痛みの過去に背を向けた君。
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■ショートシナリオ
担当:蓮華・水無月
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月25日〜03月30日
リプレイ公開日:2009年03月30日
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●オープニング
初めに彼女と会ったのは、村の近くで遊んでいた子供達だった。
「おじさーん! おじさんちのお姉ちゃんが帰ってきたよー!」
そんな声を上げ、嬉しそうに走り、或いは彼女に纏わりつく子供達と、その子供たちを穏やかに目を細めた笑みで見守りながらゆっくりと歩いてくる少女。傍らには見た事のない青年が居て、時折少女が青年に向ける眼差しは信頼に満ちている。
対して、知らせを聞いて慌てて家を飛び出してきた大人達はと言えば。
「メ、メリッサ‥‥ッ!?」
一通りでない驚きを顔に貼り付け、心なしか青褪めて少女を呼ぶ。中年に差し掛かった女性の方は、カタカタと小刻みに震えてすら居た。
そんな大人達の表情を見やった少女は、まぁ、と面白そうに屈託のない笑みを浮かべる。少しおどけた様子で周りの子供達を見渡して、
「やだ、父さんも母さんも。久しぶりに帰ってきた娘に何て顔? この子達が驚くじゃないの、ねぇ?」
「うん! メリッサお姉ちゃんに色んな遊びを教えて貰ったんだよ!」
「ねぇお姉ちゃん、明日も一緒に遊びましょ?」
子供達に頷いてやると、やったー! と上がる歓声。すでに少女は村の子供の心を掌握してしまったらし
い、と気付いて中年の男女はまた、顔を青褪めさせた。
2人の顔色に、メリッサは傷ついた表情になる。
「ずっと連絡していなかったから怒っているの?」
「いや、そのぅ‥‥ほれ、お前は5年前に森で行方不明になって、ずっと消息が知れなかったから。わしらはてっきり、お前は死んだものと思って」
「そうね、あのままだったらきっと死んでたわ。でも我が君が助けてくださったの」
そう言い、信頼の眼差しで振り返った娘に、中年の男女はおずおずと、不気味なものでも見るようにその青年の方を見やる。整った顔立ちをした、見知らぬ男。
にっこりとメリッサが彼らを振り返り、紹介する。
「5年前、偶然通りかかったこの人が助けてくださったのよ。それからずっとお仕えしているの」
「それは‥‥その、娘がお世話になって‥‥」
しどろもどろに頭を下げた男に、青年は無言で柔らかく笑んだ。ただそれだけの仕草が、ずいぶんと様になる男だった。仕える、と言うことは恐らく名のある身分の方なのだろう。
彼らはしばらくこの村に滞在したい、と言う。否を言う理由はない。彼らは青褪めた顔のまま息子を呼び、姉の帰宅と彼女の主の滞在を告げた。
「久しぶりね、ウォルフ」
「‥‥メリッサ姉さん」
強張った表情になった息子は恐らく、姉が居なくなった時は幼かったからよく覚えていないのだろう。夫妻はそう思い、ウォルフは何も言わなかった。
ただ、微笑んだ姉の冷たい瞳に、ウォルフは胸の中でようやく、小さな決意を固めていた。
メリッサと青年は、礼儀正しく穏やかに日々を過ごしていた。村の子供はメリッサの教えてくれる遊びに夢中になり、青年はこの寒さで体調を崩し、倦怠感を訴え床に伏せる者を見舞い。
だがそんな2人を見つめる村の大人達の眼差しは険しい。
「どういう事だ!?」
夜、普通なら誰もが寝静まった時分。村長の家に集まった大人達は、一様に危機感を募らせた表情をしていた。
「あの娘は死んだはずじゃなかったのか!?」
「死んだはずだ! 皆、そう思ってきたじゃないか!」
「だがあれは確かにメリッサだ! 大きくはなったがあの顔は確かに‥‥ッ!」
目を血走らせ、互いを睨みつけるように叫ぶ姿は、端から見ても異様だ。だが集まった村人達は誰一人、その姿には疑問を抱かない。それよりも大きな懸念が彼らの胸のうちに巣食っている。
その懸念の名は、メリッサ。
村人達の論争の中心に立つ、老年の村長が重々しく呟く。
「死んだ娘が帰ってくるわけがない。帰ってきたなら、それは魔物じゃろう」
「あ‥‥ッ!」
「秋の終わりにも、この村には姿を写す魔物が来た。あの時も魔物はメリッサの姿を取った‥‥ならばあの娘もメリッサの姿をした魔物じゃろうて」
