花愛でる精霊の祝福‥‥?

■イベントシナリオ


担当:蓮華・水無月

対応レベル:8〜14lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 83 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月27日〜03月27日

リプレイ公開日:2009年04月04日

●オープニング

「花見とやらをするぞ」

 冒険者ギルドに現れたその人は、つかつかつかと真っ直ぐギルドマスターの所まで歩いていくと、前置きも何もかもすっ飛ばしてそう言った。そりゃあもう、堂々とした男らしい宣言だった――女性だったが。
 セルラッティーナ・バルグスタッツェ。右耳の下で結った朱金の髪は胸の下まで緩いカーブを描き、平時でも胸当てと腰に下げた長剣だけは何があっても離さない、王宮勤めの麗人である。然しながら戦場では勇猛果敢に敵に挑みかかるその姿に、一部では『麗しの女将軍』と呼び慕う部下多数。
 そんなセルラッティーナの訪れに、彼女の親友であるギルドマスターことステファン・バールは満面に笑みを湛えて両腕を広げ、歓迎の意を表した。

「やあ、ラッティ! 今日も美しい」
「うるさい。貴様は相変わらず頭が弱いのか」
「君の美しさの前ではどんな男も愚かになるものさ」
「‥‥ギルドマスター、寒いです」

 冷静に突っ込みを入れるラグス・ディナン、ギルドマスターのパシリにしてシシリー・トラスの下僕。多分この場は自分が話を進めないと駄目なんだろうな、と早くも迷走し始めた2人の会話にため息を吐く苦労人でもある。
 何はともあれ2人にハーブティーを出し、ステファンの口にはお茶請けのパンを突っ込んで黙らせておいて、セルラッティーナに向き直った。

「‥‥で。花見ってなんなんです?」
「うむ。何でも聞いた所に寄れば、野山で花を愛でながらダンゴなる食物を投げ合い、口で受け止め食す事に成功したものには精霊が幸運を授けてくれる、天界の神聖な行事らしい」
「はぁ、天界の行事、ですか‥‥」

 随分変わった行事だな、と思いながら相槌を打つラグス。何だか良く判らないが、彼女が言うからにはそういう行事なのだろう。
 口一杯に詰まったパンを咀嚼しながらもごもご言っているステファンにはチラリと冷たい視線を向け、真面目な表情で麗しの女将軍は言葉を続けた。

「昨今、余りにも不穏な情勢が続いているからな。ここは一つ、何か部下達の士気を上げる催しを行いたいと思うのだ。そこで冒険者諸氏にも知恵を借りたいのだが」
「ああ、それは良いですね。冒険者の中には天界から来られた方も居ますから、より本格的な花見が楽しめるかもしれません」
「うむ、私もそう思ってこうして足を運んだのだ。催し当日は是非、冒険者諸氏にも参加して、戦いを通じて部下達を鼓舞してやって貰えれば嬉しい」
「‥‥戦い?」
「ダンゴを投げ合って戦うのだろう?」

 思わず首を傾げたラグスに、当然のようにセルラッティーナ。え、花を愛でる部分はどうなったんだ?
 しかし自信満々に言い切るセルラッティーナを見ているうち、何となくラグスもそうなのか、という気分になってくる。それを悟ったのか、セルラッティーナは満足そうに頷いた。

「では依頼書の方は頼むぞ。何、貴様が多忙ならばそこの5股男を使え。私が許可する」
「モゴモゴ‥‥プハッ、ラッティ、君は誤解してるんだ! 私が愛しているのは君だけで、ジュディもローラもカリンもアンナもエルザもただの友人なんだよ!」
「‥‥‥私が言っているのはミッヒとリンダとセラとレイラとターニャの事だが?」
「‥‥‥‥ギルドマスター、幾ら自称『恋多き男』とは言え、10股は人としてどうかと」
「‥‥‥‥‥」

