●リプレイ本文
依頼を受けた冒険者達。
リヒャルトの大切なものとは何なのか、胸をときめかせながらリヒャルトの元へと急ぐ。
「こっちだ、こっちだ!」
冒険者達を見つけて大きく手を振るリヒャルト。
その姿は鎧・剣。そして兜。
どう見てもその歳では扱いきれそうにもないものばかり。
「本当に大丈夫なのかな、あの人?」
ヴィゼル・イヴェルネルダ(ea0646)の言葉に馴染みの縁を持つガーディア・セファイリス(ea0653)は溜息をついた。
別荘まではそんなに遠くは感じなかった。
しかし、少し険しい山道があったり、道ではない道を登ったりとしただけ。
少し疲労はあるだろうがまともに戦えるだろう。
「あそこじゃ。あそこに見える大きなのがわしの別荘じゃ」
指された場所には茶色の大きめな別荘が見えている。
そしてその窓から豚鬼どもがうろついている姿も確認出来た。
「くそっ、あの豚どもめ!わしの大切な別荘をこんなにしおって‥‥!」
「なんだかワクワクするね、ディア!」
「今は別荘にいる豚鬼達を倒す事を考えろ」
保護者と被保護者のような会話をするヴィゼルとガーディアを余所目に猛省鬼姫(ea1765)が中の様子を探る。
どうやら豚鬼達はある一定の歩数で担当の見張りの場所を歩いている事が分かる。
「あそこに死角になる場所がある。もしかしたらそこにいる間の隙を狙って入れるかも知れん」
リヒャルトが情報を提示すると、鬼姫は有難い。と呟いて冒険者達に向きなおる。
「鬼とやるのは久々だぜ・・・あの頃は辛かったけど今の俺ならきっと、いや、確実に潰してみせる!」
「まずは豚鬼達を誘き寄せる事から始めましょ♪」
天笠明泉(eb0969)が用意しておいた生肉を取り出して笑顔でそう言う。
「はいは〜い、匂いに釣られて戦いやすいとこまで出てきてね〜♪」
とりあえず生肉をその場で火事にならない程度の火で炙り始める明泉。
その匂いに豚鬼達も反応する。無論、その場にいる冒険者の一人ヴィゼルも。
「うー‥‥こういう匂い嗅ぐと、お腹すいてこない、ディア?」
「ヴィー‥‥依頼の事を考えろと言わなかったか?」
「でもー‥‥」
「二人とも、喧嘩は後にしてくれ。そろそろ豚鬼達が来るぞ」
九竜鋼斗(ea2127)がその言葉を放つと同時にバンッ!と玄関のドアが開かれる。
出てきた豚鬼は合計二匹。空腹なのか殺気立ちながらゆらりゆらりと近づいてくる。
「さぁ、別荘を勝手に使った分の料金は耳揃えて払ってもらうからね!」
長巻を突きつけてビシッ!と決める明泉だが、その後ろでは‥‥。
「えぇぃ、この忌まわしき豚どもめっ!貴様達が使ったのはご先祖様が優雅に暮らしておられた神聖な場所で‥‥!」
「お爺さんはあたしと一緒にここにいましょうね?」
「誰がお爺さんか!わしはまだそんな歳でもないわっ!」
殺気だってるのか瓜生勇(eb0406)に怒鳴りながらも自分の剣を抜く。
ヤバイ。前に出るつもりだ。
「騎士の名誉とかあるのは分かるけどさ、こっちも依頼人に怪我でもされたら困るし、出来るだけ前に出ないでくれるかな?それに、大将ってのは後ろでどっしりと構えてるものでしょ?」
「む、むぅ‥‥貴殿の言う事にも一理ある‥‥」
明泉の言葉に仕方なく我慢を選択するリヒャルト。利口と言えば利口なのだろうか。
「よし、誘き寄せたわ!やるわよっ!」
ロサ・アルバラード(eb1174)が勇みながら弓と矢を構える。その後ろではヴィゼルが魔法詠唱を開始する。
その二人を守るように立ったのが明泉と勇である。
肉を貰えないと分かってなのか、それとも侵入者がいる事を知ってなのか。
豚鬼達は一直線に冒険者へと向かってくる。
「このっ!」
豚鬼の攻撃を十手で受け止めると、勇はすかさずスマッシュで反撃に出る。
豚鬼の肩からぶしゃっと血飛沫があがるものの、まだ戦えるといった様子だ。
それを狙って、ヴィゼルのウィンドスラッシュが豚鬼の首を跳ねる。
「えへ♪俺だってこれぐらいは戦えるんだから♪」
ガーディアが不安そうな様子で眺めているのにも気にせずそう言い放つ。残る豚鬼は一匹。
「明泉さん!引き付けておいて!」
ロサの言葉に頷いて明泉は華麗な立ち回りを見せる。
豚鬼は図体がでかい為、動きも少しとろい。リヒャルトといえば未だ我慢中。
とってもとっても我慢中。剣を抜きたくてイライラしている様子すら見受けられる。
「いくわよ、この豚鬼っ!目を潰せば‥‥!」
シューティングPAを使ってロサは鬼豚の目を狙って矢を放つ。
「グガアァァァッ!?」
