海の恋人

■ショートシナリオ


担当:朧月幻尉

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月31日〜02月07日

リプレイ公開日:2005年02月05日

●オープニング

「あんたたちも聞いたのかい? 人魚がこの海岸にいるって噂」
 そう声を発したのは太ったおばさんだった。どうやらこの宿の女主人らしい。恰幅のいい姿だ。ぼんと腹を叩いて笑う姿はドワーフのようだ。
「人魚って食べられるんだってな‥‥不老不死を得られるって話だが」
「人間のかたちしているって言うから、あたしゃ食べたいとは思わないがねぇ」
 噂話の好きな女主人からそんな話を訊いた他のテーブルの男達は色めき立った。女主人はその様子に眉を顰める。
「あんたら探しに良くのかい?」
「当たり前ぇだろうが。食われたいって現れたんだ、捕まえるのが親切ってもんさ」
 粗野な笑顔を浮かべて男の一人が言う。
「嫌な奴だね。あんたらは料金の二倍さ、払ってきな‥‥クズ野郎」
「なんだよ、ぼったくる気か!」
「お黙りよ! ここの主人はあたしだよッ! 冒険者の中にはそういうもんだっているとは思ってるがね、この町の海を血で汚してみな‥‥あんたたちを船の柱にぶら提げてやるからね!」
「あぁ、出てってやるさ」
 その男達は立ち上がると金をテーブルに置いて去って行った。
 女主人は呆れてその姿を見送る。振り返り、こちらのテーブルに向かって言う。
「あたしゃ、冒険者を相手に店やってるけどね。人間に近い生き物捕まえようってのが気に入らないね。売っぱらったら金にはなるけどね‥‥あぁ、嫌だ。あんたたちはどうだね? そういうクチかい? そうじゃないなら、人魚とかいうのを逃がしてやってくれないかね」
 そう言うと女主人はにんまりと笑う。
「その人魚って『つがい』らしいのさ。片方が怪我してるって聞いたんだ。あたしゃ、こんななりだけどね。自分の主人には大事にしてもらったのさ‥‥だから、そう言うのは嫌だねえ。そうだ、あんたたち助けてやっておくれよ。金はちゃんと払うからさ」
 女主人は真剣な表情で言うのだった。

●今回の参加者

 ea5321 レオラパネラ・ティゲル(28歳・♀・レンジャー・人間・エジプト)
 ea7467 ジゼル・キュティレイア(20歳・♀・ジプシー・エルフ・イスパニア王国)
 ea9013 セラフィエル・オーソクレース(22歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea9817 ルチル・カーネリアン(25歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea9934 風霧 芽衣武(47歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb0142 鳳 萌華(36歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb0379 ガブリエル・シヴァレイド(26歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 eb0844 ソフィア・ライネック(29歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)

