【騒乱】子供達が見る宴、そして。

■ショートシナリオ


担当:蓮華・水無月

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月06日〜10月11日

リプレイ公開日:2009年10月13日

●オープニング

 リハン領を治める侯爵家、リハン領主家は寮内のアレンタという町に屋敷を構えている。この町の名物は、毎日気晴らしと称してあちこちを歩き回っている次期領主リーテロイシャ・アナマリア・リハンと、彼女を捜して領主屋敷から繰り出される領主家私兵の壮大な鬼ごっこだ。
 故に、その日も領主屋敷では、町に飛び出していこうとするリーシャと、それを阻止せんとするお付きのレニとの間で、無駄に知略を駆使した攻防線が繰り広げられていた。恐らく戦場で指揮をすれば確実に軍を勝利に導けそうな戦略の数々で、如何に屋敷を抜け出し、如何に阻止するかを競い合う。
 はっきり言ってそれはいつもの事だった。だがその日、久しぶりに領主屋敷を訪れた女性にとっては、酷く目に余るものだったらしい。

「リーテロイシャ・アナマリア! いい加減になさい!」
「はい!」

 文字通り、雷鳴轟くような声色で一喝されて、リーシャは反射的に引っ張ろうとしていた縄を放り出し、その場に慌てて直立不動した。そうしてからきょろきょろと視線を動かし、声の主を捜す。
 リーシャに危うく縄で引っかけられそうになっていたレニが、幸いその事実には気付かず、その女性の方を振り返った。顔色を青くして、インディ様、と喘ぐ。
 彼女、イングレット・ロズミナ・カートレイドはレニに小さく会釈して、眼差しだけで一緒になって何をやっているのかと叱責した。それに、顔色が青を通り越して真っ白になる。
 ギシギシと効果音がしそうな不自然な動作で、リーシャがインディを振り返った。

「イ、インディ異母姉様‥‥お帰りになってたの‥‥?」
「ええ、たった今。リーシャ、お前はまったく、幾つになったら次期領主の自覚が生まれるのです」
「じ、自覚はある、と思うのだわ‥‥その、行動がちょっとだけ、伴わないだけなのだわ‥‥」

 絶対零度の異母姉の視線に、リーシャは目を逸らしながらそう言った。伴ってない自覚はあったのか、とレニがため息を吐く。
 インディは、領主家の長女であり、リーシャが生まれるまでは次期領主として教育を受けても居た、誇り高き貴婦人だ。こういう異母妹を持ったせいか大変厳しい御仁であり、リーシャが恐らく唯一無条件に従う相手でもある。そしてそれは、インディが領内の有力貴族カートレイド伯爵家に嫁いで以降もまったく変わらず。
 リーシャは文字通りだらだらと冷や汗を垂らしながら必死にインディから目を逸らし、インディの後ろに控える騎士を見つけて救いの神とばかりに声をかけた。

「トラウス! お久しぶりなのだわ、お元気?」
「はい。リーシャ様にもお変わりなく」

 トラウスは穏やかに微笑み、リーシャの手を取って騎士の礼節に従った挨拶をした。ありがとう、とリーシャも微笑み返す。
 インディが幼い頃から剣を捧げ、カートレイド家に嫁した後もインディに付き従って領主家を後にした忠節の騎士トラウスは、誰に対してでも礼儀正しい。今も明らかに一騒動の後のリーシャ達については礼儀正しく気付かない振りをした。
 そうして、インディの視線を受けて、インディの代わりに口上を述べる。

「当カートレイド家では近日、ご長男ラストール様の御年8歳をお祝いする宴を催す事になりました。つきましては是非、御領主様、並びに次期御領主様方にもお運び頂きたいとの由、主より言付かって参りました」
「その様子だと、リーシャ、お前はまったく予定はなさそうですね。お父様は‥‥」
「またお忍びなのだわ」
「期待はしておりません。女遊びはあの方の生き甲斐です」

 さらっと言ったリーシャに、これまたインディもさらっと言葉を返した。彼女達の父親たるリハン領主が、政治の手腕もさる事ながら、色の道にも熱心だという事は、お互いがよく知っている。
 そうしてしばし、沈黙が落ちて、リーシャは思考を巡らせた。次期領主として、という事ならリッドも一緒に行くべきだが、カートレイド家の宴という事は以前にリッドにちょっかいを出したバカ伯爵(失礼)も居るだろう。それはあまり宜しくないかも知れない。
 と言って、領主家からの出席がリーシャ1人というのは‥‥まぁ悪くはないが、インディと顔をつき合わせることを考えるとリーシャの方が保たないだろう。
 という事は。

