花咲ける庭

■ショートシナリオ


担当:蓮華・水無月

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや易

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月14日〜04月19日

リプレイ公開日:2009年04月21日

●オープニング

 ヴィア・カンティーナ。シスターである。ジ・アースからアトランティスへ布教の為に訪れたものの、神を持たぬこの地での布教に挫折を覚えた彼女は現在、一念発起して修行をやり直すべく、ウィルの教会の主ヨアヒム・リール師の押しかけ弟子として活動中だ。
 具体的にどんな活動をしているかと言えば

「ヴィアちゃん、今日も頑張ってるねぇ!」
「あ、ご近所の小母さん! お早うございます、今日も小母さんの上に母なるセーラのご加護がありますように」
「ありがとよ。ヴィアちゃんにも精霊と竜の祝福がありますように。そうそう、ヴィアちゃんのお悩み相談室、主婦仲間には好評だよ!」
「ありがとうございます! 懺悔室なんですが!」

 以前、勘違いで魔物退治に奔走した際に冒険者に、困ってる人の相談に乗って助けてあげるのはどうか、と言われたのを受けて、懺悔室を作って頑張っていた。のだがしかし、ジーザス教に馴染みのないアトランティスの人々は、罪を告白して神に許される、懺悔室という概念もいまいち理解出来なかったので、単なるお悩み相談室になっていたが。
 とはいえ気の良い人々は、自分達なりに理解して、新顔のヴィアも受け入れてくれている。
 そんな中でも、ご近所さんと言う事で一番良くしてくれる馴染みの主婦エヴァは、ヴィアの元気の良い返事にニッコリ笑った後、ほんのわずかにため息を吐いた。それを、ヴィアは見逃さなかった。
 コクリ、と首を傾げる。

「小母さん、何かあられましたか?」
「ん? ああ、たいした事じゃないんだよ」
「でも! お役には立てないかもしれませんが、お話を伺うだけでも少しはお気持ちが楽になって頂けるかもしれません!」

 重ねて言うヴィアの言葉に、そうかい、とエヴァはちょっと力なく微笑んだ。

「ヴィアちゃんは良い子だねぇ。何、本当にたいした事じゃないんだよ。ただ、あたしの妹の息子がこないだ、お勤め先を解雇されちまってね」
「解雇、ですか」
「ああ。といって何かした訳じゃないんだけどね。伯母の贔屓目って言ったって甥っ子はそこそこ腕の立つ庭師だったんだけどさ、雇われてたお屋敷のご一家が今度、本国へお帰りになるからウィルのお屋敷自体を売っちまうらしいんだよ。それでね」

 そういう時、そこに雇われている使用人共々売りに出して、そのままお屋敷ごと新しい主に仕えるようになる事もある。だがエヴァの甥っ子の主はそうはしなかった、と言う事だろう。
 そんな時でも紹介状くらいは出してもらえるものだが。

「何でもね、そのご一家が本国にお帰りになる理由ってのが、あんまり良い理由じゃないらしくてね。紹介状も頂けなかったのさ」

 故に就職活動中なのだが、庭師となると雇い先も限られており、紹介状もなければさらにそのハードルは上がる一方で。なかなか見つからない就職先に、最近甥っ子は落ち込み気味なのだと言う。
 仕方ないんだけどねぇ、とまたため息を吐くエヴァに釣られて、ヴィアもため息を吐く。それから、自分が今手に持っている箒を見て、周りを見る――ちなみに朝の掃除中だった。
 冬を越え、春を迎えた新緑がちらほらと見られる庭木や花壇。だが枯れ草を取り除いていなかったり、枝打ちや雑草取りもまだなので、見栄えとしてはかなり悪い。
 うん、と頷いた。

「小母さん! それでは甥っ子さんにお仕事をお願いしても良いですか? 教会の庭木を、ぜひ甥っ子さんに綺麗にして頂きたいんですが」
「‥‥‥ん?」
「私やヨアヒム師では力仕事が出来ませんし、素人仕事で花の苗や手入れをしても、ちゃんと出来るか解りませんから。それにこの教会、6月頃にイベントを控えてまして、丁度その頃咲くお花が欲しいな、って思ってたところだったんです。甥っ子さん、庭師さんだったらお詳しいですよね?」
「ああ‥‥そうだろうねぇ。でも甥っ子1人で、この教会の庭を全部手入れ出来るかねぇ」
「じゃあ冒険者の方にも手伝ってもらいましょう!」

