●リプレイ本文
今回依頼に名乗りをあげた者達のうち二人は前回も参加していた者。無様にも依頼を失敗させてしまった者達である。ギルド員も不安を抱いていたが仕方がない。チャンスを与えるという事で向かってもらうこととなった。
「逃げた悪霊、か‥ここで終わらせねばな」
「ワリィ。俺が前回とちった所為で‥‥」
「気にする事はない。不意打ちでは仕方あるまい。それに、今回で仕留めてしまえばいいのだ。そうだろう?」
霧島小夜(ea8703)の言葉に灰原鬼流(ea6945)も今回はやる気があるのか、月露を強く握り締める。しかし、今はまだ昼間だ。夜の為に布石をしておかねばならないだろう。冒険者達は手分けして町の者に注意を呼びかける事にした。
二人は広場へと足を進めた。そこには昼間と言う事もあってか人が賑わっていた。
「夜は外に出るな、酒場にいたら朝まで出るな」
「へ?それはどういう事ですかい?」
「とにかく夜は出歩かないほうが良い、化け物に殺されるぞ?」
小夜の言葉に少し疑問を感じる町人も少なくはない。やはり納得出来ない者達もいるようだ。
「どういう事だよ!なんで夜外に出ちゃいけねぇんだ!」
「納得いく説明ぐらいしてくれてもいいだろ!?」
「‥‥妖怪に食われたいんなら俺は止めはしないが?」
不機嫌そうな口調で鬼流れがそう言い放つと、流石の町人も納得するしかなかった。前回取り逃がしたのを自分の責と背負い込みもあり、イライラしているのだろう。
その頃、レイオール・エヴァンジェリス(ea8927)と佐上和樹(ea8213)は昼間の間に隠れていられる場所を探しておく事にした。二人の組み合わせは別々ではあるものの、やはり隠れ易い場所を探すのは人と一緒の方が判断は誤らない。
村の中心より少し奥にいった場所に丁度人が二人ずつ隠れられる場所が存在した。
「どうやらここが丁度いいみたいですね」
「あぁ。後はバレなければいいのだが」
「大丈夫でしょう。打ち合わせどおりに事が進めば‥‥ですけどね?」
苦笑を浮かべる和樹には一つ心配事があった。精吸いをサッキュバスと言い張る間違った知識を持つ者の事である。精吸いはバンバイア系列とは似ているものの、全くと言っていい程の別物である。それを誤認して皆に説明している者がいるのだ。
とにもかくにも、決戦は今宵。布石出来る所まで布石するしかない。二人はそう意見を一致させ、誘い込めそうな場所探しへと向かう。
村はずれは少し荒野が続いているものの、やはり町の所有物がまばらに置かれている。流石に範囲魔法を使うにも頭を使うようだ。
「‥‥ここに誘い込めれば十分やれそうですね」
「ふむ。後は鬼流にこの場所を教えれば‥‥」
「‥‥さて、後は夜を待つだけ‥‥ですか」
日は落ちて。遂には夜も深けていった。鬼流とライラ・メイト(ea6072)が同伴で囮と出る。しかし、ここで意外な事が起こってしまった。何と、囮として出ないと思われていたイワーノ・ホルメル(ea8903)までも囮に出てしまっていたのである。これには流石の小夜達も気づかない。
その穴を狙ったかのように。精吸いは、イワーノの方へと現れる事となる。
「来ただか!ローリンググラビティ、喰らうだよ!」
‥‥ローリンググラビティを放つもそこにいたのは死霊二匹。精吸いではない。しかも背後にローリンググラビティを放った事により、民家のものまで吹き飛ばされこの夜中に大きな物音を立ててしまう結末となる。
その物音でようやく小夜と鬼流は気がついた。
「まさか‥‥アイツ、やってしまったのか!?」
「あれ程街中でやるなといったはずなのだがなッ!」
「‥‥不安、ある意味的中ですね‥‥」
和樹も顔を覗かせ、小夜達と合流してイワーノの方へと向かう。が、ローリンググラビティの残骸が多く、死霊の姿すら確認出来ていない。この分だとダメージすらないだろう。
「何故勝手な事をする!?打ち合わせではやらないという話だったろう!?」
「小夜、ここで言い合っていても仕方ないぞ!精吸いを早く探さない‥‥と‥‥?」
鬼流が何かに気づいた。桜の花弁。それも薄紫の。
「何処かで見た事あるッスね、これ?えーと‥‥確かどこだったッスか‥‥」
「‥‥確か、これは‥‥」
