生き行く手段

■ショートシナリオ


担当:相楽蒼華

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 96 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月01日〜02月05日

リプレイ公開日:2005年02月04日

●オープニング

「なんとかしなきゃ‥‥!なんとかしなきゃ‥‥!」
 夜の山道を少女が駆け降りる。まだ幼き少女は怯えるような目で背後をちらりと見る。
 そこにはギラリと光るものが追いかけてくる。少女を捕まえようと走り続けている。
「いやっ‥‥!このままじゃ捕まっちゃう‥‥!何とか‥‥なんとか江戸まで逃げなくちゃ‥‥!」
 少女の呟きは闇の中に消えて行く。‥‥その後、少女がどうなったかなど‥‥誰も知る事はなかった。

「依頼というのは他でもない‥‥。私の娘を探して欲しいのです」
 そう言ってギルドに来たのは40代半ばの女性。体調が悪いのか、少し顔色が悪い。
「娘さん‥‥ですか?」
「はい‥‥。実は、数日前から姿が見えなくて。他の子供達と遊びにいったとばかり思っていたのですが、三日たっても、四日たっても戻ってこないんです」
 母親の心配そうな声。どうやら一人娘らしく、めいいっぱい可愛がっていたのだとか。しかし、その娘がぱったりと帰ってこなくなった‥‥普通の母親ならば心配もするだろう。
「出かける時は野原の小屋へ行くと行っていたのですが‥‥。あ、野原の小屋というのは私達の村から少しいった所に野原がありまして、そこの小屋でお婆さんが一人住んでいるんです。なんでも、事故で息子さんをなくしてからそこに住んでいるんだとか」

 ギルド員の脳裏に過ぎったのは山姥の姿だ。以前にも山姥の依頼があった事を記憶していたのだ。普段は老婆という情報があったからだ。しかし、断定は出来ないまま‥‥。
「お願いです!どうか娘を‥‥!娘を探してください!もし、何処かで何かに捕まっているとしたらきっと怯えてるわ‥‥!」
「全力は尽くしましょう。冒険者達に頼めば見つかるやも知れません。娘さんの特徴は?」
「確か‥‥。長い黒髪が結わえてあって‥‥綺麗な紫陽花の着物を着ているはずです。首には綺麗な青い石の首飾りもしていると思います、小川で見つけたのだとかで大事にしていましたから」

 お願いします。と頭を下げる女性にコクリと頷いて、ギルド員は早速依頼を張り出したのである。

●今回の参加者

 ea8876 宗祇 祈玖(17歳・♀・僧侶・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea9191 ステラ・シアフィールド(27歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9359 ニヴァーリス・ヴェルサージュ(17歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9460 狩野 柘榴(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb0015 佐竹 利政(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb0617 嵯峨 雪乃盛(31歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 eb0871 片東沖 すみれ(40歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb0891 シェーンハイト・シュメッター(22歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 可愛い可愛い我が子の命を冒険者に託した母親は祈る思いで冒険者達に頭を下げる。
 村まで母親が案内するという事らしいので、冒険者達も護衛という形でついていく事にした。
 村まではさほど遠くはなかったが、ついた頃にはもう昼過ぎという状態だった。

「所でお母さん?娘さんの名前を教えてくれないかな?」
「名は千代と申します」
「‥ところでさ、本当にお母さんだよね?聞いた特徴も曖昧で気になっていたんだけど親ならもっと早く依頼を出すんじゃない?」
「‥‥ギルドに頼むにもお金が必要なのはご理解頂けていますよね?私達村人にとっては大金なんです‥」
 出来ればもっと速くに依頼を出したかった。そう言われ聞いた狩野柘榴(ea9460)も気まずい雰囲気になる。
 冒険者達にとって、依頼者を疑うというのはご法度だ。ギルドの信用問題にも関わりかねない。
「とりあえず、娘様の情報を集めましょう。子供友達がよく知っているかも知れません」
 ステラ・シアフィールド(ea9191)の意見も尤もだ。冒険者達は母親に千代の子供友達の居場所を聞いて、話を聞くことにした。
「ねぇ、君達。君達は千代っていう娘の事知ってるネ?」
「うん、知ってるよー。千代ちゃんは大事なお友達だもの」
「じゃあ首飾りの事を知りませんか?あの青い石みたいな‥」
「知ってる!あれが拾える場所、実は山小屋のお婆ちゃんから教えて貰ったのよ!」
 子供達が自慢気に話す。ここでもやはり出てくるのは山小屋の老婆の話。冒険者達にとっては収穫なのだろうかは分からないがまだ詳しい話は聞けそうだった。
 ステラが続けて尋ねる。
「じゃあその小屋が何時頃からあるとか、他にいなくなった子供とか分かりませんか?」
「何時頃からっていうか‥‥気付いたらあってお婆ちゃんがそこに住んでたよね?」
「うん。他にいなくなったっていえば紗枝ちゃんもいなくなったよね。確か千代ちゃんと同じように」
 ここで思わぬ収穫を得られたのは、必死の情報収集のお陰とも言えるだろう。しかし、何時頃から小屋があったのかは誰一人として知らない。ましてや、その老婆の息子の事故も誰一人として老婆の口から聞いてはいないというのだ。