●サポート参加者

大隈 えれーな(ea2929

●リプレイ本文

「人魚って人に近いのですよね。それを食べようとするなんて‥‥。そんな事は見過ごせません」
 ジゼル・キュティレイア(ea7467)は言った。
「まったくそのとおりだよ」
 宿の女主人は頷いて言った。セラフィエル・オーソクレース(ea9013)も頷く。
「怪我をしている人魚というのは、もしかしたら『不老不死』目当ての他の冒険者達に傷つけられたものでしょうか。だとしたら、本当に恥ずかしい、申し訳ない限りです」
「あんたが謝ることないさ。まったく頭に来る連中だよ」
「何等かの理由で人魚たちも今のイギリスにいるのでしょうから、その力添えもしたいのですが。まずはこれ以上傷つく事がない様、女将さんに応える為にも一刻も早く見つけなければ‥‥」
「そうして欲しいもんだね。頼むよ、あんたたち」
「当然ですよ。自分たちと差ほど変わりない姿の者を食そうなんて、まったく怒りしか覚えないね」
 憤然としてルチル・カーネリアン(ea9817)が答える。
「人魚を捕まえ売って儲けようなんざ、下衆な連中だねぇ」
 風霧芽衣武(ea9934)も眉を顰めて言う。ガブリエル・シヴァレイド(eb0379)も拳を握って怒っていた。
「酷い事しようとするなんて許せない〜!」
「まったくだ、お嬢ちゃん。お願いするよ」
「まかしといて!」
 ガブリエルはふくよかな胸を反らせてい言う。鳳萌華(eb0142)は「ゲテモノ食いが‥‥」と呟いていた。
 他の冒険者達に見つかる前に人魚の居場所を見つけてしまわなければならない。レオラパネラ・ティゲル(ea5321)から人魚の情報を貰うと、ソフィア・ライネック(eb0844)は唸った。
「なるほど、人間の姿になる事も出来るのですね」
「二手に分かれて人魚を探します。私はまず街の方を探したいと思いますよ。何かあった時の為に、依頼人のお店を待ち合わせ場所にしたほうが良いかと思いますけど」
「そうかい。あたしは海岸へ行く人達と一緒に、人魚を捜索しようかね。まぁ、人魚よりも件の冒険者の方が見つけやすいかもねぇ?」
 ジゼルは人魚を狙う冒険者より先に人魚達を見つけなければと、情報収集に自分も行くと手を挙げた。情報収集は、人魚が目撃されていそうな海岸近くで行うグループと街に行く人間の二手に分かれ、合い間に猟師たちにも訊いてみることにしていた。
 レオラパネラもこの寒い中、マントを羽織り、自分も行くと言う。義理人情に厚い彼女は依頼を二つ返事で受けた。
 しかし、周囲の目から少々うんざりとしているようだ。部族の風習とはいえ、身に着けているものは前垂れ一つ。さすがに周囲は気になるようだった。慣れてはいるのだが、この好奇の視線には少々疲れる。だが、そんな彼女だからこそのアイデアがその時に生まれた。
「おかみさん!! 頼みたい事があるんだ」
「へっ? 一体何だっていうんだい?」
 彼女の勢いに吃驚した女主人は目を瞬かせる。レオラパネラが耳打ちをして教えると、女主人はなるほどと頷いた。
「上手くいくのかねぇ」
「大丈夫だって。じゃぁ、おかみさん頼んだよ」
 そう言うとレオラパネラは笑う。
「‥‥蛇の道は蛇」
 ぼそりと鳳は言った。
「はぁ?」
「漁師たちに人目を避けやすそうな海岸のポイントを聞いたほうが早い。例えば、廃船や廃屋。小さな入り江とか」
 淡々と鳳が言う。
「なるほど」
「それなら、さっきおかみさんに聞いたけど」
 ルチルは宿屋の女主人に海岸や海岸周辺に詳しい人を紹介してもらったのだった。
「探すにしても人魚を逃がすにしても多少の地理を知っておく必要があると思うし‥‥人魚が別々に行動している可能性はあるが。怪我をした片方を置いて遠くへは行っていないと思う」
「じゃぁ、海岸を中心に捜索するのが妥当と‥‥」
「人魚が目撃されていそうな海岸近くに行くとして、人魚の一人は怪我しているのでしょう? 隠れて居るのかもしれないわ」
 ジゼルはは少し考えていった。
「やっぱり廃屋」
「ですわね‥‥」
「思うんですけど」
 ソフィアは小首を傾げて言う。
「へ?」
「話では怪我をしているようですし、薬を探しているのではないでしょうか‥‥でも、人間に変身できてもお金は持ってないような気がします‥‥分かりませんけど」
 ソフィアの意見に皆はなるほどと唸る。
「町のお医者様や薬師を訪ねて、最近怪我を治療に来た人か、薬を貰いに来た人について尋ねた方が良くありませんか? そうですねぇ‥‥例えば、代金が払えなくて追い出された人や、言動がちょっと変わってる人とか」
 人間のようになれるとは言え、人間そのものではない人魚なら、少し変わった人物として記憶されているはずだろう。
 そうして二手に分かれ、町で医者を見つけて話を聞くグループと、地元の漁師にお話を聞きに行くグループに分かれた。レオラパネラの頼みを聞き入れた女主人は、彼女の望むものを作り上げ、レオパネラに渡す。レオパネラはそれを持って海に出かけ、他のメンバーは漁師の元に行った。
 
「すみません、新しい歌の創作活動の為にお話を伺いたいのですが‥‥」
 セラフィエルは微笑んで漁師に話し掛けた。たおやかで物腰が柔らかい彼女の様子に、荒くれ者の漁師は少し頬を赤らめた。
「最近、歌にできるような事柄が少なくて困っております」
「へぇ‥‥じゃぁ、人魚の話って知ってるかい?」
 男は得意げな様子で話してくる。セラフィエルの話術に巧みに乗せられ、人魚に遭遇しやすい秘密の場所を教えてくれたのだった。
 一方、レオラパネラは単身、海にいた。と言うか、正確には真冬の海で泳いでいた。
「さ、寒い‥‥」
 それもそのはず、海の水は氷のように冷たい。宿屋の女主人に協力してもらって作った煌びやかな色のズダ袋には鱗模様が描かれ、尾びれのような布切れを付けてあるそれを履いて、海岸の岩場に佇み、偽人魚を演じているのであった。
 肌の色こそ褐色だが、長い髪でトップレスな上、何も知らない人間から見れば人魚に見えなくもない。知っている人間が見ても別の人魚が現れたと撹乱できることができるし、うまくいけば人魚達も仲間が現れたと接触して可能性を考えての作戦だった。
 雰囲気を出すためにアラビア語で歌っていると、何度かあの宿にいた人魚を狙うならず者に出会うことが出来たが、近づいてくると海に飛び込んで逃げ出していた。
 宿に移動するときは、いつも帰り際は誰にも出会わないようにと祈りながら、裏口から酒場に入っていた。
 出来る限り囮役をやりたいという、レオラパネラの言葉に宿屋の女主人は感動し、毎日の寒中水泳後の彼女に特製スープを山ほど作ってくれた。

