【この魂に憐れみを】
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■ショートシナリオ
担当:相楽蒼華
対応レベル:1〜4lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 0 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月03日〜02月08日
リプレイ公開日:2005年02月07日
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●オープニング
「本当に私はこれに従えばよろしいのですか?」
薄暗い暗闇の中で女性の声が木霊する。それをまるで制すかのように一つの人影が女性を撫でる。
「それでいいんだよ、僕の可愛い可愛い千紗‥‥。君は僕の言う通りに動いていればいいんだ。君は僕の大切な人だよ‥‥」
「鴉様‥‥貴方様が望むのでしたらこの千紗、どんな事でも致しましょう‥‥」
千紗の目は虚ろ。何かの暗示にかかっているような目だ。千紗の返事に鴉は満足している。
その数分後。山の麓の村に火の手が上がった。村人達は慌てながに逃げまわる。火の手の中心には一人の女性の姿が確認されている。
「ひ、ひぃ‥‥!こっちにまで火が回ってるぞ!女達は早く逃げろ!焼き殺されるぞ!」
「‥‥‥‥」
「山の方には逃げるな!火の回りが速いから飲みこまれるぞ!下手へ逃げろ!」
勇敢にも逃げる村人を先導する志士が一人。正義感の強さからだろうか、自らの事より女子供を優先して逃げさせ、男にはその女子供の護衛をさせて逃げさせている。
そんな男だけを火の手の中心にいる女性はただただ見つめている。そんな女性を見つけた志士は、大声で女性に語りかける。
「お前さん、何やってんだ!?そんな所にいたら焼け死ぬぞ!俺と一緒に逃げるぞ!」
志士が女性の手を掴んだ瞬間、女性の唇が微かに動いた。その直後、志士は何か恐怖を感じたのか驚いたのか女性を見やる。女性の顔には、柔らかな笑みが浮かべられていた‥‥。
その声は、生存した村人も聞いていた。その言葉‥‥。
「この汚れた魂に制裁を。この愚なる魂に憐れみを。我が手によって浄化を‥‥」
まるで恐怖を植えつけるような言葉。そしてその光景はまるで火に飲まれゆく。
生存した村人は慌てて江戸のギルドへと駆け込み、ギルド員に話をした。
「ふむ。似たような事件がここ最近起こっているみたいですね。最近と言ってもここ三日ぐらいの事ですけど」
「このままじゃ焼き払われた場所にまた村を作っても安心して暮らせねぇだ!きっと何処に村を作っても同じ事になるにちげぇねぇ!おねげぇだ、安心して暮らせるようにしてくだせぇ!」
流石にこのまま放置も出来ない。それにこの日の朝に一人の侍から一人の志士の捜索も頼まれている。もしかすれば同じ事件に関わっているのかも知れない‥‥。ギルド員は「分かりました」と頷いてギルドに張り紙を張り出した。
●リプレイ本文
村は悲惨な状況だ。誰がこんな事をしたのか。
それを突きとめる為、冒険者が雇われた。
「なんて酷い‥‥一体何が目的なのかしら‥‥」
「何にせよ原因を突きとめなければならないな。エレオノール殿、参ろうか」
エレオノール・ブラキリア(ea0221)は天風誠志郎(ea8191)の言葉に小さく頷く。
●勇敢なる志士の行方
志士の捜索と侍との会話を担当するのはエレオノール、誠志郎。そして淋羅(eb0103)である。
「む?御主達は‥‥?」
「私達はギルドの者です。依頼された志士の捜索を受けましてお話を伺いに来ました」
「む、そうか。知ってる事であればお答えする。何でも聞いてくだされ」
「まず、顔の特徴とか持ち物とか、できる限りの事を教えて下さい」
「友の名は宗次という。額に傷跡があるから目立つだろうとは思うが持ち物‥そう言えば宗次がこの村に来る前に、守りを俺に託しておった。必要ならばお貸し致そう」
「ご協力感謝する。‥‥しかし、この一連の事件、不思議とは思わないか?あんたは何か疑問に思った事はないか?」