村長の言葉は重々しく、ゆえに村人達の胸のうちに容易く染み込んでいく。あのメリッサは魔物。それならば5年前に死んだはずの娘が帰ってきた事にも頷ける。
あれが魔物ならば、傍に居る青年も魔物か。2人で人間のフリをして、村人達を狙っているのか。
ならば、やられる前にやらなければ‥‥そう考えた村人達が、その夜のうちに彼らのうちの1人を冒険者ギルドに向けて旅立たせたのは、ひどく当然の事だった。
翌朝、村の外れで。
「冒険者を呼ぶ事にしたようだよ」
面白そうな主の言葉に、メリッサはクスクスと愉悦に満ちた笑みを零した。
「あら、偶然。ウォルフも昨夜、家を抜け出して行ったのに」
「そうだったね。お前の弟は見逃すよう配下に言っておいたが‥‥良かったのかな、メリッサ?」
「勿論ですわ、我が君」
メリッサは晴れやかな微笑で青年の前に膝をつき、頭を垂れた。
「そうすればウォルフは、村に戻ってきた時にあの者どもの屍を見ることになるでしょう? 私は何としても、あの弟に絶望を思い知らせずには居れないのですわ、我が君」
「そうだね、その憎しみがある限り、お前は私のお気に入りだ‥‥策は授けた。後は存分に殺し尽くすが良いよ」
「はい、我が君。必ずやあの醜悪な者どもの魂を、御前に」
メリッサは真摯な声色で主への誓言を口にし、憎々しげに村の方を振り返った。
「姉を、止めてください」
冒険者ギルド、その受付カウンターで、ウォルフ少年は悲壮な顔で唇を噛み締め、そう告げた。
受付嬢は僅かに瞳を揺らし、確認する。
「具体的にはどのように‥‥?」
「それは‥‥もうどうしても姉が止まらないのなら、力づくでも‥‥姉を殺してでも僕は、姉がこれ以上罪を犯すのを止めたい」
でも自分にはその力がなく、こうして言葉にしてすら震えるほどに、それを成し遂げる勇気もなく。
だからどうか冒険者に、自分の代わりに姉を止めて欲しい。
そう、震える声を必死に絞り出して、少年は泣きそうな顔で深々と頭を下げたのだった。
●リプレイ本文
それは昨日の様に鮮やかに蘇る、遠い日の大切な思い出。
『それだけで、良いの?』
『‥‥うん?』
『私が貴方にタマシイを捧げるだけで‥‥私が死ぬぐらいで、本当に貴方は世界を壊してくれるの?』
だったらお願い、と搾り出した言葉にわずかに目を見開いた後、面白そうに頷いた相手に心からの感謝と忠誠を誓った、それは、血に塗れた12歳の冬の日。
(‥‥メリッサ‥‥とうとう自らの村に戻ったか‥‥)
冒険者ギルドに張り出された依頼。それを見た、オルステッド・ブライオン(ea2449)の最初の感想はそれだった。
一番最初、ドッペルゲンガーによる村人消失事件からオルステッドはウォルフ、そしてメリッサに関わってきた。カオスの魔物に忠誠を誓う少女メリッサと幾度も対峙し、その度に逃げられた記憶は生々しい。
だが、それもここまでだ。
(堕ちたる少女にどのような過去があるかわからんが、奴も、カオスを狩る私も戦いを求める者同士、あとは剣によって決着をつけるまでだ‥‥)
険しい顔で用意した菊一文字を確かめる夫を見守るのは、妻アリシア・ルクレチア(ea5513)。最初、メリッサという名を夫の口から聞いた時には一体何処の誰かと‥‥簡単に言えばすわ浮気かと疑った彼女だが、カオスの魔物に囚われた少女、という説明を聞いて不謹慎だが安心した。そして、夫を助ける為に、村を救う為に同行を決めた。
聞けば少女は村の内側という無防備な領域に入り込み、人々を狙っていると言う。ならば、行動を起こされてしまったら村は簡単に一網打尽。或いはすでに行動を開始し、村を制圧しつつあるのかも知れない‥‥あちらに冒険者の到着を待つ理由はないのだ。
ならば急がなければ――夫のペガサスに乗って空を駆けながら、地を行く夫の乗るヒポグラフを彼女は祈るよう見つめていた。
一刻の猶予もない、その思いはアシュレー・ウォルサム(ea0244)も同じだった。彼もまたメリッサにまつわる事件に幾度か関わっており、直接見えた事もある。
その時の状況や、見たり聞いたりして推測される彼女の性格の事を考えれば
「はあ、なんというか面倒なことになってそうだねえ、これまでを考えると。とにかく急ごうか」
そんなため息を吐いてしまうのも無理からぬ事かもしれない。
グリフォンの背に乗り、ムーンドラゴンパピー月影を従えたアシュレーの姿に、宜しくお願いします、とウォルフは深々頭を下げる。彼は空を行く冒険者達とは別に、シャルロット・プラン(eb4219)が冒険者ギルドより借り受けたフロートシップで移動する事になっていた。
