ブルーベル
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■ショートシナリオ
担当:朧月幻尉
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 85 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月08日〜12月14日
リプレイ公開日:2004年12月14日
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●オープニング
キャメロットの冒険者ギルド近くある酒場には、仕事を探している冒険者や既に仕事を終えた冒険者達で賑わっていた。その中で人目を引く女がこっちに近付いてくる。
「ちょっと、頼みたいことがあるんですけど‥よろしいかしら?」
青いドレスを着た女性が言った。
年の頃は二十代後半といったところだろう。長い金髪は高く結い上げてあった。こんな所に来るには品がありすぎるような気がしないでもない。
彼女はさっきまで歌っていた歌姫だが、どちらかというと貴婦人のような雰囲気と美貌が、どことなく不思議な感じを醸し出していた。
だが、胸元が大きく開いたドレスから覗く豊満なラインが周囲の人間を引きつけてもいる。
「私ね‥街から四日ほど歩いた所の森で生まれたのよ。取りあえずは歌で食べていけるようになったから、故郷でちょっとしたパーティーでもやりたいと思うの」
パーティーと言ってもそう大きなものではないらしく、故郷の友達だけを呼びたいとのことだった。
「こんな商売ですし‥‥村の人はきっと喜ばないから‥静かなパーティーにしたいのよ」
確かに歌姫と言えば聞こえはいいが、それ以外の仕事‥世間様に顔向けできない仕事もすることがあるのだから、嫌われて当然だろう。
パーティーをするための食料などを買い、運んで欲しいと彼女は言った。そして、もしも嫌じゃなかったら、パーティーに参加して欲しいのだとも‥‥
「なんでもね‥‥楽しい方が良いわ」
そう言って女は微笑んだ。
さて、依頼を受けたのはいいが、気になることがある。
四日ほど歩いた所に『村は無いらしい』とのことだ。彼女が嘘を言っているような所は見えけられないし。友達に会いたいということは別に普通のことと感じる。
報酬もまぁ悪くないし。相手は美人だし、言葉遣いも丁寧で親切だ。依頼人としては出来が良い。
だが、どことなく気になるのだった。
●リプレイ本文
荒くれものの多い冒険者達の中で、歌姫は自分のお眼鏡に適う人間達を探していた。条件はそんなに多くはない。
親切そうな人。
ただそれだけだ。
だが、危険が伴う仕事を引き受ける人間に、性格的にか、行動的にか、少なからず問題がある者がいないわけではなかった。
それを知っているからこそ、『親切そうな』という、一見曖昧な基準で彼女は探していたのだった。この人たちはどうであろうか‥‥そっと、歌姫は彼らを見た。
「故郷に錦を飾る‥って所かしら? 好きな事で食べていけるようになるのって、凄く大変で、とても素敵な事だわ」
瞳をきらきらとさせて光月羽澄(ea2806)が言う。そして、隣のテーブルにいたネイラ・ドルゴース(ea5153)は豪快に笑って杯を上げる。
「何はどうあれ、故郷に錦を飾れるのは良いことじゃないか!」
女性にしては奔放で豪胆な性格のネイラは彼女の素性などまったく気にしていないようだ。それが歌姫にとって、とても嬉しい事だった。商売柄、色目を使われるか、とことん嫌われるかのどちらかだから、屈託なく善かったといってくれる事は滅多にない。
「そうかしら‥そうね、そうだわ。ありがとう」
歌姫はにっこりと笑って礼を言った。
「パーティー、か‥あまり賑やかなのは得意でも無いのだが‥」
酒場の喧騒の中、歌姫に声を掛けられたオイル・ツァーン(ea0018)は、そう言いつつも歌姫に同行することにした。丁度、同じテーブルにいたケンイチ・ヤマモト(ea0760)は自分が吟遊詩人であるために、彼女に協力しようと申し出る。