 双方から冷たい視線を受け、全力で目を逸らすステファン・バール。彼の手からは常時、赤い糸があちらこちらへ伸びている。
 そんな友人の姿に「貴様は相変わらず女にだらしがないな」と全力で蹴り飛ばす朱金の髪の女将軍の姿は、冒険者ギルドの職員にとってはすでに馴染みの光景だったりした。

●今回の参加者

アシュレー・ウォルサム(ea0244)/ 風 烈(ea1587)/ ルイス・マリスカル(ea3063)/ アルトリア・ペンドラゴン(ec4205)/ 村雨 紫狼(ec5159)/ 長曽我部 宗近(ec5186

●リプレイ本文

 そこはメイ郊外の、とある野山だった。普段ならそれほど近付く者も居らず、柔らかく芽吹いた草木や綻び始めた花蕾など、静かな訪れを感じさせる春を楽しむのは、辺りに住み着いている動物達や、僅かに訪れて風雅を楽しむ人々のみ、なのだが。

「いいか貴様ら!」

 なぜか今日、そこには勇ましい口調のよく通る女性の声が、響き渡れとばかりにこだましている。

「こうして冒険者諸氏が、貴様らの為にわざわざ集まって下さった! このご恩をしっかと胸に刻み込め!」
「はい、将軍!」
「冒険者諸氏の胸を借りるつもりで存分に戦い抜け! 貴様らの誇りを忘れるな!」
「はい、将軍!」

 勇ましく叫ぶ朱金の髪の麗人の前には、直立不動で一列に並ぶ14人の男の姿がある。一言毎に踵を鳴らし、女将軍セルラッティーナ・バルグスタッツェに敬礼する男達は、どんなに好意的に見ても一端の軍人。よく訓練されているのが一目で判る。
 というか。

「これ、お花見だよね」
「そうね、ステキな筋肉ね。うふ、あたしの故郷・日本には男の中の男を『男悟(ダンゴ)』と呼ぶ風習があるの」

 半眼でむくつけき男達を見やるアシュレー・ウォルサム(ea0244)に、目をハート型にしながら全く違う答えを返す長曽我部宗近(ec5186)。何かを感じたアシュレーが、すすす、と彼から離れていったのも気付かず、キラキラ瞳を輝かせながら筋肉軍団に熱い視線を注いでいる。
 ひょい、と別の方を見やれば、一体どんな伝手を使ったものか、臼ともち米を用意した風烈(ea1587)がしっかりと腰を入れて杵を振るっていた(腰が甘いとぎっくり行くので注意)。
 彼の故郷・華国では、花といえば桃、そして花見といえば酒でも飲みながら桃の花を見る事を指す。そんな文化で生まれ育った烈には、さすがに今回の団子投げは少し奇異に思えたのだが、

(所変われば団子を投げ合ってその年の収穫を占ったりする所もあるのだろう)

 そう思い直し、手ずからもち米を蒸して杵を振るい、団子投げの準備をしているのである。ちなみに餅つきに重要な合いの手は、多分誰か黒子が勤めている。と言うかそういう事にして置いて下さい(ぁ
 その横ではパスタ生地の応用でダンゴの代替品を作成するルイス・マリスカル(ea3063)の姿があった。お料理上手でもある冒険者は、今回も新たなレシピを思いついた様子。
 作り方は簡単、大量の小麦粉に水と塩と少量の蜂蜜を混ぜて練り込み、手ごろな大きさに丸めるだけ。そのままの色味では華やかさに欠けるので、マグワートなどのハーブで緑に染めたものや、そこらに咲いている赤い花の汁で染めたものなど、彩りも鮮やかに。後は茹でれば完成だ。
 さらに別の方を見やれば、うんざりした表情の村雨紫狼(ec5159)の姿があり。

「つか、何でもかんでも地球の知識を曲解すんなよ‥‥ぜんっぜんチゲーじゃねーかよっ!」

 過去のチキュウ文化に由来するトンデモ依頼を思い起こし、遠い空の彼方を見つめた彼の絶叫は、残念ながら部下を激励するのに熱心なセルラッティーナと躍動する筋肉に見とれる宗近、そしてダンゴ準備に勤しむ烈とルイスの耳には届かなかったようだ。
 ちなみに後1人、男だらけのこの場にあって希少な女性参加者も居たのだが、何か急用が出来たものか、或いは身の危険を感じたのか、本日は来れないとの連絡があったようだ。その知らせを携えてやってきたステファン・バールは、本気で、心底残念そうだった。

