●リプレイ本文
「けるぴーをどうにかするのでござるな。難しいでござるな‥‥」
上手く戦いを避けられれば良いと山岡忠信(ea9436)は考えていた。だが、エリオットたちはケルピーと戦う事に決めていた。
「このケルピーとは余り戦闘はしないほうがいいと思う」
山岡に同調してヴァイナ・レヴミール(eb0826)も言った。意味が無ければ襲ってくる相手ではないだろう。少し気になって山岡はこう尋ねる。
「船長に聞いて、先祖伝来の物で何か変わった物が無いか聞いておきたいでござるが、そう言ったものは持っているでござるか?」
「先祖伝来のもの? そんなもんはこの船ぐらいだな」
「なるほど。襲撃が始まった前後くらいに手に入れた品物なども怪しいでござるな。けるぴーが狙いそうな物などがあれば、戦いは避けられると思うのでござるが‥‥」
「買うものっつったら食い物とかそんなものだぞ。俺たちは海賊なんかじゃねーしな」
エリオットは怪訝そうな視線で相手を見る。船員もその言葉を聞いて山岡を睨んだ。
エリオットには聞こえぬように呟く。
「‥‥あるいは航路の関係でござろうか」
「理由がなければ何も起きないわけだ。ならば何かを無意識にやっていてそれが原因となる可能性もある」
ヴァイナは山岡の言葉を聞いて、やはり同じように聞こえぬぐらいの小さな声でいった。
「シラを切ってるのあれば‥まあちょっと強硬手段で脅すか?」
「それはダメでござるよ‥‥」
力及ばず、ヴァイナにはケルピーのことが分からなかったようであった。
しっかりとしたつくりの豪華なマントを着たクーラント・シェイキィ(ea9821)は船に乗るのは実は初めてのようで、少し嬉しそうだ。
「冬の海は煤を水に混ぜたような色なんだな‥‥」
呟きつつ、遠い海を眺める。防寒服を持ってない仲間にサンタクロースローブを貸そうと思ったが、一応皆は防寒着を持っているようでクーラントはそれをしまった。
船に乗る前に船長か船員に話しかけ、船乗りの心得と船酔いしないコツを聞いておこうとエリオットに声をかけた。
「心得などを聞きたいのだが‥‥」
「はァ? ちょっと待て、お前は船に乗ったことが無いのか?」
「無い」
「‥‥。じゃぁ、乗るのを諦めた方が良いな。戦いになったら助けねぇからよ。それでもって言うならガンバレや。保証はしねぇケド。酔ったら寝転がってるか、海のほうに顔を向けて呼吸でも整えろ。甲板汚したら掃除させるからな」
「‥‥そういうものか」
海の男というのは大変なのだなと思ったクーラントは頷いた。
船団を前にして、ネイ・シルフィス(ea9089)はそれらを見上げる。
「船上は、男ばかりだねぇ‥‥」
働く男達を見上げてそんなことを言った。それを聞いたエリオットは眉を顰める。
「お前‥‥やっぱり女か?」
「女だけど何か文句でもあるかい?」
「バカやろう! 女なんか乗せられるかっ! しかも、ハーフエルフじゃねえかよ。俺たちの船を沈める気か」
「でもねぇ、女だからって‥‥ハーフエルフだからってなめるんじゃないよ! あたしに任せなっ!」
「任せられるかっ! 船員が逃げちまわあ。偏見を持たない奴のほうが珍しいわい」
エリオットの言葉にネイは眉を顰めた。
漂う不穏な空気に苦笑したケイ・ヴォーン(ea5210)は、エリオットに笑いかける。はじめは挨拶が大切と思い声をかけた。
「はじめまして、エリオットさん。深き森所属、知の部、楽士担当のケイ・ヴォーンです」
「あぁ、小さいの‥‥よろしくな」
楽士に相応しく穏やかな印象のケイの挨拶に、エリオットはぶっきらぼうに答えた。
「失礼かとは思いますが‥‥例えば略奪、そして何らかの遺品を所持してませんか?」
ケイは小さな声で言う。
エリオットはケイをギロッと睨んでから淡々と答える。
「奪わない海賊がいたら紹介して欲しいわな。俺たちは漁師なんだよ。それ以外に答える術がねぇ。‥‥小さいの、そんなものは持ってねぇ。それが答えさ」
エリオットはそう言うと、くるりと振り返り、ネイに向かっていった。
「特別に船に乗せてやってもいいが‥‥男にしか見えないような恰好にしろ。耳も出すな。それなら乗せてやる」
「横暴だねえ」
「指揮に関わる。命は一度だけだ」
それだけ言うと、エリオットは去って行った。
そして次の日の早朝。
眠っていた一同は叩き起こされ、船に乗って沖に出る。ケルピーの戦闘ではなく、漁をするためだ。ヴァイナとケイは毛布に包まったまま船に乗り込み、まだ暗い夜空を眺めていた。
「だめかも‥‥」
そう呟いたのは同じように毛布に包まったクーラントであった。船酔いがはじまり、辛すぎて甲板に蹲っている。
「ね、眠いです〜」
そのとなりで霧生正治(ea5338)が眠たさに負けて同じように甲板に転がっていた。
本当は皆は甲板に出ていなくても良いのだが、何かあった時のために控えていた。ネイは体のラインが出ないような大きな服を着て毛布に包まっている。こうすれば女と見えないだろう。
