A sweet first love

■ショートシナリオ


担当:朧月幻尉

対応レベル:1〜3lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月16日〜12月21日

リプレイ公開日:2004年12月23日

●オープニング

 ――学園都市ケンブリッジ
 幾つもの学び舎が建てられ、様々な人々が勉学に勤しむ町である。
 この巨大な学園都市はハーフエルフを受け入れる事を宣言した。
 ――ハーフエルフ
 少なくともイギリスの民は、彼等が迫害の対象とされている事を知っている。
 ジ・アースでは、混血種を禁忌に触れた存在として忌み嫌う傾向があり、狂化という身体的特徴が神の摂理に反した呪いといわれているからだ。
 では、ケンブリッジに何故ハーフエルフが暮らしているのか?
「学問を受ける者に例外はないのです!」
 ――生徒諸君よ、平等であれ!
 学園理事会の言葉であった。ケンブリッジは寛大な町として、評価される事となる。
 しかし、学校とは閉鎖された小社会だといわれるものだ。
 光の当たらない場所で、ハーフエルフ達は苦汁を舐めているかもしれない――――

「ちょっと‥出てきちゃダメだよ、メリア」
 そう言った声は少年のものだった。
「やーよ。やっとあこがれのケンブリッジに来たんだもん。楽しまなくっちゃ♪」
 答えた少女はベットの脇にあるクロゼットから顔を覗かせる。笑った顔は愛らしい。ただ‥耳さえもっと短かったら、自分がこれほど不安になることは無かったのに。
 ハーフエルフ。
 ただそれだけで怖くなる。勿論、この少年が怖い存在だと思い込んでいるわけではない。もっと怖いのは、迫害する人間達だ。さもなきゃ無理解な奴。この二つのどちらかがあれば、彼女にとって最も脅威になる。
 この都市は外の世界ほど迫害したりしない。でも、そんなにいい気分でもないのだ。
 自分だけは大丈夫。そう思って、近くの森で迷子になっていたメリアをここまで連れてきてご飯まで食べさせてあげた。もちろん怖くなんか無かった‥‥だけど。
(「どうしよう‥‥」)
 見つかったら寮長に怒られる。いや、もしかしたら彼女を虐め抜く奴が現れるかもしれない。
(「メリアが死んじゃったりしたらどうしたらいいんだろう‥僕‥」)
 こんなに小さくて可愛いメリアが怪我なんかしたら、きっと自分を責めていつまでも落ち込んでしまうだろうと少年は思った。
 金髪の長い髪。おっきな瞳。おしゃまで悪戯好きな女の子。
 他の女の子と大した違いは無いのに、ハーフエルフというだけでこれから彼女はもっと辛い日々を送らなければいけないのだろう。
 そう思うと、少年は涙が零れそうになった。
「ねー‥マルス、なんで泣いてるの?」
「え? ‥あー、何でもない」
「うそだぁ! かなしいの? いたいの? メリアはマルスのことなぐさめてあげられる?? 可愛いマルスが泣いちゃめ〜よ?」
 仲良くなったばかりの少年が暗い顔をしているのがとても悲しいようで、マルスと呼んだケンブリッジ魔法学校の生徒をメリアは見上げて不安そうに言った。
 可愛いと言われて噴出したマルスは笑って首を振る。
「大丈夫さ! 何でもないって‥それより帰ろう、メリア。お父さん達が心配するよ?」
「えー、帰りたくない‥」
「だめだよ」
「やーだー! 帰らないったら、帰らないの!」
「メリアは4歳なんだから‥来年入学すればいいよ」
「入学?」
「そうだよ、僕は10歳だし。まだまだ学校にいるから、来年は一緒に魔法の勉強しよう」
「ほんと? じゃぁ、メリアはマルスと学校でべんきょうする!」
 満足そうに頷いたメリアの表情を、マルスは辛い気持で見つめた。それが淡い恋心の始まりだとは知らずに。
「じゃぁ、一緒に送っていってくれるボディーガードを探そう」
 もしも、彼女の願いを叶える事ができるとしたら、無事に彼女を送り届けてからのことになるだろう。きっと、彼女と勉強したり遊んだりしたら楽しいはず。
 だから、今はここを突破して、彼女を送り届けてからすべてがはじまる。そう考えると、少し楽しくなってしまったマルスだった。
 マルスは彼女を守るナイトは自分しかいないのだから頑張ろうと思った。
 問題はクラスメイトのいじめっ子グループだ。あいつらならきっと意味もなくメリアを虐めるに違いない。
(「よし‥‥」)
 マルスは彼女を送るべく立ち上がり、彼女を連れてギルドの方へと向かった。見つかったら怒られるであろうことを覚悟で。

●今回の参加者

 ea7174 フィアッセ・クリステラ(32歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea8868 フランカ・スホーイ(19歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea9347 ナスターシャ・ロクトファルク(25歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea9520 エリス・フェールディン(34歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