「インディ異母姉様、シューも一緒に良い?」
「キシュレーゼ・ミスティカ様ですか?」

 首を傾げたリーシャに、穏やかな表情のトラウスがインディの実妹の名を上げた。ええ、とリーシャはにっこり笑顔で頷く。

「シューだって、久し振りにトールに会いたいと思うのだわ。シューとトールはとっても仲良しだったのだわ」

 リーシャの言葉を、インディはじっと見透かすような瞳で吟味した。はるか年下の異母妹の顔を覗き込み、彼女が何を考えているのかを推測しようとしている。
 それを、リーシャは変わらず揺るがぬ笑顔で受け止めた。内心はだらだら冷や汗が流れていたが。
 やがて。

「――良いでしょう。ラストールのダンスの相手をさせる事にしましょう」
「ありがとうなのだわ、インディ異母姉様!」
「無論リーシャ、お前は領主代理の勤めをきっちり果たすのですよ。リハン領主家の代表の自覚を持って軽はずみな行動は謹んで――」
「わ、解ったのだわ、インディ異母姉様‥‥」

 しっかりお小言はついてきたものの、快諾を得られたリーシャはほっと息を吐いて感謝を告げた。トラウスが穏やかに、ならばキシュレーゼ様のお部屋もご用意しておきます、と微笑む。
 そして、リーシャと異母妹シューの、カートレイド伯爵家の宴への参加が確定したのだった。





 その日の夜、その話を腹心の護衛ガハルから聞いたリハン領主家長男ユークリッド・ハーツロイは、爽やかな笑みを浮かべ、ガハルに冒険者ギルドへ護衛を頼むよう申し付けた。

「リッド様‥‥何か、ご不安が?」
「まぁ、念には念を入れて、と言う所かな。カートレイド伯爵家のサロンと言えば、インディ異母姉上とラストールを次期領主に担ごうというロズミナ派の溜まり場だしね。さすがに誕生祝の宴の席でリーシャに何かをすれば不味い事ぐらい、判っているとは思うけれど‥‥シューが保険になるか、弱みになるか、かな」
「シュー様が‥‥?」
「シューはインディ異母姉上の実妹だろう。それにあの子はリーシャに懐いているからね。インディ異母姉上の血統の正当性を主張するロズミナ派としてはシューを蔑ろには出来ないけれど」
「シュー様ご自身にも利用価値があられる。差し当たってはリーシャ様に言う事を聞かせる人質として‥‥ですか」

 ならばシュー様の護衛を頼むので、とガハルは念を押し。そうだね、と爽やかにリッドは頷いた。

「リーシャには命の危険は今回はないだろうからね。万が一の場合はまぁ、たまには痛い目に合った方がリーシャも懲りるだろうし」

 それが果たして『痛い目』で済むのかどうかガハルには不明だったが、主がそういうならば、と男は急ぎ、人目を忍んで冒険者ギルドへ向かったのだった。

●今回の参加者

 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 ec6278 モディリヤーノ・アルシャス(41歳・♂・ウィザード・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

 冒険者達とグウェインが、オラース・カノーヴァ(ea3486)が手配し――ようとしたが依頼人が先に手配していた馬車で先行する領主家一行に追いついたのは、まさに宴の前日だった。
 リッドの依頼でシューを護衛する事になった。そう、率直に告げたエリーシャ・メロウ(eb4333)の言葉に、顔見知りの少女は「まぁ」と嬉しそう微笑んだ。

「解ったのだわ。それで、こっそりついていらっしゃるの?」

 あくまで正体を隠しての行動が前提。それを理解し、全く動じていないリーシャの笑顔に、冒険者も理解する。つまりこの領主代理は、ロズミナ派にとってのシューの利用価値を十分知っていて、わざわざ餌よろしくシューを連れていく訳だ。

(‥‥この騒ぎを収めた者にリハンを継がせるお考えなのかも知れませんが)

 見知らぬ領主の思惑を計ろうとして、エリーシャは首を振る。彼女は領民でもなく、リハン侯爵家のお家事情に関われる立場にもない。
 冒険者達の同行と正体の隠匿を嬉々として快諾した少女は、旅のお供に呼び寄せたという触れ込みで冒険者達を領主家一行に加えた。オラースとモディリヤーノ・アルシャス(ec6278)、グウェインは追加の護衛として。エリーシャはシューの侍女として。
 新しく増えた4人を、当のシューはリーシャの「私のお友達なのだわ」という紹介を信じ、こっくり頷いた。というか、仲良しのトールと久しぶりに会えるのが楽しみで、気にした様子もない。
 惜しむらくは、一部始終を見ていたレニがついに胃痛でダウンしてうんうん唸っていた事だが‥‥こればかりは如何ともし難かった。





