背には、見る者が見れば情熱の炎が燃え盛っていた事だろう。
「確かにこちらの広場です!」
ヴィアの言葉に従い、ラマーデの案内でウィルに幾つかある広場の中の一つにやってきた冒険者達は、まずはそこで盛んに披露されている大道芸に目を奪われた。
いくつもの球を投げては次々に器用に受け止め、また次々と投げ上げる技を披露する者。しなやかな身のこなしで何度もトンボを切るアクロバットを演じる者。2本の無骨な大剣を華麗に操り剣舞を披露する舞い手の傍で、竪琴を抱えた吟遊詩人は自慢の喉を震わせ英雄譚(サーガ)を歌い、仲間の手を借りて空高く飛び上がった少女が空中に設置された火の輪をくぐってニッコリ微笑む。
「やはりこちらの広場でしたか」
自身も吟遊詩人を生業とするギエーリは、職業柄この広場に旅芸人たちが集まり、何かと人々を楽しませている事を知っていた。知り合いは居るだろうか、と見渡す彼の横で、楽しそうな光景に目を奪われていた響がふと、隣に居たはずのヴィアが居ない事に気づく。
キョロキョロと見回して。
「そんな所でどうなさったんですか?」
「シーッ! 魔物がどこに居るか知れません、響さんも早く隠れて!」
「でも布を顔に巻きつけたら余計に目立たない?」
「完璧な変装です!」
確かに顔は隠れるだろうが、問題の『魔物』を捕まえる前にこっちが不審人物で捕まる事は間違いない。
広場の隅に詰まれた大ダルの陰に隠れ、目と鼻と口だけを出して顔中を布でグルグル巻きにしたヴィアの姿に、どうしたものか、と冒険者達はまた顔を見合わせる。そこらで遊んでいた子供がヴィアを見て、「ヘンなの〜」と棒で突付いたり、布を引っ張ったりしていた。
「いた、いたた、こ、これは母なるセーラより下された試練のために‥‥ああっ、ローブは引っ張らないで!?」
「へへーん、オレ、これもーらい!」
「ハッ、いつの間にロザリオを‥‥ッ! こら、返して下さいッ!!」
「やーい、悔しかったらここまでおいで〜」
あ、割と受け入れられてる。
ヴィアは放っといても大丈夫そうなので、冒険者はこの間に、広場に集まった人々からヴィアが目撃した魔物について情報を集める事にした。まず響は広場に出ている店や、集まった人々に手分けして話を聞く。
もし情報収集がはかどらない様なら、何か物を買ったり、子供に甘いものなどを買い与えれば口を開いてくれやすいかも。そうラマーデにアドバイスされた響だったが、幸いにしてと言うべきか、「人目を憚る全身に煌びやかな羽根を生やした男」は知らないか、と口にした瞬間、尋ねた露天商の恰幅の良い女将が「ブフッ!」と盛大に噴出した。
「ああ、ああ、知ってるともさ! あっちこっちに赤やら青やら、金銀やらに染めた羽根をくっつけて、滑稽だったらありゃしないよねぇ!」
そうですかぁ、と響も微笑む。この反応、このセリフ。依頼を受けた時から予感はしていたけれど、やっぱりカオスの魔物じゃなかったか。
「とは言え、良い方とは限りませんけれど‥‥あの、その方にお会いしたいんですが、どこに居るかご存知ですか?」
おっとりと尋ねれば、大きく肩をすくめた女将は「どうせ今日もその辺でうじうじ隠れてるよ」と苦笑い。一体どういう人物なのか、という質問には、ニヤニヤ笑いだけが返ってくる。
とにかく、その辺に居ると言うのなら探すしかない。困りましたねぇ、とあまり困ってない顔で微笑んだ響は、今度は物陰などに注意を払いながら広場をウロウロ歩き出す。
