3人娘、愛を巡るとある1日。

■イベントシナリオ


担当:蓮華・水無月

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 83 C

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月29日〜05月29日

リプレイ公開日:2009年06月08日

●オープニング

 ウィル、王宮図書館には幾人かの名物職員が居る。その筆頭は言わずと知れた図書館司書のエリスン・グラッドリーだ。図書館の顔にもなっているので、冒険者の中にも顔なじみが多い模様。
 彼に比べれば遥かに知名度は落ちるものの、図書館三人娘、或いは図書館名物娘の名で一部では(色々な意味で)有名な3人の少女も、一種の名物職員と言えるかも知れない。ひよこ色の髪のレダ、萌黄色の髪のアーシャ、黒色の髪のリンカーナがそれである。一部、少女とも娘とも言えない年齢の者も含まれていたり、シフールに憧れて髪を萌黄に染めちゃったりしてる者も居るが、それは言っちゃいけないお約束だ。
 さて、なぜ彼女達が名物職員の認定を受けるのか。それは勿論、常に3人一組で行動しているから、という理由ではなく。

「ねーねー、ちょっと、コレ見てー!? すっごい面白そうじゃない!?」
「何々? 『必勝☆ 合コンの秘訣』‥‥? あらまぁ、天界から落来した本なのねぇ。凄いわね、こんなにセトタ語に訳せたの?」
「レ、レダちゃんは‥‥い、色ボケしてる方が仕事が出来るのです‥‥」
「ふっふーん! リンカーナさんとアーシャさんに褒められた☆」

 常時こんな会話で盛り上がっているからである。盛り上がるのみならず、時に実行に移したりもする。そんな彼女たちがなぜ図書館職員として首にもならずやっていけるのか、色々な説があるが真実はいまだ闇の中だ。
 それはともかく、手にした写本(途中)を友人2人に見せながら、レダは例えて言うなら猫が好奇心で目を見開いているような表情でパラパラめくった。うんうん、と頷いて覗き込む一同。勢い良くめくる羊皮紙が、中程でピタリと止まる。

「合コンって、天界ではすっごく有名な男女交流会なんだって! 天界人って、大人になるまでに一度は合コンに出てないといけないんだって!」
「へぇ、それは大変ね。あら、でもそう言えばどこかの貴族のお屋敷で、若手の騎士様や貴族の子女を集めた合同お見合いコンペティション(略して合コン)が開かれたって聞いたけれど‥‥天界流なのかしら?」
「て、天界における‥‥お、大人になる為の通過儀礼なのかもしれないのです‥‥そ、それを取り入れたのかも‥‥」
「天界人にあやかるって事だね☆」

 ミーハーな割りに小難しく考えがちな3人娘、何だかそんな事を話し合っている。本から得た知識について想像の翼を羽ばたかせるのは、本読みの宿命だ。勿論、話題にも上がっている合コンがどんな経緯で開かれたのかなど知るべくもない。
 だが、そういう話に食いつくのが3人娘だ。むしろここで素通りするようでは3人娘じゃない。
 ニッ、と顔を見合わせて笑う。

「もっち、あたし達も☆」
「ご、合コン‥‥や、やりたいのです‥‥」
「そうねぇ、新しい出会いってステキな事よね」
「ですよね! あ、でもアーシャさん、リンカーナさん、アテ、居ます?」
「わ、私は‥‥じ、実験台なら何人か‥‥」
「ふふっ、アーシャ、発言が黒いわよ? そうね、私もアテがない事はないから、任せてもらえるかしら」
「りょーかいでっす☆ じゃあ、あたしは冒険者で話に乗ってくれる人を探してー、ってそう言えばリンカーナさん、アテって誰なんですか?」
「リ、リンカーナちゃんのダーリンは‥‥お、王宮軍で働いているのです‥‥♪」

 首を傾げたレダに、嬉しそうにアーシャが言う。ふふ、と微笑んで否定しないリンカーナに、それって新しい出会いになるの? と首を傾げたレダだったが、まあいっか、とすぐに考えるのをやめる。
 ようは出会いがあれば良いのだ。アーシャが連れてくる相手は何か不安だけど、彼女も張り切って冒険者ギルドに依頼を出して来よう。
 3人娘はそうして、職務放棄甚だしくそれぞれに行動を開始した。





 ウィル、王宮のとある一室にて。

「‥‥って訳なんだけれど、手頃な知り合いを紹介してくれるわよね? 前の貴族主催の合コンにも参加したんでしょう、もちろん伝手はあるわよね」
「いや、なんで断定系なんだ‥‥?」