「せっかく綺麗なお姉さんと親しいお友達になるチャンスだったと言うのに」
「多分そういう貴様の邪念が伝わったんだろう」

 いつものようにステファンを蹴り飛ばしながらセルラッティーナがひどくもっともな突込みを入れたが、それはそれで置いておくとして。

「ノルマンでは、投げて食べるような事はしなかったけどなぁ」

 この前にもジ・アースの方でお花見に参加してきたアシュレーは、そう呟きながら首をひねる。食べ物を粗末にするのはもったいない、と言う以前に作物を作った農家の皆さんに土下座して来い、と小一時間ばかり正座で言い聞かせたい気持ちで一杯だが、

「花見の中、団子を投げ合う人間がいてもいい。自由とは‥‥そういうことだ」
「ジャパンの花見とは違うようですが、チキュウではそんな感じなのですかね」
「ま、踊る阿呆になんとやらじゃん」
「うふ、あたしも参加するわ。神聖な儀式だから、気合いれてちょーだいね☆」

 他のメンバーはしっかりやる気だった(除くステファン)。ちなみに若干1名、別の意味でもやる気に満ちてらっしゃる模様。すささささ、とさりげなく距離を取る男達である。いや、他意はないですヨ?
 そんな訳で、セルラッティーナにはぜひちゃんとした花見をレクチャーしなければ、と決意も新たにするアシュレー・ウォルサム。だが動き出そうとした寸前、グッ、と誰かに肩を掴まれた。

「‥‥‥ステファン?」
「ちなみにラッティは私の親友だから」
「意味わかんないんだけど」
「いやいや、まあまあ」

 意味の分からない事を言いながら、日頃のソロバン技術で鍛えた指先を存分に駆使するステファン・バール、通称冒険者達の若旦那。こんな人だが冒険者ギルドのギルドマスターだ。こんな人だが。心からすみません(土下座)
 そして、そんなステファンに捕まったアシュレーは、多分今一番の不幸人と言える。珍しくそんな役回りだ。
 おかげでセルラッティーナに『正しいお花見の仕方』をレクチャーする時間もなく、冒険者達の様々の思いと共に、対抗ダンゴ投げ花見大会(何)は始まった。





 先陣を切ったのは、セルラッティーナ率いるメイディア王宮所属部隊(有志参加)である。

「かかれ!」

 朱金の髪をなびかせた女将軍の号令の元、14人の部下達は一斉にダンゴを手にしたまま走り出した。一糸乱れぬ動きで素早く草原に展開し、取った陣形は鶴翼。簡単に言えば、V字型に並んで突撃し、冒険者達を間に挟み込む戦法。
 対する冒険者達もそれぞれにダンゴを構えながら、油断なくセルラッティーナ軍の動向を窺う。戦う際には上半身裸になるのがチキュウの流儀だ、と言うチキュウ出身の宗近の進言により、半裸の男達が睨み合うという大変むさく‥‥失礼、スリリングな光景が展開されていた。

(本当は褌一丁の方が良かったんだけど)

 この異界のごとき光景を前に、1人ご満悦の宗近がそんな事を考えていたのを、他の者が知らずに済んだのは幸いだ。まさに精霊の思し召し、と言うやつだろう。若干1名、何かに気付いてしまった同じチキュウ出身の紫狼は何か言いたそうだったが、ギロリと睨まれて口を噤む。幾らなんでも命は惜しい。
 こちらの先陣を切ったのは人呼んで『爆裂旋風』、風烈である。まずは見た目で圧倒すべく、用意した穂先を取った短槍の柄に人の頭よりも大きなダンゴを串刺しにした『串団子』で、薙ぎ払いの構えで飛んできたダンゴを打ち返した。ゴッ! と硬い音。

