お見合いバトル、勝ち残るのは誰だ!?
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■ショートシナリオ
担当:蓮華・水無月
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 49 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月20日〜03月23日
リプレイ公開日:2009年03月28日
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●オープニング
そろそろ春の声も聞こえ始め、昼日中には窓を開けていても暖かな日差しが感じられる様になった。
「もう春ですね」
「そうですね〜、お嬢様」
窓から見下ろす庭の様子を眺め、ローゼリット・ジュレップが呟いた。主の髪を梳りながら侍女のニナが頷く。
ちらほら早咲きの花も見え始めた庭ではローゼリットの弟アルスが遊んでいる。ここしばらく風邪を引いて外に出られなかった反動か、朝から外に出っぱなしだ。
もうそろそろ中に入るよう言わなければ、と考えたローゼリットの部屋に、珍しく母リディアが訪れた。慌てて礼を取ろうとしたニナに軽く手を上げ、ニッコリと娘に微笑む。
「ローゼリット、そなた、園遊会に行っておいでなさい」
「‥‥お母様? 園遊会とは?」
あまりにも唐突な言葉に、ローゼリットは首を傾げた。一体何を言い出したのだろう?
娘の反応に、ふふ、とリディアは微笑む。
「実はね‥‥」
「お見合い、ですか?」
冒険者ギルド、その受付カウンターにて今日もニッコリ営業スマイルを欠かさない受付嬢ティファレナ・レギンスは、だが言われた言葉にほんの少し首を傾げて問い返した。
そうです、と頷いたのはアリア・アル・アールヴ(eb4304)。冒険者ギルドに所属する冒険者だが、今日は依頼人として訪れている。
「天界流に言えば合同見合いコンベンション、略して合コンと言うべき物です」
「はぁ‥‥合同見合い‥‥」
聞き慣れない言葉にティファレナの戸惑いが深くなる。
アリアは冒険者ギルドに、貴族の子女たちが集まる園遊会への参加者を募りに来たのだ。そこまではまだ良い。珍しい依頼だが、全くないわけじゃない。
だが、その趣旨がお見合いで、しかも合同?
貴族の考える事って良く判らない、と思うティファレナに、アリアが『さもありなん』と頷く。
「こんな所で探すなんて変? 左様でしょうとも。実は‥‥」
「‥‥この頃は私達のように古くからの貴族だけでなく、一時の没落から再興した家や、騎士を輩出して引き立てられた家がある事は、そなたも存じているでしょう? それに色々と物騒な事も聞かれる事ですし、華やかな事は自粛せよ、とのお達しが当家にも来ています」
「はい、お母様」
リディアの言葉に、ローゼリットは頷いた。両親が不在の折は、ローゼリットが女主人代理として家内を取り仕切っている。当然その知らせも、ローゼリットの知る所だった。
娘の返事に満足そうに頷き、リディアは先を続けた。
「ですから、年頃の子女を持つ家が合同でお見合いを兼ねた園遊会を開く事にしたのです。これならば如何様にも言い訳が立ちますからね。ですからローゼリット、そなたもジュレップの娘として、園遊会に参加していらっしゃい」
「あたくしも、ですか?」
「ええ。そなたは下級とは言え貴族に名を連ねるジュレップ家を負って立つ娘です。この機会に良き殿方を見つけ、親しく縁を結んでおく事も、貴族の娘の大切な役割ですよ」
リディアの言葉は、ローゼリットが物心ついた時からかくあるべし、と言い聞かせられた言葉である。チラ、と庭で遊ぶアルスに目を向けたローゼリットは、判りました、と大人しく頷いた。もう数ヶ月で15歳になる彼女にとって、見合いの話は決して早すぎるものではない。
それからコクリ、と首をかしげる。
「ですがお母様。仮にも貴族の子女が集まる園遊会であれば、警備もそれなりのものが必要になるのでは? 幾らご参加のお家には騎士の方もいらっしゃるとは言え」