 小屋の前に辿りつく頃にはもう日も暮れかかっていた。
 小屋の回りに宗祇祈玖(ea8876)、ニヴァーリス・ヴェルサージュ(ea9359)、柘榴。そして小屋を包囲するように佐竹利政(eb0015)、嵯峨雪乃盛(eb0617)、片東沖すみれ(eb0871)、シェーンハイト・シュメッター(eb0891)が布陣する。雪乃盛が女装してステラについていくという案もあったが流石に小屋は小さい。ジャイアントが入ってしまえば邪魔になる可能性も高いという事で止めて置く事になった。
 その為、ステラは一人で小屋を尋ねる事になった。大丈夫、回りには仲間がいる。そう言い聞かせるようにして。
「あの、すみません。何方かいらっしゃいますか?」
「はいはい‥‥何の用じゃかの?」
 中から出てきたのは情報通り老婆だった。家の中にも人の気配というものは感じられない。
「あの、千代ちゃんという娘様を探しているのですが‥‥」
「千代?あぁ、あの可愛い子かえ?ここには来ていないぞえ?」
 やはり一筋縄ではいかない事が分かった為、ステラはそうですか。と深礼をして一度仲間の元へと戻った。
「やっぱり知らないの一点張りだったか‥‥」
「このままではラチあかないネ」
「やはり騒ぎを起こしてひきつけるしかありませんね」
 冒険者達はまだ信じていた。娘は生きている、と。だからこそ危険な賭けをもするのだろう。
 ステラがグラビティーキャノンで騒ぎを起こす。老婆は何事かと急いで表に出た瞬間、ニヴァーリスのアイスブリザードが老婆に直撃する。
 流石の老婆も怒りに任せニヴァーリスの方へとゆっくりと歩き出す。擬人化を解くのも時間の問題だ。ここからはスピーディーに仕事を薦めなければならない。

 家の中に入っていったのは柘榴とすみれである。小屋の中はとても綺麗とは言いがたい物で、生活用品も乱雑に置かれていた。
「本当にここに娘さんがいるのでしょうか?」
「分からないよ。でもここにいるかも知れない事は確かなんだ、手分けして探そう!」
 その頃外では大立ち回りが繰り広げられていた。ニヴァーリスの一撃で老婆が擬人化を解いてしまったのだ。
 こうなると冒険者達には勝ち目はない。なんとかこの場を保たなければとステラ達は奮闘する。
「このっ‥‥!」
 シェーンハイトが鞭で山姥を絡めとろうとするが、流石山姥。思いっきり抵抗を見せ、鞭を振り払うどころかシェーンハイトを振り払う。
 それを見た利政がブラックホーリーを当てて隙を作り、ホーリーフィールドで仲間の護衛に入る。が、それも今の所保てるかどうかである。
「すみれさん!柘榴さん!速くお願いします!これ以上私達ももちませんッ!」
「くそっ!人影も人の気配もない‥‥娘さんはここにはいないのか!?」
「いえ‥‥。居ましたよ」
 すみれがそう言うと、柘榴はすみれに駆け寄った。すみれの足元には青い石と紫陽花の着物が落ちていた。紫陽花の着物はズタズタに切り裂かれており、青い石の首飾りもヒモが切れ、乱暴に放り投げられたような形跡があった。
 思えば最初から疑うべきだったのだ。三日・四日立っていて、相手が山姥かも知れないという事が分かっていた。生きている可能性は「低い」という事を。
「みんな!逃げろ!娘さんはもう中にはいないっ!すみれさん、速く!」
「出来ればこの亡骸を母親の元へと届けたいのですが‥‥持っていってもよろしいですか?」
 すみれの切実な言葉に、柘榴も小さく頷いた。すみれは紫陽花の着物と青い石を持つと、一直線に村へと走り出す。
 冒険者達も命がけで逃げるものの、野原を離れた瞬間山姥はそれ以降追っては来なかった。

 後、冒険者達は小屋から持ち帰った娘の遺品を母親に手渡す。母親は涙を流してはいたが泣き崩れる事はなかった。
「かの老婆が山姥かも知れないという事は薄々感づいてはおりました‥‥ですが、妖怪でもあの老婆は生きているのです。現に数ヶ月前までは大人しい、いい老婆なのでしたから」
「山姥が‥‥いい老婆?」
「動物達は子供が消える前から食い散らかされたりしていました。ですが、それもあの人にとっては生きる為の摂理。動物さえ提供していれば済むと思っていたのですが‥‥」
 母親は、子供の遺品を胸に抱きながら冒険者達に深礼をする。山姥は退治出来ずに、娘も助ける事は出来なかった。
 自然の摂理、弱肉強食を身を持って教えられてしまったのだ。

 以後、その老婆は野原から姿を消したという。結局の所この山姥も「自衛」の為に冒険者達を襲ったにしか過ぎない。
 もし、千代が山姥が空腹の時に近づいたとすれば‥‥食べられても何ら不思議のない事。
 それが山姥の生きる手段なのだ。弱き者を食べ、生き抜く事が。
 我々人間も、そうであるように。
 そう考えると、後味の悪い依頼だったと言えよう‥‥。