他の冒険者が村人を救う為に奔るなら、彼女は救った後の村人を救援する為の手配を。そう考え、フロートシップと可能な限りの人員手配等を行ってから出発する頃には、きっと冒険者達は村に到着しているだろう。
だが移動速度を考えればそれ程酷いタイムラグは起きないこと、そして何より一緒に行けば自分が足手まといになるのでは、と考えたウォルフは、シャルロットの「冒険者の強行軍だ。君が慌てても彼らには追いつけない」という言葉もあり、後から行く事にしたのだ。
本当は一刻も早く村に帰りたいとも思った、けれど。姉を止めて欲しいと願った彼の心は、まだ、どうしても自分が姉と向き合わねばならないのだ、と決意出来るだけの強靭さはなかった。
急行する冒険者を見送り、シャルロットの指示に従い救護用品や食料などの積み込みを手伝ったウォルフが、いよいよ出立と言う段になって呟く。
「姉は、止められるんでしょうか‥‥」
「その為にも君の協力が必要だ。移動中に村の配置や主だったもの、何でも思いつく限り教えて欲しい――まだまだ休んでいる暇はありませんよ」
少年が本当は何を聞きたいのか、気付いたシャルロットはあえて明言は避け、そんな風に発破をかけ。かけられたウォルフはそれには気付かず、はい、と頷いてシャルロットに思いつく限りの村の様子を語り、それに基づいて作成された簡易地図にさらに指を刺して解説を加える。
ウォルフは暗に、聞いていた――自分は姉を取り戻す事が出来るのか、と。メリッサを殺さずに済むのだろうか、と。
だがすでに彼女はその段階ではない。例え止まったとしても、カオスの魔物に身を委ねて数多の人々の命を奪った、彼女に残された道はあまりにも険しいものしかない。
もし彼女が止まるとしたら、それは――
(弟が最後の灯火、かもしれません)
直向に姉を求める彼の心が、カオスに染まった少女の心を揺り動かす最後の手段なのかも知れない。だがそれが絶対ではない以上、シャルロットに出来る事はウォルフに過剰な期待を抱かせない事だった。
冒険者達が辿り着いた時、村を包んでいたのは戦乱による恐慌‥‥とはまた別の、張り詰めた雰囲気だった。
魔物は、居る。蟻の這い出る隙間もないほどに村を取り囲み、上空を飛び交い、爪を、牙を鋭く光らせている。だが、そこに居るだけ――否、村から逃げ出そうとしたらしい人間や、恐らく偶然通りかかったのであろう旅人らしき屍はあるが、まるでそこで待てと言われたかのように、焦燥に妬ける眼差しを一心に村へと注ぎながら、侵攻しようとはしていない。
「どういう事でしょう?」
その光景を前にしたアリシアが、戸惑いの言葉を誰へともなく紡いだ。そこに村があり、人が居て、狙う魔物が居る。これだけの条件が揃っていて、魔物が村へ侵攻していない理由が見えない。
だがその答えは、何かを言おうとしたアシュレーでも、険しい眼差しを注ぐオルステッドでもない、別の場所からもたらされた。
「たまにはこんな趣向も面白いだろう?」
「お前は‥‥ッ!」
現れたのは、どちらかといえば美しい部類に入る面立ちをした礼儀正しそうな青年だった。だがこれは偽りの姿。その本性は獅子の体躯に翼持つ魔物――あの村に居る少女メリッサが主と仰ぐ、精霊の言葉を騙るもの。
瞬くうちに警戒を体中にみなぎらせ、強い眼差しで睨み据える冒険者達に、魔物はあくまで人間らしく、ひょい、と肩をすくめて嗤った。
「血気盛んな事だ――だが逸るな、冒険者。あの村では今、私のお気に入りの下僕が魂を刈り取っているのだからね。近付かなければ、今日の所は見逃してやろう?」
「面白くない冗談だね」
答えたのはアシュレーだ。彼らは村を救いに来た。村人への復讐に燃えるメリッサを止めに来た。ましてそれを言うのがカオスの魔物であれば、その言葉に耳を傾ける理由が何処にもない。
相手も、その答えは予想していたようだ。そうだろうな、と軽く頷く。
「そうでなくばメリッサが、あの娘がわざわざお前達を招き寄せた意味がなかろうよ。あの娘は私を楽しませる術を良く知っているのだからね」
「貴様‥‥メリッサの心と体を縛り続けた報い、私の太刀として受け取るがいい‥‥!」
「それも一興」
憤怒と傲慢の指輪をはめ、菊一文字をすらりと抜き放つオルステッドの言葉にも、魔物は余裕の表情を崩さない。本性すら見せず――ほんの僅か手を振るだけで、意を汲んだ魔物達がたちまち冒険者との間に立ちはだかり。