 カートレイド伯爵家には、すでに幾らかの来客が滞在していた。それはリッドの事前情報に寄ればロズミナ派の中心人物で、つまりリーシャを快く思わない連中、という事だ。
 到着した領主家一行を出迎えたインディは、冒険者にそれを簡単に説明した上で、笑顔で冷や汗を垂らしたリーシャを引き摺って行った。今日のリーシャは領主代理。今日カートレイド家の来賓の誰より地位が高いのだし、それなりの振る舞いをしてもらう、と脅しつけていたようだが。
 主の後を引き受けたトラウスが、何かありますか、と穏やかに微笑んだ。インディの信頼を得ているせいか、伯爵家の中の幾らかの決定事項も任されているらしい。
 オラースがまず申し出た。

「俺は会場全体の警備に当たるフリをしようと思うが、問題ないか? 後、ラストールへの祝いの品も持ってきたんだが」
「主に成り代わってお礼申し上げます。それでは後ほど会場の警備責任者に、私の友人が手伝いに来てくれた、とご紹介させて頂きます」
「僕は到着された方々をお出迎えして、顔と名前を覚えたいのですが」

 モディリヤーノも手を上げて申し出る。そうしておけば、何か不審な動きをした者をすぐに特定出来るし、直接目にした方が貴族達の人間関係も解り易いだろう。トラウスはそれにも頷いて、ただし使用人と同じ服を着て貰う事になりますが、と念押しした。
 シューを物陰から守る予定のグウェインには、少し考えた後で人目につきにくそうな場所と、予定しているシューの席を教える。ただし彼女は宴の最初にラストールとダンスをする予定であり、また年を考えてもじっとしては居ないだろう、と付け加えた。
 それはこの場の全員に言える事で、そりゃ完璧とはいかないだろう、とオラースは肩をすくめた。それこそ、少女は宴に嫌気が差して抜け出してしまうかもしれない。だがそこは、侍女としてシューの傍に居るエリーシャの腕の見せ所だ。今もトールの部屋へ挨拶に行くシューに同行している。
 だから、問題は後の有象無象をどうするか、だが――リーシャを侍女に任せて戻ってきたインディは険しい眼差しで告げる。

「あの者達は私やトールを担ぐという名目で、領主家に重用されない不満を晴らしたいのです。カートレイド家は領内では領主家に次ぐ名家。リーシャの祖母もカートレイド家の者です」

 つまり、庶子とは言え次期領主であったインディと2人の息子は、領主家に不満を抱える分子には体の良い旗印。同時に領主家にとって彼らは解りやすい不満分子で、ロズミナ派という名前で固まっているので動向が把握しやすい相手。
 そう説明し、だがそれ以上は説明しないまま、宜しく頼みます、と怜悧な眼差しを向けた。2人の領主代理と違い、彼女は冒険者に特別な感情を抱いていない。お手並み拝見、とその眼差しが語っている。
 トラウスに冒険者の対応を任せているのも、いざとなればトラウスに事態を収拾させる気なのだろう。それは解ったが、彼らは彼らの仕事を果たすだけだ、とオラースとモディリヤーノは頷き合う。ここに居ないエリーシャもきっと、同じ事を言ったに違いなかった。





 ラストール・カートレイド8歳の誕生祝いの宴は、領主家令嬢キシュレーゼとのダンスで幕を開けた。
 子供達は楽師の音楽に合わせて見事なダンスを披露して、会場からの拍手を浴びる。その瞳が微笑ましさとは別の色に輝いているものもちらほら見受けられた事を、オラースはしっかり確認していたのだけれど。
 12歳のシューと8歳のトールは、簡単に言えば年回りが良い。間柄は叔母と甥とは言え貴族には珍しくないし、何より領主家の三女という立場がある。
 あえてシューを呼び寄せトールとダンスをさせた辺り、インディにもその意志はあるようだと噂する者も居た。後でモディリヤーノからそれを聞いた領主代理はにっこり微笑んだのだが、それはそれ。
 貴族達の様子を観察していたオラースは、いつもの様に皮肉に笑いこそしなかったが、誰も彼も怪しく見える、と内心で警戒を強めた。もっとも可能性が高いのはシューを誘拐し、その身柄と引き換えにリーシャを脅迫する事だが、先に言った可能性も否定出来ない。
 ダンスを終え、帰ってきたシューがエリーシャに笑いかける。

