その老婦人の懐く想ひ出
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■ショートシナリオ
担当:蓮華・水無月
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月05日〜08月10日
リプレイ公開日:2009年08月13日
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●オープニング
その老婦人が冒険者ギルドを訪れたのは、ここしばらくがそうであるように良く晴れた、澄んだ空の昼下がりの事だった。
小奇麗な身なりに、丁寧に梳られた白髪。おもてに刻まれたしわも穏やかで、積み重ねてきた年月を思わせる面立ちに思わず、冒険者ギルドの受付嬢ティファレナ・レギンスは微笑んだ。
暑い、暑い日だった。自分の目の前のカウンターにゆっくりと腰をかけた老婦人のうっすら額に浮かんだ汗に、気付いたティファレナはすかさず、よく冷えた井戸水を差し出した。
「ありがとうねぇ」
老婦人からすればティファレナは、間違いなく孫娘のような年齢にあたるだろう。自らの孫を思い出したのか、屈託のない笑みを見せた老婦人は、勧められるままに冷たい水を口に含んだ。のどが渇いていたのだろう、一口、二口とのどを鳴らす。
コトンとコップを置いた老婦人に、にっこり微笑んだティファレナはなれた動作で受付用紙を取り出した。取り出しながら、老婦人を見た。
「ご依頼、ですよね。今日はどのようなご用件でお越しですか?」
「ええ、依頼ですよ。本当なら息子に頼もうと思ったのだけれど、なんだか恥ずかしくてねぇ。結局、息子にも内緒で来ちゃいましたよ」
ティファレナの言葉に、老婦人は照れた様に微笑んだ。コクリ、と首を傾げる。息子に頼もうと思ったけれど、恥ずかしい依頼?
その表情に、ふふ、と老婦人はまた微笑んだ。微笑んで、言った。
「実はね‥‥お魚を、捕まえて欲しいんですよ」
「魚‥‥ですか?」
「ええ」
頷いた彼女、マギアは小さな、どこにでもありそうな田舎の村で暮らしている。息子夫婦に二人の孫、夫は先日亡くなった。多くの田舎がそうであるように、小さな一戸建ての家に牛や馬、トリなどを飼っていて。
その家の庭にある小さな池に放す、魚を捕まえて欲しい、と言う。
「うちの村から半日も行けば小さな湖があってね、そこに棲んでいるそうなの。私は見た事はないんですけどねぇ」
それは彼女がまだ若い、年頃の娘だった頃、マギアにはほのかな恋心を抱いていた若者がいた。美丈夫と言う訳ではないが気立ても良く、誰にでも分け隔てなく優しかった彼は、村の若い娘の憧れで。
村から半日とは言え、間には結構足場の悪い岩場があるので、マギアはあまり湖には行った事がなかった。そこで泳ぐ、色とりどりの綺麗な魚の話を若者がしてくれるのを、聞くのがだから楽しみだった。
若者によれば、別に珍しくはない魚だと言う。だがマギアは見たことがなく、何度も魚の話をせがむ彼女にある日、彼はその魚を湖から捕って帰って来て、マギアの家の庭の池に放してくれたのだ。
今でこそトリたちの水浴び場になっている庭の池に泳ぐ、色とりどりの魚たち。その光景に目を輝かせ、何度もお礼を言ったマギアに、ほんの少し照れて頬を赤くした彼は「こんなの、また捕って来てやるよ」と言ったのだ。
だが彼はやがて、家の都合で村を出てしまい。マギアはマギアで、いつしかほのかな恋心など忘れて、結婚して子供を産み、育て、そして。
「こないだおじいさんが亡くなってね、落ち着いたらなんだか急にその頃のことを思い出したんですよ。それでどなたか、あの魚を捕ってきて下さる方はいらっしゃらないかしら、って」