 よろしく、と両手を握ってぶんぶん振ったヴィアに気おされる様にして、じゃあ甥っ子に話してみるかねぇ、とエヴァはニッコリ微笑んで。
 冒険者ギルドには依頼書が張り出される事になった。


『教会にて庭木の手入れをして下さる方、募集!!』

●今回の参加者

 ea9494 ジュディ・フローライト(29歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb3277 パティオ・オーランダー(25歳・♂・バード・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb3838 ソード・エアシールド(45歳・♂・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 eb4750 ルスト・リカルム(35歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ec1984 ラマーデ・エムイ(27歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)
 ec5004 ミーティア・サラト(29歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)
 ec6278 モディリヤーノ・アルシャス(41歳・♂・ウィザード・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

 6月の花嫁。この季節の花嫁は幸せになれる、とはジ・アースに伝わる言い伝えだ。あちらの伝承をベースにしており、アトランティスには元来そういう思想はない――のだが、知る人ぞ知る、程度には知られている。そしてジ・アースや天界から来た者も居る冒険者達の中では結構知られていて。
 ヴィアが漏らした『6月のイベント』を察した冒険者達もやる気に満ちていた。

「ふふ、素敵なお庭で迎えられるようにしませんと」
「門出を祝うのなら美しく咲くものの方が良いだろう」

 教会の事なら無関係ではない(色んな意味で)と張り切るジュディ・フローライト(ea9494)と、苗の選定から立ち会おうと名乗りを上げるソード・エアシールド(eb3838)。それを聞いた庭師の青年シーズが、真剣な目でソードを見た。

「あんたならこの2つの苗、どっちを選ぶ?」
「そうだな。右の方が丈は低いが茎もしっかりしているし、葉の色艶も良い」
「これとだと?」
「それは葉振りが‥‥」
「シーズさんに気に入られたようですね」

 真剣に苗について議論を交わし始めた2人を見て、ヨアヒムが微笑んだ。気に入られたのか。それは良いこと‥‥なんだろう、多分。
 それから、静かに冒険者達に頭を下げる。

「よろしくお願いします。私もお手伝いをさせて頂きますので」
「勿論私もお手伝いします! 頑張りますね!」

 後ろに控えていたヴィアも元気に言う。
 はっきり言ってヨアヒムは忙しい。ソードも「実際手伝うのは無理なんじゃないか」と危惧していたが、猫の手を借りてもまだ足りない位に忙しい、それは事実だ。
 だが今回は、せっかくですから是非! と良い笑顔でヴィアに押し切られ、空き時間に参加、と言う事になった。神父服に軍手は‥‥うん、コメントは割愛で(ぇ
 何はともあれ、彼の一番最初の仕事は

「へー、天界の癒しの精霊には、こーゆー草花を育てて供物にするの? それじゃ地の精霊と親戚なのかしら」
「いえ‥‥主は天にいましまして」
「あっ、そう言えば神父さん、イベントって何? またお祭りなの?」

 ワクワク瞳を輝かせているラマーデ・エムイ(ec1984)の相手をする事だった。聞きつけたヴィアが師を助けろとばかりに「いいえ! 6月と言えば母なるセーラの祝福を受けた男女が」「そっかー、癒しの精霊のお祭なんだ」「いえ、神聖な儀式なんです!」と加勢する。というか余計に混沌とさせている。
 神父様には是非粉骨砕身努力して頂きたいものだ。





 教会の庭は、猫の額とは言わないがそれなりに狭い。だが冬の間殆ど手入れをしていなかったので、えらい事になっている。良くご近所から文句が出なかったものだ。
 花の苗選定を任されたソードと荷物持ちのエリスンを除く全員は、まずは枯れ草などを取り除いたり、枝打ちをしたり、雑草を抜いたり――と言った、地味に体力を削られる作業に取り掛かる事になった。
 パティオ・オーランダー(eb3277)がニコニコしながら、