 アテを尋ねてきた3人娘の1人リンカーナと向き合っているのは、王宮軍で今日も身を粉にして働く彼女のダーリン‥‥ではなく、その同僚のグウェイン・レギンスだった。ちなみに名指しで呼び出されて、リンカーナのダーリンからは刺すような視線を頂戴している。
 俺、絶対女運ないよな、としみじみ己を振り返るグウェイン(超絶シスコン)だ。
 このあと職場に戻ったら絶対に居心地悪いんだろうな、と溜息を吐いたグウェインは、その鬱憤をぶつけるようにギロリとリンカーナを睨みつけた。

「そもそもお前、彼氏居んだろが。何でわざわざ出会いとか言ってんだ?」
「ふふ、いつでも選択肢は広げておきたいじゃない。それに‥‥グウェイン、あなた、私のお願いは断れないわよね」
「ああ?」

 凡そ女性に対するものとは思えぬぞんざいな態度でリンカーナを睨みつけたグウェインは、だが耳元で囁かれた言葉を耳にするうち、見る見る顔色を青褪めさせた。

「おま‥‥ッ、どこからソレ‥‥ッ」
「さぁ、それはヒミツ♪ ね、手頃な相手を紹介してくれるわね、グウェイン。せっかく『良いお兄ちゃん』をしてるのに、妹さんにバラされたくはないわよね?」

 にっこりダメ押しで微笑むリンカーナを、青褪めた表情でギリギリと口惜しそうに睨みつけ。

「‥‥チッ、解ったよ!」

 グウェイン・レギンス、今回も合コン参加がなし崩しに決定したのだった。

●今回の参加者

アシュレー・ウォルサム(ea0244)/ ケンイチ・ヤマモト(ea0760)/ オルステッド・ブライオン(ea2449)/ 利賀桐 真琴(ea3625)/ ルミリア・ザナックス(ea5298)/ アリシア・ルクレチア(ea5513)/ 信者 福袋(eb4064)/ シャリーア・フォルテライズ(eb4248)/ リール・アルシャス(eb4402)/ リィム・タイランツ(eb4856)/ キルゼフル(eb5778)/ モディリヤーノ・アルシャス(ec6278

●リプレイ本文

 その日、アリシア・ルクレチア(ea5513)が夫オルステッド・ブライオン(ea2449)の様子に気を止めたのは、半分ぐらいは偶然の産物だったと思われる。

(あら、オルッたら何処に行くのかしら?)

 それは女の勘、とでも言うのか、いつもとはどこか違う態度に、依頼に行くにしては物々しくない装い。別にそんな事があっても悪くはない――が、気になるのだ、何となく。
 おっとりと頬に手を当て、目まぐるしく思考を巡らせる事、数秒。

「イグニス、メリュジーヌ、一緒に来てくれる?」

 愛する精霊達を呼んだアリシアは、自身もそっとオルステッドの後を追い始める。簡単に言えば、尾行する。
 その先に、その屋敷はあったのだ。





 合コン、それは天界における成人通過儀礼とされる。即ち、子供が大人になる為に潜り抜けなければならない試練。それを為し得ぬ限りは大人と認められず、成し遂げれば1人の大人として遇せられる。
 その割りに集まった面々は立派な成人が大多数(何しろ発起人からして)だったが、そこは気にしないのが流儀と言う奴なのだろう。何しろ天界出身の信者福袋(eb4064)が何も言わないのだから。

「ふっふっふ‥‥ついにウィルの人々にも経済活性化のカンフル合コンが知られる事に‥‥ッ」

 戦う天界ビジネスマンはむしろ感激に身を震わせて居たりしたが、無論合コンのなんたるかも知らない人々に判るはずもない。ただ、ああ燃えてるんだな、と微笑ましく見つめるのみだ。
 だが勿論、そんな無理解にめげる福袋ではない。サクラとして呼んだ、今此処に至っても自分の身に何が起ころうとしているか正確に理解しているとは言い難いオルステッドに、

「良いですか、オルステッド様。お願いした通り」
「‥‥この顔で女性を惹き付けろ‥‥? それが戦いの布石になるのか‥‥」
「その通りですとも! その隙に私のトークで女性陣を楽しませるのです!」

