とある魔物討伐記録〜旅の魔法使いの場合。

■イベントシナリオ


担当:蓮華・水無月

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 83 C

参加人数:24人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月01日〜06月01日

リプレイ公開日:2009年06月10日

●オープニング

 さてその日、グウェイン・レギンスがリハン領の山奥、ムンティア湖の畔の潰れかけた漁師小屋の成れの果てを訪れたのは、必然でもあり、偶然でもあった。
 必然――それは、かつて『賢者の墓』と呼ばれ『月の隠れ家』と呼ばれた遺跡を探索した際に、発見した古い手紙の解読がようやく終了し、それがムンティア湖の畔に今も滞在しているとある少女に宛てられた物だった、と判明した事。
 偶然――それは、たまたまそれが判明した時にぽっかり手が空いていたのがグウェインしかおらず、どうせ顔見知りなんだから行って来い、と上司のエルブレン・ラベルに蹴り出された事。
 そんな必然と偶然の結果によって、解読済みの手紙と現物を携えてその、ハッキリ言ってあんまり普通じゃなさそうとは言え一見すればうら若い乙女が住んでいると言うのは何かに対する裏切りじゃないかとさえ思えるボロ小屋を訪れたグウェインを、だが当の少女はまったくもって気にした様子もなく明るい笑顔で出迎えた。

「こんにちわ、レギンスさん! 偶然ですね!」
「いや、俺はこんなとこに偶然通りかかれると本気で信じてるお前が不思議だよ‥‥」

 溜息を吐くグウェイン・レギンス、ウィルからあらゆる交通手段を使って片道二日を消費の上到着している。しかも、ここにあるのはさして有名でもなく珍しくもない小さな湖と、後は少女が仮の住まいにしている廃屋寸前のボロ小屋だけなので、本気で誰も近付かない場所だ。
 だがしかし、少女マリン・マリンはグウェインの溜息の理由が全く理解出来なかったようだ。というのも、一つには少女は文字通り世界を股にかけて旅から旅を繰り返してきた為、アトランティスの一地方の山奥の地理など頭に入っていなかった、と言う事があり。今一つの理由には、少女が相棒と頼む白き魔杖には「いつでも何処へでも」月道を繋ぐ事の出来る強力なムーンロードの魔法が込められていて、つまりはその気になれば道など関係なく月道で移動出来るのでそもそも地理を覚える必要がない、と言う事がある。
 そんな訳で2人の間には大きすぎる相互不理解があったのだが、判らないなりにどうやらわざわざ自分を訪ねてきてくれたらしい、と理解した少女マリンは、ひょいと首を捻った。

「何か御用がありました?」
「ん、御用っつーか、届け物な。遅くなっちまったけど、これ、アランドール・ビートリッヒが残した手紙だ。どうも中身を見るに、お前宛らしいし」
「アランからの手紙?」

 古い友人の名に、マリンはパッと顔を明るくして差し出された羊皮紙の束を受け取った。まずは文字が滲んで容易に解読できない、現物の方を。それから解読済みの、新しい羊皮紙に書き付けられた中身を。
 そのままニコニコ手紙を読み始めたマリンの傍で、手持ち無沙汰にアランドールの墓だと言う巨石を見る。ジ・アースのデビルとか言う魔物が探す『鍵』と呼ばれるマジックアイテムを巡って、『面白そうだから』と言う理由で協力したカオスの魔物との戦いが終結したのが半月ほど前。紆余曲折はあったものの、何とか解決出来て良かったなぁ、と思う。
 ぼんやりそんな事を考えているうち、手紙を読んでいたマリンの表情がだんだん険しくなってきた事に気がついて、グウェインは目をしばしばさせた。