「トールったら、私の足を踏みかけたのよ」
「シュー様、お上手でした」
「あら、リーシャ異母姉様はもっとお上手なのよ! エリーシャも教えて貰ったら良いわ‥‥」

 そう、言いかけたシューはふと口を閉じ、お澄まし顔になって近付いてくる男達を見やった。仮にも領主家の令嬢は、瞬時に頭の上の猫を働かせる術にも長けている。
 どうやら領内の名のある貴族のようだった。シューに腰を折り、是非あちらで皆とごゆっくり歓談を、とエリーシャを慇懃に下がらせようとする男に、エリーシャはシューに向けるものとは全く違う険しい眼差しで「リーシャお嬢様のご命令ですから」と拒絶した。
 はっきりと鼻白んだ男は、次の瞬間怒りに顔色を変える。だが当のシューの眼差しも冷たくなった事に気づくと、慌てて適当に取り繕って去っていく。
 そんな事を繰り返しているうちは大丈夫だろう、と会場の別の場所からモディリヤーノも安堵の眼差しを送った。今の貴族の名前は覚えている。後でどういう立場か確認しておこう。
 他にも、実力行使に出る者こそ居なかったが、あくまで社交の範囲でシューに己を売り込みにくる者は多かった。

「あれを拒否すると、今度は領主家が批判されるのだわ」

 苦笑した領主代理がうまいやり方よねと零した通り、領主家の令嬢に挨拶を、というのは完全に社交の範疇だ。故にエリーシャはしっかり気を張って、シューを甘言で連れ出そうという者にプレッシャーを与える事に終始した。
 一方、トールの周囲にはロズミナ派の重鎮と呼ばれる貴族達が周りを固め、こちらもリーシャの動向を警戒している。リッドの予測通り、カートレイド家の宴に領主代理として訪れている少女に危害を加えようという者は居ないが、逆に領主代理の権限でロズミナ派に何かしに来たのか、と考えているらしい。
 インディはため息を吐いたきり、夫の傍らで女主人の勤めを果たす事に専念している。それは、どうするつもりです、とリーシャに課題を与えている様で。
 そうね、とリーシャはにっこり笑った。

「カノーヴァ卿、エスコートしてくださる? 私、トールにまだお祝いを言っていなかったのだわ」
「じゃあ俺も一緒に」

 オラースが頷き、差し出された小さな手を騎士トラウスにも負けぬ優雅さで取った。これまで宴を楽しむ素振りで日頃の数倍貴族然とした振る舞いをしていたオラースは、ロズミナ派の令嬢達の幾らかにうっとりと憧れの眼差しを向けられており、別の意味で領主代理に厳しい眼差しが向けられる。
 使用人のお仕着せから着替え、目立たぬ所でいつでも魔法を使えるよう集中していたモディリヤーノが、トールに近づく2人を見守った。他に不審な動きをする者は、今の所はいない。
 気付いたロズミナ派がさりげなくリーシャからトールを隠し、接触させまいとした。カートレイド伯爵が眉を顰め、インディが険しい眼差しになり。
 トラウスがその前にすっと現れ、トール様、と穏やかに微笑んだ。

「リーテロイシャ様と私の友人が、トール様にお祝いをして下さるそうですよ」
「ほんと!?」

 トールはぱっと顔を輝かせて足を止め、騎士を見上げた。どうやら懐いているらしい子息に頷いたトラウスは、オラース達を振り返り、僭越な真似を致しました、と腰を折る。
 良いのよ、と少女はにっこり笑った。

「そちらのお歴々方も、きっと貴方に感謝して下さるのだわ」
「ああ。お前がお呼び止めしなかったら、リーシャ様に気付かないまま、領主家に無礼を働いたと言われる所だったろうからな」
「そ‥‥それは、もう」
「うむ、トラウス、よくぞ気付かせてくれた」

 あからさまな嫌味に、お歴々方が額に青筋を立てながら騎士を労った。ありがとう存じます、と騎士はやはり礼儀正しく頭を下げる。
 そうして、まっすぐな瞳を輝かせて彼らを見上げたトールに、リーシャはにっこり笑って「カートレイド家の跡継ぎとしてこれかもしっかり頑張るのだわ」と己を棚に上げ過ぎた祝いの言葉を贈り、オラースからは「誕生日おめでとうございます。竜と精霊の祝福があります様に」という言葉と守りの衣が手渡された。実際には準備だけのつもりだったが、この状況では渡さない訳にはいかない。
 それをしっかり胸に抱き、ありがとうございます、とトールは満面に笑みを湛えた。良いな、と羨ましそうにシューがトールを見る。エリーシャが「シュー様のお誕生日にもきっと素晴らしいプレゼントがありますよ」と微笑むと、そうよね、と笑った。
 インディが「皆様」とよく通る声で告げる。

