【この魂に憐れみを】死者の宴

■ショートシナリオ


担当:相楽蒼華

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月14日〜03月19日

リプレイ公開日:2005年03月20日

●オープニング

「鴉様、準備が整いました」
「ご苦労様。あの冒険者どもの邪魔のお陰で大切な人形を失ってしまったよ‥‥」
「人形など、また作ればよろしいじゃないですか。‥‥死んでも尚、動くようにね?」
 クツクツと僧兵の姿をした青年が笑いを浮かべる。
 鴉もまた、その笑みに応えるかのようにフッと笑う。
「しかしどうするのです?これからもまたあの冒険者達は邪魔してきますよ?」
「その為の布陣は既にしてある‥‥安心するといいよ」
「まさか‥‥アレをお使いになるつもりで?」
 青年が尋ねると鴉と呼ばれる男はコクリと頷きにんまりと笑う。
「人に復讐する為には‥‥まずは死者を‥‥ってね?」


 数日後。
 夜のギルドには一人のギルド員が後片付けをしていた。
 その男の後ろに一人の女の霊が姿を現した。
『お願い‥‥止めて‥‥彼を‥‥死者の眠りが、妨げられる‥‥!』
「っわ!?‥あ、貴方は、一体‥‥!?」
『遥か西‥‥小さな村にて‥‥死者の眠り、妨げられん‥‥』
 そう言い残すと女の霊は消えてしまった。
 ギルド員は少し気になって調べてみたのだった。
「今回の依頼は江戸より西に位置する小さな平穏な村です。そこで数日前から男三人が暴れているという情報が入りました」
「男二人‥‥ですか?」
「そうです。以前報告された男と特徴があるんですよ。‥‥なんでしたか、鴉‥という男と」
 ギルド員がそう言うと、冒険者達もうなり始める。
「彼等はその村で残忍にも村人を既に5人、殺しています。何を企んでいるのかは分かりませんが…撃退してください」
 ギルド員は女の霊の事だけは何故か告げなかった。

●今回の参加者

 ea0221 エレオノール・ブラキリア(22歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4759 零 亞璃紫阿(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5011 天藤 月乃(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea7123 安積 直衡(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8876 宗祇 祈玖(17歳・♀・僧侶・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea9191 ステラ・シアフィールド(27歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb1207 紅月 緋翠(28歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb1241 来須 玄之丞(38歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 村の入り口に冒険者達が来たのを一人の青年が確かめる。
「鴉、来たゾ」
 その口調は何処か素っ気無い。そしてそこに表情はない。
「来たか。何人か殺せば来ると踏んでいたけど、やっぱりきたんだね」
「やはり、やるんですか?」
「何を今更。右那、怖くなったわけじゃないだろうね?」
 鴉の言葉に右那は首を横に振る。
「いいね?作戦通りにやるんだ、失敗は許されない」
 鴉の言葉に二人は頷き、姿を消した。
「ふふ‥‥冒険者達も来た、そして残り10人‥‥さぁ、制裁を始めようか」

「ここに、鴉が来てるのね‥‥」
 エレオノール・ブラキリア(ea0221)が村を眺めてそう呟く。
「とりあえず、今は私達に出来る事をやりましょう。ステラさん、行きましょうか」
 零亞璃紫阿(ea4759)がそう言うと、ステラ・シアフィールド(ea9191)は小さく頷き二人は村に急いだ。
 村は小さく、残り10人の村人は皆怯えた様子を見せていた。
「大丈夫ですよ!私達が来たからには皆さんは絶対に守ります!」
「さ、避難致しましょう!もうすぐここで戦闘が起こります!」
「心鎮め、凪ぎし水面の如くあれ。打ち克つべきは乱るる思い‥‥」
 念の為ついてきていたエレオノールが村人の心を落ち着かせる為にメロディを歌う。
 村人の心は錯乱というものはなく、メロディのお陰で落ち着きを取り戻し、避難を始めていた。
「それじゃあ亞璃紫阿、後は頼んだわね」
「はい。連絡は呼子笛で‥‥」
「えぇ。それじゃ二人とも、気をつけて」

