【騒乱】少女を付け狙う悪意、そして

■ショートシナリオ


担当:蓮華・水無月

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月08日〜06月13日

リプレイ公開日:2009年06月15日

●オープニング

 リーシャの日課は町を歩く事である。よほどの事がない限り、毎日欠かさず彼女は町を歩き回り、色々なモノを見て回るのだ。
 生まれて十六年をそうやって過ごしてきた彼女は、だからこの町の何処に抜け道があって、何処に美味しいパン屋さんがあって、何処の花が見頃なのか、そんな事を全部知って居る。この町に暮らす人々がどんな人達なのかを、良く知っている。

「こんにちわ、おばさん!」
「おや、丁度良い所に。蜂蜜パンが焼き上がったところだよ、幾つか持っていくかい?」
「ええ、きっとそうだと思って、楽しみにきたのだわ! 3つ下さる?」
「嬉しいねぇ。遠慮せず、幾つでも持っておいきよ!」

 屈託なく笑う恰幅の良い女将の笑顔に、3つで良いのだわ、とリーシャも明るい笑顔を返した。熱々ホカホカの蜂蜜パンを3つ、ふわりと広げたエプロンドレスの上に落としてもらって、大切に包みこむ。
 そうして、蜂蜜パンを包んだエプロンドレスの前掛けを大事そうに抱いたリーシャが、チラリ、と背後を気にする様に振り返ったのに、女将は苦笑した。

「なんだい、レニと追いかけっこの最中かい?」
「‥‥ええ、そんな所、なのだわ。おばさん、蜂蜜パンをありがとう! 楽しみに食べるわね」

 女将の揶揄するような言葉に、ニッコリ笑ったリーシャはそう言って、じゃあ、とヒラヒラ手を振った。たたたっ、と軽やかに、仔猫のように駆けて行く少女の背を見送った彼女は、不意に、リーシャを追いかけるように駆け抜けて行ったむくつけき男達の姿に首を捻る。

「‥‥‥今日はレニじゃないのかい?」

 珍しい事もあるもんだねぇ、とさして気にした様子もなく肩をすくめ、「さぁ、仕事、仕事」と言いながら店の中に戻っていた女将は、だから気付かなかった。さらに数人の男達が、リーシャの後を追うように走って行ったことを。





 さてその日、冒険者ギルドの受付嬢ティファレナ・レギンスが対応したのは、彼女の故郷リハン領からやってきたと言う青年だった。

「私、レニと申します。とあるお屋敷に勤めさせて頂いております。本日は、私がお仕えしておりますお嬢様の事でご相談があって参りました」

 礼儀正しくそう言った青年に、はぁ、とティファレナは相槌を打つ。とあるお屋敷、と言われても具体名が出ないとピンとこない。
 そんな内心を見透かしたように、青年はペコリと頭を下げた。

「どうか、この事はご内密に‥‥私がお仕えしているのは、リーシャ様なんです」
「リーシャ様‥‥って、まさかあの」
「ええ」

 さすがにリハン出身の彼女には、その呼称だけでピンと来るものがあった。と言うか、リーシャ様、と領内で呼ばれるのはただ1人しかいない。
 リーテロイシャ・アナマリア・リハン、愛称リーシャ。リハン領を納める領主家の次女であり、現領主の唯一の嫡子である事から次期領主とされている、当年とって16歳の少女。
 その、リーシャに仕える青年が、リーシャの事で相談があると言う。

「‥‥リーシャ様に、何かあられましたか?」
「今のところは、まだ。ですが、何も起こらない為にぜひ、冒険者のお力をお借りしたいのです」

 レニの語るところに寄ればこうだ。リーシャは毎日、領主家の屋敷がある町を歩き回り、町の人々と直接触れ合う事を日課としている。だがこの頃、そんなリーシャの後をつけ狙う様子を見せる不審な男の姿が、あちこちで目撃されているのだ。
 どうやらリーシャもその存在には気づいているらしく、巧みに男達を巻いているので今のところ、何かが起こった、という事実はない。だが今までは、これからの保障ではなく。

「勿論、リーシャ様には町歩きをお控え頂ける様お願いしたのですが、頑として聞き届けて頂けません。かくなる上は冒険者の方にお願いして、リーシャ様を止めて頂くしか」
「ちょ‥‥っと待って下さい。もちろん依頼はお受けしますが、内密になさりたいのなら、領主家の私兵をお出しになった方が良いのでは」
「それはその通り、なのですが、私兵では‥‥」