「勿論です。ですから‥‥」
「‥‥という訳で警備も兼ねつつ、各家同士でトラブルが起こらぬよう円滑に運営する為、冒険者に協力を仰ぎたい、と言う事なのです」
「つまり、サクラとして参加しつつ、何かあったら対処して欲しい、という事ですか?」
「まあそうなりますね。勿論、サクラではなく普通に参加して頂いても構いませんが」
ようやく理解の色を示したティファレナに、アリアは深く頷いた。成る程、と依頼書に羽ペンを走らせるティファレナ。
時折顔を上げ、要点を確認する。
「大まかな流れはもう決まってるんですか?」
「いいえ、特には。何か良い案でもありますか?」
「そうですね‥‥やっぱりお見合いですから、相手がどんな方か判るような催しなどがあれば良いですよね。ん〜‥‥障害物競走とか」
「障害物競走ですか?」
「困ってる時に助けてくれるかとか、頼りがいがあるかとか、家庭生活には必要じゃありません? それで、どうせだからペアになって、一番にゴールした人には賞品を提供したら盛り上がるんじゃないかと」
ピッ、と指を立てて主張するティファレナ、かなり大真面目に言っている。彼女にとって、貴族はたまに見かける程度の存在だし、どちらかと言えば貴族位も持つ冒険者などの方が身近な存在なので、貴族ってあんなものなんだろう、と思っている節があった。
ふむ、と少し、考え込む。今回参加するのは下級貴族や騎士がメインだが、中にはいかにも貴族らしい、たおやかな姫君や物腰柔らかな若君も居る。だが色々と不穏なこのご時勢、もう少ししっかりして貰いたいものだが、と嘆く親が居る事も聞き及んでいたりもする。
それに、ただの園遊会よりは(見ていて)面白そうだ。何かあれば参加した冒険者にフォローしてもらう事も出来る。
「それも面白いかもしれませんね」
「ですよね♪ じゃあそれで」
割と黒い笑みで頷いたアリアの、笑顔の下には気付かずティファレナはニッコリ微笑んで依頼書を書き上げ。
そして呟いた。
「自由参加、ですよね? 面白そうだし、貴族の園遊会なら美味しいお酒も出そうですし、私も参加しても構いませんか?」
「勿論、ご用意してお待ちしていますよ」
にこやかに微笑むアリア。この瞬間、妹を世界の中心の如く溺愛する男の参加が決定した事を、美味しいお酒で頭が一杯の彼女は知らない。
「ふ‥‥ふふふ‥‥ッ、合コンだと〜‥‥? チッ、俺の可愛いティーを弄ぶようなクソジャリどもは成敗してくれる‥‥ッ!!」
下級貴族・騎士らによる合コン園遊会開催。その話題を聞いたティファレナの兄グウェイン・レギンスは、ありもしない妄想で怒りに身を震わせつつ、参加を即決したと言う。
●リプレイ本文
各家の、特に貴族の子女が家の威信をかけ、或いは己のプライドをかけて飾り立てて挑んだ園遊会。事前手配に走り回ったアリア・アル・アールヴ(eb4304)の、あまりお偉方の目を引かないように会場は落ちぶれた上級貴族の屋敷を借りるとか、しかも値切り交渉の為に『○○氏協賛』的なPRもやりますと約束したりとか、ついでに手の空いている冒険者仲間に頼んだり、新人だが見込みのありそうな者に「パトロンを見つける良い機会」と囁くなどして当日の料理や飾る絵画などを用意して総費用は125G、まぁ奥さん何てお得! ‥‥といった苦労を総て水の泡にする、それはそれは見事な着飾りっぷりだった。
互いの懐事情など自分を省みればよく判る。が、そこで懐事情に合った身形をしていくなど愚の骨頂。例え何があろうと人前では体面を取り繕うのが貴族のタシナミというものだ。
燦々と降り注ぐ柔らかな日差しの中、あちらこちらで微笑みの仮面を被って親交を深めつつ、その実腹を探り合う令嬢達。一方、礼儀正しい物腰だがはっきり『獲物は何処だ』と背負っている子息達。応援でやって来た1人、フィリッパ・オーギュスト(eb1004)が苦笑とため息の間のような複雑な表情になったのも、ある意味カオスに似たこの情景を見れば無理からぬ事だろう。
そんな子女達の眼差しが、不意に現れた淑女の方に釘付けとなった。