「そうさな‥‥奉行所で予め聞いた話だと、「過去にやましい事をした」という村だけがこうなるようであった。それ以外俺には分からなかったが‥‥」
エレオノールは侍からお守りを受け取り、お礼を言うとその場を後にする。
「羅さん、お願い出来るかしら?」
「えぇ、分かったわ」
そう言うと羅はミミクリーを使用して犬へと変身する。嗅覚の強い犬であれば居場所も特定出来るであろうという考えからだ。
辺りの臭いを嗅ぎ分けながら、進む方向は村の中心より離れた場所。一つの暗い森の中。
「‥‥森?何故宗次殿はこのような森に入られたのだ‥‥?」
「分からないわ。でも今は臭いを辿っていくしかなさそうね‥‥無事だといいのだけれど」
「‥‥ん?焦げ臭い‥‥?」
羅の言葉に最悪の事態を想定していた誠志郎の胸に嫌な予感がよぎった。
その焦げた臭いがする方向へと行ってみようという話になり、羅の案内で三人は焦げた臭いの元へと辿りつく。
そこには真っ黒に焦げた人のような死骸。既に腐乱が始まっているのか、ハエがその死骸に集っている。
誠志郎が焦げた亡骸の顔部分の焦げを優しく撫で落とす。顔の半分は焼き爛れ、辛うじて残っていた額には傷跡が見える。どうやらその死骸が行方不明である志士の宗次に間違いないだろう。
「何て事なのよ、これは。探した意味もないじゃない‥‥」
「いえ、意味はあるわ。この事をお侍さんに伝える。そして、埋葬してあげる事が出来る‥‥十分に意味はあると思うの」
「とにかく、他の者達と合流しよう。この志士の事は侍に伝えておこう‥‥」
●忌まわしき記憶
村人達からの情報を聞く担当は御蔵沖継(ea3223)、陸堂明士郎(eb0712)、リノルディア・カインハーツ(eb0862)の三人である。
「火事当日やそれ以前に何か変わった事はなかったか?」
「変わった事、ですかい?そういやお前さん‥‥火事の前夜に何か聞こえなかったかい?」
「どんな音だったんですか?」
沖継が尋ねると、村人は思い出すのも嫌だという雰囲気を見せて居たが事件解決の為とあれば仕方ない、と考え込んだ。
「そういやぁ、アレは鈴の音だったか?チリーン、チリーンといい音が聞こえたが」
「鈴の音‥‥?」
「あぁ、アレは確かに鈴の音だった!澄んだような音色出してて、綺麗だと思って外に出てみりゃ‥‥村長の家の屋根の上に綺麗な女性が居たんだ!黒い着物の!」
「黒い着物の女性!?その人についても知ってる事があったら教えてください!」
リノルディアがそう言うと、見た事があるという村人が恐る恐る前に出てきた。
「髪の長い女性だったな。ジャパンの人間にしちゃあちょっと色白だったな、黒い着物、黒髪だったからそこだけ目立って見えてたんだ」
「色白で黒髪、黒い着物の女性‥‥確か火事の時もその女性、居たんじゃないか?」
「確かにいたわ。あの人に逃がしてくれた志士様が近寄っていったのは見えたんだけどその後どうなったかは私達も必死で見てないわ」
「す、すまんが‥‥これ以上思い出したくない。出来ればこれぐらいにして貰えんだろうか?」
「協力に感謝します。後はお任せください」
「とりあえずエレオノールさん達と合流しましょう。何かあるのかも知れませんっ!」
●“この魂に憐れみを”
冒険者達は一度合流地点で合流を果たした。そして互いの結果を報告する。
「志士は生きてませんでしたか‥‥とても残念です」
「とにかく、その黒い着物の女性を探さないと‥‥!」
エレオノールがいおうとしたその時だった。村人の悲鳴が木霊する。先程集まっていた寄り合いの家の方角だ。
「急ぐぞ!何かが起きたのだけは確かだ!」
冒険者達が寄り合い場に辿り着いた頃には、村人達がいたであろう家には火の手があがっていた。この様子だと助ける事も困難だろう。家の前には黒い着物の女性。冒険者達に気付いていないのか、ただずっと火の手を見つめている。
「何て事を‥‥!貴方の仕業なの!?」
「汚れた魂は浄化する‥‥それが、鴉様の望み」
「あんたが志士を殺した人間なのか・・・・!」
「私は、千紗‥‥愛しき人の、邪魔をするなら‥」
そう言うと千紗は冒険者達に向き直る。何かされる前に先手を打つという事で羅がミミクリーでストライクを狙う。