「では、私はその伴奏をしようと思います。それなりの腕を持っているつもりですので」
「助かるわ、伴奏無しじゃ寂しいもの。他に誰か雇わなきゃいけないかなと思ってたのよ。よろしくお願いしますね」
歌姫は丁寧に礼をすると、ケンイチに笑いかけた。たおやかで物腰が柔らかい雰囲気が好印象だった。この人も大丈夫だろうと、歌姫は確信した。
やっとのノルマンから帰ってきて初依頼だと、アシュレー・ウォルサム(ea0244)も名乗りをあげてくれた。調子取り戻すためにも頑張らないといけないと考えていたから、グットタイミングだ。
話す様子を見ながら、イフェリア・アイランズ(ea2890)は歌姫の素性について考えていた。その辺りはどう考えても、村と言うものの存在を聞いたことがない。
(「ん〜、姉ちゃんの言うてる範囲に村がないらしいってのは、何とも微妙やな〜。ま、姉ちゃんは悪い人やなさそうやし、信じとくわ」)
そして、にぱっと笑う。そんな彼女の笑顔を見て、歌姫もにっこりと笑い返した。
綺麗なボディーラインのリスフィア・マーセナル(ea3747)も手伝うと言ってくれた。彼女の上品な雰囲気に、歌姫は好印象を持ったようだった。酒場には粗野な人が多いから、同行者の品が良いというのは、彼女にとって安堵に繋がるのだ。
「本当にあなたたちに声をかけてよかったわ、これから旅が終わるまでよろしくお願いしますね。私の名前はブルーベル。仕事中はベルって呼ばれてるわ」
「えっと‥では、ベルさんよろしくお願いします」
「こちらこそ。じゃあ、お茶でも飲みながらお話しましょう」
そう言うと、ベルは皆の席にイスを持って来て座った。
「往復は4日、どうにしろ、野営道具必要よね‥」
「まずは‥皆と手分けをしてパーティの準備をしないと。買うものは日持ちのする食材とかコップとか後は舞台飾りつけなんかかなあ?」
羽澄とアシュレーがコップ片手に言う。
「買い物については、パーティーをどういったものにしたいのかにもよるだろうし、指示に従おう。荷物は馬にでも積めば良い」
ぼそりと言ったのはオイル。
「そうね、これだけ華やかなんだし。皆、あなたたちに合わせたいって言ったら変かしら? おしゃれして、食事して、そういうのがいいわ」
「とりあえず、こっちもテントとか寝袋とか保存食とか、必要な装備はロバに載っけとくし、パーティに必要なモンも積めるだけ積めるで。積んで欲しい人の分も一緒に載っけとくしな」
「わぁ、たすかるわ♪」
イフェリアの申し出に羽澄は喜んで礼を言った。
「私、荷物もちをやりますね。これでも体力にはそこそこ自信がありますから」
リスフィアの申し出にベルは目を瞬く。
「コナン流のファイターなのは、伊達じゃないですよ」
「そうね、助かるわ」
「えーっと、食材はどうしましょう? 移動に片道2日かかるって事だから、魚料理より肉料理がいいのかしら。鶏や子牛の焼き肉や豚の血や油の腸詰とか‥この時期は寒いから野菜が入った暖かなスープもあるといいかしら?」
そう言ったのは、羽澄。
「美味しそうだわね♪ 貧しくって小さな村だから、良い物なんて食べられないの。それだけでご馳走よ」
「食材は私たちが作るでいいのよね。自信はそんなにないけど、心を込めて作らせていただくわね。デザートもあった方がいい?」
「豪華よ、それって。静かなパーティーにしようと思ってたけど、森の外れでこっそりと盛り上がっちゃいましょ」
どことなく貴婦人のような雰囲気を持つ女性は、打ち解けると少女のような笑顔を見せた。
「今までそういったものに縁もなかったので、私はなかなか手伝える事もなさそうな気はするし‥もし差し支えなければだが、普段の仕事を生かした手伝いでもさせてもらいたい」
森の中と聞いたオイルは猟でもして食料の追加確保をしたいと考えていたことをベルに告げた。必要以上獲るような事はしたくないのだ。故郷の周囲で猟が出来るならば、買い込む食料の量を多少調整した方が無駄がないかもしれないとも考えていた。