「ク‥‥ッ」
「食らえ! 将軍に蹴飛ばされながら作った特製ダンゴ砲弾!」
「ええい、貴様、余計な事は言わんで良い!」
「はい、将軍!」
「これは‥‥破壊力を高める為、練った小麦粉を乾かして固めてありますね」

 烈の弾き返したダンゴを拾ったルイスが、そんな風に分析する。この競技、確か当初は飛んできたものを口で受け止めて食べるのが目的だったはずだが、すでに参加者の記憶の中からは消え去っている模様(記録係を含む)。
 大きさにして直径5センチ程度の玉だが、職業軍人が全力で投擲してくれば、そりゃあ当たれば痛いだろう。だが彼らの警戒もむべなきかな、相手は冒険者の一団なのだ。

「戦いの1つの真理を教えてやろう、でかいという事は唯それだけで脅威であるということを」

 静かな面持ちでそう宣言し、背後に用意した投擲用の巨大な、そう、直径10センチはあろうかと言う巨大なダンゴを素早く掴むと、剛肩を思う存分振るってセルラッティーナ軍に投げつけた。こちらはいわゆる普通の、正当なダンゴであるが、何せ大きさが半端ない。しかも投げたのは歴戦の冒険者。
 ベチャッ! とかなり痛い音がして、巨大ダンゴを顔面で受け止めた男の一人は、その衝撃と、恐らく勢いのあまり潰れたダンゴに顔を覆われた呼吸困難でばたりと後ろに倒れ込んだ。

「衛生兵! 残りは速やかに陣形を整えよ!」

 麗しの女将軍の指示に、よく訓練された動きでセルラッティーナ軍(現在13名)は素早く体勢を整える。流石は職業軍人、良くも悪くも隙がない。
 全員手に手に小麦粉を固めたダンゴを持ち、鶴翼の陣形のまま冒険者側に押し寄せてくるのを、ルイスと紫狼がパスタ生地ダンゴで応戦する。こちらは直径3センチ程度と、大変常識的かつ良心的な大きさだ。当たれば痛いのに変わりはなかろうが。
 パスタ生地ダンゴも巨大ダンゴも、戦い抜くに十分な量を作成してある。まして投げるのが冒険者とあれば、勝負は見えたか‥‥と思われたが。
 ふっ、とセルラッティーナが不敵に微笑んだ。

「貴様ら! 訓練の成果を見せる時は今ぞ!」
「はい、将軍!」

 麗しの女将軍の号令に呼応し、部下達は一斉にあんぐりと口を開いて投擲されたパスタ生地ダンゴを迎え撃った。ルイスと紫狼の投げたパスタ生地ダンゴは次々と、部下達の口の中に吸い込まれていく。

「見たか、我らの実力を!」
「はい、将軍!」

 この光景に、さすがにガクン、と冒険者達の顎が落ちた。何このある意味シュールな光景。
 ステファンが1人、嬉しそうに頷いた。

「さすがラッティ。どんな戦いにおいても全力を尽くして敵を迎え撃つ、それが彼女のモットーだ」
「いや、だからこれ、お花見だよね‥‥」

 1人突っ込むアシュレー・ウォルサム、なぜか今回こんな役回り。ちなみに彼のみが唯一、やっぱり食べ物を粗末にするのはなー、と投げられた小麦粉ダンゴはしっかり避けながら木串を構え、

「死ぬ気で避けないと怪我するよー」

 超越級のシューティング技術を余す所なく駆使し、COもフル活用して、目にも留まらぬ早さでシュパシュパシュパッ! と投げている。って言うか当たったら怪我じゃ済まないと思います。
 この思わぬ攻撃に、セルラッティーナ軍はさすがに陣形を乱した。定石ならば盾で攻撃を弾き、相手の矢(この場合は木串)が尽きた時を見計らって仕掛ける。だが今は盾がないどころか、上半身裸という無防備極まりない姿。
 間断なく飛んでくるダンゴと木串、双方に翻弄されてさらに3人の部下が倒れた。不利を見て取った女将軍は素早く次の指示を出す。

「散開!」

 号令と共に10人の部下は素早く草原に散った。とは言え、無秩序に逃げ惑っているのではなく、彼我の間合いを見極めながらの散開である。的が散った分、攻撃は不利かもしれない。
 それでも、冒険者の攻撃は概ね当たれば一撃必殺。だが小麦粉ダンゴを投げてくる部下達を隠れ蓑に、ダンゴと木串を投げて応戦する冒険者に肉薄する、朱金の影!