「‥‥何かマズイ事が書いてあったか?」
「いいえ? アランの手紙はただ単に、昔一緒に旅してた頃の思い出話と、また私に会いたい、ってお話だけです。会いたいなら、首飾りで呼んでくれればいつでも会いに来たのに」
「ほら、やっぱ1回だけとか思うと滅多に使えねぇとか思ったんじゃねぇの」
「‥‥? 確かに魔法の効果は1回だけですけど、もう1回魔法をかければまた使えますよ? だってアランは私のお友達ですから」

 旅の魔法使い、色恋沙汰には少し疎いようだった。その辺の男の純情にはまったく気付いていないらしい‥‥というかアランドールがマリンに片思いしてた事も気付いてないらしい。思わずグウェインの胸に、亡き老賢者への哀れみの気持ちが去来した。
 まあ、惚れた相手が悪かった、うん。
 とはいえ、それではマリンが険しい表情になった理由がつかない。グウェインが首を捻りながらそう尋ねると、あっさりと少女は答えた。

「思い出し怒りです」
「‥‥‥ぁ?」
「良く考えて見ると、そもそも私がアランと旅をした事がある、ってだけでアランの故郷の村の人を苦しめたりとか、色々してきた訳ですよね? そういう事を考えているうちに、だんだん腹が立ってきました」

 そうしてマリンは、どうコメントしたものか悩むグウェインの手をガッシと掴み、ニッコリ明るく笑った。

「という訳でレギンスさん。ちょっと地獄まで行って、デビルを退治て来ましょう」
「は‥‥あぁぁッ!? お前何言ってんだッ!?」
「大丈夫です、デビルもカオスの魔物も色々違いますけど同じようなモンですよ♪ ここは一つ、せっかくですからレギンスさんも是非」
「その記念っぽい言い方ナニッ!?」
「あ、そうです、どうせなら冒険者と皆で地獄で魔物退治ツアーにしましょう。きっと楽しいですよ♪」
「いやそれ、楽しくねぇだろ普通!! そもそもお前の杖、魔物に狙われてんじゃねぇか!」
「その時は逃げますから大丈夫!」

 妙に乗り気な旅の魔法使いマリンの、明らかに思いつきだけで行動しているとしか思えない『地獄に行こう』発言に、勿論グウェインは抵抗した。力の限り抵抗しまくった。
 そして、半日後。

「という訳で、準備の方はよろしくお願いしますね、レギンスさん」
「‥‥‥‥はい」

 理屈も説得も通用しない少女の前に惨敗した、疲れた男の姿がそこにはあったのだった。

●今回の参加者

カルナック・イクス(ea0144)/ ケンイチ・ヤマモト(ea0760)/ セシリア・カータ(ea1643)/ ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)/ シン・ウィンドフェザー(ea1819)/ アトス・ラフェール(ea2179)/ オルステッド・ブライオン(ea2449)/ オラース・カノーヴァ(ea3486)/ レン・ウィンドフェザー(ea4509)/ アリシア・ルクレチア(ea5513)/ ディアッカ・ディアボロス(ea5597)/ ルゥナー・ニエーバ(ea8846)/ ジュディ・フローライト(ea9494)/ フルーレ・フルフラット(eb1182)/ ライナス・フェンラン(eb4213)/ エリーシャ・メロウ(eb4333)/ リール・アルシャス(eb4402)/ クンネソヤ(eb5005)/ セイル・ファースト(eb8642)/ 木下 陽一(eb9419)/ 導 蛍石(eb9949)/ 木村 美月(ec1847)/ 晃 塁郁(ec4371)/ モディリヤーノ・アルシャス(ec6278

●リプレイ本文

 地獄。そこはデビルやらカオスの魔物やらが闊歩する、血と死の気配に満ちた場所である。血色の空に、澱んだ空気。不気味な咆哮がどこかからか響いてくる。
 そんな場所で。