一方、ギエーリは所属する吟遊詩人ギルドの伝手で紹介を貰った、この広場で興行を行っている一座の天幕を訪れていた。紹介、と言っても興行一座は吟遊詩人ギルドに所属しているわけじゃないから、強制力のあるものじゃない。何も無いよりはマシ、という程度だ。
幸いにして座長だと言うパラの男は、ギエーリの携えた紹介状を快く受け取り、天幕に招き入れてくれた。天幕、と言っても殆ど道具置き場の簡素なもの。
勧められた椅子にありがたく腰掛け、まずは辺り障りのない旅の話や大道芸の話、冒険の話など。ギエーリが冒険者だと聞くと座長は冒険の話を根掘り葉掘り聞きたがったが、冒険者が関わる依頼の中には国家機密に関わるものもある。そう言った部分は適当にはぐらかせながら話してやると、それでも満足はして貰えたようだ。
相手がすっかり好意的になったのを見て、ギエーリは本題をするりと尋ねてみた。
「ところで、本日こちらに伺ったのも実は冒険者ギルドの依頼なのです。此処に暫く留まっていらっしゃるのならば、全身に煌びやかな羽根をつけてこっそり様子を伺う道化師の様な人物をご覧になった事はありませんか?」
「あ〜‥‥まあ、あるっつーか、ないっつーか‥‥そいつ、何かしたのかね」
心当たりがあるようだ。座長はたちまち困った顔になり、心配そうにギエーリを見上げてくる。
ご安心を、とニッコリ微笑んで胸を叩いた。
「多少目を引く格好をなさっているので、驚いた方が勘違いなさったのでしょう‥‥ご事情をお伺いしてもよろしいですか? 」
安心させるような口調とは裏腹に、全く事情は説明していないのだが、それで座長は納得してしまったらしい。コクコクコク、と何度も頷いて「実は」と語りだす。
外からは相変わらず、賑やかな喧騒が聞こえていた。
魔物らしき男は噂とは裏腹に、なかなか姿を見せなかった。これは長期戦が必要か、と交代で広場を張り込む事にする。
今はラマーデとヴィア。
「魔物はどこです!?」
今日も今日とて猪突猛進のヴィアは、真剣な眼差しで広場のあちこちを見て回る。ちなみにすっかり有名人だ。歩いていると「よっ、頑張れよ!」とあちこちからお声が掛かる。
広場には相変わらず大道芸人の華やかな姿があったが、問題の人物は見当たらない。何かヴィアを気に入ったらしい悪ガキどもがちょっかいをかけに来るが、それだけの平和なものだ。
キョロキョロ見回しながら歩くヴィアの、胸元に揺れるクルスを見つめながらラマーデは尋ねる。
「ところで。弟子入りが認められるなら、魔物退治じゃなくてもいいのよね? ヨアヒムさんだって戦う人じゃないし。例えばホラ、とーっても困ってる人の相談に乗って助けてあげるとか」
「‥‥‥あ!」
向けられた言葉に、瞬間、ヴィアは棒立ちになってラマーデを振り返る。呆けた表情。今その事実に気付きました、と言わんばかりの。つか、気付いてなかったのか。
アハハー、と愛想笑いを浮かべる彼女は思い込んだら一直線の猪突猛進娘。弟子入りを認められるために魔物退治を、と思い込んだが最後、他のことなんて思い付きもしなかったのだ。
半眼になったラマーデの視線に、己の不利を悟ったヴィアはキョロキョロと激しく辺りを見回す。それは救いを求めてのものだったのだが
「‥‥あっ、居ました! あそこに魔物が!」
偶然視界に入った光景に、そう叫ぶなり駆け出した。慌てて追いかけるラマーデ。
広場の隅、物陰に身を捻じ込むようにして潜むその『魔物』は、成る程、全身に色とりどりの羽根をくっつけ、見た目にも華やかだった。ていうか羽根のお陰でちっとも隠れてないのだが。丸見えなのだが。
ちょうど交代でやってきた響とギエーリもパタパタと駆けつけ、『魔物』の姿にコクリと首をかしげる。