ほんのり頬を上気させ、少女の様に瞳を輝かせるマギアの話に、ティファレナはその当時の光景を想像して微笑んだ。そして納得した――確かにそういう思い出のある魚では、家族に頼むのはいささか気まずいだろう。
かしこまりました、とティファレナは頷いた。
「そのご依頼、確かに承りました。ただ、季節によって移動したりする魚だと、見つからない可能性もありますけど‥‥」
「勿論、それは構わないんですよ。ご無理を言ってごめんなさいねぇ」
「いえいえ、少なくとも1人、手の空いている人間は知っていますから」
申し訳なさそうに頭を下げたマギアに、にっこり微笑んだティファレナはそう強く請け負った。もちろんその脳裏には彼女の兄グウェインの姿が思い浮かべられていたのだが――マギアは勿論、グウェインですらそれを知る良しはなかった。
●リプレイ本文
マギアの暮らす村は、実にありきたりな田舎である。住人達は顔見知りで、道を歩けば牛が昼寝をしていて、見渡す限りの畑が広がっている。
その村の一角に、小さな小さな家を構えて暮らすマギアとその家族を、訪ねた冒険者は6人。ついでに妹に暇人と決め付けられ、だが妹の頼みならばと即座に上司から休暇をもぎ取ったシスコンが1人。
依頼には家族には内緒で来たというマギアだったが、どうやらその後、依頼の事はばれたらしい。出迎えたのはマギアの孫と思しき少女だったが、冒険者ギルドの、と聞くと「ああ」と得心の声を上げて祖母を呼んだ。
呼ばれたマギアは、揃った冒険者達をグルリと見渡して、嬉しそうに目を細める。
「こんなにいらして下さったの。あらまぁ、嬉しい事」
「お婆さんの素敵な想い出の為に、頑張ってその魚を捕まえるわねー☆」
そう言って張り切って拳を突き上げるラマーデ・エムイ(ec1984)、実は出発前に色々あったりする。ラマーデが湖に魚獲りに行くと聞いて見送りに来たエリーシャ・メロウが、やれ深みには気をつけろ、準備運動はしっかりと、時々水から上がって身体を暖めて、とまるで母親かの如くこと細かく注意していったのだ。
「あんなに心配しなくても大丈夫よねー。子供じゃないんだし、エリりんたら心配性なんだからー」
思い返したラマーデはちょっと心外そうに唇を尖らせたが、ミーティア・サラト(ec5004)にして見ればエリーシャの気持ちの方が良く解る、と苦笑のため息を漏らした。クスクスクスと、見ていたマギアが軽やかな笑い声を立てる。
す、と鮮やかな仕草でジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)が進み出た。
「初めまして、ジャクリーンと申します。宜しく御願い致しますね。ところで、その青年がどの様にして魚を運んできたかは御存知でしょうか?」
「確か彼は桶に入れてたと思うのよ」
あんな風な、とマギアが指さした先には少し大きめの水樽が幾つか積んである。お借りしても? と尋ねると、もちろんですよ、と微笑んだ。
同じく自己紹介をしたディアッカ・ディアボロス(ea5597)が、良ければ魔法でマギアの思い出の魚を見せてもらえないか尋ねる。
「情報は少しでもあった方がありがたいのですが」
「まぁ、そんなことも出来るの? 冒険者さんはすごいのねぇ」
もちろんどうぞ、と微笑んだマギアにその魚のことを思い出してもらえるよう頼み、リシーブメモリーを唱えた。
その光景を、今度はファンタズムで皆にも見えるよう再現すると、目の当たりにしたマギアはポカンと口を開けた。やがて驚愕と喜色が浮かぶ。
「まぁ、私が見たお魚にそっくり!」
「これはマギアさんの記憶をそのまま幻で作ったものですので」
「ありがとう、ディアッカ殿! うん、この魚は僕がティファレナ殿に伺って調べてきた魚の中に居たと思うよ」
