その剣の、託された祈り。
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■ショートシナリオ
担当:蓮華・水無月
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月01日〜11月06日
リプレイ公開日:2009年11月07日
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●オープニング
その依頼自体は別段、珍しいものではなかった。とある小さな町にある、ウィルのとある騎士団の超下請け(どの位下請けかと言うとごくまれに騎士団からの仕事もあるかもという位)の鍛冶工房の、ソーイ親方から頼まれたと弟子の青年パンがやって来たのだ。
内容は、ソーイ工房でこの度打ち上げた剣の検分。それを兼ねて、町から少し離れた所に巣食っているかもしれない魔物を退治しに行って欲しい、と。
内容自体は別段、珍しいものではない。本当にカオスの魔物かどうかはともかく、町の付近の人気のない所での不審火が続く、というのは確かに不安な事件だ。剣の検分自体も、普通なら依頼主に直接納めて確認して貰うものだが、その前に試して欲しいというのもまぁ、なくはない。その二つが一緒に来ても悪い事もないだろう。
だが、それを受けた受付嬢ティファレナ・レギンスが依頼書を見て、依頼人が去った後もじっと見ていたのは、別の気になっている要素があるからだ。ソーイ工房には彼女の顔見知りの少年が住み込みで働いている。
彼はどうしているだろうかと、知らず溜息を吐いた彼女に、不意に声がかけられた。
「ファナ、今、良い?」
「レイナ姉さん‥‥? そりゃ勿論ですけれど」
唐突に声をかけられ、目を上げて彼女の存在に気付いたティファレナは目を丸くした。そこに居たのが故郷の幼馴染の女性、レイナ・ハルスタットだったから。年齢は確か兄のグウェインと同じか、一つ、二つ彼女の方が上だった気がする。
レイナはリハンからは勿論、住まいのあるドムル村からだって出かけた事は殆どない。なのにウィルの冒険者ギルドに現れるなんて。
ティファレナは戸惑い、何なら家で待ってて下さい、と勧めた。だがレイナはそれに首を振り、グウェインに会いたくないの、と呟いた。
ならば、無理に勧める事はない。兄は今日は仕事だが、ティファレナよりは帰りが早かったはずだし、あまり寄り道をしないので帰ってきたら顔を合わせてしまうだろう。
念の為ティファレナは同僚に声をかけ、カウンターから出てレイナを伴い、ギルドを出た。向かった先は最近良く行く、ハーブティーの美味しいお店。
「ファナ、仕事中だったんじゃないの?」
「ちょうど休憩しようとしてた所ですから。それで姉さん、どうしたんですか?」
手早く今日のお奨めを2人分注文し、まっすぐな瞳でそう尋ねたティファレナに、レイナは小さく笑った。笑って、なんでもない事のように言った。
「引っ越すの。だからファナにも知らせに、ね」
「ドムルから、ですか? それは‥‥」
「判るでしょ――客商売は信用第一よ」
静かな声でそう告げて、運ばれてきたハーブティーに口をつけた彼女は、あら美味しい、と微笑んだ。それは完全に割り切った、と言う事だろうか――それとも。
ティファレナは薄いグリーンのお茶に視線を落とし、判ります、と呟いた。その事態も覚悟の――予想の範囲内だった。
彼女の弟が先日、カオスの魔物の僕として死んだ。それは商業都市を巻き込み、リハン領主家が私兵を送り込む程の騒ぎで、彼の悪名は今や付近では知らぬ者はない。