嗤った。
「相手をしておやり。お前達もそろそろメリッサを待つのに飽きたろう?」
「ギイイィィィィ‥‥ッ!!!」
精霊の言葉を騙るものの言葉に、お預けを食らい、苛立ちも絶好調に達していた魔物達は耳障りな歓声を上げて冒険者達に踊りかかった。中途半端な血肉が彼らを煽り、燻らせていた。
勿論、遅れを取る冒険者ではない。すかさずアシュレーがクイックシューティングで威嚇を兼ねた攻撃。さらにダブルシューティングEXで群がる魔物に矢を放つ、その先ではオルステッドが菊一文字を手に切り込んでいる。アリシアもスクロールを広げてサンレーザーで魔物を攻撃し、仲間の援護をする。
1体1体はそれ程手こずる相手ではないが、数が数。ましてその先の村では今まさに、メリッサが殺戮を行っていると言う。ならば一刻も早く村へ、と焦る気持ちは膨らむ一方だ。
だが、キリがない――思わず舌打ちしながらアシュレーが幾度目かの矢を放ち、オルステッドが何体目か解らない魔物を切り捨てた時。
「待たせました!」
遅れて出発したシャルロットが、サイレントグライダーからのランスチャージを放ちながら現れた。遠くには、今到着したのだろう、フロートシップが止まっている。
おや、と精霊の言葉を騙るものの目が面白そうに細められた。現れたシャルロットを、フロートシップを、そしてその前に怯えた表情で立つウォルフを眺める。
「役者が揃ったか――ならば後はメリッサに任せよう」
喉の奥でクツクツとくぐもった笑いを響かせて、瞬くうちに本性の獣に立ち返った魔物は大きく翼を羽ばたかせた。また逃げる気か、とアシュレーが破魔矢で足止めを計り、シャルロットがグライダーで攻撃を仕掛けるが、どちらもかわされてしまう。
主の退場に、魔物達の動きが変化した。あくまで留まって冒険者に襲い掛かるものと、より容易に襲える獲物を求めて村へと走って行くもの。上空に留まっていた魔物たちも同様。
魔物の声が響いた。
「さあ冒険者、せいぜい私を楽しませておくれ」
それはつまり、ここからが互いにとって狩の本番と言う事だった。
魔物達が2手に分かれて村を襲い始めたのなら、対する冒険者とて2手に分かれてそれを食い止めなければならない。あくまでメリッサを追うと決めたオルステッドと夫と共に行くと決めたアリシア、そしてウォルフを先に行かせたアシュレーとシャルロットは、村外の魔物を一手に引き受け、まさに獅子奮迅の戦いを見せた。
遠距離から確実に魔物を射抜くアシュレーと、グライダーを降りて地に満ちる魔物を次々に切り伏せるシャルロット。さすがに2人で相手をするには厳しい数だったが、それでも何とか最後の1匹を滅ぼした時には、大きく肩で息をしていた。月影もシャドウボムなどで奮戦したのだが、その助けを得てなおこの状況。
だが、ぼんやりしている暇は、ない。
「急ぎましょう」
村にも魔物は向かっている。その後を追い、村人を助ける為に走り出した2人の冒険者は、程なく村を暴れ回る魔物の姿と、逃げ惑う村人の姿を発見した。先行した2人も魔物を見つけるたびに退治していたが、さすがに全滅とまではいかない。
見つけた瞬間にはアシュレーが矢を放ち、駆け寄ったシャルロットが切り伏せた。魔物が死んだ事を確認し、襲われていた村人に声をかける。
「大丈夫ですか」
シャルロットの言葉に村人が頷く。怯えた表情だが、怪我はないようだ。
取りあえず1箇所に集めて守りを固めるべく、見かけた端から呼び集めた村人達は、誰もが憔悴しきった顔をしていた。中には冒険者とは言え見知らぬ相手に警戒を見せる者も居る。
気付いた時には村を魔物に取り囲まれ、大人しくしていたメリッサはその仮面を剥いでデスハートンで人々を殺して回り、いたぶる様に追い詰められた村人達は、身体よりも心が疲弊していた。そんな中から、
「おお‥‥ッ、村を救いに来て下さったのですな‥‥ッ」
村人の1人がよろよろと進み出た。老人だ。傍にいた女性が慌てて寄り添い、老人の肩を支える。
「どうかあの魔物を退治してくだされ!」
「それは勿論だけど」
老人の言葉に答えるように進み出たのはアシュレーだ。
「こっちも質問がある。5年前、この村でメリッサが何をしたのかな? 或いは、彼女に何かした?」
「‥‥‥ッ!!」
途端、村人達の顔がはっきりと強張り、警戒の眼差しを向けた。空気の変わった大人達に、子供達が怯えた眼差しを向ける。