「ティーは物知りだからなッ!」
モディリヤーノ・アルシャス(ec6278)の言葉に、グウェイン・レギンスが我が事のように胸を張った。彼にとって、すべての事象は妹賛美に結び付けられるらしい――実にはた迷惑な話だった。
幾つかの水樽の他に、たも網や幾つかの道具を借りて、冒険者達は件の湖へと出発した。事前に聞いていた通り、村から湖までは起伏はそれほどではないものの、ゴツゴツして崩れやすい岩場もあり、細心の注意を払っての移動だ。
余り馬達に負荷をかけないよう、余裕を持って荷物を積み、口輪を持って岩場を乗り越えると、湖まではもうすぐだった。ジリジリ照りつける日差しがふと和らいだような気がして、知らず落ちていた視線をあげるとそこに、広々とした水辺が広がっている。
ほぅ、と誰もの口から息が漏れた。
「綺麗だね――ここにいるだけで涼しい」
思わず呟いたモディリヤーノの言葉に頷く冒険者達。水場が近いからだろう、そよ、と辺りを吹き抜ける風すら心地良い。
ブルル、と熱い息を吐いて嘶いた馬達に、ハッと我に返ってまずは背に括りつけていた荷物を下ろした。じっとり汗をかいた馬達の背から、熱い蒸気が立ち上る。
水樽に水を入れ、たも網を湖に浸して水に慣らした。その間に水面に目を凝らしたり、魚が水を跳ね上げる音が聞こえやしないかと耳を澄ますが、流石にそう簡単にはいかない様だ。
ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)が言った。
「サンワードで魚の居る場所を探ってみるのじゃ」
「私も上空から魚を探して見ましょう」
ディアッカもそう言い、ふわりと羽を広げて湖の方へ飛んで行く。確かに、水面から魚群を探すのであればシフール達に叶うものはないだろう。
その間に、残る冒険者達は岸辺の方で魚を捕まえるための仕掛けを作る事にした。幸いと言うべきか、この湖は遠浅で比較的遠くまで腰位までの深さが続く。もっともその先に行けば急に深くなっているので、注意は必要だったが。
何にせよ、闇雲に魚を捜して獲るのではキリがない。まずは適当な石組みを作って簡単な囲いを作り、そこに上手く追い込んだ上でたも網などで魚をすくおう、という話になった。
発案者のラマーデが、まずは手頃な場所を選出する。その間にそれぞれ水に濡れないようスカートの裾を軽くたくし上げて括ったり、履いていた靴を脱いだりと準備をしている、と。
「水の中では普段の動きは出来ないでしょうし、準備運動もしっかりしないといけませんね――二人共、万が一の時には力を貸して頂戴ね」
そう言いながら愛馬の首筋を叩くジャクリーンの姿は、万全を期した天界製水着。伸縮性のある生地がかなりはっきり彼女のボディラインを見せ付け、見ている方が恥ずかしくなってきたりするのだが、当の本人は非常に堂々とした態度である。過去にバニーガールなど色々と経験をしていて、慣れているらしい。
ユラヴィカ達が自分の影が水面に映り込まないよう気をつけながら探索するのを見遥かし、先にこちら側で準備を手伝おう、と色々惜しみなく見せつけながら振り返ったジャクリーンが見たのは、よーし、と気合いを入れたラマーデの姿だった。
「がんばるわよー!」
あるかなしかの力こぶをぐっと作り、掛け声も勇ましく手頃の石に手をかけた――は良いが、いかんせん実際の体力がまったく伴っていない。わずかに動きはしたものの、そのままプルプル膠着状態で固まったエルフに、ジャクリーンとモディリヤーノが同時に小さな苦笑を漏らした。
「ラマーデ様、無理をしてはいけませんよ」
「そうだね。ラマーデ殿、この石を動かせば良いの?」
「‥‥ッ、そう、よ〜。あっちに石組、を、作って‥‥ッ」