悲鳴のような雄叫びをあげて、豚鬼は矢が刺さった右目を抑えのた打ち回る。
「この突きは取って置きなんだから‥‥一気に決めるよ!」
豚鬼の背後をとり、明泉のチャージングが豚鬼を貫く。
ドスンッと大きな音をたてて豚鬼は地に落ちる。
「よっしゃ、突っ込むぜ!」
「待て!突入するのならわしも連れていって貰うぞ!」
「え゛?」
「何を驚いておるか!今のは見た所一階におった豚ども。わしの大切にしているものは二階。未捜索も二階。一致するのだから言っても問題はなかろう!?」
ここまで我慢させられたのだと言い張るリヒャルト。
一階の敵も倒して安全なのだから、仕方ない。連れて行く事にした。
別荘に入ると、かなり老朽化しているのか結構崩れそうな別荘である事が分かる。
よくもこんな別荘を今まで置いていたものだ。
「とりあえず後は二階なんだな?」
鋼斗の言葉に一応偵察してきたヴィゼルとロサが頷く。
そして冒険者達はゆっくりと二階へと足を進めるのである。
二階に辿り着くと、そこには他の豚鬼より一回り大きな豚鬼が居た。豚鬼戦士だろう。
しかし、何か外見が少し違う。鎧を着ているのだ。しかも、人間サイズであろう鎧を。
「ぬおぉぉ!?」
「ど、どうした!?」
「ぶっ、ぶっ、ぶっ‥‥!」
「‥‥ぶ?」
「豚がご先祖様の鎧を着とる!!」
『なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?』
リヒャルトの言葉に冒険者達も驚きの悲鳴をあげる。
そう。豚鬼戦士が着ている鎧は立派な騎士の鎧。しかもリヒャルトのご先祖の。
つまり、リヒャルトの大切なもの。それは鎧だったのだ。‥‥豚鬼が着てる。
「はっ、はやく脱がせてくれ!あの鎧は大切なものなんじゃっ!」
「ぬっ、脱がせろって言われても‥‥」
「これじゃあ流石に‥‥」
「目的のものを敵が着ているわけだし、な‥‥?」
鬼姫、ガーディア、結城夕貴(ea9916)が口々にぼやく。
そんな中、鋼斗は一つ何かを閃いたようだった。
「鬼を相手するときに食べておく物がある…鬼を斬るだけにおにぎり(鬼斬り)ってな」
「いや、駄洒落を言ってる場合じゃないですよ、鋼斗さん?」
「心配するな、方法は浮かんだ。あの鎧を傷つけなければいいんだろ?」
「うむ!傷をつけたら貴殿等を成敗じゃ!」
意気込むリヒャルトがそう言うと、鋼斗は夕貴を傍らに呼ぶ。
「いいか、相手に出来るだけ大きめの隙を狙ってくれ。他の二人にもそのように伝えてくれるとありがたい」
「え?あ、はい」
「ふむ‥‥何をするか私には分からないが、鋼斗がそういうのなら賭けてみるしかないな」
「そーだな。でないとあの鎧に傷をつけちまうしな」
そう言うと、三人は豚鬼戦士を囲むように布陣する。
「ふごっ!?」
「大人しくしやがれ、この豚がっ!」
「ふごごごっ!?」
鬼姫の蹴りが豚鬼戦士の足にヒットする。体がぐらりと揺れ、ぶひぶひ言いながらも立ち直そうとする。
そこにガーディアの追い討ちが入る。
「あまり別荘に被害もくわえたくない故、な」
「っと‥‥!長柄の武器で室内戦だからって、不利とは思わないように。ようは扱い方と狙い所だからね!」
逃げようとする豚鬼戦士を棒で一閃突く。大丈夫、箇所は首。なので鎧に傷はいってない。
「よし、今だな!」
鋼斗が一気に走り出す。豚鬼戦士は尚も逃げようともがくが、周りはガーディア達により包囲されている。
逃げ場はない。鋼斗の居合い‥‥ブラインドアタックEXが首を綺麗に狙い、跳ね飛ばす。これは一種のマグレであり、出来ない筈の事が出来たと言っていいだろう。
ゴトリと豚鬼戦士の首が地に落ちる。カチリと刀を鞘に戻すと鋼斗は溜息をついて立ち上がる。
「やれやれ‥‥お前の所為で駄洒落が言えない雰囲気になったじゃないか」
「結局そこに拘るんですね‥‥」
がっくしと項垂れながらも鎧を脱がす夕貴。なんとか無事に別荘も守りきり、鎧も回収したのではある‥‥が。
「あ、ディア!どうだったの?物凄い音したけど‥‥」
「あぁ、無事に成功した。‥‥のだが‥‥」
ガーディアが横目でリヒャルトを見やる。
リヒャルトは豚鬼戦士から取り返した鎧をしっかりと抱き抱えながら泣いている。
もう滝から流れる水のように涙を流している。
「い、一体何があったの‥‥?」
「豚鬼戦士の奴があの鎧、着てやがったんだよ」
「うわっ‥‥そ、それは‥‥」
「わしの大事な鎧が‥‥ぶっ、豚なんぞにぃ‥‥」
泣いているリヒャルトを宥め、慰めながら冒険者達は江戸へと戻るのであった。