 えっと、あの、ウィルの経済活性化は何処に?
 そんな福袋とはまた別の意味で萌えて‥‥失礼、燃えているのがアシュレー・ウォルサム(ea0244)。女性と親しくなると言う事にかけて、マスターウィルの異名を持つこの男の右に出る者は居ない、多分。
 今とて、のっけから手づから超越的理美容スキルでドレスアップした図書館3人娘をエスコートし、早くもキャッキャッウフフと盛り上がっている。ノリが良く顔が良いこの冒険者、実は3人娘のお気に入り。「だって喋ってて面白いしー、お金持ってるしー、顔良いしー」(byレダ)だそうで。
 もっとも、始まっているのはこのグループだけではなく、むしろ来る前からイチャこき通しなカップル(勿論アレックス・ダンデリオン氏とシャリーア・フォルテライズ(eb4248)嬢)もいたりして、大広間に幾つか置かれたソファの一つではすでに「アレックス、リンゴチップス食べませんか?」「おお、これはかたじけない‥‥む、シャリーア?」「一緒に‥‥」「む‥‥」「ん‥‥ッ」「んふぅ‥‥」とか子供は見ちゃいけない熱烈な場面を展開させていたのだが。え、詳しく突っ込まなきゃ駄目ですか?(待って
 その一方で、今日も今日とて涼やか且つ穏やかな物腰で愛用のローレライの竪琴を取り出し、時折弦を弾いて音階を調律しているケンイチ・ヤマモト(ea0760)。バードであり、超越的な歌と演奏の技術を持つ彼は今日も、人々の楽しげな催しをさらに盛り上げるべく、会場として提供された広間の中の音響の良さそうな一角を選び、今日の曲目などを頭の中で思い浮かべていた。
 請われて独唱する時ならばともかく、宴会に華を添えるならば華やかで、だが歓談の邪魔にならない程度に穏やかな曲が良い。後で、やはり素晴らしい腕前を持つアシュレーがヴァイオリンを演奏すると言っていたから、その時は合奏用の華やかな曲目の方が良いだろうか?
 考える、ケンイチを見守る2人の小柄な影が、少し離れた場所にある。

「ケンイチがアルテと上手く行くよう、からかってやろうと思ってたんだが‥‥」
「今は声かけへん方が良さそうやねー」

 キルゼフル(eb5778)の言葉に、うんうん頷くティーナ・エルフォンスだ。少し前、囚われのアルテを救出に行った際の、普段のケンイチを知るものならば誰もが目を疑う真剣な表情を見れば、もしかしてそういう対象としてアルテを捉えているのかな――と邪推してしまうのは仕方のない事と言える。
 とは言え、彼は今バードとしての職能を果たすのに(正確にはその準備に)忙しい様子。ならば余計な声をかけるのは失礼と言うものだろう。
 それにしても、とティーナはキルゼフルに向き直る。

「キルゼん、今日はお招きありがとうやでー! 何や、たくさん来てはるねんなぁ」

 言ってる傍からキョロキョロ辺りを見回し、さらに知った顔を見つけようとするティーナに、呆れた笑みを口元に浮かべたキルゼフルはグシャグシャわしわしとティーナの髪をかき混ぜ。

「ちょッ、キルゼん、い〜た〜い〜わ〜〜ッ!」
「ま、けっこー最近色々あったからな、ナンもカンも忘れてタマには楽しめや」

 文句を言ったティーナだったが、続けて告げられた言葉に「せやな!」と明るい笑顔になる。それに、ん、と頷く。
 何と言うか‥‥つまる所、彼にとってティーナ・エルフォンスとはあらゆる意味で『最優先で守る女』と言う位置づけである訳で。それを彼女自身に告げようとは思わないけれども、宝探しだのカオスの魔物だのと色々ごたごたに巻き込まれ、首を突っ込む彼女の息抜きになれば、と思った事は事実で。
 うしっ、行くぞ! と何やら気合を入れて他の人々が集まっている方へ向き直ったキルゼフルは、だから――思い切りグシャグシャになった髪をブツブツ文句を言いつつ撫で付けながら、ふと手を止めて頭の上の感触などを考え込んでみたりしたティーナには、どうやら気付かなかった様だ。
 揃い始めた人々を誘う様に、ようやく曲目構成などを決めたケンイチの竪琴が軽やかな音を響かせ始めていた。





(少し、緊張する‥‥)

 周りの華やかな雰囲気と、すぐ隣に居る男の存在とに、リール・アルシャス(eb4402)は無意識に肩に入った力を抜きつつ、小さく深く深呼吸をした。こういう華やかな場所に彼と一緒に立つのはもう2回目。と言うかまだ2回目。
 リラ・レデュファーン。長らく行方が知れず、ようやく会えたのはつい最近の事だ。にも関わらず、またはそれ故に、ウィルに戻るなり耳に入ったこの合コンなるパーティーに、ほとんど勢いで彼を引き摺ってきたのだが。
 無意識に、縋るようにショールの胸元を押さえる。いつもより少しお洒落、と言う程度の服に合うよう、事前に『めいど・IN・真琴☆』なる仕立て屋を営む利賀桐真琴(ea3625)に頼んで、手持ちのショールを手直しして貰った。だから少なくとも、装いがおかしいと言う事はない。その筈。そう信じたい。
 意識して、いつも通りの笑顔を浮かべる。