「侍の鳳・双樹と言います。よろしくお願いしますね」
恥ずかしそうに顔を赤らめながらアシュレー・ウォルサム(ea0244)のエスコートを受ける鳳双樹(eb8121)だ。双樹はロマンスガードをばっちり身に着け、彼女の顔を美しく引き立たせるメイクは勿論マルチタスクな男アシュレーの逸品。そんな彼は魅惑のスーツに身を包み、小物類も完璧に整えて寄り添う2人はまさに無敵(?)。
「ふふ、双樹と今度はゆっくりデートできるね、楽しみ♪」
顔を覗き込みながら笑いかけると、双樹は恥ずかしそうにはにかみながら「はい」と頷く。アシュレーに誘われて参加を決めたけれど、合コンどころか男性と2人というシチュエーションがまず初めて。おまけにアトランティスに来たばかりで、気心が知れた相手も居らず。
故に多少顔のデッサンがデレッと狂ったアシュレーを見ながら、頑張って失礼のないように挨拶をして回る双樹の健気な姿に、参加した子息の目がキラーンと輝いた‥‥が。
「‥‥‥で?」
ドスの効いた笑みをアシュレーに向けられて、全員戦わずして敗北した。
そんな会場の一角のテーブルを占拠し、主に令嬢を集めて銅貨ゲームに興じているのがオラース・カノーヴァ(ea3486)。
(合コンはやっぱ特別だよな。ほんと、例え十人並みでもお持ち帰りできンなら‥‥)
遠い目になるオラース、多分玉砕経験アリ。上から下までばっちりキメてきた装いは勿論の事、名刺まで用意してきた辺り、彼が賭ける意気込みを感じさせる。己の連絡先や相手へのコメントを書き込む隙間まで空けてある芸の細かさは経験ゆえか。
ゲームに集まった参加者達の心をお喋りで解きほぐしつつゲームに興じる。順番に出した質問にYesなら銅貨を表、Noなら裏にしてハンカチの下に入れ、誰のものか解らないようにして結果を楽しむ、と言う単純なゲームだが、これが結構面白い。
ちなみに「○○○○は経験済み」という質問には全員が表だった。え? とさすがに意外な顔になるオラースをよそに、当然よね、と顔を見合わせて頷き合う子女達。伏字には好きな文字をどうぞ。
そんな様子を含め、手配に不備がないか見て回るアリアの傍には、合コン参加のためはるばるやって来たリマ・ミューシア(eb3746)の姿がある。最初は積極的に仲間や参加者に話しかけていた彼女だが、今は小休止‥‥と見せかけて姿を消しては会場を引っ掻き回していたり。
時々参加者が彼女の元にやって来ては「リマさん、園遊会を一緒に過ごしてくれませんか」と申し込みに来ては、丁重に断られて去っていく。一応お見合いが趣旨の園遊会で、最後まで相手が居ないのでは格好が付かない。しかも翌日の競技はペア必須。
次第に子女達にも余裕がなくなってきたようだった。
園遊会2日目。主催によって色々と、そりゃあ色々と趣向を凝らして設置された会場は、今や遅しと参加者を待ち受けていた。
今回用意されたコースは2つ。1つは簡単な謎解きや障害などはあるが時間をかければ誰でもクリア出来るデートコース。そしてもう1つは難易度も高ければ罠もたっぷり、地獄コースである。
真っ先に地獄コースに突っ込んだのは筋肉自慢の騎士のペア。半ば相手の事など忘れてウィニングロードをひた走‥‥ろうとした3秒後、2人揃って落とし穴に沈没。中にはご丁寧に泥が詰めてあったりする。
「あ〜あ、足元はちゃんと見ないとねぇ」
「大丈夫でしょうか‥‥」
「ん、大丈夫。双樹の事は俺が守るからね」
答えにならない答えを返す、地獄コース製作者兼解説アシュレー。ぎゅむりと相方の双樹に抱きついてみたりして、抱きつかれた双樹は「はわわ」と真っ赤に‥‥あの、仕事して下さい(ぁ
さて、落とし穴を乗り越えても試練はまだ続く。巧妙に隠された縄に足を取られるものがいれば、ヒュンッ! と目の前を飛んでいった銀色の何かに足をすくませ冷や汗を垂らすものも居て。
「ちなみに、カオスの魔物に有効な武器はな〜んだ?」
「銀‥‥」
そんなタイミングで出された質問に、引きつりながら答える子女。ていうか今! 今目の前飛んでったアレは!?