「じゃぁ、その方向でいきましょう。猟は出来るし、野菜と加工品があれば充分だわ」
そう言って、ベルは笑った。
次の日、旅の準備を整えると、市場に皆は集まった。買い物をしてから移動するためである。
ネイラは服を買うのだといって、ベルたち女性一同で雑貨屋や洋服屋等を回る。少々少女趣味があるらしい彼女は、大柄なわりには可愛らしい物ばかり買って、ベルにからかわれたりした。
皆が野菜、高級な肉、酒、調味料、香草、塩、小麦粉などを買っている間に、ネイラは殆どの持ち物を預けた。村についたら盗賊に早変わりなんて事はないと思っても、念のためにそうするべきだと思ったのだろう。
それから、旅立った一同は楽しく短い日々を過ごした。
オイルの猟の腕前に驚嘆したり、盗賊に襲われないように見張りをしたり。その時、見張り組のアシュレーたちの隣で、ケンイチと一緒にベルは歌の打ち合わせや練習をしたりしていた。ベルと話しながら羽澄は歩き、ときにケンイチとの三人で歌ったりして教えてもらっていた。
耳と目が良いイフェリアは周辺を警戒してくれていた。アシュレーは村が無い事を気にしてはいたが、心の中で独白するに留めた。気にしてもしょうがないと割り切り、リスフィアも何もいわずに荷物運びをしている。
さすがに、夜にキャンプ張った時は暇になるらしく、ベルに話し掛けていた。
「姉ちゃんの事色々聞いてみたいな〜。ちっちゃい頃のこととか、歌姫になる前にしてたこととか」
「そうね、日向ぼっこが好きだったわ。それで風に合わせて歌うのよ」
「へえ〜」
そんな会話をしたりして、二日ほどすると、ちょっと広い野原の隣にある小さな森の入り口までたどり着いた。
やっと見える範囲に村とは言いがたい集落がある。これなら、『村』は無いといわれるのは仕方が無かっただろう。そして、森の端っこにも10軒以下の家が建っていた。不思議な事に屋根は全部、瑠璃色だった。
ちょっと派手な屋根に皆は驚いたが、それを口にせず、ベルが家人を紹介してくれるまで待っていた。家族と友達は温かく迎えてくれたようだ。ベルに良く似た家族達だ挨拶に現れ、皆は挨拶した。
多分、森の中の人々に好かれていないのだろう。彼らがやってくることはない。
早速、皆は荷物を家に入れると食事を作り始める。パーティーの準備は念入りにするべきだろうと思ってのことだ。念入りにと言えば、羽澄のほうもベルの髪を優美に髪を結い上げ、彼女の美しさを更に増すように化粧を施していく。そうして、本物の貴婦人にも負けない美しい装いに仕上がった。
「うちに出来る限りはお手伝いするで〜♪」
イフェリアは元気いっぱいに言うと、張り切って手伝った。ネイラの方も生業ゆえ、慣れないながらに、失敗を繰り返しつつ手伝う。それでも、ベルの家族達は初めて食べるご馳走に喜び、作ってくれたことを感謝した。
「本当に美味しいです。娘が出て行ってからは心配だったのですが、こんなに協力してくれるような人にめぐり合えたとは‥」
「人徳ってもんさ。さぁさぁ、飲んだ飲んだ♪」
元々酒豪のネイラはガンガン飲み、酔ったところで冒険談を聞かせて楽しませる。
「歌には伴奏がいりませんか」
「えぇ、お願い。今日は思いっきり歌いましょう」
「じゃぁ、私は踊りましょうか?」
「えぇ、勿論よ♪」
宴が始まり、リスフィアのジプシーの民族舞踊に合わせて、即興でベルは歌い始めた。それに合わせてケンイチが伴奏を弾く。リスフィアは称号に相応しく優雅で魅力的な踊りを披露してくれた。歌姫とのコラボレーションは大反響で、友人たちは満足したようだった。
こうして夜はふけ、朝になった。
ネイラはベルを前日のうちにこっそり作っておいた簡易特製風呂に、「酔い覚ましの朝風呂も気持ちが良いもんさ♪」と言って誘った。
最初は吃驚したようだが、面白いものが好きなのか、ベルは喜んで入ったのだった。こんなイベントが起こる旅に満足し、ベルやその家族、友人たちはできるかぎりの謝礼を払った。
そうして、再び去っていくベルと一同を、どこまでもどこまでも見送ったという。