「動き出しましたね。予想通りです」
「村人を守る‥‥か。それもまた、いいとは思うが、な」
「殺しやすくなるのにはかわりないですから、ねぇ?」
 影で動き、囁く真斗と右那。
 そろそろ仕掛けるのだろうか。しかしそこに鴉の影はない。
 エレオノールが怪しいと思われる付近を探っていると、真斗はスクリと立ち上がる。
「やれるな」
「無茶はしないようにお願いしますよ。作戦に支障をきたします」
 了解と言わんばかりに森の闇へと消えた。
「‥‥ここにも怪しい所はないみたいね」
「あたしは面倒な事が嫌いだから、このままおとなしく帰ってくれると楽なんだけど‥‥って無理だよね。あ〜あ、面倒だなぁ‥‥」
 天藤月乃(ea5011)がそうぼやくのを聞いて、エレオノールも苦笑を浮かべ、違いないと考えたに違いない。
 確かに今は静けさだけがこの村を支配している。このまま何事もなくなれば‥‥。
「でも鴉は必ず仕掛けて来るわ。必ずよ」
 その時、何かを蹴る音が聞こえて来た。
 優良聴覚を習得しているエレオノールがそれに気付くと、月乃に警戒するように促す。
 蹴るような音は段々と近くなる。この近くに何かがいる。
 それは鴉か、真斗か、右那か。
 分からないままなのでムーンアローも放てないままでいた。
 音は鳴りやみ、また静寂が辺りを包む。
「‥‥まだよ。まだ何か辺りに潜んでいるわ‥‥」
「あたしの後ろに。気配で分かると思うわ‥‥殺気は感じとれてる‥‥!」
「ならば遠慮はいらんな?」
『ッ!?』
 咄嗟に飛び出す影。そして、その影は一気に走り出し、此方へと向かう。
 エレオノールは月乃の背後に隠れ、詠唱を開始するものの10秒という時間に月乃が耐えれるかどうかという事態になる。
「なっ‥‥!突っ込んできた‥‥!?」
「‥‥まずは一手だ」
「‥‥ッ!?」
 相手が繰り出した拳は、月乃の鎧に打たれこまれる。着込んでいた旅装束は壊れた形となった。
「これ、は‥‥!」
 そう。影が打ちこんだのは牛角拳である。鎧は壊れ、そしてダメージを受ける月乃を援護するかのようにムーンアローが影に目掛けて放たれる。
 ムーンアローは影‥‥真斗に直撃する。
「此方も一手とられたか‥‥村の広場で待て。全てはそこにてだ」
「待ちなさい‥‥!」
「駄目よ!深追いはしない方がいいわ。あたし達を誘い込む罠かも知れない。後の人達の事もあるわ、とりあえず広場へ向かいましょう」
 月乃の言葉にエレオノールは小さく頷いた。