「さぁ、張り切って仲良く楽しく魔物を退治しましょうね!」
「がんばるのー♪」

 なぜか絶好調の満面の笑みの旅の魔法使いマリンと、その横でいきなり意気投合したレン・ウィンドフェザー(ea4509)が揃って拳を突き上げていた。何処からどう見ても絶好調だった。おまけにその手には、図書館で資料を調べた時に作った『地獄ツアーのしおり』がしっかりと握られていて、思わず養父のシン・ウィンドフェザー(ea1819)が、顔を覆うのを通り越して苦笑するしかなかった程だ。

「‥‥しかしまた、えらく軽い動機で地獄に行けるもんだねぇ?」
「正直、発端の気軽さには少々驚きましたが」

 シンのボヤキに、同意するエリーシャ・メロウ(eb4333)。それは他の冒険者達も同じ気持ちのようで、だが木下 陽一(eb9419)のようにその後ボソッと『それについてきちゃう俺も俺だけどなぁ』等と自嘲の笑みを浮かべる者が殆どだ。
 だが、言われた当のマリンは少し、唇を尖らせる。

「軽くはないです。だって魔物やデビルは、アランとアランの故郷の人を苦しめたんですから」

 仲良しだった故アランドールの為に、アランが怒れない代わりに自分が怒って魔物を懲らしめるのだと、主張する少女に苦笑する。だからと言って、じゃあちょっと地獄に行って、と言う発想には、常人はならないものだ。まして、狙われているのは彼女の持つ杖なのだから。
 そこを突かれると、ウッ、と一瞬詰まって相棒の白亜の魔杖を抱き締める。正式名称は『セブンフォースエレメンタラースタッフ』。呼び名はその時の気分。最近は、どこかの国で月を意味する『皓月』と呼ぶ事が多い。
 この杖を、デビル達は彼等の王の為の『鍵』として捜し求めている。ジ・アースでも幾つかの鍵が見出され、争いの火種になったと聞く。アランドールの故郷がデビルに狙われ、カオスの魔物に占拠されたのもそれが原因。グウェインには『その時は逃げる』と言い切ったものの、多少の後ろめたさはある様だ。
 だがそれを素直に認めるのも癪なようで、拗ねた様に黙ったマリンにリール・アルシャス(eb4402)が笑いかける。

「マリン殿の護衛もしながら、行ける所まで行けば良いんじゃないか?」
「姉の言う通りです。そうそう、熱病予防になるか不明だけど、鼻や口を覆う布をもってきたので、水で湿らせて巻いておくと良いんじゃないかな」

 モディリヤーノ・アルシャス(ec6278)もそう言いながら、用意してきた清潔な布を配って回った。水も勿論地上から持ってきた新鮮なものを。
 そうですね、とマリンがパッと明るく笑って。

「じゃあ行きましょう! 皓月、お願いね」

 相棒に囁きかけるや否や、魔杖と少女が銀光に包まれた。





 辿り着いた場所には今日も、見たくもない魔物がどっさりと蠢いている。そんな魔物めがけ、まずぶっ放したのはやっぱり旅の魔法使いだった。

「シャドゥボム!」

 叫ぶや否や、冒険者達の少し向こう、100mほど先にいた魔物が景気よく吹っ飛んだ。そこに容赦なく追い討ちをかけるレンのローリンググラビティーで、落ちてきた魔物は再び空中へ、そしてボタボタボタッと自由落下。の途中で黒い塵に還る者もいる。
 幾ら雑魚っぽかったとは言え、のっけからかなりアレな光景だった。

「やったー♪」
「やったのー♪」

 そして意気投合した2人の魔法使いのテンションは限りなく一緒だった。‥‥マリンさん、アランの為に怒るとか、絶対口実ですよね(ぁ
 はへ、と毒気を抜かれる冒険者一同。そしてやっぱり度肝を抜かれたらしきデビル達。両者はしばし、見つめ合い。