村人達を見回し、冒険者達を見回して、老人は青褪めた表情のままきっぱりと首を振った。
「メリッサは5年前に死にました。死んだ者の事を今更お話ししても、お耳汚しに過ぎますまい」
「え‥‥でもメリッサお姉ちゃんは‥‥‥」
「子供が大人の話に口を出すでない!」
激しい老人の叱責に、言いかけた子供がふぇ、と泣き顔になった。何故怒られたのか解らず、ただその勢いの恐ろしさに恐怖している。
明らかに何かを隠している態度。険しくなったアシュレーの顔を、強い眼差しで睨むように老人は見返した。
「‥‥あれは魔物ですじゃ。確かに昔この村に居たメリッサに似てはいますが、死んだ娘の姿を写した偽者に過ぎませぬ。第一、魔物を従えて我らを傷付ける者が、人間だと仰るのか?」
「彼女は自分を、人間だ、と言っていたと聞きましたが」
「魔物ならば嘘も吐きましょう。どうかあの魔物を打ち倒し、我らに平穏を取り戻して下され‥‥それ以上は村の問題ですじゃ」
老人はアシュレーとシャルロットを見据え、きっぱりとした口調でそう言った。これ以上はお前らには関係ない、と。余計な事を嗅ぎ回らず、依頼だけをこなせ、と‥‥言外にそう言っている。
さすがにこの暴言に、聞いていた村人の何人かは焦った様子で、話した方が良いんじゃ、とヒソヒソ囁きあった。だがそれも、老人がきつい眼差しで睨みつけると小さくなって口を噤む。
これ以上、彼らと話していても有益な情報は得られそうにない。そう判断した2人は月影に守りをまかせ、メリッサを探して殺伐とした村の中を走り出した。
一方、先行した冒険者達は目に付いた魔物を退けつつ、メリッサを捜して村の中を駆けていた。
真っ先にウォルフの家を覗いたが見つからない。代わりに見つかったのは倒れ伏した彼の両親の姿で、咄嗟に駆け寄ろうとした少年を留めたアリシアが彼らの死を確認した。すでに冷たい――かなり前に殺されたようだ。まだ息があれば抜き取られた魂を戻せば助かるが、これでは。
さすがにショックを受けるウォルフを、引き摺るようにさらにメリッサの姿を探す。惰性のように何とか足を動かし、ついてくるウォルフに問いかける。
「ウォルフ君。お姉さんがなぜ自分の生まれ育った村を敵視して、カオスの手先に身を堕としてしまったのか、見当はついたかしら」
「わか‥‥解りません! 解らないけど、でも」
「でも?」
優しく尋ねるアリシアの言葉に、死んでいた両親の姿を思い浮かべながら少年は首を振る。
「思い出した事は、あります。前に村から人が居なくなった時、皆は必死に探したけど。5年前、姉さんが居なくなった時は誰も探さなかった」
きっと森で迷って帰れなくなったのだろう、諦めなさい、と姉が居なくなって泣き喚くウォルフに告げた両親の表情は思い出せないけれど。それはもしかしたら、姉の変容の理由に繋がるのではないか、と考えた事は、ある。
でもそれが一体何を意味するのか判らない、と首を振るウォルフに尋ねながら、メリッサの行きそうな場所を手当たり次第探し回り。
最後に向かった、森を望む村の外れに少女は居た。
「メリッサ‥‥ッ!」
怒声で呼ばれ、振り返る。振り返り、あら、と微笑んだ両手には白い玉。そして彼女の足元には力なく倒れ付した幾人もの子供の姿――何が起こったのか、聞かずとも答えは明らかだ。
だがそんな事は露ほど気にした様子もなく、メリッサは己を呼んだ相手に親しげに呼びかけた。
「やっぱり貴方が来たのね、冒険者」
「貴様‥‥ッ」
「ああ、コレが気になる? こんなの、ただの魂だわ。こうして全て吸い出して石にしてしまえば皆同じ、後は抜け殻が残るだけ」
言いながらメリッサは、オルステッドに見せ付けるように手の中の白い玉を閃かせ、空に向かって投げ上げた。構えていた魔物が翼を羽ばたかせてキャッチする。それを見届けもしない。
それらの行動に、はっきりと怒りを浮かべるオルステッドの顔を見て、嬉しそうに笑った。
「怖い顔。でも判りやすくて私は好きよ――ああ、ウォルフ。お前にはコレを上げる」
「‥‥ッ! 姉さん、コレは‥‥まさか‥‥」
「アハハッ、誰だと思う? 判るわよね? お前を心から愛してくれる、お前の父さんと母さんよ。ねぇ、こうして石にしてしまえば、本当に皆同じ。あいつらの魂は性根に見合ってどす黒いかと思ったのに、やっぱり白いなんて笑えると思わない?」
「ヒ‥‥ッ‥‥アアアァァ‥‥ッ!」