息絶えだえのラマーデが指差した方を見れば、ミーティアがすでに幾つかの石を積み始めている。同じエルフと言っても、鍛冶仕事もするミーティアの方が、体力的にというか、力の配分的に慣れていたようだ。
そのミーティアもこちらを振り返り、あらあら、と苦笑した。
「ラマちゃん、ジャクリーンさんの言う通り、無理は禁物だわね」
「どうすれば良いか教えてもらえたら僕も手伝うよ」
「良い準備運動にもなりそうですし」
3人の言葉にへろへろ頷き、遠慮なく現場監督に徹するラマーデに聞きながら、ジャクリーンとモディリヤーノ、ミーティアが着実に石組を作る間に、ユラヴィカ達は幾つかの魚群を見つけていた。だがなかなか、手頃なものが見当たらない。
最初に見つけた群は小さめの魚が多く、捕まえるのはいささか忍びなかった。次に見つけたものはあまり数が多くなく、手頃な大きさと数の群も居たが深みに向かって泳いで行ってしまった。
だが、いずれ良い群に出会えるだろう。どうやらマギアが思い出の青年から聞いた通り、この魚は珍しいものではないようだし。
そう思いながら湖面を行ったり来たりしていたユラヴィカの目の端に、またきらびやかな魚群が飛び込んできた。ひょい、と視線を向けたのと、ディアッカが発見の声を上げたのは同時。
「これは手頃ですね」
「ふむ、ちょうど岸に向かって泳いで行くようじゃしな」
多少方向はずれているが、この程度なら囲いまで誘導可能だろう――そう思って岸辺を確認すると、丁度何とか石組みが組み終わった所だ。ついでに何故か、へろへろになっていたはずのラマーデはジャクリーンと同じく天界製水着に着替えていて、ミーティアに「今は良いけれどね」と苦笑されていた。どうやらラマーデにとって、エルフ以外の男性は男性ではないらしい。
ともあれ、ディアッカのテレパシーで岸辺の仲間達に伝え、ユラヴィカがラーンの投網を構えた。慎重に狙いを定め、魚達の行く手を上手く阻めるように投擲する。
驚いた魚達が、クルン、と向きを変えた。そこにすかさずディアッカが、ユラヴィカから借りたもう1つのラーンの投網を投げてさらに方向を変えさせる。
同時に岸から余り水音を立てないように慎重に回り込んだ冒険者達が、ここぞとばかりに水中で足を動かしたり、水面をばしゃんと叩いて脅かしに掛かった。目まぐるしく、色とりどりの魚が入れ替わり立ち代り、あちらこちらへ逃げ惑いながら着実に石組の方へ誘導される。
にわかに騒がしくなった湖畔。ついに最初の1匹が石組の中に逃げ込み、続いて2匹、3匹となだれ込み始めた。バシャバシャ水を蹴立てて戻ってきた冒険者達が『もういない』と首を振るのを確認して、待機していたグウェインが石組の入り口に蓋をした。こうしてしまえば、中の魚はもう外に出る事が出来ない。
となれば今度はたも網の出番だ。途中、見た目も鮮やかになるように持って帰る魚も選ばなきゃ、と勢い込んだラマーデが水底のコケに足を滑らせ、ジャクリーンのセラブロンディルと天界浮き輪に助けられるハプニングもあったものの、概ね問題なく魚を掬い、水樽に移し終えた。
湖の底に生えている水草や、重くなり過ぎない石などを一緒に入れて、簡単に環境を整える。マギアの家の池は事前に確認した限り、完全に家禽類の水場と成り果てていて魚が棲める環境ではなかったので、それらも一緒に池に移す予定だ。
ひょいと覗き込んだ水樽の中では、実に目に鮮やかな彩りの魚達がせわしなく動き回っている。赤、白、黄、黒、金、蒼。くるくるめまぐるしく動く彩りに目が回りそうだ。
ふむ、とユラヴィカが魚達の様子を見下ろし、頷いた。
「かなり興奮しているようじゃし、落ち着くまで少し待った方が良いかも知れんのぅ」
「じゃあ、それまで休憩してようか」
「そうね、せっかく来たんだものね」