 レニはゆるゆると首を振る。それに、何となく事情を察してティファレナは確認し。

「やはり、目立ち過ぎますか」
「いえ‥‥今現在の領主家の私兵で、リーシャ様に最後までついていける者が居ないのです」
「‥‥‥はい?」
「リーシャ様は、あっという間に姿をくらませて、私兵を撒いてしまわれますので。何度か、私兵による護衛は試みたのですが」

 全部失敗に終わったらしい。ああ、それで冒険者なんだ、と何だかひどく納得した。
 ティファレナの顔に広がった理解の色に、そうなんです、とレニは頷き。

「家内には、リーシャ様について来れるものも居ないだろうから大丈夫じゃないか、などと楽観視する声もあります。ですが相手の正体も、目的も判らず、では――リーシャ様は、次期領主であらせられますので」

 ただその一点のみに絞っても、リーシャを狙う者は幾らでも想像出来る。領主家に恨みを持つ者か、単に政治的プロパガンダに使用したいのか、それ以外の、例えばリハン領を傾けようとするものがリーシャを狙っている、という可能性だって。
 そういう可能性が少しでも考えられる以上、潰せる可能性は全て潰さねばならない。

「冒険者の方でしたら、見事リーシャ様を出し抜くお知恵もお持ちかと推察します。どうか是非、よろしくお願い致します」

 そう言って頭を下げたレニの背中には、隠しきれない苦労がにじみ出ていた。

●今回の参加者

 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 ec1984 ラマーデ・エムイ(27歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)
 ec6595 フランドール・クリスティン(23歳・♀・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)

●リプレイ本文

 まずはリーシャの事を知らなければ、対策も立てられない。故にレニに趣味や性格、行動、癖などを事細かに聞き込んだアシュレー・ウォルサム(ea0244)だったが、肝心のリーシャの容姿を確認すべく――となった所で、多少問題が持ち上がった。

「うーん、やっぱり屋敷の中に入れてもらうのは難しいか」
「申し訳ございません」

 苦笑するアシュレーに頭を下げるレニ。エリーシャ・メロウ(eb4333)の要請でリーシャの肖像画は確認したし、遠目での確認もした。後は万全を期す為、少女が屋敷に居る間にデジカメで、と思ったのだが。

「今回の事は家内でもリーシャ様にお仕えする一部の者しか存知ませんので」
「ふむ」
「なので、出来れば屋敷内ではご遠慮願いたく」

 勝手を申しますが、とレニは再度頭を下げる。恐らく、リハン領主家の中にも色々あるのだろう。
 しかし、とエリーシャが真剣な眼差しで言った。

「それでも危険を知りつつ護衛を伴わぬのは、お世継としての責任感に些か欠けていると言わざるを得ません」
「市井のものと積極的に交流を持つことはいいんだけど、もうちょっと自分の身の安全のことも考えて欲しいよね」
「まったく仰せの通りです」

 返す言葉もございません、と三度レニは頭を下げる。どんな事情があろうと、そもそも護衛もなしで町を歩き回るリーシャに問題がある事は、紛れもない事実だった。





 町の者は皆リーシャに好意的だった。

「リーシャ様? あの方は町を駆け回ってる方がお好きだからねぇ」
「ラゼットさんちの蜂蜜パンが好物だよ」
「良く物を失くしてレニと異母兄のリッド様にお小言を食らってるね」
「『妖精さんが隠しちゃったのだわ』とか言い訳するしさ」

 そんな訳で、アシュレーがちょっと聞き込んだだけでもこの手の情報がボロボロと、出てくる、出てくる。て言うか次期領主大丈夫か、と一応リハン領民のグウェインが頭を抱えたのも無理はない。
 ラマーデ・エムイ(ec1984)がきょとん、と目を丸くして言ったものだ。

「お姫様って普通、そんなにお転婆なの?」
「普通ではないでしょう」

 エリーシャが顔を渋くして否定する。全てのお姫様がこんなだったら、世に流布する多くの物語は成立すらしない。
 もっとも、確かに聞き込んだエピソードは微笑ましいを通り越して苦笑を禁じえないものだが、鵜呑みにするのは危険だった。人々が少女に好意的と言う事は、つまり聞き込んだ情報が正しいとは限らない、と言う事で、だから最後には己の目で見、判断をしなければならない訳で。
 翌日、町の地理もあらかた掴んだ冒険者達は、いざリーシャ確保に乗り出した。まずは隠密行動に長けたアシュレーが屋敷から出てきたリーシャの尾行につく。本来ならここでリーシャを確保するのがベストの選択だが、やはり領主屋敷だけあって見張りの兵があちこちに居た。
 事前に見た肖像画はしっかり頭の中に叩き込んである。そして屋敷から実にラフな格好で出てきた少女の姿は、その肖像画に酷似している。

