●リプレイ本文
『妖の刀、その魅せるもの頂きに参る』
その文の実物が、集まった冒険者達にも見せられる。
その文字はまるでまだジャパン語にも慣れていないような字。
ちゃんとその下にはまともなジャパン語が書かれている。
「‥‥噂の真偽には、興味あったりするんだけど‥‥どうなのかしらね」
手紙を見た朱蘭華(ea8806)が小さく溜息をつくのを見て、依頼人である志士も苦笑を浮かべる。
「流石に噂だけという事だと思われがちでございましょうが、それでも私の家に代々伝わる家宝です」
「それでもお前さんの家が受け継いだわけでもないんだろ?」
白九龍(eb1160)の言葉に志士は頷いた。
「この刀は、私の父がとある方から頂いた物なのです。長年使われてきたこの刀‥‥どのようないわれがあるのかは今の私には確認しようがございませんので」
そういうと、志士は冒険者達を刀が安置している場所へと案内する。
そこにあったのは一本の刀。何処となく不気味な面影を残している。その刀を見て、四神紅(ea5398)が小さく呟く。
「妖刀か‥‥私にはただの刀に見えるがな。切り捨て、血に塗れ、初めて夢が叶うのなら、私たちの振るう刀と何も変わらない。それではただの刀と同じだろう‥‥?」
「そういうお方も結構いらっしゃいます。ですがこの刀は主から精を吸い、生を奪うという話もございます」
「ふむ。依頼主殿、一度抜かせて貰ってもよろしいかな?」
三月天音(ea2144)が志士にそう頼み込む。しかし、狙われている挙句家宝でもある。
その家宝を他人には抜かせたくないとの事。
「とりあえず、偽者の刀をそれぞれの部屋に設置するわよ」
「そうだな。俺は鳴子を仕掛けておこう」
「それぞれ、単独行動だけは避けるようにな?」
九竜鋼斗(ea2127)がそう釘を刺す。
夜更け。
寺の鐘がゴーンという大きな音を鳴らす。
相手は?というと、まだ現れてはいない。
静寂だけが屋敷を包んでいた。
「まだ、来ないですね‥‥」
「そうだな‥‥」
「こんな時に奇襲されたら大変ですね‥‥」
「奇襲‥‥たしか梅の産地だったな‥‥」
「こんな時に何をつまらな‥‥きゃあっ!?」
鋼斗が駄洒落を言ったと同時の出来事だった。
一つ。また一つ。
その屋敷に大きな破壊音が響き渡る。
天井に忍んでいる九龍、そして黒畑丈治(eb0160)、赤霧連(ea3619)に緊張が走る。
「爆音!?」
「しかも複数ですっ!一体何処から‥‥!」
そしてその爆音の目標は定められた。
もう一つの広間‥‥そう、あの武士とライラ・ドンウィール(ea0987)が待機するあの場所だ。
ゴウンッ!と音と同時に壁が崩れ落ちる。
咄嗟に戦闘態勢を整える。砂煙が収まらないうちに一つの人影が飛び出してくる。‥‥遂に奇襲が始まったのだ。
「なっ!?さ、下がって!」
「しかしそれじゃあ刀がとられるでござるよっ!」
「‥‥斬」
飛び出した人影から刃が振り下ろされる。どうやら人影はファイターのようだ。壁を崩したのはシフールのクレリック。ディストロイだ。
「ッあ‥‥!?」
刃がライラの肩に掠る。が、その隙を狙ってか、ライラの得物がファイターの肩に傷をつける。この騒ぎを知っても、鋼斗達は動く事は出来なかった。
なぜか?守りが薄くなるからだ。今この場で動けるのは丈治、紅、そして蘭華。天音はもう一つの広間に待機している為騒ぎが聞こえていても動かないでいる。
「ライラさん!」
「増えた、か。‥‥」
ファイターがクレリックに指示を出す。アイコンタクトと言うやつだ。すぐさまクレリックは動き始めた。
距離をとって、クルスソードで攻撃を試みるも意外に身軽であるそのファイターには掠りしかしない。しかもそれは相手を崩す決定打にはならない。