「この人たち、だぁ〜れ?」
「えっと、この人たちは‥」
「私はフィアッセ・クリステラだよ、よろしくね。メリア、マルス」
 メリアに向かってフィアッセ・クリステラ(ea7174)は笑って言った。基本的に自分は種族とか性別とか気にしない。だから、メリアがハーフエルフでも待ったく気にしていなかった。
 気の良い相手に出会ったことが幸いしたのか、メリアはちょっとだけ緊張を解き、笑顔で言った。
「はぁ〜い、メリアはよろしくなの!」
 一生懸命挨拶しようとして、メリアは手を上げて言う。ただ、少々気持が高まったようで、メリアは興奮気味な様子を見せていた。
「よろしく‥‥お願い‥しま‥す‥‥」
 逆にマルスはますます顔が強張っていく。
 マルスは、緊張した面持ちで皆を見回し、そして挨拶する。ギルドに来て依頼することなど、滅多に無いひよっこウィザードのマルスは、こういうところには不慣れだった。
「自分ひとりで解決できないというところは問題ありだけど、自分の力量を見極めて、手伝いを頼むなんて‥‥自分をちゃんと理解しているわね」
 ナスターシャ・ロクトファルク(ea9347)は、ほんの少し尊大気味な仕草をして言う。怖い人ではないようなので、そういう人ではないのだろうと思い、マルスはあまり気にしなかった。
 フランカ・スホーイ(ea8868)はにっこりと微笑んでマルスに言う。
「私はフランカです。前途多望なるメリアさまの将来に少しでも貢献出来るよう、全力を尽くしますわ」
 そう言ったフランカの言葉に吃驚して、マルスは目を瞬く。
(「な、何で名前の後に様を付けるのかな?」)
 マルスにとって、フランカの言葉は意外だった。
(「この人たちなら大丈夫かも‥」)
 そう考えていると、エリス・フェールディン(ea9520)が言った。
「メリアさん、私はエリス・フェールディン。心配することはありません。錬金術の力、とくとお見せいたしましょう」
 エリスは二人に対して、丁寧に挨拶してくれた。その言葉だけで依頼してよかったとマルスは思った。普通なら、この場で侮蔑の言葉もありえる。
 丁寧な挨拶だけで、マルスは充分安心できた。
「はいっ、お願いいたします!」
 やっと緊張が取れたマルスは礼を言う。
「ね〜、マルス。『レンキンジュツのチカラ』ってなぁ〜に? マルスも勉強したら?」
「ぼ、僕‥今の学科で精一杯だよぅ」
「え〜? メリアはいっぱい勉強するんだから、マルスもやるの〜♪」
 きゃっきゃと跳ねて喜ぶメリアを、マルスは優しい目で見つめている。本人は気がついていないが、恋心を抱いているらしい。恋愛に詳しいフランカはそれに気がついていた。
 家は都市の外れの森の中。嫌われ者のハーフエルフの娘が居るのだから、街から離れて暮らしているのは当然かもしれない。歩いて往復1日から一日半ほどなら、この人数で足りるだろう。
「‥でも」
「でも?」
「いじめっ子たちが‥」
 そう言ってマルスは口を噤んだ。どこの学校にもそう言う奴はいるもので、俗にいういじめられっ子というのも存在する。どうやら、マルスはそのいじめられっ子に該当するらしい。けして、マルスは弱虫ではないのだが。
「こちらは大人が集まっていますし、あなたの年齢から考えて相手は子どもでしょう? 少しばかり凄みをきかせれば、簡単に追い払えるでしょうね」
 そう言ってフランカはマルスを慰めた。
「困ってる女の子を助けてあげるなんて偉いのね。私、そういう勇気のある男の子大好きよ」
「そ、そうかな‥」
 真っ赤になって言うマルスに、フランカはにっこりと笑ってみせた。
(「メリア様への淡い恋心に気づかれるわけにはいかないのですわ。片親が人間やエルフですと、ハーフエルフ様は生まれこないのですから‥」)
 なんと、フランカはマルス少年を誘惑しようとしているのである。
(「ハーフエルフへの理解がある彼は、エルフの女性と結ばれるべきなのです!」)
 初な少年の心に「エルフのお姉さん」という優しく甘いイメージを深く刻み込んであげれば、きっと彼はエルフの女性を伴侶とするはず。フランカはそんなことを画策しているのだ。もちろん、そんなことは当のマルスは知らない。
 そして、エリスが幾つかの瓶を取りに行って戻り、準備が整うと、一同はメリアの家を目指してギルドから出て行った。