「その、気分転換も大事だ。張り詰めてばかりだともたないよ」
「‥‥‥ああ、そうだな」

 答えるリラは、穏やかな笑みを浮かべてはいたものの、果たして本当に楽しんで――否、せめて怒らずにいてくれるものか。こういう場で、いつもの10倍ぐらい相手の気持ちを気にしてしまうのはもう、仕方のない事だろう。
 とは言え、合コン。天界の通過儀礼だとか、決戦だとか、色々な事を色々な者が言っているが、果たしてどれが正しいものやら。

「楽しいらしいのだが、リラ殿の国にもこの様な風習はあるのか?」
「いや‥‥このような風習は、なかったように思うな‥‥‥」
「そうか。じゃあ楽しみだな――そうだ、リラ殿に渡したいものがあったんだ」

 ふとその存在を思い出し、ごそごそと荷物の中を探る彼女に、リラの疑問の眼差しが投げかけられ。

「これを――天界では2月に、お菓子やお料理を作って男性に渡すらしいんだ」
「‥‥‥お菓子、を‥‥?」
「そ、そのッ!」

 不思議、と言うか不審そうな顔で手渡されたバレンタインカップを見下ろしたリラに、主語がまったく抜けていたことに気付いたリールが慌てて説明する。
 天界では2月、聖バレンタインの日に日頃の感謝や、誰かに伝えたい大切な気持ちを込めてお菓子やお料理(贈る相手の性別や地方によって異なるようだ)を作り、伝えたい相手に手渡す。渡された相手は、まずは相手の気持ちを受け止めると言う意味でその場で全て食するのが礼儀であり、その場で食べない、或いは残した場合は相手に対する宣戦布告と見なされ、お菓子を贈ったものの指定する方式で決闘するらしい。
 だんだん説明に力が入ってきたせいで、聞くでもなく聞いてしまったティーナとキルゼフルが「ああッ、そう言えばッ!」「なにぃっ! 知っているのかティーナ!」「うちまだご馳走食べてへんッ!」「アホかーッ!!」というかけ漫才を披露しつつ、空腹を訴えるティーナ嬢の為に料理テーブルの方へと去っていった。のだが、緊張するリールは勿論聞いちゃ居ない。
 そして、そんな説明と共にバレンタインカップと共に手作りクッキー(アシュレー氏指導リール嬢作)を渡されたリラも。

「‥‥‥‥」

 ただひたすらの、無言。受け取るでもなく、まして勿論戦いの剣を抜くでもなく。困った様に、憂えた様に。
 一気に気まずく、硬直した空気に耐える事、如何ほどか。

「‥‥取り込み中だったか‥‥?」

 雰囲気を変える為か、本気で空気を読んでなかったのか、不意にオルステッドが2人に声をかけた。福袋に言われた言葉を忠実に守り、だが下手に口を開いてはボロが出そうだと頑張って流れに任せている姿が、ミステリアスでちょっとステキ☆ と子女にはそこそこ好評の模様。
 何やらゲームをするそうだ‥‥と言い残してまた去っていく男に、完全に張り詰めた空気を破壊されたリールとリラは、先程よりは余程自然に視線を交わした。

「ゲームだそうだ。リラ殿、どうする?」
「‥‥‥私は遠慮しておこう。参加して来るといい」
「自分もそれ程」

 それよりは他愛のない会話を重ねたいと、願う言葉を口にすればまた困らせそうで、言わないけれど。





 王様ゲーム。それは過去、ウィルの歴史に何度も悲劇を刻み込んできた、魔のゲームである。かつて響き渡った阿鼻叫喚の悲鳴は数知れず、最近では冒険者を中心に知る者も出てきたようだが、勿論一般にはまだまだ無名に近い。
 そんなゲームを提案したのは福袋とアシュレー。「じゃあそろそろ」と言った声も重なっていた辺り、この2人は結構フィーリングが合うのじゃないかと思われる。
 勿論、ゲームに使う小道具もお互いばっちり用意。ここまで来ればシンクロどころの騒ぎではなく。

「アシュレー様もですか‥‥」
「福袋、なかなかやるね‥‥」

 始まる前から互いの健闘を称え合う、合コンに燃える熱き2人の男がそこにいた。
 参加はもちろん強制ではないが、天界由来の遊戯、と言う触れ込みに図書館3人娘を始めとする一般参加の人々や、どんなゲームか知らない冒険者も多いに興味を惹かれた様子。彼らが、やがて訪れる悲劇を知るまでには後もう少し。
 一方、見たり聞いたり体験したりでこのゲームの恐ろしさを良く知っている冒険者も、ここで乗らなきゃ末代までの恥――と思ったかどうかは知らないが、ちらほら参加を決めている。確かに、負ければこの上なく恐ろしいゲームだが、勝てば良いのだ、勝てば。
 意外と参加人数が増えたので、幸いにして小道具が2セットあるのを良い事に、広間から庭園へと場所を移し、2グループに分かれて円になって座る。移動したのは単に、床に直接座るなんて、と難色を示した子女が居たから(勿論、演奏担当のケンイチも一緒に移動)。