隣のデートコースから様子を見ていたリマは、一緒に回るアリアに「行ってまいりますわね」と声をかけ、魔法で姿を消した。心得たアリアもさもリマが隣に居るかのように振舞う――簡単に言えばリマのアリバイ工作。その間に彼女は姿を消して参加者を翻弄する算段だ。
(ごめんあそばせ♪)
「ヒィィ、何か飛んできたぁッ!?」
「足、足が動かないわッ!」
スカートに隠した各種スクロールを駆使し、会場に混乱と阿鼻叫喚の渦を巻き起こす彼女の姿は、もし見えていれば恐怖の対象になったか、或いはアブナイ崇拝の的になった事だろう。
「ところでアシュレーさん。しょうがいぶつきょうそう、ってかけっこのようですが、それだとなんで罠とか必要なんでしょう?」
「そりゃ見てて楽しくないからねぇ。双樹、参加したかった?」
「い、いえ‥‥興味はありますが参加は怖いのでアシュレーさんと一緒にいます」
「ん、双樹はいい子だねぇ」
などと完全に解説の役目を放棄してストロベリィな空間を形成している2人は放って置いて良し(ぁ
さてそんな中、罠に引っかかった参加者を(命に別状がなさそうな者は)横目で眺めつつ辺りを警戒して回っていたオラースは、前方で腰砕けになりながら必死の形相で進んでいる女性に気が付いた。美味しいお酒を目当ての冒険者ギルドの受付嬢ティファレナ・レギンス、本日は有給。
意外な所で運が良い彼女、どうやら罠にも引っかからず何とか中盤まで辿り着いたらしい‥‥が、すでにボロボロ。色んな意味で。
「うっ、うっ、何で障害物競走がサバイバルに‥‥」
泣きながら、言い出しっぺとして責任は取らねばなるまい、と決死の覚悟で進んでいる。何の責任なのか、それは彼女自身にも解らない。
「ティファレナ?」
「オラースさん‥‥ッ」
さすがに見かねて声をかけると、気付いたティファレナがへなへなと座り込んだ。緊張の糸が切れたようだ。
こんな様子を見せられて、黙って立っていては男が廃る。オラースはすかさずティファレナを助け起こし。
「大丈夫か?」
「すみません、ご迷惑をお掛けして」
「気にすんな。女の子には傷一つつける訳にはいかねぇだろ」
「コラァッ、そこのオラース! テメェの悪行はこの目で見届けたぁ!!」
変なのが出た。
オラースとティファレナは、同時に声の方を振り返り、そこに居るモノを見て同時に目を逸らした。見ない方が良かった。むしろ見なかった事にしたい。
だがソレはますます大声を張り上げる。
「今すぐティーから離れやがれッ! そんでオレに成敗されろコラァッ!」
「‥‥‥‥兄さん」
心底嫌そうに顔を顰めたティファレナが呟いた。他人のフリをしたい気持ちで一杯だが仕方がない。
妹の呼びかけに、兄グウェインは嬉しそうに応える。
「お兄ちゃんが来たからもう安心だぜ♪」
むしろ不安になった彼女は何か間違っているだろうか?
怪しさ満点のグウェインに、オラースが嫌そうな表情で剣を構えた。するとティファレナを背に庇う様な構図になる。
ピクリ、とグウェインの殺気が膨れ上がる。それを感じ、オラースもニヤリと口元を歪めた。この前の依頼でグウェインをからかった、決着はまだ。
ならば今、その決着をつける!
「オラース、覚悟は良いか!」
「そっちこそ、痛い目見ないうちに引っ込んだ方が良いんじゃないか!」
叫びながら、動いたのは同時だった。ガキィッ! 剣と剣がぶつかり合う音。超越級のオラースの腕に、グウェインが食いついているのは一重に妹への愛ゆえ。
バッと離れ、両者再び剣を構えて互いの隙を探る。少しでも油断を見せればやられる、そんな緊張感。それを、
「あまり自分の気持ちを相手に押し付け過ぎるのはよくありませんわよ! ローリンググラビティー! そしてフィルフィス!」
「おわあああぁぁぁッ!?」
叫びながらいきなりローリンググラビティーをぶっ放したリマがぶち壊した。グウェインの身体は一瞬のうちに遥か上空へと運ばれ、即座に落下する。ドーンッ! と派手な激突音。もうもうと巻き起こる土埃。
さらに呼ばれた駿馬フィルフィスがリマの意思を正確に汲み取って、蹄の音も高らかに何処からか駆けつけた。ヒクヒクと蠢いているグウェインにパカーンと一発蹴りを入れ、またどこかへと駆け去っていく。
インビジブルで姿を消していたリマが、効果が切れて姿を現した。が、土煙が良い具合に他の参加者から彼女の姿を隠している模様。それに紛れるように意識朦朧としたグウェインに駆け寄り、さらに魔法を放とうとしたが、不意にリマは動きを止めた。
「いー加減にして下さい!」
ぶち切れたティファレナの怒号が響いたからだ。