「もう少し行ったら少しは安全でしょうか」
「そう願いたいですね」
「でもこのまま逃がしてくれるかどうかだね」
「その通り。このまま逃がす程僕達は慈悲深くないのですよね」
 紅月緋翠(eb1207)が呟いた瞬間、他の男の声が聞こえたのをステラは聞き逃さなかった。
 辺りを見回すと村人の一人が笑っていた。
「貴方‥‥村人じゃない‥‥!?」
「その通りです。鴉様の道、邪魔するのであれば‥‥」
「亞璃紫阿さん、緋翠さん!村人を‥‥!」
「は、はいっ!」
「おやおや、駄目ですよ?前衛もなしに‥‥」
 グラビティキャノンを放とうとするステラの懐に素早く割り入り、トリッピングを打ち込む。
 右那は魔法を使うという事を踏んでいた彼等にとっては予想外の行動だった。ステラは転ぶ時に受身をとって、なんとか軽傷に留められた。
「ステラさん!これ以上好きには‥‥させないっ!」
 緋翠が右那の背後から切りかかる。流石に避けるのは無理なのか、忍者刀は右那の肩を掠り、赤い血が滲む。
「ふふ‥‥流石は冒険者ですね。これは本当に楽しめそうです。村人達はこれ以上狙わないでおきましょう‥‥村の広場へ来るといいです。鴉様が、お待ちですよ」
「なっ‥‥!」
「深追いはやめましょう!‥‥しかし、相手の言う通りなら、鴉は村の広場に‥‥」
「エレオノールさん達に知らせておきます。呼子笛がありますから‥‥!」
 亞璃紫阿が呼子笛を取り出すと、そして短く三回の後長く吹く。
 エレオノールにそれが聞こえている事を信じて。

 しかしその頃、広場に安積直衡(ea7123)と来須玄之丞(eb1241)が運悪く位置していた。
 鴉は二人を確認すると、にんまりと笑みを浮かべ布を顔半分に纏う。
「今の笛の音‥‥まさか、エレオノール達のじゃないか?」
「だとすると‥‥この付近にあの三人がいるって事か‥‥!」
 その瞬間、辺りから火が立ち上り始めた。
 それを見た玄之丞が来た、という合図を送り警戒態勢を整える。
 時間を稼げばエレオノール達も来るだろう。
「ふふ‥‥来たからには少しぐらい相手してくれるんだよね?」
「人の命をコマに使う奴ってのぁマジでムカツクね、あたしは坊主じゃないが死者を冒涜するあんたには反吐がでる」
「人の命?命ある者全て‥‥罪を纏っているものなんだよ?」
 くすくすと笑う鴉を見て、玄之丞は苛立ちを隠せない様子でいた。
 その隙を狙ってか、スマッシュEXを鴉に叩きこもうとする直衡の目の前に一人の男が立ちはだかる。
 ‥‥真斗だ。
「鴉の邪魔はさせるつもりはない」
「くっ‥‥!」
 二人が少したじろいたと同時に鴉に光の矢が放たれ、直撃する。
 エレオノールが放ったムーンアローだ。
「見つけたわ、鴉!」
「‥‥鴉‥‥貴方は、一体何に復讐しようというの?」
「おや。これは‥‥千紗の邪魔をしてくれた冒険者じゃないか」
「今であろうとこれからであろうと、必ずあなた達を止めてみせるわ」
「止める?この僕を?‥‥楽しい。そうでないと楽しくない」
 クツクツと笑う鴉。右腕を怪我した右那がやっとの事で合流を果たす。
 そして、それは冒険者達も同じ。これで全員役者がこの場に揃ったという事になる。

「君は今、何に復讐をしようとしているのか。そう聞いたね?」
「‥‥えぇ」
「教えようか。‥‥僕は『生ある全ての者』に復讐するつもりなんだよ」
「何故そんな事をするの!?」
「君達が信じて止まない役人ども。あいつ等は僕から全てを奪ったんだ。生も、心も。そして‥‥顔も」
 鴉が顔に纏っていた布を外す。その顔半分は焼き爛れ、とても直視できるようなものではなかった。
「まずはこの村から焼き払おうと思ってね。でもまた邪魔が入ったみたい、だネ」
「気に入らないんだよ、相手に理由も告げずにやるなんざただの虐殺さ、例えどんな正当な理由があろうともね!」
「気に入らないなら止めればいいだけじゃない?それとも、出来ない?」
「こっの‥‥!」
 玄之丞が右那目掛けてスマッシュを放つ。それを遮るかのように真斗が前に立つ。
 無論、スマッシュのダメージは真斗が負う。その隙を見て右那は日本刀にディストロイを放つ。
「しまっ‥‥!」
 日本刀は壊れるとまではいかなかったが、刃が欠けた状態になってしまった。
「自分の身を、盾にするなんて‥‥!」
「ぐっ‥‥!」
「真斗。あまりの無茶は感心しないなぁ‥‥」
「‥‥フン」
「真斗が怪我を負った以上、ここにはいられない、か。決行出来なかったのが残念だ」
「待ちなさい、鴉!例え役人が憎くても、こんな事したって何も変わらないのよ!?貴方をそんな目に合わせた役人も、貴方も同レベルになってしまっているのよ!?」
 エレオノールの声に少しビクリと反応しながらも鴉は印を結び始める。
「あんな汚らわしい役人と僕を一緒にするなッ!」
 相手は二人とも怪我を負っている。特に真斗の方はスマッシュをまともにくらっているのだ。軽傷では済まされない。
「待ちなさい‥‥!」
 エレオノールがムーンアローを鴉に放つ。当たると同時に回りに煙が発生する。
 鴉に傷は追わせた。少し呻いた声が聞こえたのを聞き取れていたからだ。