「本日は我が子ラストールの祝いの宴にお集まり頂き、感謝しております。ですが夜も更けて参りました。ラストールとキシュレーゼはそろそろ休ませ、後は大人の時間と致したく存じますが」
「リーテロイシャ様は如何なさいますか?」

 カートレイド伯爵の言葉に、私も失礼させて頂くのだわ、とにっこり少女はそう答えた。彼女は宴の主催者ではないので、特に失礼には当たらない。
 畏まりました、と伯爵は深く頷き、伯爵家の侍女に領主代理に夜食と飲み物をお持ちするよう言いつけた。トラウスがトールとシューの手を取り、それでは参りましょう、と告げる。
 貴族達がそれに不満そうな眼差しを向けたが、インディは前言を翻さなかった。





 翌日は、トールとシューがどうしても一緒に遊びたいと主張したので、供をつけて野遊びに出かける事になった。当然ロズミナ派は同行を申し出たが、当のトールが子供だけで遊びたいと主張し、わがままな子と呆れたインディがそれを許したので、無理に同行は出来なかったようだ。
 リーシャも屋敷で大人しくしている事になったのだが、グウェインが残ったし、インディとトラウスに挟まれてひきつった笑みを浮かべて見送っていたので、無茶をする事はないだろう。逆に彼女の場合、人目の少ない野遊びに来られた方が危険が高い。
 故に子供達は全力で、昨日の宴でお澄ましをしていたのが嘘の様にはしゃぎ回った。

「昨日はつまんなかった」
「おじさん達が一杯だったもんね」
「うん。シューは?」
「つまんなかった!」

 そう、可愛らしい文句を言い合い小さな声を立てて笑い合う子供達に、見ていたわずかな大人達も苦笑した。大真面目な顔で、大人って大変よねー、なんて言いながら子供が話し合っているのは微笑ましいの一言につきる。
 だが、はっと気付いた様子で冒険者達を振り返り、おじさん達は別よ? と慌てて付け加えた。判っている、と頷いてやると、ほっとした表情になる。
 モディリヤーノが微笑み、文字通り転げ回って遊ぶ子供達に声をかけた。

「綺麗なものをお見せします。少し、危ないから下がっていて下さい」

 その言葉に頷き、下がった子供達を確認して、モディリヤーノは宙に投げたたくさんの花をウィンドスラッシュで花弁に変え、舞い散らせる。確かに攻撃魔法なのだが、周りに被害が出ないよう以前から練習していたし、驚いた人々もその後舞い始めた花弁の方に気を取られてしまった様だ。
 見ていた仲間もほっと胸を撫で下ろし、華やかに舞う秋咲きの花を見上げた。子供達は目が飛び出してしまいそうな程見開いて、満面に笑みを浮かべている。
 屋敷に帰ればまた、大人達の無粋な腹の探り合いが待っているだろう。貴族の一員としての自覚のある子供達は、幼いなりに対面を取り繕うのだろう。
 だが、今この場に居る間はただの子供だ。笑い、遊び、驚き、喜び、犬を追って駆け、唇を尖らせて宴なんてつまらないと文句を言う事が許される。
 彼らが守って欲しいと依頼されたのは、つまりそういうものなのだった。





 屋敷に戻ったシューを出迎え、その実は待ち構えていた貴族達は、是非シュー様をお茶会に招きたいと申し出た。だがじっと見た冒険者達の眼光の前に、あえなく断念した。
 部屋まで訪ねてきた相手は、無礼にならないぎりぎりラインで丁重にお帰り頂く。後でインディがフォローを入れたらしい。
 そうして翌日、リーシャも何とか平穏無事に、揃って領主家一行は伯爵家を後にした。その陰にはグウェインの努力と、レニの胃痛という貴い犠牲があった事を付け加えておく。多分次は血を見るぜ、としみじみ青年が呟いたのは、さて、一体何があったものか。
 無事にすべての行程を終え、領主屋敷の町アレンタまで異母姉妹を送り届けた冒険者達に、出迎えたリッドは素知らぬ顔で礼を言い。シューが彼らを1人ずつ真っ直ぐ見上げ、ありがとう、と笑った。

「楽しかったわ。でも次にお会いするのは、リーシャ異母姉様が領主になってからかな」

 そしたらまた一緒に遊んでね、と手を振る小さな領主家令嬢に見送られ、冒険者達はアレンタを後にしたのだった。