ならば、その姉である彼女に累が及ぶ事もまた、自然な流れだ。事にレイナは商業都市を訪れる隊商の御用聞きをしていた。噂話に敏感な隊商が、カオスの僕の姉に仕事を頼もうとは思わないだろう。
それでも彼女は違うと、思いたかった。だが。
「出て行く必要はないと言われたけれど、村に迷惑が掛かるでしょ。現にこの騒ぎで少なかった客足がますます遠のいてるの。――しばらく旅して、どこか落ち着ける場所を探すつもり。落ち着いたら知らせるわ」
「そう、ですか。姉さん、決めちゃったんですね」
「そうよファナ、決めちゃったの。だからね、グウェインとは顔を合わせたくないの――恨み言を言いたくなるかも知れないわ」
悪いのはあの馬鹿だけどね、と微笑んだ顔に初めて、苦いものが混じった。それは多分ティファレナがたまに、兄に対して抱く気持ちと同じだろう、と思う。
恨みも、怒りも抱いていないけれど。たまに兄を見ているとこみ上げてくる、何か。
しばらく無言でハーブティーを飲み、たまにポツリ、ポツリと他愛のない言葉を交わした後で、ふと思い出してティファレナはレイナを呼んだ。
「姉さん。行く当てがないのなら、一つだけ、私のお願いを聞いて貰っても良いですか?」
「ファナがお願い? 珍しいわね、何かしら?」
「実は、私の知り合いが少し離れた町に居るんです。手紙を書いたんですが、送り損ねていて。姉さん、届けて貰えませんか?」
「それは、構わないけれど‥‥」
「ちょうどそこから、ギルドに依頼も来てるんです。鍛冶工房の親方さんから、誰か冒険者に新しく打った剣の使い心地を試しに来て欲しい、って。村まで同行させて貰えるようお願いしておきますから、危険はないと思います」
「それは頼もしいわね。判ったわ、可愛いファナの頼みだもの」
そう、レイナが頷いたのに微笑んで、ティファレナはお願いします、と頭を下げた。大げさね、とレイナが笑う。
それに、ティファレナは首を振った。お節介かもしれない、何も変わらないかも知れない、怒って二度と口を利いてもらえないかも知れない。でもティファレナがレイナの為に何か出来るとしたら、こんな事くらい。
だから帰ったら真っ先に手紙を書こう、と決意する。ウォルフ・バーベル、ソーイ工房に住み込みで働く少年。
彼にレイナを引き合わせてみようと思ったのは、もしかしたら彼女自身が彼に会いたいと思っていたからかもしれなかった。
●リプレイ本文
工房の中で、ソーイ親方は冒険者達の訪れを今か、今かと待っていた。村の入り口まで迎えにきた弟子のパンが、ずっとあの調子です、と難しい顔で腕を組む親方に首をちぢこめる。
その言葉でこちらに気付いたのか、親方はギロリ、と視線を上げた。そして冒険者達に気付き、ゆらり、立ち上がる。
「待ってたぜ。で、俺の剣を使ってくれる奴は誰だ」
「私と彼が」
いかにも職人らしいぶっきらぼうな物言いに、逆に好意を覚えながらルエラ・ファールヴァルト(eb4199)が手を挙げた。もう1人、アルジャン・クロウリィ(eb5814)も一歩進み出て軽く手を挙げると、親方は2人を頭から爪先までジロリ、と見る。
渾身の力作を預けるに足るか、確かめているのだろう。呼んでおいて身勝手とも言えるが、職人とはそういうものだ。
どうやら2人は合格だったらしい。親方はフンと鼻を鳴らすと、パンに命じて工房の隅に布にくるんで立てかけてあった剣を持ってこさせた。シュルリ、布が取り去られると同時に窓から差し込む陽精霊の光が、抜き身の刃を眩しく輝かせる。
ほぅ、と2人は同時に目を見張った。事前に聞いていた性能からすればかなりの技ものらしい、とは予想出来ていた。だがこの輝きは。
まず、アルジャンがその重みを確かめ、ルエラが刀身に彫り込まれた魔法文字に注目した。じっと見ると、親方が難しい顔で頷く。