「くっ‥‥!?」
「フン‥‥」
ファイターの彼には余裕すら見えていた。二人を一人で相手する事に覚悟があるようだ‥‥。
「ど、どうしましょう!?これ、予想外ですよ!」
「慌てるな!慌てると相手の思うツボだぞ!」
そしてまた一つ。爆音が響き渡る。それと同時に仕掛けておいた鳴子が音を立てる。
次はどうやら客間からのようだ。急いで丈治と蘭華が急行する。
客間にいたのは二人。先程のシフールのクレリックとエルフのウィザードである。
二人が不敵な笑みを浮かべると、丈治は即座に詠唱を開始する。相手にコアギュレイトを放ち、止めようという手段なのだろう。
が。その体勢をとってしまったのが災いを呼んだのか。蘭華が時間稼ぎの為に前へ出、ウィザードの迎撃に当たる。
「く‥‥っ!」
「これ以上、好きに暴れさせない‥‥!」
蘭華の鋭い爪がウィザードの左頬に掠れる。思わず後ろに倒れるも、よろけながら立ち上がる。それを見かねたシフールのクレリックが詠唱を開始する。止めようとするが高速詠唱持ちなのか、即座に詠唱が完成し、蘭華にディストロイを放つ。ダメージを負うものの、これくらいでは冒険者は倒れない。
「は、早い!?」
「まさか‥‥高速詠唱を習得している!?」
「なら、これで‥‥!」
コアギュレイトをクレリックに放つ丈治。流石に直撃してしまうものの、僧侶と僧侶。クレリックは抵抗して難を逃れる。
詠唱を開始するウィザードに対し、蘭華がすばやく蹴りを放つ。当たるか‥‥!その寸での所で外に隠れていたウィザードのグラビティキャノンが放たれる。
「っな‥‥!」
「もう一人いたのね‥‥!でも逃がさない!」
逃げる三人に蘭華が爆虎掌を放つ。流石に背を向けている状態、回避も出来ずにウィザード二人は傷を負う。クレリックは意外と回避があるようでギリギリで避け、ウィザード二人よりも先に闇へと消える。
屋敷の外には本来ならばファイヤートラップがあったのだが、家主である志士が火事を懸念して許可しなかったのである。
広間では、やっと進展が見られる時となっていた。
紅が何とか合流を果たし、相手を牽制している。これで此方は4対1。圧倒的に相手の方が不利だろう。
「なるほど。これがジャパンの冒険者か。楽しませて貰えそうだな?」
「そう簡単に、刀は渡さない。せめて‥‥長くなる事だけは、覚悟してもらうぞ」
「さて。それはどうだか?」
ファイターの男がそう言う。すると、客間から後退してきたクレリックとウィザードがファイターに合流する。しかしもう一人。ウィザードが足りない‥‥。
確かに、此方の方が数は上。だがしかし、ウィザードとクレリックがいる以上、油断は出来ないのだ。
「気をつけて!そこのクレリック、高速詠唱を習得してるわよ!」
やっとの事で傷を癒し、体勢を整えた蘭華達も合流する。
「多勢になんとやら‥‥か」
「とにもかくにもお縄について貰うわ。人様の家に土足で足を踏み込んでいるんだからっ!」
蘭華がファイターに十二形意拳・寅の奥義『爆虎掌』を放つ。ウィザードをファイターが庇い、直撃する。ここまでの流れを見て、クレリックには回復魔法がないという事が分かる。そして、火のウィザードが詠唱を始めると、九龍も動き出す。
「こっの‥‥!」
蛇毒手を繰り出そうとした時である。その攻撃を遮るかのようにファイターがタックルを入れる。いきなりの事だったのでまともにくらってしまう。
シフールである為か、攻撃をギリギリで避けながらも高い場へと舞い、詠唱を完成させディストロイ。それで丈治の詠唱を邪魔していたのだ。その為、精神集中の疲労が表に見えている。
