喧嘩一番!一本勝負!

■ショートシナリオ


担当:相楽蒼華

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月28日〜02月02日

リプレイ公開日:2005年02月03日

●オープニング

 江戸では喧嘩を武器に戦うものや仲裁をする者がいる。その名も「喧嘩屋」である。
 しかし、その喧嘩屋の依頼者は売られた喧嘩は即買うが、他人には迷惑かけないように律儀にも壊した物を修理するという奇怪な者。喧嘩屋は江戸の華とはいうものの、その喧嘩屋自身が何故かギルドに駆け込んで来ていた。

「俺ァこの江戸に来てずっと喧嘩屋をしてる。他人様に迷惑かけねぇようにきっちりと商売をしているつもりだ。あ?何の為にそんな事してるかって?己を高める為、そして魅せる為よ!」
 聞いてもいないのにそう豪語する喧嘩屋の青年を見て、ギルド員は唖然としていた。ここまで威勢のいい依頼者し久しぶりに見るからだ。

「己を高めるからには売られた喧嘩は買うもんだ!だがな、俺ァあんまり喧嘩を「売る」って事はしねぇんだ。売りすぎたらそれこそ迷惑だろうが?」
 何とも律儀な喧嘩屋である。他人に迷惑をかけない、それがモットーのようだ。しかし、こういう喧嘩屋は珍しい。大抵の喧嘩屋は「喧嘩の仲裁」や「それを武器として戦う人」の事を指すのだが‥‥。
「喧嘩の売り買いだけ‥‥ですか?」
「いやな?今まではそういう事もしてきたんだ。でもな、それだけじゃどうもはじけらんねぇんだ。人生もう少しはじけてみてえのよ。今までこの江戸にいるっていう強い奴とも勝負はしてきたが、どいつもこいつもいざって時にゃ逃げやがる。こんなんじゃ己を高める事なんざ出来ねぇ!‥‥そこで、だ。ここに冒険者の奴等がいるって聞いたんだが‥‥数人貸しちゃくれねぇか?」

 つまり、この江戸の男達は相手にならねぇから、と冒険者を借りて喧嘩がしたいというのだ。無論、素手‥‥拳と拳の一本勝負。女とは勝負するつもりは全くないとの事。
「‥‥ほ、本当に喧嘩屋なんですか‥‥?」
「怪我させちまったらこっちが治療代は払う!だからよ、何とか頼めねぇか?このままじゃ江戸の男どもに失望しちまうからよ?」
 話を流された挙句、なっ?と手まで合わせて強請られ、ギルド員は苦笑いを浮かべながら依頼を引き受けた‥‥。

●今回の参加者

 ea3197 矛転 喪之起(68歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea6688 花房 一慧(27歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb0094 大宗院 沙羅(15歳・♀・侍・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb0356 高町 恭也(33歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0568 陰山 黒子(45歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb0654 レイヴァン・クロスフォード(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0712 陸堂 明士郎(37歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb0813 古神 双真(47歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 喧嘩は江戸の華。華麗に咲いて、華麗に散る。それが喧嘩の魅力。
 流石に街中で喧嘩は出来ない、と左之の希望により近くの荒野で喧嘩祭は行われる事となった。
 まず一番手に出向いたのは陸堂明士郎(eb0712)である。明士郎を見て左之はへへっと嬉しそうに笑みを浮かべる。
「やっと来たか。こねぇかと思ってちったぁ心配したんだぜ?」
「後は拳で語り合えばいい‥‥陸堂明士郎‥‥参る!」
 挨拶もそこそこに明士郎が左之に攻撃を仕掛ける。いきなりの事ながらも左之は慌てずその攻撃を受け止める。
「へぇ。アンタみたいな奴からンな言葉聞けるとは思ってもなかったぜ。こりゃあ少しは楽しめそうだなッ!」
 そう言い、笑みをうかべながら左之が仕掛けようとすると明士郎はカウンターアタックの体勢に入る。その様子を見てにやりと笑い、自分が羽織っていた白法被を明士郎に投げつけ視界を遮る。
 この手段に明士郎は「しまった!」と思った時はもう遅く、腹部に強い衝撃が二度走った。‥‥ダブルアタックが見事に命中したのだ。士郎はズサ‥!と地面へと誘われるが、まだやれるようでふらふらしながらも立ち上がる。
「これが喧嘩術ってもンだぜ。アンタ、まさか技だけで喧嘩しに来たってワケじゃねぇんだろ?」
「くっ‥‥!」
 左之の挑発に乗ってしまった明士郎は再度攻撃を仕掛けるものの、流石に二度目は当たらない。一度受けたものはある程度見切っているのか、それとも一度目に受けたのはわざとだったのか。それは明士郎には分からない。
 そして、明士郎の意識はそこで途絶える事となる。回避した後、その顔面に重い一撃を喰らう事となったからだ。地面に叩きつけるかのように殴り、勢い良く倒れた明士郎を見て左之は白法被を拾い上げ、砂埃を払う。周りには野次に来ている町人が無数。
「けっ‥‥いい喧嘩が出来るって思ってたンだが。ま、いい勝負だったぜ。寺送りにしちまったがよ、思わず」
 左之のその言葉に、野次に来ていた女性の大半が黄色い声をあげる。そんな中、明士郎を一人寺へと運ぶものがいた。徹底的な裏方に回るが務め、そしてその道のプロでもある陰山黒子(eb0568)である。