「シーズさん、この木はどうしたら良いのですか?」
「ん? ああ、それは下の方の細い枝を払ってくれ。後は少し上の方だが、あの枝が悪くなってるからそれも」
「判りました、なのです〜」

 シーズの指示に従い、いそいそ足踏み台を持ってきて一本一本丁寧に枝を払う。その向こうではヴィアが「では私はこちらの木の下の枯葉を」「‥‥ってヴィアちゃん駄目! その木はそろそろ虫がつき始めてるから‥‥」「ひぎぉぁふぎぃぇぇっ!?」「あ〜、遅かったか‥‥」とラマーデ相手に漫才を繰り広げていた。
 道具の点検をしていた女性2人、ルスト・リカルム(eb4750)とミーティア・サラト(ec5004)が、数や状態を確認したスコップや剪定鋏などを持ってきて、それぞれ希望者に配った。元々教会にはそれほど庭道具があるわけではないし、シーズが持ってきたものにしても数は知れて居るが、役割分担をすれば良いだろう、と道具を使い回す事にしたのだ。
 愛用の剪定鋏を手渡されたシーズが、どうしたら良いのか判らないような表情で、少し首を傾げて言った。

「ああ‥‥その、どうも」
「あらあら、気にしないで。腕の良い職人ほど、道具には拘りを持つものだものね」
「きちんと手入れはしてあったみたいだけどね。さて、私は何処を手伝えば良い?」
「ああ、じゃあ、あっちの花壇がかなり雑草が根を張ってるから、そこを手伝ってもらえるか」

 無意識にだろう、何度か鋏を動かしながら指差した方を見れば、確かに枯れ草の間に混じってすでに繁茂する緑があちこち見られる。しかも従事するのはヨアヒム・ジュディ・ヴィアの体力ないチーム(何)。了解、と納得したルストがそちらに参戦した。
 少し考え、ミーティアも混ざる。珍しいものでなければ植物の区別はつくし、あれだけ雑草が多いと逆に、やけになって抜きまくったら肝心の花も抜いていた、何て悲劇も起こりかねない。というか起こる、間違いなく。
 そんなこんなで時ならぬ賑わい溢れる庭の片隅では、モディリヤーノ・アルシャス(ec6278)がご近所のおばちゃん達から不要な材木の寄進を受け、花壇をぐるりと囲む柵等の製作に勤しんでいる。踏み荒らされたりしないように、という配慮だが、低過ぎると乗り越えて花壇に乱入する者が居そうだし、高く作りすぎると幼い子達が花が見辛くなりそうだし。

「シーズ殿、どの位が良いかな?」
「そうだな‥‥お屋敷の庭だと囲ってあるだけでも大丈夫なんだが、ここは街中だし‥‥」

 モディリヤーノの言葉にしばし頭を捻った青年庭師は、腰位までの高さにぐるりと木の支柱を立て、天辺と間3箇所ほどに縄を巡らせてはどうか、と提案した。これなら視界を遮る事はないし、十分柵の役割も果たすだろう。それでも乗り越えて悪さをする者は居るかも知れないが――ここは教会、人々が憩う場所なのだから、それほど目くじらを立てる事もあるまい。
 どうやら実際に花の苗を植えられるようになるまでは、もうしばらく掛かりそうだった。





 今回、教会の庭に植える花の苗の大半は、ウィルから少し離れた所で大きな花畑を管理している女性(ヨアヒムの知り合いらしい?)から寄付された。そこにソードとエリスンが購入に行ったハーブなどの苗が加わると、結構賑やかな庭になりそうだ。
 すでに植わっている花々も含め、さてどんな配置で苗を植えるのか?

「ふーん、こういう種類をこういう配置で花壇に植えるんだ‥‥んー。此処と其処を入れ替えた方が、花が咲いた時にこっちから見た花の色の組み合わせが綺麗になるんじゃない?」

 今は花壇の開いている場所を掘り返して肥料を仕込む、という仕事を黙々とこなすソードと、マイスコップ片手にニコニコ土を掘り返しているパティオと、一通り木杭の準備も出来たので同じく土を柔らかくするモディリヤーノの傍に、ジュディ・ルスト・ミーディア・ヴィアの女性陣に手伝って貰って植える苗を配っていたシーズの前で、思い付いたらしいラマーデは地面に棒切れでさっと見取り図を描く。
 それを見たシーズが腕を組んで考え込む。