「じゃあルールを説明するよ」

 初めての者も居る事だし、アシュレーが代表してルールを説明する。と言っても話は簡単、先を赤く塗った棒と1から番号を書かれた棒を1本ずつ引き、赤く塗った棒を引いた者が『王様』として『○番は1曲歌って』『○番が○番にでこチュー』などの命令を出す。別に記録係がやらされた命令ではない、念の為(ぁ
 まあやってみれば判るだろう。前もこんな感じだった様なと思うアシュレーと、ばっちりオルステッドの傍に張り付いて寄ってきた子女にトークを炸裂させている福袋が、それぞれのグループに別れてフォローに走る事になり。
 最初は様子が判らず、しかも参加者の中には一般人の貴族の子女も居た事から自然、

「じゃあ、2番さんと8番さんでご挨拶を‥‥」
「おや、では4番の方、僕と一曲ダンスをお願い出来ますか」
「7番の方、ご趣味を教えて下さいます事?」

 などなど、当たり障りのない命令が多かった。だがこのゲームの恐ろしい所は、実際に命令が実行されるまでは命じた王様本人ですらそれが誰だか判らない、と言う所にある。
 となれば当然、男性同士のダンスが披露されるやら、あまり聞きたくないご趣味を延々聞かされるやら。それはそれで、特にダンスなどは当人達以外は面白く眺めはしたが、如何せん何かが足りない。何かが。
 だが、そのある意味停滞した空気を打ち破ったのは、図書館3人娘が1人レダ。

「はいはーい、あたしが次の王様ー☆ じゃあ、1番の人はあたしと熱ーいキッスをお願いします♪」
「ゴブフォッ!?」
「ア、アレックス、まさか‥‥ッ」

 ものすごい勢いで噴出した婚約者に、顔色を変えたシャリーアがひったくるように手の中からくじを奪い取れば、そこに書かれて居るのは見紛う事なき『1』の文字。つまり、今命令された人。
 ザァッ、と顔色を無くした彼女は、ハッと我に変えると顔を真っ赤にしてレダに食ってかかった。

「何と言う命令を出されるのです! ア、アレックスは私の婚約者で」
「ええー、でも王様の命令は絶対☆ なんですよねー?」
「い、否、そのような破廉恥な‥‥私にはシャリーアと言うものが‥‥」
「アレックス!」
「シャリーア!」
「ん‥‥んふぅ‥‥」
「‥‥んぅ‥‥はぁ‥‥」

 えっと、うん、いきなり公衆の面前で始まった、ガシッと硬く抱き合ったかと思ったら艶かしく手足を絡めたりして接吻を交わし始めた(感極まった様子)そんな出来事を、描写しなきゃ駄目ですか、やっぱり(ぁ
 うわぁ、と思わず釘付けになった参加者達に隠れて、アシュレーがレダに『良く出来ました』とウィンクする。ここは一発ドーンと派手に皆の緊張を解そうとした、つまりこれはアシュレーの仕組んだ演出だった――のだが。
 ちょっと、唇を尖らせたレダに首を傾げ。

「王様の命令、ガン無視なんですけどー」
「ふむ。じゃあ俺が後でたっぷりと」
「ホントですかー♪」

 後でたっぷり何をなさるのかは記録係如きには判りませんが、レダは大喜びの様だった。
 さて一方、異変は別グループでも起こっている。しかもまた騒ぎの中心は図書館3人娘。ちなみにこいつら、幸運値だけはバカみたいに高いんじゃないかと言うのがもっぱらの噂である。

「わ、私が王様なのです‥‥♪」

 そう言って、嬉しそうに高々とくじを掲げるアーシャ、今日もトレードマークの萌黄色に染めた髪を揺らし、うふふ、と周りを見回した。つい先刻の隣グループでの出来事もあり、ハラハラしながら命令を待つ人々に、言う。

「じゃ、じゃあ‥‥ご、5番と9番で告白ターイム♪ なのです‥‥」
「‥‥割と、普通‥‥?」
「まぁ、お遊びの範疇ではあるよね」
「男同士、とかなら笑う、けど‥‥」

 下された命令に、首を捻りながらさて今回の犠牲者は誰だろう、と周囲を見回した人々は、該当の番号の書かれたくじを持って出てきた人物に思わず沈黙した。
 1人はモディリヤーノ・アルシャス(ec6278)、裏方に回るつもりでやって来たら強引に「男足りないからっ」と放り込まれて現在に至る。それは良い。不幸だが、それだけの話だ。
 だが、もう1人。