「ギイィィィッ!」
「やっぱり来ますよね」

 我に返って襲い掛かってきたデビル達に、アトス・ラフェール(ea2179)が冷静に呟いた。普通、何もしなくてもデビルは人を襲うものなのであって、まして景気よく先制攻撃された日には、怒りもひとしおだろう。
 ジリ、と足元の土を確かめながら剣を構えたアトス、地獄に来るのは実は初めてだ。だが神聖騎士たる身で、デビルとの戦いは避けて通れない。どこか粘ついたような、地上とは異なる土の感触は出発前に、図書館で仲間達が調べてくれた情報そのまま。ある程度、心の準備は出来ている。
 ケンイチ・ヤマモト(ea0760)が苦笑した。

「もしかして護衛、要りませんか」
「えらく景気良くいっちゃったッスもんね‥‥」

 フルーレ・フルフラット(eb1182)もまた、いきなり切って落とされた戦線を見晴かしながら呆然としている。て言うか普通みんな、同じ反応になると思う。
 そんな事ないです、とマリンはふるふる首を振った。

「確かに魔法は使えますけど、不意打ちとか、直接攻撃されたらどうしようもないから。頼りにしてますね」
「じゃあマリンにはまずは俺がついてるぜ。フルーレ、行って来いよ」
「そうッスか? なら‥‥」

 オラース・カノーヴァ(ea3486)の言葉に、甘えてフルーレは待っていたグリフォンを呼び、その背に乗って飛び上がった。ジリジリ先へ進みつつある前線を目指し、飛び降りて先頭へと切り込んでいく。
 すでにそこでは前衛を担うセシリア・カータ(ea1643)やライナス・フェンラン(eb4213)が、襲い来たデビルや魔物(区別はつかない)を相手に戦闘の真っ最中だった。人と魔が出会えば、いさかう以外の選択肢はない。おまけに、当初こそ奇襲で混乱し、続け様の冒険者との戦闘に惑った様子で居た魔物達だったが、今はすでに我を取り戻したようで。
 ぁ、とその動きを見ていたマリンが小さく呟き、同じく眺めていたオラースが言った。

「あんたに気付いたんじゃねーの?」
「カノーヴァさんもそう思いますか‥‥デビル、目ざといですね」
「あんた達の予想通り、ヤツラ、こっちに向かってきてるぞ。一応、聞いておきたいんだが。その杖、どんなものなんだ?」

 月竜に乗って先行偵察を行っていたセイル・ファースト(eb8642)が、月竜からおりながら尋ねる。ここ、ゲヘナまで来るのに使用した月道は、彼女がムーンロードで繋いだ。だからそれが杖の能力の一つだ、と言うのは理解が出来るのだが――
 尋ねたセイルに、マリンは首を傾げた。

「どんな、ですか? この子が出来るのは『いつでも何処でも』月道を繋げる事だけですよ――地獄では上手く行かないみたいですけど」

 皓月を抱きながら言われた言葉に、ああ、とセイルとオラースは頷く。ゲヘナにやって来る前、冒険者の地獄の拠点で他にどんな場所へ行けるかを色々試してみたのだが、月道は開かなかったのだ。
 移動先の安全が確保出来ないのが問題なのか、とユラヴィカ・クドゥス(ea1704)がクレアボアシンスで指定出来る場所を垣間見、安全を確認した上で試みたりもしたのだが、やはり結果は同じで。

「もしかしたら、私自身が移動先のイメージが明確に出来ないから、かも知れません」
「でも、ここには移動して来れただろう?」
「だってここには、たくさんの人達の想いがありますから」

 元々、ゲヘナは陣地から目視出来る場所にあり、イメージも掴みやすかったし。場所を、と言うよりは想いに引かれて辿り着いたのかもしれない、と。
 考えるマリンに、ケンイチが声をかける。