囁かれた悪意の言葉に、ウォルフの口から悲鳴が迸った。渡された白い玉を両手に捧げ持ったまま、目を見開いて全身を強張らせた弟に、メリッサが堪え切れないように大きく肩を震わせて哄笑を迸らせる。
ウォルフ君、と狂気の一歩寸前に居る少年の肩を、強く掴んでこちらに引き戻したのはアリシアだ。何度も呼びかけるうち、ようやく傍に居るアリシアの存在に気付いた少年は、だが正気付いた事で今度はガチガチ歯を鳴らして恐怖に身を震わせ始める。
そんな少年の肩をしっかりと抱き支え、アリシアは正面からメリッサをまっすぐ見つめた。危険かも知れない。だがどうしても聞き出さねばならない。
「あなたはどうして、それほどに村を憎むの?」
向けられたアリシアの言葉に、メリッサは鼻白んだように少し目を細め、腕を組む。
「ソレを知ってどうするの?」
「憎しみ合ったままでは魂は救われないわ」
それに、そんな結末はまさにカオスの魔物の望むところ。みすみすそんな結末を招く訳には行かない。
だが返ってくるのは、へぇ? と面白そうな、歪んだ笑み。クスクスと愉悦に満ちた笑い声は、驚くほど的確にこちらの神経を逆なでする。
「じゃあ貴女、もし私が『貴女の旦那をくれれば救われる』って言ったら、その通りにしてくれる訳? 随分心が広いのね」
「‥‥ッ!?」
「‥‥メリッサ、貴様‥‥ッ」
「ク‥‥ッ、アハハッ、その顔ッ! 冗談よ、決まってるじゃない。私だって要らないわ」
オルステッドとアリシア、2人からの視線を受けて、メリッサは楽しそうに高笑った。そこに含まれる明らかな悪意に、アリシアは表情を強張らせ、そんな妻を背に庇ったオルステッドは、はっきりとした怒りの表情で少女を睨み据える。
思っていた事だ――彼女は身も心もカオスの魔物に近い。カオスを我が君と呼び、カオスの考えに染まり、それに翻弄される人々に愉悦を覚える彼女は、たとえ肉体が人であったとしても、果たして人間と呼んで良いものか。
遅れてやってきた残る2人の冒険者も、メリッサの姿に険しい表情になる。そこに立つ少女はすでに、人と呼ぶのは難しい狂気を瞳に宿していた。
4人の冒険者の険しい視線を涼やかな表情で受け止めて、歌うように少女は紡ぐ。
「ねぇ、勘違いしないでくれる? 私は救われたいなんて思ってないし、自分が間違ってると思った事もない。そしてソレを貴方達に認めて貰いたいとも、許して欲しいとも思ってない――貴方達は我が君の前に立ちはだかる敵。そして私は我が君のために貴方達を排除する。ただそれだけの事だわ」
「フン、その通りだ‥‥」
戦う以外に自分達がする事があるのかと、あからさまな挑発を仕掛ける少女に答え、オルステッドが菊一文字をチャキリと構える。すでに温情を与える時は過ぎた。少女はそれを拒絶した。
ならば後は戦うのみ!
「行きなさい!」
少女が大きく手を振って、上空の魔物に命令した。森からもメリッサの声に従い、魔物が姿を現す。だが、それ程の数ではない。
シャルロットが襲ってきた魔物を打ち払った。アシュレーがダブルシューティングEXで上空の魔物を射落とし、オルステッドが切り捨てる。震えるウォルフをムーンフィールドで匿ったアリシアが、祈るように仲間を振り返った。
一体何が、彼女をこれほどに狂わせたのか‥‥その理由が聞ければ、この戦いは回避できたのか。だがそれがなせなかった今アリシアが願うのは、せめてあの少女に、この月精霊の輝きの下で静かな眠りを‥‥それだけ。
メリッサの全身が黒い靄で覆われたように見えた。デスハートンの発動、それを示す兆候に冒険者達は魔法抵抗を試みる。成功。少女が忌々しげに顔を歪め、再びの魔法を試みる。
今度は成功した。シャルロットの身体から煙のように抜き出た魂がたちまち白い玉となり、メリッサの手元に握られる。
「させないけどね!」
だがすかさずアシュレーがメリッサの手を射抜き、白い玉を取り戻す。飲み込むシャルロット。鮮血を滴らせたメリッサが、哄笑を弾けさせながら隠し持っていた短剣を抜き放った。
向かう先はオルステッド。
「アハハハハッ! どうしたの、この程度じゃ私は死なないわよ!」
「‥‥覚悟はいいか、ウォルフ! 例えどんな結末だろうとも、真実から目を背けるな‥‥!」
ムーンフィールドの中、怯える少年に向かってそう叫びながら、オルステッドは菊一文字を振りかざした。ニヤリ、と笑うメリッサ。短剣を振りかざして踊りかかってきた、彼女目掛けて白刃を振り下ろす。
ガキィッ!