「告白、って‥‥お遊びだと判っていても、照れますね」

 宜しくお願いしますね、と恥じらいと戸惑いの中間の表情を見せて出てきたのは冒険者ギルドの受付嬢ティファレナ・レギンス、福袋の招待を受けてシフトを同僚と交替してもらって参加。ちなみに彼女を突き動かしたのは、ステキな出会いと言うよりは、また美味しいお酒が飲めるかしら、と言う期待だった。それも良い。ただ彼女が酒をこよなく愛すると言うだけの話だ。
 だがしかし、この場には今一人『それだけの話』では済まない男がいる。

「ほぉ‥‥今度はてめーか、モディリヤーノ‥‥」

 ゆらり、と眼光鋭く睨まれて、当のモディリヤーノはブンブン首を振りながら後退した。思い切り言いがかりだ。だがそれで通じるようなシスコンっぷりではない事を、以前に1度話しただけで何となく理解している。
 後退しながら救いを求めるように命令を出した『王様』アーシャに視線を向けると、うふふ、と良い笑顔。

「さ、さあ、バトル開始なのです‥‥♪ な、何かあれば3番さんが助けてくれるのです‥‥♪」
「3番‥‥?」

 誰の事だ、と首を傾げる一同の中、アシュレーと福袋だけが苦い表情で視線を交わす。福袋の手の中に在るのは、まさに3番のくじ。いかさま、と言うほどでもない、何かあった時の為に収拾が付けられるよう、誰が何番のくじを持っているか把握するため一見しただけでは判らない目印がつけてあるのを、すでにアーシャは見抜いていたらしい。
 つまり、このバトルは完全に仕組まれたもの、と言う事で。

「覚悟は出来てんだろうな、あぁ‥‥?」
「グウェイン殿、目が本気なんだけど!?」
「俺の可愛いティーに手ぇ出しといて言い訳かコラァッ!?」
「何もしてないからッ!」

 今にも切りかかりそうなグウェインと、本気で泣き入りかけてるモディリヤーノに、やれやれと溜息を吐いて縄ひょうを取り出したアシュレーは、間に入りかけてふと気付く。

「グウェイン、止めて良いの?」
「え‥‥? あっ、勿論です。兄がいつもご迷惑をお掛けしてすみません」

 アシュレーの言葉に、ハッと我に返って頭を下げるティファレナ。だが、以前の合コンの時は同じような場面になって兄に絶交を言い渡した彼女なのに、今回は瞳に迷う様な色を浮かべて見つめているのみだ。
 流石にグウェインを怒る気力も尽きたのだろうかと、不審に首をかしげながらアシュレーは容赦なく、超越レベルのシューティング技術を遺憾なく発揮し。

「グウェインー、ちょっと向こうで話しようか」
「ヘボゲェッ!?」

 グウェインの蛙を潰したような悲鳴が響き渡ったのは、それからすぐの事である。





 そんな悲劇が起ころうと、合コンを取り仕切る事に燃える福袋には暇な時間はない。どうやらグウェインはまだ時間が掛かりそうなので、今の隙に、と料理テーブルの方へやってきた福袋は首を傾げた。

「さて、お酒の補充を‥‥と?」
「補充しておきやしたぜ。料理も追加してありやす。裏向きの事はあたいに任せて、旦那は楽しんできてくだせぇ」

 そろそろ酒を切り替える頃合だ、との内心を見透かしたように、まさに両手に持った皿をテーブルに並べていた真琴が笑った。ふむ、と確認してみても丁度良い具合の、つまりそろそろ酔いが回ってきている頃なので程ほどに質を落としてある。
 これならば確かに、彼女に任せても大丈夫だろう。だが。

「利賀桐様は参加なさらないのですか?」
「へぇ、あたいは‥‥」

 福袋の言葉に、真琴はほんの少し憂いを含んだ笑みを返す。彼女の慕う相手はメイディアのさる侯爵家の子息。外国人の、しかも身分も違う自分と彼とが、結ばれる事はほぼ無いだろう――と彼女自身は思っている。彼は、優しくしてくれるけれど。それはきっと、自分を傷つけない為で。
 だがそれでも傍に居たい。ただ、傍に居たい。そう願い、ならば傍に居られる事実に満足すべきなのだと。満足しなければならないのだ、と――そう、思って。

「あたいは、皆さんの楽しそうな姿を見てれば楽しいでやすから」

 それでも時折溢れそうになる自分の気持ちに、言い聞かせるようにそう言った真琴に「では遠慮なくお願いしますね」と言った福袋は果たして、気付いていたものか。
 聞くともなく聞いていたルミリア・ザナックス(ea5298)が、ぽん、と肩を叩く。無言で。慰めるでもなく。