 次に来たのは大宗院沙羅(eb0094)だ。お面に武道着。女である事を隠しての参加である。そんな沙羅を見て左之は一寸の沈黙の後、やる気のない溜息をつく。
「あァ?なんでガキなんかがここに来やがるかねぇ‥‥ギルドの方で間違えやがったんかね‥‥。まぁ、いいか。お前、男なんだろ?」
「せやったらなやんねんっ!はよ勝負するんやろっ!」
 声変わりしていない男の子のつもりなのだろうか。左之はその声を聞いてピンと来るものの、いい根性だと思ったのか黙っている。そうこうしているうちに沙羅が左之にトリッピング+ダブルアタックを仕掛ける。
「おいおい、ガキの癖にそこまで瞬発力いいのかよ。でもガキの分パワーが足りてねぇな?」
 トリッピングを試みる沙羅の腕を捕まえ、足払いをかける。沙羅は転倒するもののまだ仮面はつけておらず無傷。転倒しただけなのだから。
「おいおい、どーした?そンだけで終わり‥‥ってワケじゃねぇよなァ?」
(「くーっ!流石に大人相手や‥‥。力も全然やわ‥‥」)
「面でツラ隠す割には瞬発力だけとはな。全く持って、喧嘩にもなりゃしねぇッ!」
 大きく踏み込むと左之は拳を突き出す。ストレートだ、オフシフトで回避しようにも転んだ状態ではどうにもならない。
 ピシリ!と面にヒビが入る。次の瞬間、面は砕け落ち目の前にあるのは拳と静かに目を閉じている左之の姿。沙羅は面を砕けたのに慌てるが、その隙をついて左之の足が動く。また足払いだ。
「ガキが‥‥華を踏み荒らすんじゃねェよ」
 その言葉を残し、左之はまた別の冒険者を待つ。
「おい、そこのにーちゃん。そのガキ連れてかえンな。賭け事は大いに結構だがよ」
 賭けを楽しみながら儲けようとしているレイヴァン・クロスフォード(eb0654)に左之は言い放つ。渋々と立ち上がるレイヴァンは沙羅の首根っこをひっ捕まえた。
「せやから無理や言うたやろ。商売の邪魔しおってからに‥‥」
と、ぶつくさ呟きながらも唖然とする沙羅を怪我しているかも知れないとのコトで寺へと運んでいった。

「喧嘩勝負か‥‥。ま‥‥自分の力を試すにはいいな‥‥」
 そう呟きながら来たのは高町恭也(eb0356)だ。黒い着物を靡かせ、その対決の地へと赴く。
「おーおー。次は見込みあるって信じてンぜ?やっぱ強い奴は後からっていうだろ?」
「では‥‥小太刀二刀流‥‥っと、今日は小太刀はないのか‥‥ともかく、高町恭也‥‥参る!」
 と、軽く頭を下げて対決の火蓋は切って落とされた。ダブルアタックEXで先手をとったのは恭也の方だった。同時に攻撃がまともに左之に命中するも、左之はその攻撃にすら耐える体力がまだ残っていた。
「へへっ‥‥いいパンチ持ってンじゃねぇか。こりゃあさっきよりやり甲斐が出てきたぜ」
 ダメージを受けていないわけではない。左之も余裕はあるようだが連戦の為キツイ部分もある。お互い様になるのだ。
「ちっ‥‥!これくらいで倒れるとは思っていなかったが‥‥」
「結構効いたぜ、今の?次は俺の番だ、本気出していくぜッ!」
 その掛け声と同時に左之が仕掛けた。ブレイクアウト。相手の体勢を崩させるには持ってこいの技だ。
「くっ‥‥!避けきれる、か‥‥!」
「かかったな!これが喧嘩で育った漢の拳よッ!」
 恭也の体勢が崩れたコトにより、連続攻撃が可能となった左之はすかさずダブルアタックを打ち込む。一撃目は耐えるものの、流石に重い拳を二度もまともに受けたとなると立ったままではいられないだろう。恭也の体は吹き飛ばされ荒野に沈む。‥‥そんな彼に左之は手を差し伸べた。
「お前、結構気にいったぜ!お互いが強くなったらそン時はまたやろーぜ。江戸の華である喧嘩をよ?」
「あぁ‥‥その時はこうならないように鍛えておく。左之、またやりあえるのを楽しみにしている」
 二人はがっちりと拳を交わす。そこに生まれた友情の一つとして。