刃と刃の噛み合う音がして、少女の手から短剣が弾き飛ばされた。だが怯まない。そのままの勢いで体当たりをかました少女に、一瞬息を詰めて衝撃を堪え、切り上げた刃を少女は転がって交わす。
シャルロットが加勢。それを目の端で捕え、少女は笑いながら身を起こし、土を掴んで投げつけた。同時に少女目掛けて打ち込まれたアシュレーの矢を、身をよじって回避するが。
「それで! 私を本気で殺すつもり!」
かわし切れず腿に矢を受け、それでも少女は凄絶に笑った。向かって来いと、それで終わる気かと挑発した。
ならば、後は討ち果たすのみ。
「‥‥覚悟‥‥!」
指輪のもたらす狂気のままに、容赦なく切りかかるオルステッドを強い眼差しで見つめ、少女がデスハートンを発動しようとする。だが詠唱が終わるより、当然ながら菊一文字の方が遥かに速い。
白刃が、吸い込まれるように少女の身体を切り裂いた。一瞬遅れ、パッと咲く鮮血。見開いた少女の瞳に映る感情は読めない。
グラリ、と傾いた姉の姿に、ウォルフが悲鳴を上げた。それを見て彼女は哂った。最後まで。
「ハ、ハハ‥‥冒険者‥‥我が君の、他に、貴方‥‥だけね。『私』、を、見たの‥‥は‥‥」
「メリッサ‥‥」
「あ、あ‥‥我が、君、我が君、我が君‥‥! どうか‥‥必ずや、この世界、を‥‥打ち滅ぼして、下さいませ‥‥!」
それが、カオスの魔物に忠誠を誓い、数多の命を摘み取った少女の末期の言葉だった。
メリッサ斃れる。
その知らせを聞いた村人達は、複雑な表情を浮かべながら自分達の命が助かった事を喜んだ。だが誰も目を合わせようとせず、やはり5年前の事を尋ねようとするとそそくさと逃げ出した。
生き残った子供達は、だが、多くの遊びを教えてくれた少女が居なくなった事を悲しんだ。特に幼い子供には、自分達が恐ろしかった事と、メリッサが結びついていないようだった。
村人を代表して礼を言いに来た老人は言った。
「本当にありがとうございました。後の事は、我々が致しますので」
あくまで詳しい事情は隠し通す姿勢に、正直、冒険者達の憤りを隠し通せるものではなかったが、それより先に怒ったのはウォルフだった。
「村長、どうして何も教えてくれないんですか!? この人達は村を助けてくれたんですよ、2度も!」
「それは幾重にも感謝しておる‥‥じゃがウォルフ、お前の父は言わなかったか。お前が知らなくて良い事もあるのじゃ」
「‥‥姉さんや、父さんや母さんまであんな事になっても?」
「必要ない。お前の姉は5年前に死んだ――お前の両親は魔物に殺された。それが真実じゃ」
その言葉に少年は唇をかみ締め、老人を睨み付けたが、それでも彼は何も言わなかった。
怒り、悲しみ、他の色々な感情に肩を震わせる少年の肩を叩き、「ウォルフさん、もし貴方が望むなら」と断ってシャルロットが言う。
「騎士団関係の従士として、私が雇い口を捜しましょうか‥‥この村に居るのは、辛いでしょう」
「そう、ですね‥‥」
力なく少年は頷いて、それからシャルロットに改めて「お願いします」と頭を下げた。本当に自分に出来るかどうか、考えなかった‥‥姉を、両親を、色々の事を思い起こさせるこの村に、今はどうしても居たくなかった。
そうしてウォルフを伴い、表面上は丁寧な村人に見送られて、割り切れない思いで村を出た冒険者達を、追ってきた人影があった。
「待って下さい!」
それは老人に話を聞こうとして拒絶された時、話した方が良いんじゃ、と囁いていた村人の1人だった。壮年の男だ。全力で追いかけて来たのだろう、ハァハァと肩で息をしている。
驚いた様に目を見張る冒険者達の前で息を整えた男は、辺りを憚る様にキョロキョロ人影を確かめた。確かめ、誰も居ない事を確認してもなお声を潜めて、待って下さい、ともう一度言う。
「村長が失礼を――迷いましたが、やはり皆さんには、少なくともウォルフには教えなければ、と‥‥今更ですが」
「それは、5年前の‥‥?」
確認すると、はい、と頷く。頷き、緊張した面持ちで冒険者を、ウォルフを見つめて、
「メリッサは、村中から虐待を受けていました」
「‥‥ッ!」
告げられた言葉に、ウォルフが大きく目を見開く。まさかそんな、と思い起こすのは居なくなる前の姉の姿――いつも微笑みを浮かべ、ウォルフの手を引いてくれた。
あの姉が、虐待を? だがそんな気配、ウォルフは微塵も感じなかった。姉弟なのに――共に暮らしていた、それなのに。