「確かにそうかもしれないが、そうすると手入れがな‥‥ここは専属の庭師が居る訳じゃないし。出来れば似た性質のモノ同士を植えた方が、後の手入れが楽じゃないか?」
「んー‥‥じゃあこっちとこっちは? それでここをああすると配色がこうなるから」
「いや、やるならこの苗をあっちに植えて、ここは‥‥」
「じゃあこんな感じで‥‥」

 庭と絵画、ジャンルは違えど通じ合えるものはあったようだ。いつしか苗の配布はそっちのけで、真剣に地面に描いた見取り図に線を引いたり、消したり、小石を置いてみたり、動かしたり。
 これは、まとまるまでには当分時間が掛かりそうだ。ジュディがキョロキョロと辺りを見回し、何か出来る事はないだろうかと考えていると、ミーティアと視線がぶつかった。

「‥‥サラト様?」
「あらあら、ごめんなさいね。あなたの後ろの木を見ていたのよ」

 その言葉に後ろを振り返れば小さな枝振りの林檎の木。ミーティアが植樹を希望したのだが、小さいものならもうありますが、とヨアヒムに言われた、それがこの木だ。
 どうせなら実がなるものが良いとか、ソード達が買ってきたハーブも彼女の希望だし、ただ植えるだけじゃなく利用出来るものを、と考えるのは主婦ゆえか、性格か。多分後者。
 だけれども。

「林檎の花も白くて綺麗だものね」
「そうですね」

 微笑んで、ジュディも小さな木を見上げる。6月の頃は咲いているだろうか、それとも葉の頃だろうか。出来れば咲いて居たら良いな、と思うけれど、こればかりは判らない。
 やがて監督対決(?)は決したようで、改めてそれぞれの場所に苗が置かれていく。次々、あちこちから上がる植え方の質問に、判る物は回りの者が教え、判らない者はシーズが飛んでいく事になった。

「穴はこの位の大きさで良いのかしら」
「確かこの苗には、土は軽く被せるぐらいでいいのね」
「きっと、キレイに咲いてください、なのです〜」
「そうだね。皆に幸せを運んでくれると良いな」

 口々にそんな事を言いながら、または黙々と土と苗と格闘する姿は楽しそうで、そんな冒険者達に色々教えるシーズも生き生きしていて、見ていたヴィアは嬉しくなってにっこりする。シーズに庭仕事をお願いして良かった。冒険者に手伝って貰って良かった。

(シーズさんも冒険者になれば、きっと楽しく過ごして頂けるに違いありません!)

 そしてまた勝手に思い込んでグッ! と拳を握るヴィアに、気付いたジュディが微笑んで見守っている――多分止めた方が良いと思います(ぁ





 依頼最終日。皆の頑張りに寄ってすっかり綺麗に手入れされ、丁寧に植え付けされた緑の苗が揺れる教会の庭で、感謝とお礼を込めたささやかなお茶会が催された。
 さすがに最終日ともなると、全員の顔に疲労が伺え――るかと思いきや、結構爽やかな笑顔でテーブルにつく冒険者達。体力がない、と自負するジュディはやや疲れが見えたものの、残る者はどうやら、連日の作業に順応してしまったらしい。流石冒険者、侮れない。
 本職のシーズも涼しい顔。教会から参加の2人は微笑みながら目が泳いでいて、グウェインは「俺、明日からまた出かけるんだけど」とぐったりしていた。ちなみにエリスンはヨアヒムを拝み倒して教会の蔵書に埋もれている。多分しばらく出て来るまい。

「姉から聞いてたけど、エリスン殿は本当に書物がお好きなんだな‥‥下調べで本を貸して欲しいってお願いした時も、すぐに出てきたし」
「ん? お前、姉貴いんの?」
「うん。姉妹って良いよね〜」
「だよな〜! うちのティーは世界一可愛いぜ! お前もそう思うだろ?」
「い、いや、僕は、グウェイン殿程ではないし。どうする? 妹君が6月のイベントの主役となったら?」
「‥‥‥殺す」

 しみじみ呟いたモディリヤーノの言葉に、グウェインが食いついた。しかも意気投合した。盛り上がる男2人の間に出てきた名前に、聞いていたソードが「やはり」と無言で頷く。親友と共に遠方に向かった仲間に、同じ苗字の女騎士が居ると思っていた。

(‥‥大丈夫か?)