 後二人。そのうちの一人、矛転喪之起(ea3197)が姿を見せた。しかしそれは並大抵の者ではない。なんと「ノルマン製フンドーシ」一丁で現れたのだ。ここまで漢らしいと逆に尊敬してしまう。左之も最初は引きながらもその意気込みを感じ取ったのか、少し嬉しがっていた。
「へぇ、アンタもいい根性してンじゃねぇか。その漢らしさ、結構気に入ってるぜ?」
「うむ。結城殿とは通じるものがあると拙者は信じていた!さぁ、何処からでも来るがよいっ!」
「意気込みだけが立派、なんて真似はやめてくれよ?」
 言いながらも仕掛ける左之だが、流石に相手も自分と互角。簡単に受け止められてしまう。喪之起の拳をまともにくらないがらも、左之も負けじと喪之起に拳を繰り出す。ここまで来るとラチがあかなくなってしまうと思っているのか、野次馬もつまらなさそうに見ている。
「次の一撃で決着をつけようぜ、おっさん!」
「おっさん‥‥。仕方あるまい、次で決着だ!」
 そう言い合い、納得するとお互い距離をとり一気に踏み込んだ。
「くらえぇい!火運打当駆(かうんたーあたっく)!」
 お互いが突き出した拳はクロスカウンターの如く互いの頬にのめり込む。両者ぐらりと体が揺れる。左之も、喪之起も。まだ立てる状態ではある。が、しかし‥‥。
 このあまりにものキツイ連戦に左之がガクリと膝をつこうとした瞬間。事故が起きた。ビリ、という音と共に女性の悲鳴。これには左之も気になったのかまずは手元を見る。
「布‥‥だぁ?‥‥げっ」
 喪之起の方を見やった瞬間。そこには黒子が大きな布で喪之起の前方を隠している姿。交互に見やると左之は苦笑いを浮かべた。この後、喪之起は黒子に前を隠して貰いながらの退場となった。‥‥どうなったかはご想像にお任せします。

 黒子が野次達にペコペコと詫びの礼をしながらも最後の一人、古神双真(eb0813)だ。左之の前にマントを投げ捨て拳と手の平を打ち合わせ気合いを入れると双真は力強く言い放つ。
「さぁて、サシでの真正面から闘るか喧嘩屋ぁ!!」
「おうよ!アンタも気合入ってるみてぇで助かったぜ!」
 ここまで来ると本当の殴り合いだ。互いに技も使わず、その拳だけで相手と渡り合っている。その壮絶さに野次馬達もゴクリと唾を飲む展開だ。そのうち左之がズサッと押しやられる。
「どうした、喧嘩屋?お前はその程度だったのか?」
「へっ、まだまだ!これからだろうがよっ!」
 響く打撃音。飛び散る汗。そしてそこにあるのは‥‥。
 日が暮れて、夕日が落ちる頃には二人はへとへとの状態でへばっている姿があった。その小脇では黒子が無言でせっせと後片付けをしている。
「へへっ‥‥ここまで気持ちいい喧嘩したのは久しぶりだぜ」
「あぁ‥どうやら互いに満足いったようだな‥‥」
「ま、色々と手違いはあったがよ!またやりあおうぜ!…アンタ、名は?」
「古神双真、だ」
「俺は結城左之。お前の名前、覚えておくぜ」

 嬉しそうにそう言いながら、左之は白法被を身に纏い夕暮れの町中へと消えていった。二人の結果は「相打ち」であるとギルドには報告されている‥‥。