が、当たると同時にディストロイがその腕を掠めた。
「っな‥‥!?」
「今のは‥‥まさか、黒僧侶‥‥!?」
「‥鴉様の、為に‥」
黒僧侶が相手となると厄介だ。更に千紗はどうやら高速詠唱を持っている。あれを成功させるという事は高度な技術を持っている事が分かる。
「先程から出る名前‥鴉‥?もしかしたら彼女、催眠術にかかっているのかも知れません!皆さん、傷をつけてはダメです!」
「ヘタに近づけばディストロイが‥‥。明士郎殿、お願いする!」
誠志郎が小柄を持って千紗に走る。最初は気付かないものの、明士郎もやっと気付いたのか誠志郎とは逆方向から千紗へと走り寄る。
千紗のディストロイが誠志郎を狙う。腕に掠るが服が破けた程度で済んだのは幸運なのだろうか。しかしそこからその破壊力が伺い知れる。
「隙有り!」
明士郎のスタンアタックが千紗の体にヒットする。呻き声を上げて、千紗が地面に沈みかける。
それを慌てて羅が抱き止める。どうやら気絶しているだけのようだ。
「よかった‥‥どうやら無事みたいね‥‥」
「ん‥ここ、は?‥私は、一体‥何を?」
千紗はゆっくりと体を起こすと目の前で燃えている家の惨劇を見て絶句する。
まさか、自分がこれをやったのか・・?そう思っているのだろう。小刻みに震え出す。
「落ち着いて。貴方がいっていた鴉とは何者なの?」
「鴉‥?そういえば私は‥鴉様を追って‥鴉様に会って、それからの事‥?思い出せない‥‥」
「やはり操られていたようだな」
「汚い手を使う‥!」
「それは君達冒険者も同じだと思うんだけど、どうかな?」
上空から聞こえる男の声。それはまるで少年にも似たような声だった。
聞こえた方角を見上げると、屋根の上に一人。黒ずくめの青年が其処に存在していた。
「あんたが鴉なのか!?」
「そう。‥千紗、催眠術が解けて残念だったよ」
「鴉様‥?」
「君に最後のプレゼントを渡しに来たんだ。受け取ってくれるよね?」
鴉が不敵に笑みを浮かべ、千紗を向かせる。臨戦体勢をとっていたものの、鴉の手から炎が吹き荒れる。
火遁の術。それは全て千紗に向けられたもの。千紗の回りにいた冒険者は思わず回避するものの、千紗だけは回避しきれずまともにその術をくらう。
「あぁぁぁっ!」
「しまった‥‥!」
「逃がしはしない‥‥!」
逃げようとする鴉に、咄嗟にエレオノールがスリープを試みるが鴉の元から手裏剣が飛ぶ。印を結ぶ手も妨害され、これでは詠唱に集中が出来ない。
その間に詠唱を完了させ、沖継がアイスチャクラを鴉に投げつける。カスリはするが、ダメージは出ていない。ヒラリとカスリ破れた服が地に落ちる。
「今は僕より千紗の方を何とかした方がいいんじゃないの?じゃあね‥‥マヌケな冒険者さん♪」
「くそ‥‥!」
「それより千紗さんを手当てしないと!」
「私は‥‥いいんです‥‥。どうやら、私が‥‥この村を、燃してしまったみたい、ですから‥‥」
「千紗さん!」
千紗はゆっくり立ち上がるとまだ燃えている家の前にゆっくりと向かった。
嫌な予感はしていたが違うという場合もある。そのため冒険者達は動けなかった。
「鴉様は‥‥他の人間の魂は、汚れている‥‥と、おっしゃって‥‥おりました」
「汚れている‥‥?宗教的なものなのか?」
「彼は‥‥人に復讐を‥‥企んでいます。また彼に会うことがございましたら、その時は‥‥止めてあげてください。千紗の、最後のお願いです‥‥」
言い終わると同時に千紗も燃え盛る炎の中に身を投げた。咄嗟の事だったので慌てて明士郎と誠志郎が追いかけようとするが、家は崩れてしまいもう救いようはなかった。
きっと千紗は鴉を好いていたのだろう。好いて尚自ら催眠術にかかったのかも知れない。
「哀れな魂よ、安らかに眠りたまえ」
羅がそう呟くと同時に冒険者達は千紗や村人に対し、黙祷を捧げる。
命が消えてしまうのは儚い事。
ましてやそれを何かの償いとして考えるのならば愚かなる事。
生きていてほしかった。
自分が犯した罪から逃げて欲しくなかった。
死ぬ事は、逃げにしかならないのだから。
そう思いながら、冒険者達は帰路につく。
愛する者の為に命を投げ捨てた少女の名を胸に刻んで‥‥。