嘆きと恨みの似姿
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■ショートシナリオ
担当:相楽蒼華
対応レベル:1〜4lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 0 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月03日〜02月08日
リプレイ公開日:2005年02月06日
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●オープニング
「この恨み‥‥この恨み‥‥」
「死して尚消える事なく‥‥。この恨み‥‥絶対に‥‥」
二人の村人がそんな言葉を残して朽ち果てる。傍らにはごろつきのような者の姿が月明かりに映り出されていた。
「おい、ちゃんと始末は出来たんだろうな?」
「へぃ。二人まとめてきっちりと‥‥」
「よし。ならさっさとそいつ等の身ぐるみ剥いで始末しちまえ。バレたら厄介だ」
商人のような男がそう命令すると、ごろつき達は死んだ村人二人の着物を剥いで、燃したという。
その数日後。一人の商人がギルドに駆け込んで来ていた。その姿はげっそりと痩せ細り、今にも倒れそうなのではと思わせるぐらいのものである。
「おい!ここに冒険者がいるそうじゃないか!少し頼みたい事があるんだ、とっとと出せ!」
「確かに冒険者はいますがここは仲介役の場です。お話なら私が伺いましょう」
仕事なのだ、と言い聞かせ苛立ちを密かに隠したギルド員が応答する。商人は偉そうにフンッと鼻で返事をして話を続けた。
「この所ワシのところで厄介な事件が起こっとるんじゃ!それを解決して貰いたくてな!」
「厄介な事件‥‥と、言いますと?」
「ワシが雇った用心棒達が次々と死んでいきよるんじゃ。それも何かに食い殺されたようにな!もしかしたらワシも狙われるやも知れん!用心棒の変わりに雇いたいんじゃ、無論この下らない不吉な事件も解いて貰うぞ!」
この依頼主には何処か反感を覚えるがこれも仕事。ギルド員は冒険者達に話をすると言って一旦引き取ってもらった。そして、冒険者達の前に座ると大きな溜息をついた。
「とりあえず、今回の依頼は商人の護衛と謎の事件の解明‥‥。どうやら死体はまだ役所にあるらしい、手がかりになるかも知れんから見てみるといいかも知れないな」
「しかし、珍しい依頼だな。護衛はいいとしてもこんな謎、前例は‥‥」
「確かに前例はない。難しいだろうがこなしてくれ。それがお前達冒険者だからな」
そう伝えると、ギルド員は資料を渡して奥へと戻っていった。
●リプレイ本文
「おぉ、あんた等か。ワシの護衛を引き受けてくれたのは!いいからとっとと解決してくれよ!?」
「なんっか‥‥すっごく偉そうなんですけど」
そう呟いたのは彼岸ころり(ea5388)だ。幾ら冒険者で護衛を「受けてやっている」とは言えども一度金を出せばその者は客。
どんな相手だろうと依頼を受けたからにはしっかりとこなしてしまわないといけないのだ。
「とりあえず奉行所にいって見ましょう。死体が保管されていると聞きますから」
「それもそうですね、商人さんも一緒にいっていただけますね?」
「フン。そうでもせんとワシの命も危ないんじゃ。ついてってやるわい」
何処までも偉そうな商人に溜息をつく冒険者達。
本当にこんな依頼受けなければよかったと思うものも居ただろう。
「ん?お前達は確か、冒険者ギルドの?」
「死体を見せて貰いに来ました。見せていただけますか?」
リュー・スノウ(ea7242)が丁寧にそう言うと、役人も大きく頷いて冒険者達を中に誘い入れる。
その小屋の中は既に死臭が漂っており、普通に息が出来ないほど。
商人は中に入るのを嫌がり、外で待っているというのでリューは仕方なくそれに付き添った。
「ギルドから連絡は貰っている。これが例の事件の死体だ。もうそろそろ腐りかけてはいるんだがな」
「どれ。‥‥ふむ?これは‥‥」
架神ひじり(ea7278)が死体の異変に気がつく。その死体の傷は死人憑きに食われたような傷跡ではない。
ましてや、レイスの仕業とも考えられない傷なのである。まるで、啄ばまれているような。
「役人さん、この死体は何時頃回収したんですか?」
ウェルナー・シドラドム(eb0342)が尋ねる。役人は少し首を捻って、思い出したかのように手を叩いた。
「確か、死人がいるという情報を貰って二時間半ぐらいだ。仕事が終わる直前だったからよく覚えてるぞ」
「その時、鴉のようなものは見なかったじゃろうか?」
「いや、見てないな。別に鴉が寄っていてもおかしくはないと思っていたが、この時ばかりは寄ってなかったんだ」
役人の言葉に一同は首を傾げる。鳥類が啄ばんだような跡なのに鴉が寄っていない。これはどういう事なのか。