鬼流の気配ががらりと変わる。それもそのはず。その紫の花弁‥‥以前鬼流が精吸いに襲われた時に見たものだからだ。
「ふむ。鬼流殿の雰囲気からすると‥‥どうやら近くにいるようだな、サッキュバスとやらは」
「だから、サッキュバスではありませんってば‥‥」
黒畑丈治(eb0160)の言葉にすかさずライラ・メイト(ea6072)がツッコミを入れる。流石の太丹(eb0334)も苦笑が浮かべられている。
冷ややかな空気が流れる。鬼流はその雰囲気を逃さない。死霊が姿を現したと同時に小夜に目で合図を送る。丹と小夜が一気に前へ出る。その後ろにはレイオールと和樹が構える。
「黄泉に還れ、死したる者よ!」
小夜が先手必勝といわんばかりにシュライクで死霊にダメージを与える。月露のお陰か、刃はまともに死霊へと突き刺さる。小夜がリズム良く後ろへと下がると同時に和樹のウィンドスラッシュが死霊に直撃し、死霊はその場から消えうせる。これでまず一匹だ。
「死霊め!前回のおかえしッス!」
鬼神ノ小柄を握り締め、丹は残る死霊に突貫していく。‥‥が、不運は付きまとうもの。幾らやっても掠る。挙句に何もない所でつまずいたりという行動になってしまう為、なかなかダメージが与えられない。
それを見かねてか、レイオールが一気に切りかかる。
「流石にこれ以上暴れさせるわけにはいかないのでな!」
手応えを感じた。月露の攻撃だけでは流石に死なない。ただ怯んだだけだ。
「これ以上、好き勝手はさせません!!」
ライラのオーラソードが死霊を断つ。断末魔をあげて死霊は消えて行く。辺りにはまだ紫の桜の花弁が散っている。鬼流は下唇を噛み締めながら、その花弁をただただ見つめている。月露をマントの下に忍ばせ、ゆっくりと抜きながら‥‥。
「あら、誰かと思えばこの前の冒険者さんじゃない。知識がないのを二人連れて、またのこのこやられに来たのかしら?」
「るせぇよ。その割には声だけなんて臆病風にでも吹かれたか?出て来いよ、決着つけてやる‥‥」
「あらあら、まだ懲りないのかい?仕方ないわね、相手してあげるわ」
「今だ、やれッ!」
精吸いが姿を見せたと同時に鬼流が合図の声を出す。丈治の放つコアギュレイトが精吸いの動きを捕縛する。流石の精吸いもこの作戦には気づかなかったので戸惑っている。それもそのはず。有頂天になっていたのだから。
「フン‥‥少しはやるようになったじゃないか。流石に学習でもしてきたのかい?」
「そりゃあな。お前にやられた後、どれだけ苦い汁飲んだか。二度目は絶対にねぇ!」
鬼流がマントを空へと投げ捨てる。和樹が臨戦体勢のまま詠唱を始める。
「何度来ても同じだと思い知らせてやるわ!」
「前回はそれでやられたかも知れませんが‥‥今回はそうはいきませんよッ!」
チャームを試みる精吸いに和樹のウィンドスラッシュが炸裂する。確かに前回は対応出来る者が少なかった。しかし、今回は違う。ある意味万全なメンバーで戦闘に挑んでいる。‥‥例外を除外しては。
「くっ‥‥なら!」
「お前さんの悪い所は‥‥」
「なっ‥‥!」
「一人しか見ない事だッ!」
真上からは鬼流が。左右からは小夜とレイオールが月露を片手に向かってくる。流石の精吸いも対応仕切れず、月露の餌食となる。
「冒険者‥‥如きに‥‥!」
それが精吸いの最後の言葉となった。鬼流は華麗に着地し、マントを拾うと小さく呟く。
「俺は灰原鬼流、ただの鬼だ、常世(とこよ)で怨め精吸い」
「御用だ!御用だ!テメェ等、神妙にしろい!」
カッコよく決めたのも束の間、何時の間にか小夜達は数人の役人に取り囲まれていた。無論、他の冒険者達も既に取り押さえられている。
「な、なんだ?これはどういう‥‥!」
「町の人から知らせがあったんで来てみればなんでぇ、この有様は!?テメェ等の仕業か!?」
辺りの残骸‥‥ローリンググラビティの影響で粉々になった無数の町人の生活品が転がっている。これでは言い訳も出来るわけがない。
「しかも夜中にでけぇ音させやがって!迷惑ったりゃありゃしねぇんだ!いいからしょっぴけ!」
こうして、小夜達は役人達にしょっぴかれ、理由を話して分かって貰えたものの。小一時間から3時間弱説教をされてしまい、挙句に壊したものの修理をさせられる。犠牲者の墓作りどころではなかったという‥‥。