「さて、と」

 見事違和感なく一般人に変装したアシュレーは、早くも仔猫の様に駆け出した少女の背中をしっかり捕らえ、その背を追って動き始めた。ラマーデはあまり体力がないし、エリーシャとグウェインはどう変装しても滲み出る雰囲気が騎士だったり軍人だったりして、あまり尾行には向かない。
 故に一人、鼻歌でも歌い出しそうな気軽な空気で、着実にリーシャの後につく。隠身の勾玉で気配を消しているおかげで、どうやら少女も尾行には気付いていない様だ。
 時々、行き先に迷う別れ道では方向を示す様にダーツを刺しておく。そうしながら角を曲がり、あちこちで「お早う!」と明るく声を掛けて回るリーシャを見失わぬよう、気付かれぬよう絶妙な距離を保ち。
 ひょい、と少女が飛び込んだ曲がり角を、曲がって。

「‥‥ふぅん」

 思わず唸る。早くもそこには少女の姿はなく、人通りの少ない街路にはちらほら買い物をする住人と、店番の幾人かの女がどこか退屈そうに立ち話をしているのみだ。
 この数、この見通しで見落とすと言う事はありえないが、念のため素早く全員の顔を見て、変装したリーシャが紛れ込んでいる訳ではない事を確認する。さらに幾つかの隠れられそうな場所にもさりげなく視線を走らせ、誰も居ない事を確かめて。
 戸惑った風で、住人に話しかける。

「こっちに女の子が来なかったかな」
「女の子? 旅人さん、ここらの娘っ子はアンタみたいな良い男には免疫ないんだからさ、恥ずかしがって逃げちまったんじゃないのかい?」
「そうそう。何ならあたしらが代わりに一緒に遊んでやろうか?」
「いや、単に道を聞きたかっただけだし」

 何か違う方向でその気になってる女達ににっこり笑顔をくれてやって、適当な広場までの行き道を尋ねてその場を濁す。懇切丁寧な説明に礼を言い、案内してやろうと言う申し出には「色々見ながら行くからさ」と遠慮して。
 女達に愛想よく手を振りながら、クルリ、と背を向けた瞬間に、女達の視線が集中するのが判る。伺うような視線。

(これは、彼女達がリーシャを隠したのは確実かな)

 そうして後を追う様にやって来たアシュレーに、とぼけた顔で誤魔化してくれた訳だ。慣れた態度だったのはそれがいつもの――恐らくレニや、領主家の私兵相手にも日常茶飯事に行っているからで、その後思わず伺うように見てしまったのはそれが、見慣れぬ旅人だったからか。
 ダーツを頼りに追ってきたエリーシャ達に寄れば、彼ら同様リーシャを追う不審な男は見かけたが、アシュレーがリーシャを見失ったと同時にどこかへ消えたと言う。さっさと見切りをつけ、別の場所を探しに行ったのだろう。
 リーシャ確保はなかなか一筋縄では行かないようだった。





 次に名乗りを上げたのはラマーデである。

「護衛や追跡だから撒かれるのよね。それじゃ堂々と一緒に行けばいいのよ!」

 そう宣言した彼女は事前に、リーシャの衣服に珍しい香水をつけてもらうよう頼み、愛犬オロに覚えさせている。朝一番に、屋敷から出てくる所を抑えるのは、領主屋敷がある割に小さ過ぎる町では人目を考えねばならない。
 昨日とは別のルートを辿る少女を、やはり今日も見失った場所から香水の匂いを頼りに追わせようとすると、まずは手近な店の中に走り込む。流石にびっくりして悲鳴を上げた店番に『すみません!』と謝罪して、しばらく行った別の場所で改めてオロを放すと、しばらく困ったようにウロウロしていたが、やがて迷いながら走り出し。