彼女は額に青筋を立て、ずんずんずんと兄の下に歩み寄った。ティー、と顔を輝かせるグウェイン。そんな兄にビシッと指を突きつけて、ティファレナは力強く言い放つ。
「絶交です!」
「な‥‥ティーッ!?」
「一体どれだけ人様にご迷惑をかければ気が済むんですか! もう我慢出来ません、ええ出来ません!」
「‥‥ティファレナ殿の堪忍袋の緒が切れましたか」
「そのようですわね、アリアさん♪」
隣のコースから面白そうに眺めるアリアに、リマがパッと表情を明るくした。彼らの目的はイベントを盛り上げる事で、事態を収拾する事ではない、多分(ぁ
様々な好奇の視線を受け、だがそれに気付かずティファレナは怒りの表情でクルリと兄に背を向け、気勢を殺がれて成り行きを眺めていたオラースの前にツカツカ歩み寄った。
「行きましょう、オラースさん」
「あ、ああ‥‥?」
「ティーッ、待てッ、話せば解る‥‥」
「口も利きたくありません!」
鼻息荒く言い捨てて「さあッ」とオラースの腕を掴み、引き摺らんばかりの勢いで歩いていくティファレナに「お気をつけて」とにこやかに見送ったアリアとリマは、残されたグウェインへと視線を戻し。
「完敗、という所ですか」
「ティーッ、俺の何が不満なんだーッ」
「そういう無粋な所だと思いますわ♪ あら、次の方々が来られたようですわ。いま少し、スリリングにして参りますわね♪」
「お気をつけて」
傷心の男を容赦なく叩きのめした後、2人は更なる標的へと狙いを定めた。再び姿を消して行動し始めたリマを、さもエスコート中であるかのようにアリアが装う。
まだまだゴールは遠いようだ。
さて、紆余曲折を経た障害物競走は、結局オラース&ティファレナ組が優勝した。冒険者ですら突破するのは困難と思われるアシュレー謹製の地獄コースを、そんじょそこらの貴族の子女や新米騎士が突破出来る筈がないとも言う。
一方、デートコースは地道に堅実に歩を進めたローゼリット&ディクセル組が制し。最終日の今日、ダンスパーティーに変更となった会場で、アリアから進呈された賞品を身に着け、音楽に合わせてワルツを踊りながら友情を確かめ合っていた。
他の参加者達も、どっちかと言えばレースよりこちらの方が本領発揮、とばかりに微笑みながら音楽に身を任せる、その楽団に紛れているのはもちろんアシュレー。マスターウィルは世界を制す(何
そんな会場の、双樹が真っ赤になりながら一生懸命周りに挨拶している姿とか、今度こそとリベンジを試みる子息達とか、涼しい顔でヴァイオリンを弾きながら射る様な眼差しで何かを投擲したアシュレーとか、上機嫌で会場に用意された美味しいお酒を飲んでいるティファレナとか、何か流れでそれに付き合っているオラースとかを見たリマは、ようやく目的の人を見つけて顔を綻ばせた。
「アリアさん!」
「リマ殿」
呼びかけられたアリアが振り返り、昨日の疲れを労わる言葉をかけると、ニッコリ笑ったリマは「とても楽しかったですわ」と首を振る。首を振って、すっと右手を彼の方へと差し出す。
イタズラっぽく瞳を輝かせた彼女に、心得たアリアはその手を取って、会場の踊りの渦の中へと紛れ込んだ。陽動のみならず、実は本物のカップル成立にも暗躍していた2人だが、彼ら自身はこれからだ。
そんな会場の中で、ちゃんとお仕事も! と辺りを警戒しながらも、ちょっぴり寂しい気持ちで楽しそうな人々を見守っていた双樹は、トントン、と肩を叩かれて首をかしげながら振り返った。
と、そこには
「かわいいお嬢さん、私と一曲踊ってもらえますか?」
「アシュレーさん? え、でも、音楽はまだ続いてますよ?」
「代わってもらってきた。双樹と踊りたかったからね‥‥で、返事は?」
そんな事を言われたら、ただでさえ免疫のない双樹に太刀打ちする術はない。ダンスは苦手で、と呟いた言葉照れ隠しの響きを持っていて、それも「リードするよ」と微笑まれて終了。
聖夜祭の折にステップから叩き込まれ、それを実行出来るだけの運動神経を持つアシュレーだ。覚束ない足取りで一生懸命踊る双樹を優雅にリードすれば、そのうち周りからも視線が集まってくる。
だが楽しいひと時も、やがて終幕の時を迎え。
「最高に楽しかったですわ、機会があれば是非またわたくしをお誘い下さいましね」
ワルツの終わり、そう囁きながらアリアの頬にすっと撫でるように口付けた、リマの姿に他の参加者は気付かなかったのか、見てみぬフリをしてくれたのか。
後日、参加した子女達の親からアリアの元に、良くやってくれた、と大変丁寧な感謝状が届いたと言う。