「魔物を倒す為の剣だ」
だが密かに親方は魔法剣を試作しては来たが、ここまで形になったのは初めて。だからその意味も込めて、冒険者に試験を頼みたい、と言う訳らしい。
密かに、と言うからには何か、事情があるのだろう。それが後ろ暗い事ではないことだけ確かめる。剣に魔法を付与した者は明かせないが、それだけは確かだと親方は請け負った。
まずは握った感じを教えてくれ、と親方に捕まった2人はなし崩しに工房に留まる事になった。熱く燃える親方に苦笑しながら、ならその間に放火犯を探してきます、と導蛍石(eb9949)と雀尾煉淡(ec0844)が申し出る。
悪い、と目で訴える2人に首を振った。せめて手伝いにとアッシュワードの使える火霊アレクシアを預かって、情報収集に村へと出かけていく。
成り行きを見ていたレイナが、ところで、とそこで初めて口を挟んだ。彼女がここへやって来たのは、冒険者の依頼とは関係なく、幼なじみの女性の手紙を届けに来ただけなのだ。
宛先を聞いたパンが、ああ、と頷いた。こんな状況なので、弟弟子ウォルフはずっと工房の奥で薪割やら、打ち上がった金物の仕上げやらをやっている。
こんな状況なので。その言葉を聞いたレイナは苦く笑った。ここに来るまでにモディリヤーノ・アルシャス(ec6278)から、訪ねていく少年の境遇は聞いている――カオスの魔物に忠誠を誓った姉に、両親を殺された。そして今なお、カオスに連なる者として迫害を受けている。
「会いに行っても良いかしら?」
「よろしければ僕も同席させて下さい」
レイナの言葉に、モディリヤーノが申し出た。以前にもウォルフを助けた事のある冒険者に、どうぞ、とパンは快く頷く。
そしてレイナも何も言わなかった。もしかしたら彼女が気を悪くするかと思ったが、彼女の弟をどんな理由であれ助けられなかった事を謝りたかった事もあり、村までの道行きに同行することを決めた彼を最初に見た時にも、レイナは何も言わなかった。
ただ、苦く笑う。笑って懐に大切に納めた手紙を確かめる彼女の後をついて、モディリヤーノも工房の奥へと消えていった。
放火犯の正体は、全くもって不明だった。
直近では、3日前にも不審火があったという。アルジャンの火霊アレクシアのアッシュワードでその現場に残された灰を確認した所、灰は3日前に空飛ぶ魔物が放つ炎で出来た、と答えた。
「空飛ぶ魔物、ですか」
「人間の仕業の可能性も、考えていましたが」
そわそわ工房の方を振り返るアレクシアに礼を言って帰らせた後、蛍石と煉淡は難しい表情で顔を見合わせる。目撃証言のない不審火、というだけではどちらともとれたのだが、こうなってくると話は違う。
煉淡はそのままその場に留まり、パーストでさらに詳しく魔物の姿などを確認してみる事にした。その間に蛍石は村中を歩き回り、随時デティクトアンデットで周囲の様子を確認する。
今現在、魔物は村の近隣にはいないようだ。だがそれは今後を約束するものではない。
ため息を吐きながら煉淡の元に戻ると、ちょうどソルフの実をかじっている所だった。過去視の魔法は、だが指定した瞬間から数秒までしか見る事が出来ない。村人達の情報提供があったとしても、偶然その瞬間を捉える事が出来るのは文字通り、幸運の産物で。
だがその効果はあったらしい。煉淡はすでに火事の場面にまで辿り着き、後は着火の瞬間を特定する作業に入っている。
そして。
「ふいごを持つ魔物、ですね」
そんな魔物が居たような、と記憶を辿りながら煉淡は報告した。蛍石も記憶を辿る。ふいごを持ち、人気のない家屋に火を放つ魔物『炎を預かる者』。
パーストで確認できた限り、魔物は1匹だけだった。だが問題は、どうやって魔物が現れる場所を予想するか?