「こんな所に‥‥それにこの町の構造、どうりで人目につかない筈です」

 通りの向こうから駆けてくる少女の姿に、物陰に隠れたエリーシャがため息を吐く。少女を見失った場所から、少女を再発見した通りまではそう離れてはいない。だがその間には家々が建ち並んでいるし、ここまでの道のりはほぼ一本道で、冒険者が一度も少女を見かけなかったのはおかしい――のだが。
 軒を並べる家々は、横に長く壁が繋がった、いわゆる長屋形式。それと、いわば道の先に忽然と現れた少女と、最初に店の中に走りこもうとしたオロの行動を考えれば、リーシャがどうやって姿を眩ましたかは想像がつく。

「長屋で続く家の中を通り抜けて移動した、ってわけか。さすがに他人の家に押し込む訳にはいかないしねぇ」

 まして姿を消す場面を目撃でもしない限り、リーシャを追う者達も、護衛に走る者達も、他人の家を通り抜けて移動しているとは想像もすまい。
 何れにせよ、まずは少女の確保と不審者の退治が先決。素早く物陰に潜んだ仲間達を一度だけ振り返って、ラマーデは愛犬に合図した。途端、少女に向かって走り出すオロを、追いかけて彼女も走り出す。

「オロー! 待ちなさーい! ‥‥きゃぁ!?」
「きゃぁッ!」

 ドンッ、と見事リーシャに体当たりしたラマーデは、そのまま盛大に転がった。まぁ、と少女が目を丸くして足を止め「大丈夫かしら?」と手を差し伸べる。
 どうやら足止めは成功のようだ。

「あ、ありがと‥‥ああッ! 大事な羽ペンが折れちゃったー!」
「まぁ、ごめんなさい。それは大変だわ」
「困ったわー。ねぇ、新しい羽ペンを買える所に連れて行ってもらえないかしらー? あたし、建築の勉強に来たから羽ペンがないと困るのよねー。この町には詳しくないから説明されても判らないしー」
「そうね。私も旅人さんに、この町に嫌な思い出を持って欲しくないわ」

 テンポ良く、ぽんぽんと話を進めていくラマーデに、力強く頷いたリーシャは、判ったわ、とにっこり微笑んで、傍を通りがかった女に声をかけた。

「おばさん、この旅人さんを羽ペンのお店まで案内してあげて下さる?」
「ええ、お任せください、リーシャ様」
「ありがとう! さぁ旅人さん、このおばさんについていけばきっと素敵な羽ペンを探してもらえるのだわ」
「え、あの」
「さあお嬢さん、お代はリーシャ様につけときましょ! 取って置きのお店に連れて行ってあげるわ」

 これで解決だわ、と嬉しそうに微笑んでまた走り出したリーシャを、はっしと女に腕を掴まれたラマーデは呆然と見送った。どうやらテンポの上でも、彼女の方が上手らしい。
 物陰から成り行きを見守っていた3人が呟いた。

「あれ‥‥天然か?」
「気付かれているとも思えませんが」
「あっちを警戒してるのかもしれないねぇ」

 ほら、とアシュレーが目線だけで注意を促せば、走っていく少女の背中を追いかけだしたむくつけき男達の集団がいる。しかも良く見ていると、住人達がさりげなく水を撒くやら、通りの絶妙な位置で立ち話を始めるやら。
 やれやれ、とため息を吐いた。リーシャもさすがに、一所に留まっていては危ない事は承知しているのだろう。だったらおとなしく屋敷に閉じこもるか、せめて大人しく護衛を付ければ良いのに、それでも一人で出歩く少女の為に町の人々が妨害工作をしているわけだ。
 だが、少女が尾行を撒く秘密が判明した以上、次は確保あるのみである。





 改めて町の構造と家々の配置を徹底的に調べ上げた冒険者達は、あらゆるパターンを想定し、リーシャ確保に乗り出した。まずは今まで通り、アシュレーが屋敷から出てきた少女を尾行する。
 いつも通り町の人々に声をかけながら駆けていく少女が、ひょい、と角を曲がった。落ち着いて同じく角を曲がり、少女の姿が消えた事を確かめたアシュレーは、その角に目立たぬようダーツを打ち込んだ。そのまま、予め想定しておいた小道に滑り込み、自身もインビジブルリングで姿を消す。
 リーシャが町の家の中をも道として利用していると、判れば次にどこから現れるかはある程度予測できる。後から追ってくるエリーシャ達は、ダーツを見てどこに回り込めば良いか判断する。
 案の定、素早く幾つかの路地を通り抜けた目の前に、ちょうど少女が住人に手を振りながら家の中から出てきた。それから辺りを見回して、誰も居ない事を確かめて、仔猫の様に軽やかに駆け出して。
 ひょい、とまた角を曲がった所で、素早くリーシャに駆け寄り、確保する。