「ルミリアの姐御は、参加しねぇんですかい?」
「我はパラディン、戒律ゆえ余り大きな催しには向かぬのでな」

 数多の戒律を守り、己を律するが故に聖騎士と呼ばれるパラディンの彼女は常に、仮面を外してはならない、男性と契ったりキス等の肉体的交際をしてはならない、嘘をついてはならない、酒を飲んではならない、貴族や軍など特定勢力と仲良くしてはならない、皮の製品に触れたり身につけてはならない、等の戒律の中に己の身を置いている。言うなればこのような、男女交流会などはそれに反する最たるもの。
 成る程、と真琴は頷く。頷いて、なぜそれほどに己を律する事が出来るのか、なぜそれでもパラディンたろうと在れるのか首を傾げれば、返って来るのは短い答え。かつて守りたかった、でも守れなかった少女達のため。同じ場面で、今度こそ守り抜く為の力を得る為。
 ルミリアの答えに何か思う所があったものか、考える素振りを見せながら去っていく真琴の背を見送り、賑やかに盛り上がる広間を見つめる。見つめ、思う。
 ここに、もし想い慕うあの人が居たならば――どんなにか幸いだっただろうに、と。
 一方、広間の方ではちょっとした騒ぎが起こっていた。

「なんで俺が踊らないといけないんだっ!?」

 叫んでいるのは石動良哉。叫ばれているのはリィム・タイランツ(eb4856)。簡単に言えば、ゆったりしたダンスミュージックが始まったところでリィムが良哉にダンスを申し込み、さくっと断られた所。
 その反応に、ちょっと傷付く。彼女にとってもこれは、良哉と過ごせる滅多にない、もしかしたら二度とやって来ないかもしれない機会だ。それは、もしかしたら良哉にとっては迷惑なのかもしれないけれど‥‥何しろ始まりが始まりなので、かなりその自覚はあるのだけれど。
 でも、ここで諦めて、後悔はしたくなくて。リグに戦いに行って、考えたくはないけれど二度と会えなくなって、その時になって始めて『ああしておけば良かった』と後悔、したくない。
 そう思ったから、一緒に参加したいと願った訳で。どんな理由があったにせよ、少なくともこの場に居ると言う事は良哉も少しは同じ気持ちで居てくれるのかな、と喜んでみたりもして。
 でも。

「ボク、また勘違いしちゃったか‥‥ごめんね‥‥」

 それは全部自分の思い込みで、やっぱり迷惑に過ぎなかったのか、と――悄然と瞳を伏せたリィムに、うっ、と言葉を詰まらせる良哉。救いを求めるように視線を彷徨わせたり、何かを言おうと口をパクパク動かしては、何も言えずに唇を噛み。
 やがて。

「‥‥これで勘弁してくれ、頼むから」

 端から見ても明らかに真っ赤になって、ん、と差し出して来た手を、思わず握る。それにまたちょっと赤くなって、だが良哉は手を放さない。
 ダンスは無理だけれど手なら繋いでいても良い(恥ずかしいけれど)、と言うシャイな一面が伺われる彼の行動に、リィムもなんだか照れ臭くなって、でも嬉しそうにぎゅっと握る手に力を込めて。それでも離れない、良哉の手が嬉しかった。





 さて、そんな男女のアレやコレやを仏頂面で睨み据えていた者が居る。言わずと知れたグウェイン・レギンス、妹絡みでアシュレーにカオス八王もかくやと思わせるイイ笑顔でたっぷり口に出してはとても言えないお仕置きを受けて、気分はどん底どころか真っ逆さま。
 途中、信者が手頃な女性を見繕ってきたのだが、全部適当にあしらって追い返してしまった。まぁ特に彼自身、出会いを求めても居ないし。
 だがしかし。

「しけた顔しないでよ。まるで嫌々来ているみたいじゃないの」
「るせぇ」

 いつの間にか人々の輪から抜け出し、迷惑そうな顔で男を見た図書館3人娘が1人リンカーナに、見られたグウェインは盛大にしかめっ面をして吐き捨てた。実際、彼はこの女の恐喝と妹可愛さでやって来たのだからして。
 むっ、と女が眉を顰める。クルリと振り返り、用意されたテーブルのお酒を物色しているティファレナを見て、

「ティファレナさーん。お兄さんのウィルに来たばかりの頃の話を」
「わりぃ悪かった申し訳ございませんもうしません」

 あっさりグウェインは態度を翻した。何か余程の弱みを握られているようだ。
 ん? と振り返った妹を全身全霊で誤魔化しきり、ふぅ、と冷や汗を拭う男を、ニヤニヤ笑いの女が面白そうに眺めている。それでいて下品に見えないのは、流石アシュレーのコーディネートと言った所か。
 リンカーナさーん、と呼ばれる声に手を上げて答えた女は、ちろ、と半眼で意地悪く男を振り返った。