「どういう事、おじさん‥‥」
「ウォルフ、メリッサは本当はお前の姉さんじゃない。行き倒れた旅人が遺した赤ん坊だったんだ」
それは20年近く前の、ある冬の出来事。村の裏の森で、寒さと空腹で行き倒れた旅人の夫婦が見つかった。
彼らはすでに精霊界に旅立つ寸前だった。だが夫婦の執念か、妻が固く胸に抱いていた赤ん坊はまだ元気で。死の淵で「どうかこの子を助けて」と懇願され、断るのはあまりにも無人情な行いだった。
結果、その赤ん坊は子供のなかった若夫婦に預けられる事になった。だが託された若夫婦は困惑した。事情が事情とは言え、どこの誰とも知れない旅人の子供を我が子として育てろ、と言われたのは厄介事を押し付けられたも同然だった。
それでもどうにか育ててきたが、やがて実子を授かると、もともと望んだ訳ではない少女への感情は、どうして我が子でもない厄介者を育てなければならないのか、という苛立ちへ発展した。どこの誰とも知れない子供に良い感情を抱いていなかった村人も、一緒になってメリッサを厄介者扱いした。
あまり他所との交流を好まない風土が拍車をかけた。次第に感情はエスカレートし、人目を盗んで少女を殴る者も現れた。それを人々は、本来なら一緒に野垂れ死ぬはずだった赤ん坊を育ててやったのだから、と黙認し。
自然、メリッサは常に人々の顔色を伺って育った。その態度がまた苛立つと殴られ、次第に感情が死んでいく。すると今度は、何を考えているか判らない生意気な娘、と殴られ。やがてそんな事は関係なく、ただ彼女が存在する事が人々の虐待を誘う理由になり。
少しでも怒られないよう微笑みの仮面を被って殴られる少女と、自分達の醜悪さに気付きながら言い訳を塗り固めて殴る大人達の均衡は、5年前に終わる。一体何がきっかけだったのか、当時の不穏な空気に中てられた様な執拗な暴行に血を吐いた当時12歳の少女は、大人達の目を盗んで逃げた。森へと続く血痕が見つかった事から、あの身体では生き永らえるまい、と判断して。
「ホッとした、んだ」
彼女に暴行を加えた1人でもある男は、俯いて告白する。
「もうあの娘に酷い事をしなくて済むと思った。このまま死んでくれればこれ以上、自分達の醜さを見せ付けられる事はない‥‥そう思って」
だが彼女が成長した姿で現れた時、確信した。復讐に来たのだと。お前達が許されると思うなと、あの娘の目が言っていた。
でも過去の過ちを、過ちであったと認める事は、どうしても出来ず。
「ウォルフや他の子供達にはずっと秘密に――メリッサも、ウォルフに何かあれば殴られるから、いつもウォルフに気を使って距離を置いていた。お前が気付かなくても無理ない」
「そんな‥‥」
ウォルフは呆然と呟く。呟いて、今ようやく、姉の言葉を理解する。
かつて姉は言った――『あんたってホント、相変わらずおめでたいのね。愛されるのが当然で、与えられるのが当然で、助けてもらうのが当然で!』。ああ、そうだ、姉はそんなものは生まれた時から与えられなかった。彼女とは何の関わりもない事で、彼女は傷つけられる為だけに息をしていた。
そんな事に自分は何も気付かないまま、何も知ろうとしないまま、差し伸べられるべき姉の手が無くなった事を嘆いていた。姉が生きていると知ってからは、取り戻したいと願い、取り戻せると信じていた。当然の様に。いつか必ずそんな日は来るのだ、と。両親がいて姉がいて自分がいる、そんな当たり前の日々を取り戻すのだ、と。
何の事はない、それは総て幻だった。ウォルフは幻に焦がれ、現実を知りもせず、知ろうともしなかった愚かな子供だった。最初からそんなものはなかったのに――幼い日々に向けられた姉の笑みすら、彼女を守る仮面に過ぎなかったのに。
黙り込み、唇を噛み締め俯いた少年の、金色の旋毛をアシュレーは無表情に見下ろす。どうせ碌でもない理由だろう、と予想していたが。
「‥‥それを私達に告白して、あなた方は許されるつもりですか?」
知らず厳しい表情になったアリシアの言葉に、悄然と男は首を振り。
「ウォルフにはどうしても言っておかなければならない、と思ったのです」
彼から優しい両親を、姉を奪ったのは自分達。それだけは言っておかねばと思ったのだと、男は悲壮な表情で、何と言って良いか解らない少年に頭を下げた。
世界に復讐し続けた少女と、姉を取り戻そうとした少年の話は、ここで終わりだ。だが世界を巡る物語は、まだ終わりは見えそうにない。