「‥‥わざと人気のない場所を作って誘き出す、とか」
「相手の目的にも寄りますが、今の所それしかなさそうですね」
煉淡の提案に、蛍石は頷いた。念の為、再びデティクトアンデットを使いながら工房へと戻る。
まずは、仲間と相談しなければ。
レイナが渡した手紙を、ウォルフは戸惑ったように受け取り、中を覗き込んだ。だが羊皮紙を見て困り顔になり、女性を見上げて「僕、字が読めなくて」と呟く。
元より、ティファレナの手紙はレイナとウォルフを引き合わせる為の詭弁だ。モディリヤーノも、彼からウォルフの境遇を聞いていたレイナもそれは予想済みだったので、さして疑問には思わなかった。
仕方ない子、とレイナが微笑む。ティファレナが少年と引き合わせたいと考えた気持ちを、理解してくれているのだ、とモディリヤーノはぼんやり思う。
何となくだけれど、モディリヤーノはその気持ちも分かる気がしていた。レイナの気持ちと、ティファレナの気持ち。弟がカオスの魔物の僕として倒された、その事実を「あの子が悪いんだから」と苦笑う気持ち。
だが、その予測にレイナは首を振る。
「私よりも、心配なのはファナよ。あの子は頭の良い子だから‥‥」
ため息を吐くレイナに、そうかもしれません、とウォルフも顔を曇らせて頷いた。だが、それ以上を言葉にする事はなく、ティファレナが寄越した手紙に視線を落とす。
レイナは、良い。妹を巡ってのトラブルもあり、元より死んだと思っていた弟だ。でもティファレナはそうは思っていなかったし、それに弟にとってもきっと、ティファレナは特別だったのだと思う。
だが、頭の良いティファレナはこの状況をも理解して、仕方のない事だったと諦めようとするだろう。レイナが諦め、ウォルフが諦めたように。
そんな妹分が心配だと、レイナはモディリヤーノに微笑んだ。そうして、貴方も何かあったの、と首を傾げる。
こんな時でも自分ではなく相手を気遣うレイナは、生まれながらの姐御肌なのだろう。返らない答えを追求せず、じゃあ私が読んであげるわ、とウォルフへの手紙を取り上げ、朗読し始めた。
他愛のないご機嫌伺いの文を書きながら、彼女は一体何を思っていたのだろうか。モディリヤーノは再び思いを巡らせた。
色々考えた結果、やはり魔物に罠を仕掛ける以外の方法は思いつかなかった。実際に魔物だと確かめられた事で、住民が工房に向ける眼差しは春の騒ぎ同様に厳しくなったのだが、今回はまだ被害が出ていないので排除行動には出ていないようだ。
だが今後も被害が出ないとは限らない。それに確かに魔物だと聞いた親方が「よっし、その剣の性能を確かめるチャンスだっ!」と燃え上がっている。
とは言え出来るだけ被害が少ない方が良いので、村の中の適当に周囲に燃える物がない場所を選び、人払いをした。予想される魔物は本来家屋に火を放つ習性があるので、ルエラが簡単に小屋に見えるように木を組む。
そうして待つこと、しばし。毎日現れる訳じゃないようなので、依頼期間中に現れるかどうかは不明だったが、
(かの工房は以前も魔物に陥れられようとしたと聞く‥‥その理由がこの剣ならば、放火も繋がっているのかもしれん‥‥)
アルジャンは手の中の試作剣を見下ろし、頷いた。魔法剣すら初めて形に為したという工房の、果たしてそれがちゃんと効果があるのかすら不明な試作品。
だが純粋に剣としては優秀だと、親方に請われてルエラと2人、様々に剣を振ってみながら感じた。剣に大切なのは総重量だけではなく、バランスや強度。甘い金属と固い金属の配合、鎚の叩き込み具合、鍛える際の炉の温度など様々な要因で変動するそれ。
職人気質の親方の剣は、長い年月に培われた確かな技術と、それを上回る何かへの情熱の結晶だった。その情熱を活かしたい物だと、アルジャンはほったて小屋をじっと見据える。
そして、それは来た。蛍石がデティクトアンデットで近付く魔物を確認する。ルエラがテンペストを握り、息を整えた。煉淡とモディリヤーノも詠唱の準備を整え。
そして、魔物は現れた。
「コアギュレイト!」
煉淡が真っ先に魔法を発動した。ただの放火魔なら放火の現場を確かめて、と考えるが、これは魔物だ。