 街の医者に通い、情報を集めていたソフィアは、店の前で待っていた風霧とガブリエル、鳳の元に走っていった。
「た、大変です!」
「どうしたんだい、慌てて。人魚を発見したのかい?」
 風霧は怪訝そうに言った。ソフィアは傍まで走ってくると息を整えて言う。
「ち、丁度‥‥あの宿にいた男達がお医者様の所にきたって‥‥」
「「「何!」」」
 ごちゃごちゃな取り合わせの服装の男が、カタコトで薬をくれと言ってきたらしい。すごく歩きずらそうにしてると聞いたのだった。
「ただの乞食じゃ‥‥」
 鳳は考えつつ言った。
「いえ‥‥ここらへんでは見かけない感じの人だったらしいんですけど‥‥結構、かっこいい人だったと」
「なるほど」
 しかも、異様に脚を出すのを嫌がってたらしい。何日か連続で来てたようだ。
「決定だな」
 鳳はふむと唸る。
「あー、もう。まどろっこしいねぇ! 一体、何処に居るって言うんだよ」
「それが‥‥今日、レオラパネラさんが向かった海岸の方みたいです」
「「「何だってぇ!」」」
「灯台下暗し‥‥ですか」
 がっくりと項垂れ、ガブリエルが溜息を付いた。困っている人をほうっておけないガブリエルとしては何とか人魚さんを助けたかった。
「助けに行かなくっちゃ! あの男の人たちもお話を聞いちゃったんだよね!?」
「そ、そうだわ行かなくっちゃ」
 ソフィアは慌てて言う。
 海岸に行ったほかのメンバーを捕まえて、レオラパネラが居るであろう海岸に皆は向かう事にした。
 幸い、人魚は見つけることが出来たが警戒して近付いてこない。仕方なくセラフィエルの歌でもって傷付いた心を和らげようと試みた。
「アナタ‥‥ガタ‥ハ?」
「私達〜救助の依頼受けてきたの〜。怪我はだいじょ〜ぶ〜?」
 別の冒険者より先に見付けることが出来た皆は敵意がない事を示した。ルチルは相手の目を見てしっかり話す。傷は治りかかっているので、鳳はリカバーポーションを与えた。
 宿屋へいったん匿ってもらうつもりであったが、移動しても隠し切れない。どこかに移動しようと思った刹那、宿屋にいた男達がこちらに向かって走ってくる。
「待ちやがれ!」
「あたし等は『人魚を逃がしてやってほしい』って頼まれた者さね。捕まえるのは諦めてくれないかい?」
「冗談じゃねーや!」
「こっちはギルドを通した正式な依頼さ。あんた等も一介の冒険者なら、こっちとコトを構える重大さが解るだろ? 最悪、一生飯のタネにありつけなくなるよ?」
「馬鹿言うな。あのババアがどこのギルドの者だっていうんだ!」
 そう言うなり男達は剣を抜いて走ってくる。おまけにファイヤーボムまで撃ってきた。ルチルは仕返しとばかりにファイヤーボムを撃ち返す。浜辺では爆発が起こり、砂埃が舞った。
 風霧は距離を置いて弓矢で応戦する。萌華がクイックラストで相手の武器を錆びさせ、戦意喪失に追い込んだ。ガブリエルが隙をついてミストフィールドを使い、視界を奪っていく。
 鳳はインフラビジョンを使い、ガブリエルがアイスブリザードで攻撃している間に、仲間と人魚たちを逃がした。相手もインフラビジョンを使ったが、そのときには遅く、皆はその場を逃げた後だった。

「アリガトウ‥‥」
 にっこりと女の人魚の方が言った。
 浜辺には宿屋の女主人も立っている。仲睦まじい人魚のカップルを見て心底嬉しそうな顔をしていた。
「良いねぇ‥‥」
「あたしも昔を思い出すよ♪‥‥あ、それよか息子を探さないと」
「おや、息子さんがいるのかい? 元気だといいね」
 女主人はそう言って笑った。
 元気になった人魚は自力で外海まで泳いでいくと振り返り、見送ってくれた冒険者達に手を振る。そして、自分達の住む海へと戻っていった。