冒険者達には分かりかねなかった。
そんな時、役人の一人が何かを思い出したかのように話しかけてきた。
「そういや、こんな話聞いた事あるな。なんでもヒトの恨みを背負う鳥がいるんだそうだ」
「鳥‥‥とな?」
「すみません、そのお話詳しく聞かせて頂けませんか!?」
望月滴(ea8483)がぺこりと頭を下げるのを見て、役人は頷いて話を続けた。
「何でもその鳥は恨みを持って死んだ人間の魂が鷹に姿を変えて祟りを起こすんだそうだ。その声を聞いたものは言いようのない罪悪感に襲われ、抵抗する間もなく食い殺されると言われてるそうだ」
「そんな妖怪が存在したのか‥‥!」
「あくまで噂だけどな。これが本当かどうかは知らないが。凄い長い首を持つ鷹だって話だぞ?」
そう言うと、役人は仕事に戻るという事なので、冒険者達も商人と合流する事にした。
合流すると、ひじりはリューに聞いた情報を全て話した。それを聞いたリューも何処か驚いた表情を見せていた。
「恨み、ですか?」
「そんな妖怪がいるそうなんです。お心当たりございませんか?」
「ワシがそんなもの知ってるわけなかろうに!」
「案外、犯人って商人さんに殺された人だったりしてね〜♪」
ころりの言葉に商人の背が一瞬ビクリと震える。
「わ、ワシは知らん!断じて知らんぞ!?」
どうやら予想は的中のようだが、商人は頑固なもので口を割ろうとはしなかった。
そんな時だ。
「いつまで‥‥いつまで‥‥」
不気味な声が商人の耳に入った。とっさに冒険者達は戦闘体勢をとる。
「何、この声‥‥!?」
「まるで、恨み言のような‥‥!」
滴がそう呟くと、リューはハッとした。アンデッド知識を学ぶ為に読んだ書物に一つ該当するものがあったのだ。
「以津真天‥‥ですか!?」
気付いた時にはもう遅い。その恐ろしい姿は冒険者達を睨みつけているようだった。
ぎらぎらとしたその目は一気に商人に向けられた。
「やばい‥‥!」
咄嗟に柊海斗(ea7803)がダガーを以津真天に投げつける。サクリと音がし、少しよろめいたものの体勢を崩すことはない。
それを援護するかのようにリューがホーリーを詠唱する。
その間にも以津真天は商人の上を輪を描く様にグルグルと回りながら飛んでいる。
「好きにはさせんのじゃ!」
ひじりのファイヤーボムが以津真天を包み込む。
「ひ、ひぃ!お前等、何をやっとるんじゃ!は、速くなんとかせんか!」
「こっちだって懸命なんだよっ!」
ころりの攻撃は相手が上空にいる為通用しない。ウェルナーもなんとか地面に引きずり降ろそうと月露を投げるがひらりと回避されてしまう。
今の命綱はひじりのファイヤーボムとリューと滴のホーリーだけである。
「どうしましょう…!?このままじゃ私達にも限界が来てしまいます!」
「何とかして地面に引き摺り下ろす事さえ出来れば‥‥!」
そうしている間に、以津真天は商人をギロリと睨みつける。その恐怖に商人の動きはピタリと止まる。逃げる事すら出来ないまま。
「ひ、ひぃぃぃ‥‥!」
「いつまで‥‥いつまで‥‥」
「う、う、うわあぁぁぁっ!」
商人は以津真天の恨み言を聞かないように耳を塞ぐもその声は耳に残るように響き渡る。
商人はガクガクと震え出し、まるで罪悪感に襲われたかのようにその場に蹲る。
「しまった‥‥!」
「ぎ、ぎゃあぁぁぁぁぁっ!!」
ウェルナーが異変に気付き、商人を守りに走ろうとしたが以津真天のスピードには敵わず。
商人は無残にも冒険者達の目の前で以津真天に抵抗も出来ず食われてしまった。
冒険者にはそれを止める事は出来なかった。恨み言の所為なのか、自分達の中にある僅かな罪悪感があったからだ。
「そうですか。失敗でした、か」
「すみません、私達の力が至らなかったばかりに‥‥」
「仕方ありませんよ。情報を聞き出せただけでもよしとしましょう。今後の依頼に貢献出来ると思いますよ」
「でもあの商人の事なーんか気になるんですけどっ」
ころりがギルド員に尋ねる。ギルド員も少し苦笑を浮かべながら依頼人の資料を取り出した。
「彼は一種の悪徳商人でしてね。貧しい人を見つけては優しくし、相手を油断させ金を搾り取るという汚い手口を使っていました。多分、役人達が見せてくれたその死体も関わってたごろつき達のものでしょうね」
「やっぱり心当たりはあったのですね、あの方‥‥」
「死人の悪口は言いたくありませんが、自業自得、ですよね」
ギルド員はそう言うとギルドの奥へと引っ込んで行く。
例え彼が犯罪者であったとしても目の前で殺されたのには変わりない。
自業自得と言って捨ててしまうのは簡単だ。
しかし本当にそれでいいのだろうか?
冒険者達の心には守れなかった歯がゆさと、罪悪感だけが残った。
余談として、今回商人を食い殺した以津真天は、恨みが晴れた為か以後姿を見せなかったという。