「きゃ‥‥ッ!?」
「はい、落ち着いてー」

 さすがにビクリと身体を強張らせた少女に、アシュレーは姿を現しながら苦笑した。慌てて背後を振り仰いだ少女の顔が、あら、と驚きに目を見張る。
 だが少女の驚き顔は、アシュレーが名乗り、アシュレーのダーツを辿って追いついてきた冒険者達が名乗るのを聞くと、まぁ、と困り顔になる。

「冒険者さん? じゃあ、あの方達とは別の方なのよね」
「あの方‥‥?」

 エリーシャが振り返れば、まさにそこには少女探索中に幾度も見かけた、不審者たちの集団がいる。そしてあちらも冒険者達の姿を見て、ぎょっ、と目を見開いていた。
 その両方を見比べ、ちょこんと居たラマーデに『素敵な羽ペンは見つかって?』と微笑んだリーシャは、のんびり呟いた。

「これはちょっと、ピンチなのかしら?」
「リーテロイシャ・アナマリア! 大儀の為、そのお命頂戴する!」
「まぁ、俺達がさせないけどね」
「おとなしく縄につけば良し、抵抗するなら多少痛い目に合って貰いますが」
「ふざけるな!」

 リーシャを守るように前に出た2人の言葉に、男達が吼えた。やれやれ、と身の程を知らない連中に、アシュレーが縄ひょうを操って足元を絡め取る。
 やる気だけは人一倍あるようだが、冒険者を相手にするには技術が伴っていない(勿論並以上のレベルの腕前ではあったが)。たちまちすっ転んだ男達に、素早くエリーシャが抜剣しながら駆け寄った。

「エド!」

 主人の命令に、大人しくしていたエドが力強く駆け出し、残る男達に襲い掛かった。ウワッ、と思わず体勢を崩した所にアシュレーが追い討ちをかけ、エリーシャが抵抗してきた男達に遠慮なく剣を振り下ろす。

「貴様ら、どこの手のものだッ!?」
「応える義務はありません」
「そっちこそ、誰の命令でリーシャを狙ったのか白状した方が良いと思うけど」

 でないと口に出せないお仕置きをしなくちゃね、と口の端を吊り上げた男の笑みは、冷酷そのもの。さらに抜き身の剣を容赦なく突き付けてくる女騎士も、まったく隙は見出せず。
 見ていたリーシャが明るく笑った。

「皆さんとっても強いのだわ! これなら最初から皆さんにあの人達の退治をお願いすれば良かったのだわ」
「怖くないのー?」
「私、命を狙われるのは初めてじゃないのだわ」
「‥‥だったら大人しくしてろよ」

 ラマーデに胸を張った少女に、護衛を言い付かったグウェインがぐったりそう言った。まったくその通りだった。





 リーシャを付け狙う男達を捕縛した冒険者達は、身柄を領主家に内密に引き渡した。男達は結局黒幕を吐かなかったが、ウィルへの帰還が迫っていた。
 ついでに「じゃあ私は安心して遊びに行けるのだわ」と町に飛び出して行きかけた少女を強制連行しなければならない、と言う理由もあって、辿り着いたお屋敷でレニのお小言を「無事だったから良いじゃないの」と一方的に打ち切った少女は、冒険者達には『ありがとうございました』とちゃんと頭を下げ。
 リーテロイシャ殿、と呼んだ騎士に、首を傾げる。

「ご領主にお会いする事は叶いませんか?」
「父に?」

 さらに首を傾げた少女に頷く。少し前、エリーシャは領内の交易都市サーフで起きた事件の調査に赴いた。その事を、領主にも報告しようと考えたのだ。
 だが少女はごめんなさい、と首を振った。

「父は今不在なのだわ。だから私と兄がお話を伺うわ」
「リーテロイシャ殿が」
「ええ。父が不在の時は、私と兄が領内の裁可をするのだわ」

 だから大丈夫、と少女が笑い。じゃあリッド様をお呼びします、とレニがため息を吐いて。
 リハンを動かす領主代理の異母兄妹はエリーシャの報告に「何か対策を考えておく」と約束したのだが、それはまた別の物語である。