「覚悟!!」
「な‥‥ッ!」
「セルラッティーナさん‥‥ッ!」
「むっちゃやる気満々じゃねぇかよーッ!!」

 低い体勢から素早く投げ放たれた小麦粉ダンゴに、ついに紫狼が犠牲になった。残る面々は何とか避け切るが、その頃にはセルラッティーナは部下の向こうに退いている。背後の女将軍を庇う様に、礫のごとく小麦粉ダンゴを投げ続ける部下10名。

「ああん、イイわ〜! そう! もっと胸を張って!! 美しく踊るようにポーズを決めて〜!!!」

 むしろ自らが踊るように身悶えながら、躍動するむさく‥‥失礼、鍛え抜かれた筋肉を観賞する宗近。だがセルラッティーナ軍の本気の猛攻は、冒険者達に邪念を感じ取る余裕をなかなか与えない。

「俺がそっちを抑えるから向こうは誰かが」
「私がお相手しましょう」
「では俺は様子を見て援護する」

 言葉短かに分担を決め、各々の敵に向き合う冒険者。史上稀に見る、前代未聞の決戦はまだ幕を開けたばかりであった。






 勝敗は、結果的には冒険者達の圧勝で決した。もっとも、最後の1人が草原に崩れ落ちた時には双方色んな意味で疲れ切っていて、もうどうでも良くなっていたのだが。
 そんな訳で、戦いの幕が下りた今は草原に腰を下ろし、親しく酒を飲み交わしていた。

「だからさ、本来の花見って言うのはダンゴを投げるわけじゃなくてさ」
「なんと、そうだったか。確かに奇異な儀式だとは思っていたが、友人から聞いた事でもあるし、天界の事だからそんなものだろう、と思っていた」
「だからお前らは地球をどーゆー所だと‥‥」

 ようやく落ち着いた所で、セルラッティーナに正当な花見を教授するアシュレーに、ポン、と膝を叩いた女将軍はからりと笑う。酒のあてとして彼らがつまんでいるのは、たった今投げあったダンゴの数々。「もったいない」というアシュレーと紫狼の主張により、草原には簡単ながら布が敷き詰められていたので、概ね無事である――若干暴投やらホームランやら(何)で食べられなくなってしまったものもあったが。
 車座になって人々が座る傍らには、ルイスが持参した桜の盆栽が可憐な花びらを震わせている。辺りには名も知らない花があちこちで蕾を綻ばせているが、やはり花見といえば桜。誰にとってかは聞いちゃいけないお約束。
 別の場所では、昏倒から復帰したセルラッティーナの部下達が、「潔く散る花の様に、男ぶりを誇示しあう祭り『覇名魅』が転じて『花見』になったって某ミンメー書房に書いてあったのよ〜」とホクホク顔で大嘘を語る宗近に、そうだったんですかぁ、と戦いの気迫も抜けた気軽な感じで頷いている。て言うか、ますますチキュウの文化が曲解されて伝わるような‥‥

「もちろんウソじゃないわよ〜、ねえ?」

 睨まれました、すみません。
 一方の烈は、少し離れた所でそんな様子を見るともなく眺めやりながら、黙々と酒を嗜んでいた。ダンゴを投げ合う花見も一つの文化だろうが、彼にはやはり、こうして心静かに花を眺める花見の方が性に合っているようだ。