 思い起こした親友に、ふと思いを馳せる。きっと彼ならこの依頼に参加したがっただろう、そう思ったから代わりに参加を決めた。色んな理由があった中の、一番大きな理由がそれだった。
 だがその親友は今どうしているのか。かの地で危険な目には遭っていないか。心配は尽きない。
 緑輝く庭を見つめながら思いを馳せる騎士をよそに、お茶会の話題はシーズの事に移っている。

「まぁ、紹介状を書いて頂けなかったの? お気の毒に。幾ら事情があっても、困った方だったのね」
「街の店先に、シーズ殿が選んだ花々を植えた鉢を置くというのは? 評判になって庭師の仕事が来るかもしれないよ」
「そうですね。もしくは、教会の方でも何か当てがないものでしょうか?」
「ヨアヒムさんに紹介状を書いて頂くのもどうかしらね」

 冒険者から色々と飛び出してくる案に、当のシーズは驚いて目を丸くした。その視線がチラ、とヨアヒムに向き。同時に冒険者とヴィアの視線も注がれ。

「ムグッ! ゲホッ、ゲホ‥‥ッ、か、考えてみましょう」
「神父様!」

 丁度口に放り込んだ干果実を喉に詰め掛けた神父は、涙目になってむせながら頷いた。慌ててその背をさするジュディ・フローライト。
 少し離れた場所で、足元に水を張ったバケツを置き紫煙を心行くまで燻らせていたルストが「内助の功ね」と呟いた。若干使い方が違うが、まあ意味としてはあっている(ぇぇ
 そのまま席を外すヨアヒムと、心配して付き添うジュディを見送って、残った面々はまた談笑に戻っていく。

「6月が楽しみね」
「きっと綺麗なお花が咲くのです。苗が元気に育って、見事な花を咲かせるように、祈りを込めて歌いたいのです」
「祈りですか! 祈る事は素晴らしい事です、是非皆さんもご一緒に!」
「あ〜、ヴィアちゃん、また暴走してる?」
「(暴走‥‥)で、でも、ヴィア殿って、優しくて、親切な方なんだね。皆の悩み等を聞き、解決に向けて行動したり」
「‥‥いや、暴走したら不味くね?」

 盛り上がる者が居る一方で、黙々とお茶を飲み続ける騎士が居て、静かに紫煙を燻らす女性が居て。
 心なしか、庭の緑も楽しそうに揺れていた。





 その頃、教会内部で。

「あの、神父様‥‥」

 少し頬を赤らめ、思い切って声をかけたジュディに、何でしょう? と振り返った微笑みは柔らかかった。
 それにまた頬に血が上る心地がしながら、そっと準備していたものを取り出し、差し出す。

「この鉢植えを、神父様のお部屋に置いて頂けないでしょうか‥‥?」
「これは‥‥珍しい花ですね。何と言うのですか?」
「天界ではゼラニウムと言うそうです。こちらでは何と言うのか‥‥グラッドリー様にお願いして、探して頂いたのですけれど」

 ジ・アースでは勿論、アトランティスでもあまり見られない花。以前どこかで天界から来た人にその花の事を聞き、ダメモトでエリスンに尋ねてみたら、幸運にも知っていた上に友人の伝手を伝って手に入れてくれたのだ。
 その花の苗を丁寧に植えつけた植木鉢を、微笑んでヨアヒムは受け取る。

「ありがとうございます。大切にしますね」
「は、はい‥‥」

 そこに込められた想いを知っているのか、いつも通りの穏やかな彼にはにかんで頷く。そこで気付けば良いのに、あくまで真面目な顔になって「また時間が取れたら、是非ゆっくりとお話しましょう」とかのたまう神父は、多分、いや間違いなく天然。
 頷いたジュディはそっと、心の中で呟く。天界では花に意味を込めると言う。そしてゼラニウムの花に込められた意味は「愛情」「決意」そして――

(「君ありて幸福」)

 とても恥ずかしくて、直接は言えないけれど。花に託した想いがどうか届きますように――