「今日の子息達はハズレね。次はもう少し将来有望なのを見繕ってきて頂戴」
「テメェ、ほんっとーに性格悪い女だよな‥‥ッ。アシュレーやテメェの彼氏の気持ちがまったく理解出来ねぇ」
「あらあら、アシュレーさんとは割り切ったお友達、ダーリンはダーリン。泣いて頼むならグウェインとも『お友達』になって上げるわよ?」
「金詰まれてもぜってぇ嫌」

 本気の表情で顔を顰めた男に、女は今度は面白そうに笑って去っていく。その背を忌々しげに睨み付けていたグウェインに、丁度入れ替わりにやってきたモディリヤーノが若干腰を引きながら首を傾げた。

「グ、グウェイン殿? 何かあった?」
「ん? 何もねぇよ。さっきは悪かったな」
「い、いや、あれはアーシャ殿が‥‥それよりグウェイン殿、一緒に飲まない?」

 そう言いながら掲げて見せた、まだあけて間もないワインのボトルと2つの杯に、ん? と首をかしげる。ひょい、と肩をすくめたモディリヤーノがそれに「ちょっと自棄酒」と情けない顔になって。
 会場を見渡し、姉リールの姿を確認したグウェインは、成る程、と頷く。モディリヤーノは、彼ほどじゃないけれど結構シスコンなのだ。

「おっし、じゃあ飲むかッ!」
「うん。アテは持ってこなかったけれど」
「ん、そんなモンいらねーよ。よっし、飲め! 飲んで全部忘れちまえ!」

 先刻までの不機嫌を払拭するかのごときハイテンションに、モディリヤーノもほっと明るい表情で杯にワインを注ぐ。それをクイッと一気に飲み干し、ボトルを奪い取って自分のに注ぎ、僅かに減ったモディリヤーノの杯にも溢れんばかりに注いで「さあ飲め!」と肩をバンバン叩く。
 普段は仕事に差し支えると言う真面目な理由で飲酒を控えているグウェインだったが、流石は酒愛好家の妹を持つ兄だけあって、飲み出すと実はかなり強いのだった。





 さて、それらの一部始終を見つめていた人が居る。夫オルステッドの後をつけてこの屋敷まで辿り着き、どうしてこんな楽しそうな催しを私に教えてくれませんの! とギリギリしながら見つめていたアリシアだ。ついてきた精霊達がハラハラ主の様子を見守っている。
 これでも我慢はした。依頼と言うからには仕事なのだろうし、何か事情があってあのような役回りを演じているのだろう、と。たとい夫がデレッと鼻の下を伸ばした表情(彼女にはそう見えた)で周囲の淑女達と歓談していようと‥‥していよう、と‥‥‥あれは、仕事、のはず‥‥‥な訳、あるかッ!

「もう許せないわ! イグニス! メリュジーヌ! 懲らしめてあげなさい!」
「ア‥‥アリシア‥‥ッ?」

 突如、庭園を囲む垣根の隙間から飛び出してきて怒り心頭の表情で精霊達にズビシィッ! と命じた妻に、思わずオルステッドは硬直した。オルステッド・ブライオン、こう見えて結構な愛妻家である。その彼が愛する妻にこんな場面を見られて、平静で居られよう筈もない。
 だがしかし、滅多な事では怒らないアリシアの怒りの表情を見れば、彼女が怒り狂っている事は目にも明らかだ。素早くルミリアが淑女達を引き離して安全を確保。他の者もサササッと距離を取り、或いは守りを固める中で、精霊達は炎を生み出して操り、狙い過たずオルステッドに向かわせた。ハッ、と咄嗟に避ける。狙う。避ける。狙う――
 妻の怒りに触れ、行動判定にかなりのマイナス修正を食らいながら(ぇぇ)避け続ける夫をよそに、まだ怒り収まらぬ妻は周囲で息を呑んで見守る人々を見回した。ヒィ、と首をすくめるやら意中の相手に縋りつくやら、歴戦の冒険者をすら恐れさせる眼光も鋭く、アリシアが睨みつけたのはグウェイン。

「こんな事にオルを誘いそうな人は、グウェインさん、貴方ね!」
「は‥‥ッ? 待てアリシア、何でオレッ!?」
「貴方もおしおきですわ〜!」

 ‥‥嫉妬に怒り狂う女性に反論を試みた時点で、グウェインの命運は決まったと言って良い。取り出したマグナブローのスクロールをさっと広げ、アリシアが赤光に包まれると同時にグウェインをマグマの柱が包み込む!

「グウェインの丸焼け一丁、と」
「お、お腹壊しそうなのです‥‥♪」

 やれやれ、と呟いたアシュレーに、何故か嬉しそうにアーシャがうふふと笑った。





 その後、いつもの様にお持ち帰りやら夜明けのハーブティーやら、目くるめく熱い夜は繰り広げられたのだが――そこは語らない事とさせて頂きたい。想い出は、胸の中にあってこそ輝くものである。