モディリヤーノの提案にミーティアが頷いた。馬達が嬉しそうにいななく。
その声に微笑んだジャクリーンは、愛馬の身体を洗ってあげようと立ち上がった。先ほども人命救助に立派に役立ったことだし、何よりこんな気持ち良い水遊び、愛馬達にも味わわせてあげたい。
岸辺ではディアッカが妖精の竪琴を取り出して、一時の休息に穏やかな彩りを添えていた。パシャパシャ、水が跳ねる音がする。グウェインは手頃な木陰を確保したかと思うとた、たちまちぐっすり寝入ってしまった。
「せっかくだから遊ぶわよー!」
「あらあら、ラマちゃん、また転ばないようにね。そうそう、モディリヤーノさんもご一緒にどうかしらね」
「いや、僕は手足だけで十分気持ち良いよ」
「元気じゃな」
「そうですね‥‥」
そんな穏やかな時間は、あともう少しだけ続くようだ。
行きより荷物が増えた分、十分注意を払って復路を辿った冒険者達は、夕暮れの前には無事マギアの家に辿り着いた。出迎えに出てきた老婦人とその家族に断って、庭の池の方まで荷を括り付けた軍馬達を引き入れ、水桶を下ろす。
こんなにたくさん、とマギアが目を輝かせた。その間に、水浴びをしていた家禽類に少しどいてもらって池の中に簡単に、魚が隠れられそうなスペースを設置していく――この大きさなら、食べられると言う事はないだろう、多分。
池に根ごと多めに持ち帰った水草も植え、同時に池の水を少しずつ水桶に入れて温度を調節する。水温の変化に、案外魚は敏感なのだ。ここに来るまでに、気をつけていたとは言え水桶の中の温度も多少上がっている。いきなり池の、比較的温度の低い水に放り込んだら、下手するとショック死しかねない。
少しずつ、慎重に魚を移動するのを、マギアが嬉しそうに、そしてマギアの愛する家族達が微笑ましく見守る。若い頃のほのかな憧れの思い出。それを見たいと願う母の、祖母の気持ちを温かく受け止めてくれるのは、彼女が家族にとっていかに良き母であり、優しき祖母であったかの証だろう。
カァ、と樹上で鳴く声がして、ふと冒険者達は視線を上げた。いつの間にかカラスが2〜3羽、まるで色鮮やかな魚を狙うように止まって地上を見下ろしている。
ひょい、とマギアも視線を上げ、じっと鴉を見つめたのに、ラマーデが手を上げた。
「鴉が心配なら、網をかけておきましょうか? こんな感じでー‥‥」
言いながら簡単に地面に図案を引いく。庭に生える大きな木や、池の周囲を簡略に描き、図案と実際の物を交互に指差しながら説明して。
だが、このままで良いんですよ、とマギアはゆぅるり微笑んだ。
「お気遣いありがとう、優しいお嬢さんね。でも網をかけてしまっては、鴉も可哀想でしょう? 私はただ、この池で泳ぐ魚を見たかっただけなんですよ」
そう言って目を細め、今や総てを移し終わり、色とりどりの魚が泳ぐ池を見つめるマギアの顔は本当に穏やかで、遥かな思い出を見遥かすように瞳を細めていて、まるで今目の前にある少女時代のマギアと憧れの青年の姿を見つめているようにも見えた。ふわりと浮かぶ、懐かしそうな笑み。
それを見て、何だかジワリと暖かなものが込み上げてきた冒険者達もまた、穏やかに微笑んだ。
「マギアさん、素敵な思い出ですね」
「私もマギアさんのように年齢を重ねられたら嬉しいわね」
「本当に。貴女のその笑顔を見れたのが、私の何よりの報酬です」
「まぁ、大袈裟ですよ。皆さん、お願いを聞いてくださって本当にありがとう。こんなに嬉しい事はないわ」
微笑んで頭をゆっくり下げたマギアに冒険者達は首を振った。ジャクリーンの言う通り――マギアの思い出の為にやってきた彼らにとって、彼女が喜んでくれることが、何より嬉しい報酬なのだった。
それは、冒険者達が再現した懐かしい思い出の一時である。