不意のことに、さすがに魔物はギクリ、と動きを鈍らせた。だが動けなくなったわけではない。現れた人間達をギロリと見回し、手の中のふいごに空気を送り込む。
はっ、とプットアウトのスクロールを広げた。その間に放たれた炎が、ほったて小屋に火を点ける。
1匹だけであれば、連係攻撃で一気に畳み込んだ方が良い。だがこの依頼は、魔物退治であると同時に試作剣の性能を確かめるという目的もある。
ルエラがテンペストを手に牽制に出た。その反対側からアルジャンが試作剣を手に、まずは魔物に十分な逃げの余裕を持って切りかかった。
全く通じないことも想定しての保険だったが、幸い、これは全くの杞憂だった。魔物ははっと身をよじり、だが鈍った動作が皮一枚程度のダメージをアルジャンに許す。
皮一枚でも、ダメージはダメージ。本気でいけばどうなるか試してみようと、仲間を振り返って頷いた。
魔物相手に余裕がある、と言うわけではないが、この剣を魔物退治の為に作った親方の為にも、想定出来る限りのあらゆるデータが取りたい。そんな無茶が出来るのはもちろん、もしもの時は仲間が、と言う信頼である。
アルジャンは敢えて魔物の爪の攻撃を剣の平で受け止めるなど、様々に剣を測った。さらに交代して試用剣を握ったルエラも、自らが使う合成技などを用いてその精度を確かめる。
その間にも、ふいごで攻撃しようとしたり、爪で引き裂こうとしたり、魔物は様々な抵抗を試みた。が、何分、相手が悪すぎる。
コアギュレイトにかろうじて抵抗しても、逃げようとすればウィンドスラッシュが飛んできて、さらにホーリーも控えている状態。最初に放った火は、すでに消し止められている。
だが魔物はギイィッ! と歯軋りし、最後の抵抗力を振り絞った。己が目的を果たさんとばかりに、文字通りの死力を振り絞ってルエラへ、つまり彼女の持つ試作剣めがけて飛びかかる。
ルエラは、油断しなかった。狙い澄ました一撃を試作剣で放つべく、意識を尖らせ、そして放った。
「ギイィヤァァァッ!」
「‥‥っ、やはり剣が目的か‥‥」
ルエラの一撃に、さらに念の為とどめを刺すべく攻撃魔法の集中砲火を受ける魔物を見下ろし、アルジャンが呟いた。あのまま留めておいても、もはや尋問するだけの時間はなかっただろうが。
新たに魔物を傷つける剣がこの世に生み出される事を恐れてのことか、あるいはもっと別の理由があるのか――無論、瘴気となって消えた魔物から、答えが聞けるはずもなかった。
無事に魔物を打ち倒し、念のため他に魔物がいないことを確かめた上で工房へ戻った冒険者達に、まずはパンがほっとした顔で「みんなに知らせてきます」と出ていった。それを見送った上で、親方は試作剣を使った2人にじっと視線を据える。
「どうだ。通じたか」
「うむ、なかなか強度も良いようだ」
「技を繰り出すのにも支障はありませんし、十分実戦に耐えるのではないかと」
2人はそれぞれ使用剣を評価して、さらにルエラは自らが振るう得物も参考になればと差し出した。独自に強化を重ねているものだ。
ふん、と鼻を鳴らして親方は舐めるように剣を見た。出来れば借りたそうだったが、それを言い出さないだけの分別は兼ね備えていたらしい。
ためつすがめつ剣を見た後で、自らの試作剣を見た。見て、叫んだ。
「ウォルフッ! 何ぐずぐずしてやがんだ、さっさと仕事にかからねぇか! 火を熾せ、今すぐだ!」
「はいッ!」
怒鳴られた少年が奥から飛び出してきて、薪を抱えて炉の前に座り込んだ。それを鼻を鳴らして見届けて、親方は冒険者達を振り返る。
「これから改良に入る。出来上がったらまた頼むぜ」
「また、か。熱心な事だな」
「ああ。死んだカカアとの約束でな」
この親方から妻との約束なんて殊勝な言葉が出るのは意外な気がした。だが、それが魔物を討つ剣というからには何か、事情があるのだろう。その事情が魔物憑きと言われたウォルフを最後まで庇わせたのだろう。
レイナはしばらく、この村に滞在してみるという。それに手を振って、冒険者達もウィルへの帰路についた。
次にソーイ工房から依頼が来た時は、剣は完成を見ているのだろうか。