「まずは場所を移した方が良いですね。こんな所では、身を隠す所もなさそうですが」

 それはもう、まったくその通りだった。





 導蛍石(eb9949)は超越魔法の使い手である。間に合えば死者すら蘇らせる超越リカバーを初めとして、言うなれば戦闘援護のスペシャリスト。今日も仲間達に超越レジストデビルを付与し、自らはペガサスに乗って上空や地上からマリンの護衛を勤めつつ、時折デティクトアンデッドで魔物の不意打ちを防ぐ事も忘れない――探すまでもなく目の前には魔物が山盛りだが、それに気を取られて不意を突かれる事もある。
 それを見ていたマリンが、すごいですねぇ、と感心した。

「私、月魔法しか使えないから羨ましいです」

 そう羨むマリン嬢、月魔法は全種類使えたりするので立派に羨望の的になり得るのだが、どうも本人にその自覚は薄いようだ。
 コアギュレイトで拘束した魔物をホーリーで始末しながら、晃塁郁(ec4371)はマリンを観察する。半月程前、ムンティア湖の畔で初めて会ったときには少し変わった所のある普通の少女、と見て取れたのだが。

「導さんや晃さんは華国の方ですよね。あそこ、面白い所ですね」
「マリンさんは確か、イギリスの方でしたか」
「そうなるのかな? でも色んな所を行き歩いているから、イギリスも殆ど旅行気分です」

 あと行った事がないのは天界かなー、などと笑う少女、先ほど地元談義をしようとしたケンイチとセイルに、現在では古城となっている城に人が住んでいた頃の話などを始めて、年増疑惑(と言うレベルでもないが)に華を添えた。そもそも彼女が友人と呼ぶ故アランドールだって、少年時代に出会ったマリンに一目ぼれし、老人になるまで立派に生きて死んだと言うのに、当のマリンが少女の姿でピンシャンしているのだから。
 一体何者だ、とオルステッド・ブライオン(ea2449)は眉を潜める。勿論、例え何者であったとしても彼女が今此処に居て、味方であると言う事実はなんら変わるものではない。だが気になるのが人間と言う生き物の性だ。
 その疑問の眼差しに、気付いたマリンがにっこり笑う。笑って、何も言わずに別の話題に摩り替える。

「ブライオンさん。休憩ですか?」
「‥‥休みなく戦い続けるわけには行かないからな‥‥」
「そうですね。お疲れ様です。‥‥今、良いですか? 晃さん、導さんも」

 呼ばれた面々が疑問の表情で振り返ったそこには、旅の魔法使いがペコリと頭を下げた姿があった。

「言いそびれてましたけれど、アランにあげた首飾り、守ってくれてありがとうございます。アランのお墓を移す時、アランにあげた首飾りを忘れていったのは私ですし、まさか魔物が目をつけるとも思わなくて」

 だから、本当にありがとうございます、と。その言葉は此処に居るものだけでなく、一緒に地獄にやってきた、あの日ムンティア湖の畔でカオスの魔物と戦ったすべての冒険者にテレパシーで届けられている。
 聞いていたアリシア・ルクレチア(ea5513)が、デビルに魔法を放ちながら微笑んだ。この地獄行き、彼女としては魔王やら、或いはマリンを捕らえようとした死屍人形遣いの上司の魔物の顔を拝みに行くのも良いかもしれない、などと結構過激な事を考えていたのだが。

「図書館で調べた事の、復習ですわね。この魔物の弱点は確か‥‥」

 言いながら目の前のデビルと調べた知識を照らし合わせる横で、ルゥナー・ニエーバ(ea8846)が剣を手に、祈りを胸にデビルに挑みかかっていた。
 せっかくのフリオニールとの初陣だったのだが、まだようやく意思の疎通が出来る様になったか? という段階で地獄での共闘と言うのは、ユニコーンにとってはどうやらハードルが高かったようだ。今現在は、フリオニールをムーンフィールドの中に保護してもらい、彼女は単身デビルに挑んでいる。
 それでも、愛する相棒の見ている前で、己に恥じぬ行動を。人が安心して暮らせる世界にするために、全ての悪魔の駆逐を、望む。その為に、目の前のデビルに剣を振るう。