「そんなに邪悪な方には見えないですね」
響の言葉に、思わず大きく頷く冒険者一同。むしろ間抜けだ、といっても過言じゃない。
とは言えまあ、油断は禁物。まずは逃亡の危険を減らす為、2手に分かれる事にする。前から追い立てる役が響、その先で待ち伏せをして捕まえる役が残る3人。
だがしかし。
「うわ‥‥ッ!?」
近寄ってくる響に気付いた瞬間、男は――うん、男だったのだが、その男は全身の羽をファッサー! と揺らして闇雲に逃げ出した。え? と慌てて追いかける響。その気配に、さらに必死に逃げる男。
こうなると待ち伏せも何もあったものじゃない。そもそも狙った方向に逃げやしないので、残る3人も必死になって男の追跡に加わった。
屋台をひっくり返し、大道芸の間に突っ込み、人を突き飛ばし、男は必死で逃げる逃げる。追いかける冒険者の方がその度「すみません!」と頭を下げてまた走る。
やがて。
「‥‥もうッ、いい加減にしてくださいッ!」
だんだん腹が立ってきたらしいヴィアが、エイヤッ! と捨て身のタックルを敢行した。成功。太もも辺りにしがみつかれた男はベチャリ、と顔から地面に突っ込む。ついでにヴィアも顔面突っ込む。
シーン、と広間が静まり返った。誰もが、大道芸人すら芸をやめ、こちらを伺っている。痛いほどの沈黙。
そして。
「ど‥‥どうして僕がこんな目に‥‥ッ」
顔中をしたたかに打ちつけ、鼻血をたらたら流した羽男は、そう呻いたきり気を失った。ちなみにヴィアはとっくに気絶していた。
結論から言えば、羽男は大道芸人志望のごく普通の一般人であった。
「し、試験だったんだ‥‥ッ。飛び入り参加してお客さんから拍手喝采をもらえたら、一座に入れてくれるって‥‥ッ」
奇しくもギエーリが話を聞きにいった旅芸人一座に加わる事を希望していた彼は、パラの座長から出されたそんな試験を果たす為、とにかくまずは目立つ為に色とりどりに染めた羽根を全身に付けてみた。その上で飛び込むタイミングを伺っていたのだが、これがなかなか難しく。
考えれば考えるほど足がすくんで動けなくなり、毎日衣装を身につけては広場の様子を伺う彼はいつしか、広場の名物となっていて。
「それをご覧になったヴィアさんが魔物と思い込んでしまわれた、という訳ですねぇ」
「う‥‥ッ!」
ギエーリの言葉に全力で目を逸らすヴィア。何しろホーリーしか使えない彼女は、魔物の気配を判別する事もできず、見た目と様子だけで魔物だと思い込んでしまった訳で。
ダラダラと脂汗を流すヴィアに、羽男が恨めしげな視線を向けた所で、誰にそれを咎める事が出来ると言うのだろう?
「宜しければこれ、使ってください♪ ご迷惑をお掛けしたお詫びです」
「よければこちらもお飲みください。何、これも一つの経験と思い、技に活かすのが芸人というものですよ」
そう言いながらヒーリングポーションと発泡酒を差し出した仲間に、流れを感じたラマーデは慌てて荷物をあさくった。が、咄嗟の事で適当なものが見つからず。
「えっと、じゃあコレ。頑張ってね☆」
良い笑顔で差し出したのは魔法の冷や水。受け取った羽男も戸惑い気味だったが、気持ちが伝われば問題はない。
で、流れが来たヴィア。
「‥‥‥えっと、ご迷惑をお掛けして‥‥‥どうか貴方に母なるセーラのご加護がありますように」
「‥‥‥」
十字を切って終わった。そもそもあげられるようなものを持っていなかった。
こうしてお騒がせシスターの魔物退治は終了した。問題の男は無事、一座へ迎えられたようだ。
だが彼女がヨアヒム師への弟子入りを認められたかどうか、それは謎のままである。