「ルイス、その桜吹雪は?」
「この刀です。一瞬の幻影ではありますが、なかなか風流でしょう?」

 言いながら日本刀「花霞」を魔力を込めて振り下ろせば、ハラハラ舞い散る桜吹雪の幻影。それに気付いたセルラッティーナ達が目を細め、綺麗なものだ、と呟いた。
 なぜかまだ居るステファン・バールがすかさず口を挟む。

「ラッティ、君の方が遥かに綺麗だよ」
「うるさい。ステフ、本当に貴様は頭が弱いな」
「ところで優勝賞品はラッティの投げキッスだったと思うんだが」
「了承した覚えはないな」

 あっさり一蹴された。て言うか、せっかくの花見の良い雰囲気が台無しだ。
 とは言えいつものやり取りなので全く気にした様子もないステファンの傍に、すすす、と近付く美女が1人。

「あたしはどうかしら?」
「勿論君も美しい! 誰か知らないけどそんな事はこれから知り合いになっていけば良い訳で、まずは君のお名前は?」
「酷いわ、覚えてないの? じゃあ、あててみて♪」

 つつつ、と細い人差し指でステファンの胸元辺りをなぞる、突如現れた謎の銀髪美女(笑)。指にさりげなく光る指輪には、多分気付いてはいけないお約束だ。出現の瞬間すら悟らせない辺り、流石はプロと言える。何のプロかは記録係の口からはとても(何

「これで11股、か‥‥」

 半眼になる朱金の髪の女将軍。しかし愛に走るステファンの耳には、親友の言葉すら届かないようだ。本気で駄目じゃん。
 敬愛する麗しの女将軍の苦い呟きを耳にした部下達が、なにやらコソコソ集まって相談し始めた。曰く、特製ダンゴを頭にぶつければ云々、闇討ちが云々。剣呑な視線が、銀髪美女を本気で口説きに掛かっているステファン・バールに向けられ。
 気付いた女将軍が一喝した。

「貴様らァッ! 例えステフが人としてはかなりのロクデナシだろうと、そのように陰でコソコソ計るとは、貴様らはそれでも武人か!」
「すみません、将軍!」
「立てィッ!」
「はいッ!」
「歯を食いしばれィッ!」
「はいッ!」
「恥を知れィッ!(ゴベキィッ!)」
「ありがとうございましたッ!」

 遠慮容赦なく鉄拳制裁を加える女将軍に、直立不動で敬礼してそれに甘んじる部下たち。軍隊とはそういうものである。

「っつーか、あの姉さん、親友なのに割と酷ぇよな。ふーかたん、よーこたん、どう思う?」

 何か話を振ってみたが、勿論精霊の2人に解るはずはない。のだがほら、なんていうか、会話の流れというか。
 にこぉ、と笑った2人の精霊に、彼女たちをエンジェルと呼ぶ紫狼もにへら、と笑って持参したお菓子も食べ始めた。取りあえず、自分達が幸せならそれでいっか。





 そんなこんなで、冒険者とメイディア王宮所属部隊による対抗ダンゴ投げ花見大会は幕を閉じた。どうのこうの言ってもセルラッティーナ達は楽しんだ様子で、またの時にはよろしく頼む、と冒険者達と固い握手を交わしていた。戦友意識が芽生えたようだ(ぇぇ
 そして謎の銀髪美女を口説いていたステファン・バールは

「もう2人は身も心も解り合ったと思ったのさ。後は口付けを交わすだけ、まさに、王手来たー!! って思った瞬間にだよ、まさにそんな瞬間にその美女はアシュレー君に変身したのさ!!」
「あーはいはい、それはビックリですねぇ。ギルドマスター、意外とお疲れだったんですねぇ」
「‥‥ラグス、私の言うことを信じてないだろう」
「はいはい、信じてますからさっさと帰って寝てください。決済書類は明日までに期限伸ばしてもらいますから」

 ラグス・ディナンに幻覚を見た可哀想な人扱いをされていたのだが、生憎当のアシュレーはすでに帰還した後だった。禁断の指輪、性別転換をする恐ろしいアイテムがまた一つの悲劇を生んだ、というお話である。