「サンレーザーなのじゃ!」
「ウィンドスラッシュッ!」
「おっと、こっちはアイスブリザード!」

 仲間達の補助と言いつつ、割とメインな感じでユラヴィカや木村美月(ec1847)、モディリヤーノと言った魔法を得手とする者も、立派にデビルと戦っている。純粋に仲間の絶対数と敵の絶対数を鑑みれば、まあそうなる結果だ。幸い、どうにかなっているし。
 一方で地獄には存在しない太陽光線に焼かれて苦しむ魔物が居て、他方で突如起こった吹雪に悲鳴を上げる魔物が要る。傷付き血に塗れ、或いは空から墜落した魔物に、リールがすかさず止めを刺していく。さらにそこに切り込んでくるのがクンネソヤ(eb5005)だ。

「やっぱり、この武器だとシュライクが上手く使えないな」

 唸り声を上げつつも、冷静にライトバスターをふるってヒット&アウェイ、僅かずつでもダメージを与える事を心がける。出来るだけ囲まれないように体を捌き、それはまるで踊るように。
 ヒュンッ!
 風切り音がして、一本の矢がクンネソヤの戦っていた魔物に止めを刺した。グラリ、と揺れる巨体が、すぐに塵となって消えていく。

「‥‥ふぅ、手持ちを考えて矢を使わないとね」

 矢を放ったのはカルナック・イクス(ea0144)だ。ゴーレムニストを職能とする彼は、料理好きの一面も合ったりして工房の面々にこっそり期待されている(かもしれない)のだが、それとはまた別の意外な一面が此処にあった。ゴーレムニストになる前はレンジャーだった彼は案外、弓にも嗜みがあるのだ。
 クンネソヤが剣を上げて感謝を伝え、新たな的に向かっていく。それを見て、戦場の全体を見晴かして、カルナックは一本ずつ、着実に援護射撃を加えていく。
 地獄に来て、すでに半日が経過していた。





「皆様、御疲れ様です‥‥」

 小休止、聖なる釘で結界を張りつつ、出来るだけ固まって食事休憩を取る(勿論提案はマリン)冒険者達に、ジュディ・フローライト(ea9494)を始め余分の食料を持ってきた者達が1つずつ、配って回っていた。
 上空から偵察をして待っていたエリーシャと陽一が、もう何度もやった事とは言え、いまだ地獄の空を飛ぶのは慣れない、と言った事を話している。その一方で、アトスやセシリア、ライナスらが黙々と剣の刃こぼれの状態を見て今後の戦いに備え、簡単な手入れを施していた。ちなみにこの3人、最前線で何かに憑かれた様に戦っていた。
 同じく前線にいたフルーレは、戻ってきてまた何か言いたそうにマリンを見ては、いえマリンさんがマリンさんである事に変わりはないッス! と自分に気合を入れている。で、当のマリンは今は、シンやセイル、フルーレの連れているムーンドラゴン(パピー含む)と戯れていたりする訳だが。

「お疲れさんだったな」
「いえ‥‥私に出来る事は、これ位ですから。ウィンドフェザー様もご無理をなさいませんよう」

 鼻の下を伸ばす、と言う言い方は変だが嬉しそうなガグンラーズに苦笑しながら声をかけたシンに、ジュディが微笑む。彼女は『自分は戦いは得意ではありませんので』と、事前調査で判明した事柄を書き付けた羊皮紙の束を引き受けたのだ。
 はっきり言って、羊皮紙の束は重い。故にどうしても遅れがちになる彼女に、余裕がある時は仲間も分担して羊皮紙を持っていたのだが、戦闘が始まるとそうも言っていられず。むしろ、下手に持っていては戦いの邪魔になるし、戦いの最中に破損してせっかくの情報が無駄になるかも知れず。