「流石、千紗を破った冒険者達だ。僕に傷まで追わせてくれるなんてね。ガマ、後は頼んだヨ」
 冒険者達の目の前には大ガマの姿があった。大ガマの術を時間稼ぎとして、真斗を支えるようにして三人は逃げ出していた。流石に怪我人が味方に出ては不安があるようだ。
「逃げられる‥‥!」
「追わなきゃ!このまま逃げられたら‥‥!」
「ダメ!先にこのカエルをなんとかしなきゃ、通してくれそうにもないわ‥‥!」
 しかし、逃げようとする鴉達の目の前に一人の若い志士が立ち塞がる。
 その志士の背後には数人の騎馬。そしてそこにもう一人の武士の姿があった。
「見つけた、見つけた!大人しく武器を捨ててお縄につくんだね!」
「お前達は少しばかりやりすぎたのだ。抵抗するのなら、斬り捨てる!」
 その武士達はこの村を預かる領主の家臣達だった。騒ぎを聞きつけ遅ればせながら、領内の治安維持に駆けつけてきたらしい。志士はどうやらそのおめつけやくとなっているようだ。
「い、一体‥‥これは、どういう事、なの?」
「君達がギルドの人達だね?」
「後は拙者達にお任せ願おうか。何もかも貴殿達にやらせてしまっては此方の顔も立たないのでな」
 冒険者達は苦笑を浮かべながらも。助かった、という気持ちで頷く。既にガマは倒されており、騎馬によって鴉達は包囲されていた。
「ここまで追い詰められては逃げようもありません、ね」
 右那は降参するかのように両手を挙げる。真斗も同じように戦意は喪失している。つまり、二人とも投降したわけだ。
 しかし鴉は違っていた。
「ふふ‥‥アハハ!僕が役人に殺される‥‥?あの時と同じ目に合えと?冗談じゃない!僕は役人等に殺されるものか!」
 すぐさま抵抗しようとする鴉を見て、容赦なく志士の刀が鴉の腹部を突き破る。
「抵抗するなら斬り捨てる。そう言ったはずだよ」
 その後、冒険者達はやっとの事で村人の防衛に成功した。
 しかし、村は半壊といった所までの被害となってしまった。村人達は怒りはせず、ありがとう。と冒険者達に土下座をする。
 鴉の死体と、二人の手下は武士達が責任を持って身柄を拘束するという。
 鴉の首はきっと晒し首となるだろう‥‥。

「‥‥なんだか、あっけなかったわね」
「そう、ですね‥‥悲しい、最後でもありました‥‥」
「千紗さんとは逝く場所が違うけれど‥‥安らかに、ね」
 エレオノールが寂しげにそう呟く。

 例え相手がどんなに極悪な輩でも、ヒトはヒト。
 最低限の弔いという気持ちで冒険者達はそう祈った。