 メリアにフード付きのマントを着せて連れて行く。
 目立たないように街の大きな道を外れた裏路地を行くことにした。歌が好きなフィアッセはメリアと一緒に歩き、何度も歌を歌ってあげた。聖夜も近くなると陽気に歌って歩いている子供を見ることは珍しくない。大人たちにバレることはなかった。
 彼女が歌う度にメリアは一緒になって歌う。学校では歌は勉強するのかとフィアッセに訊き、彼女がフリーウィルの生徒と聞くや、とどっちの学校に入るか真剣に悩んでいた。
 エリスは歩きながら怪しそうな所を探るため、バイブレーションセンサーでの不特定多数の中からやってくるかもしれないいじめっ子を発見しようとしている。だが、わずかでも人通りのある道を歩いていれば、たくさんの振動を感じて特定の存在を確定するのは無理だ。
 錬金術に勝るものは無いと常々思っているので、何でも錬金術的に無理やり説明して魔法の力でないことをメリアにアピールしていた。
「おい、マルス!!」
「え?」
 聞こえた乱暴な声に振り返ると、そこには髪を短く刈った気の強そうな少年が居た。歳の割には体の大きい仲間達も後ろに何人かいる。フランカはエリスが男性に触られると狂化すると知っている。だから、いじめっ子グループの男子との接触しないように立ちはだかった。
「レードン‥」
「馬鹿野郎。レードン『様』って呼べって何度も言ってるだろう、腰抜け!」
「「「そうだ、腰抜けマルス〜!」」」
「ぼ、僕は腰抜けなんかじゃない!」
 腹を立てたマルスは、無謀にもレードンに向かってゆっくりと歩いていった。
 フランカたちは睨んでレードンたちに凄む。ちょっとは怯んだものの、男がマルスしか居ないので侮っているらしい。レードンはかえって酷く罵ってきた。
「うるせぇ、腰抜け。大人の警護付きじゃんか、弱虫マルス」
 レードンは歩いてきたマルスを突き飛ばした。ウィザードのマルスには、体格の良い少年にかなわない。思いっきり前のめりになってコケた。
「マルスにひどいことしないでよ〜」
 メリアは負けじと叫んで、あっと言う間にフィアッセ達から離れて走っていき、レードンを蹴る。その時にフードが脱げて普通より長い耳が見えてしまった。
「痛え! あッ! こいつ‥ハーフエルフだ!」
「忌み子がいるぞ!!」
 そう言うなり、彼らはメリアを小突いた。
「種族がどうとかそういうので、小さい女の子を苛めるなんて‥人として最低のことだよ!」
 フィアッセはいじめっ子グループに当たらないように矢を放つ。距離が近いのもあって、人に当たる事は無い。狙われるの怖いようで、レードンたちには明確な恐怖の表情が見て取れた。
 それに乗じてエリスはサイコキネシスでさっき準備した容器の蓋を開け、レードンに投げつける。粘土色のいかにも恐ろしい薬のように見えるそれは、実はただの色付き水だ。
「その液体は10分以内に落とさないと、ハーフエルフになるものです」
「うげぇ!」
 その言葉に動揺したいじめっ子は、メリアとマルスに八つ当たりをはじめる。それでも懲りないらしい相手の方に歩いていき、エリスはわざと触れて狂化を起こした。
「おっほっほ! ハーフエルフをなめるんじゃないですわよ!」
 それに吃驚したレードンたちは慌てて逃げる。ナスターシャは高速詠唱の上でストーンウォールの呪文を唱えた。いきなり壁が現れてびっくりしたレードンは、頭をしたたかに打ち付けてしまう。ハーフエルフの恐ろしさをアピールしようとしたのは成功したようで、少年達は逃げ腰になっていた。
「自分の力量も理解しない輩や群れないと何も出来ない輩‥‥何事も努力しない輩が大嫌いですのよ。を〜ほほほっ!」
「ば、化け物〜!」
 そう言うと、いじめっ子たちは逃げていった。
 メリアもマルスも、幸いにして怪我は無かった。メリアは怒りから興奮はしていたものの、狂化などはしておらず、平静を保っている。
 急いで皆はそこから離れ、彼女を早めに送り届けようと森の方に向かって歩いていった。

 そして次の日の夕方には、一同はメリアの家に着いた。
「マルス、また遊んでね」
「うん」
 マルスの言葉にメリアの両親は驚いたが、ここまで娘を連れてきてくれた人たちに大変感謝した。何度も御礼を言っている。フランカは「この歪みきった世の中で、ケンブリッジは祖国ロシアの次にハーフエルフ様を理解している場所。入学をお奨めいたします」と言って説得しようとしていた。さすがに娘のことを考えると心惹かれるものはあるらしく、メリアの両親は悩んでいるようだ。
「メリアはマルスのこと好き?」
 フィアッセは別れ際、メリアに言った。
「うん」
「好きなら、ちゃんとマルスのこと捕まえておかないとだめだよ」
「わかんないけど、わかったの! マルス捕まえとくの♪」
 それを聞くと、ナスターシャはマルスに言う。
「人に頼るなとは言わないけど、あのぐらいの奴らから、自分で女の子一人護れないってのは情けないわね」
 冷ややかに言い放ったあと、くるりと振り返り、背中を向けたまま続けた。
「でも‥あの娘が入学するまでには、そのぐらいできるように努力しなさい」
 少し照れながら、ぶっきらぼうに付け加え、ナスターシャは恥ずかしいのか走って去っていった。それを見つめ、マルスは何も言えないまま学園に向かって歩き始めた。皆も後を追う。
 勝気で幼い女の子が学園に入学したら、自分はその時に守れるだろうか? 『YES』というにはマルスはまだ幼すぎた。