「でもそのおかげでみんなたすかったのー♪」

 自分自身は作成した簡易情報書類を持っていたレンだったが、勿論そこに書いてあるものが全てではなく。結果として、ジュディが運んできてくれた資料は、魔物対策に役立ったようだ。
 良かった、とジュディが微笑んだのと、ピクリ、とオラースが肩を揺らしたのが同時。それにセイルが反応し、チラ、と振り返る。

「中級デビルか‥‥」
「ま、我慢してやるか‥‥ッ」

 傍らに置いた剣を取り、オラースは立ち上がった。もちろん他の冒険者達も向かおうとするが、アレは俺の獲物だ、とオラースに一蹴される――何しろこの男、最初から上級デビル狙いで地獄巡りに参加した、と言う。なので、中級デビルで『我慢してやる』と言う発言だ。
 手にした獲物はテンペスト。しかもスレイヤー効果にスレイヤー効果を重ね、下級デビルレベルなら瞬殺は当たり前、中級で手間取るのも恥、上級レベルすら場合によっては危うい威力を兼ね備えている。
 が、剣は剣。使い手がその威力を十分に発揮出来なければ、ただの鉄の延べ棒と大差ない。
 故に。

「テメェらじゃ役不足だが、せいぜい魔王との戦いに役立てることを喜べッ!」

 叫ぶや否や、丘に現れた中級デビル達に向かって突進した。まずは盾を前面に押し出して突撃。チャージングを警戒して身構えた魔物達の直前で、素早くソードボンバーへ。
 無茶しやがる、と誰ともなく苦笑した言葉は勿論、男の耳には届かない。あまりに直前すぎるとソードボンバーが放ちきれず、と言って早過ぎては敵に対処の暇を与える。そのギリギリのラインを、一体何処に見極めれば良いのか。それを試行錯誤し、身体にタイミングを刻み込もうとする。
 インビジブルの指輪で姿を消して、と言う事も試みたのだが、何しろ場所が場所だけに気配を隠すのが難しく、なかなか上手く行かなかった。どうやらこちらは要課題のようだ。
 美月が、取り付かれたように1人戦う男の姿を眺め、首を傾げた。

「あれ、止めなくて大丈夫なんですか?」
「疲れたら戻ってくるだろう。正直、俺も混ざりたいが割って入れん」

 セイルが肩をすくめて「なぁ?」とフォレストドラゴンに語りかける。混ざりに行っただけでも殺されそうなほど鬼気迫っているのに、まして止めなどしたら何をされるか(ぁ
 そうですか、とあっさり頷いた美月がマリンに叫ぶ。

「マリンさーん。マッサージしましょうか☆」
「マッサージ? どんな事をするんですか?」

 いきなり地獄に似つかわしくない提案だったが、どうやらマリンはマッサージ自体が初めてのようだ。遊んでいた月竜達に「またね」とヒラヒラ手を振って、興味津々の顔で美月の傍に駆け寄っていく。
 蛍石が戦い続けるオラースに――鬼気迫る勢いで魔王との戦いに備える彼に、彼を駆り立てたのであろう出来事を思った。





 遠足は、家に帰るまでが遠足である。故に。

「そろそろ帰りましょうか!」

 幾ら冒険者達としても魔物やデビル退治は意に沿う事だとは言え、その後、皓月とマリンを狙ってきた魔物を何度も返り討ちにしながら中々帰ると言い出さない旅の魔法使いを守り、ローテーションを組みながら戦い続けた彼らがついにその言葉を聞いた時、誰からともなく安堵の息が漏れたと言う。
 グウェイン・レギンス(実はちゃんと居た)が、ぐったりしながら尋ねた。

「すっきりしたのかよ?」
「すっきり――っていうか、アランやアランの大事な人達の仇をようやく取れたのかな、って思います。皆さん、一緒に来て下さってありがとうございました」

 丁寧に頭を下げた旅の魔法使いの少女の、また一緒に魔物退治しましょうね、と言う言葉にだけは誰もが全力で首を振ったとか、振らなかったとか。