ケイ、霧生、山岡、ヴァイナの四名は次第に気分が悪くなり、船の縁にへばりついていた。それでも山岡は頑張って船上は地上とは違うかもしれぬと何かと動こうとしていた。付け焼き刃でもやらぬよりは良い。よろける山岡を見ては笑っていた船員も、普通に動けるようにと何かと教えてくれた。
他の仲間に水域地域での注意点などを簡単に説明してもらい、暇があったときに船乗りたちの剣術を見せてもらった。手ほどきを受けたが自分の使っている剣も剣術も違い、身につけることはなかったが充実した時間を送った。
「異なる流派の太刀筋を見るのは勉強になるでござる。それに、不安定な足場で剣を振るうコツなど掴めるかも知れぬでござるなあ」
「そうですね‥‥」
山岡の言葉に霧生は頷く。
「転げ落ちたりせぬよう、命綱も‥‥と思ったが、戦闘で絡まりそうでござるな。拙者は平時は特に役立つ事も無い。ちょっとした手伝い程度に留めておくのが得策でござろうなあ」
「それでは手綱でも作りませんか?」
「む? 捕まえるのか?」
「馬らしいですからね。捕まえられたら良いなと」
「良い発想でござる。では、手伝うとしよう」
綱を誰かに借りてきた霧生は山岡に差し出すと使い易いように強化し始めた。気分が悪くなった人々はクーラントが予め摘んできた気分の良くなるハーブを船員に煎じてもらって飲む。大分気分は良くなったころ、太陽が中天に近くなり、引き上げる事にした。
それから、間もなく、天気が悪くなっていった。さっきまで天気が良かったにも関わらず、風が強かったせいか、黒々とした雨雲を呼んでくる。そして運の悪いことに遠くで嘶きにも似た声が聞こえた。波が高く低く揺れて船を揺らす。大きく揺れた後、マストの上にいた見張りの声が甲板に響いた。
「前方に、ケルピー発見!」
「よし! 着たぞぉ! おい、お前達。役に立たなかったら海にぶち込むから覚悟しとけ」
「「「「「おう!」」」」」
楽しげにいうエリオットの声に、船員は大きな声で答えた。ふんどしをキュッと絞め、脚に力を入れれば体の中心に力が集まるような気がしていく。男ならふんどしだとエリオットは思っていた。
さぁ、ケルピーをぶん殴りに行こうかと拳を振り上げる。
「今日こそ、殲滅! 手加減はするな!」
「「「「「おう!」」」」」
「ちょ、ちょっと待って」
ケイは止めようとしたが誰も聞いていない。殲滅ではなく相互理解を考えていたケイは焦って声を掛けた。攻撃は防御の為の攻撃に限る。なのに、誰もこちらを向いてくれなかった。それは当然だ、今雅に雨が降ろうとしているのに、構っていられるわけが無い。
ネイは霧生がモンスター知識から対象の知識を引き出そうとしているので手伝って通訳する。ネイはジャパン語、イギリス語、ゲルマン語を駆使して全員にそれを伝えた。
海の波間を縫うように現れたケルピーは次々と船員を誘い込んでは海に落としていく。肉眼で確認できるのは3匹ほどだろうか。本当はもっといるのかもしれないが見えなかった。
「ほう‥‥初めて見た」
クーラントはケルピーたちを見て呟いたのも束の間、激しい揺れに吹き飛ばされる。
説得が出来るまでは、できるだけ敵を傷付けぬように、避けや峰での受けに専念しようと山岡はしているのだが、如何せん、波が激しくて上手くいかない。
水中に引き込まれないよう命綱をつけているクーラントは、ロープで輪を作り、投げ縄の要領でケルピーの首にかけようとする。
「ちっ‥‥すばしこいヤツ」
何度となく逃げられ、クーラントは舌打ちした。
霧生は後衛の位置に立ち、アグラベイションを使いケルピーの行動力を奪っていこうとしたが、波間に逃げるケルピーにはかからない。仕方なく前衛に立って霧生もケルピーに手綱をかけようとがんばってみた。
「二時方向、ケルピーに白銀の矢を!」
ケイはムーンアローを撃った。一度目は当たらず、二度目は命中する。
「やったあ!」
ケイが喜んだのも数瞬のことで、ネイの声によってそれは掻き消される。
「ほらほら! 危ないよ!!」
ネイはウインドスラッシュやライトニングサンダーボルトによる魔法攻撃を派出にブチかまして戦っていた。
「どいたどいたっ! 痺れるじゃ済まないよ!」
「うわぁ!!」
ライトニングサンダーボルトを使う時は気を付け、直線状に仲間たちが居ない場から放つ。おおかた、この周辺の水域でとんでもないことをやったのではと思ったが、そんなことに執心している暇も無い。ネイは怪我人の治療やら何やらで大慌てだった。幸いと攻撃は当たり、ケルピーは倒された。
(「きちんと原因が分かって解決すれば良いでござるが‥‥」)
山岡がそんなことを考えた瞬間、攻撃を食らったケルピーたちが怒って何人もの船員を引きずり込み始める。ますます酷くなっていった攻撃と嵐に、船が大破する。
「船が! 船が沈むぞー!!」
「うわぁああ!!!」
多くの叫び声と悲鳴が聞こえたが、遠くなる意識の中でそれはだんだん聞こえなくなっていった。
次の日。海に打ち上げられた船の残骸と生き残った人物の中に集った冒険者たちがいた。生き残った者は浜辺に座り込み、全てを飲み込んだ海を暫し眺めていたという。