辺り一面にまたスモークフィールドが広がる。詠唱が完成してしまっていたのだ。
「っな!?」
「しまった、火のウィザード‥‥!?」
「おっ、同じ火の使いじゃったのか!と言う事は‥‥この煙、スモークフィールドじゃ!」
天音が叫ぶ中、三人は煙が完全に広がる前に隣の広間へと駆け抜けて行ったしまった。結果、防衛突破だ。ウィザードの属性まで予測するには至らなかった。
クレリックが宙を舞い、ファイター達を誘導しながらもう一つの広間へと向かう。屋敷は以外に広い。その所為か迷いながら賊は走る事になる。この為、九龍は素早く先回りして天井裏へとまた潜む。冒険者達の方がこの屋敷を熟知しているのだから。
広間の奥に刀を見つけると、クレリックは嬉しそうに笑う。
「お。刀みっけ‥‥♪」
「ちっ、遂にここまで来られたか‥‥!」
「お天道様が許しても私達が許しません!神妙にお縄についてください?」
そこには先回りした冒険者達の姿。やはり大局的には敵方が不利にも見える。だが、疲労が出ているのはどちらも同じ。隙を見せればそこを抜かれる。
「鬼道衆・捌番『抜刀孤狼』九竜鋼斗‥‥!俺の抜刀‥‥お前に見切れるか!」
「鬼道‥‥?ジャパンの、アレか?面白い、その勝負受けさせて貰おうっ!」
ファイターの男と鋼斗が睨み合い、刃を抜く。
その間にも敵の作戦は動いている‥‥。
(「やれるか‥‥!?」)
九龍が不意打ちを仕掛ける為に即座に天井裏から飛び降りる。
ファイターの首の後ろに刃。そして喉前には鋼斗の刀の鞘が突きつけられる。ファイターの息は荒い。それだけスタミナを消耗しているという事だろう。疲労の汗が額に滲む。
「これで終わりだ。大人しく縄につけ」
「ち、ちょっとまってください!何か後一人足りなくないですか!?」
「確かに‥‥貰った資料によれば後一人‥‥!」
その時、背後からグラビティキャノンが放たれる。もう一人いると報告されていたウィザードだ。
「やっと来たか。遅いぞ?」
「やられっぱなしは‥‥!」
鋼斗は、蘭華にファイターの前を任せ、一気に地のウィザードへと接近する。
「ったぁぁ!」
ブラインドアタック+ポイントアタックが地ウィザードの片腕に直撃する。流石にこの傷でまだ闘うという事はないだろう。
その間にも刀の前は攻防戦となり、ファイターが隙をついて刀に手をかけ、火のウィザードへと投げる。
「回収、完了!撤退するぞ!」
「待て!」
武士が体を張って出口を塞ごうとするものの、火のウィザードがまた詠唱を始める。
その間、まるでそのウィザードを死守するかのようにファイターが立ちはだかる。
「くっ!何としてでも詠唱を止めねばっ!」
天音が距離をとってホイップを火のウィザードへと打ち放つも、ファイターの剣がそれを絡め止める。
そしてまた辺りが煙に包まれる。
「しまった‥‥!」
「夢を魅せる刀、確かに頂いたぜ!」
剣を離して犠牲にし、ファイターは志士に体当たりする。いきなりのタックルで志士は後ろにドサリと尻餅をついてしまった。
スモークフイールドが晴れたその場には四人の姿はもうそこにはなかった。
「そうですか。盗まれて、しまいましたか‥‥」
「本当に申し訳ないです‥‥」
「いえ、仕方ありませんよ。しかし、このままというわけにはいきません。奪回の作戦は此方で練りましょう。大丈夫ですよ、私だって志士の端くれです。賊に遅れをとるわけには行きません。また何かあればお力を借りるとは思います、その時はよろしくお願いしますね?」
志士が苦笑を浮かべてそう言うと、冒険者達は壊れた壁等をせめて修理して帰ろうという事になった。
依頼に失敗は付き物。しかしこの失敗は冒険者達にとっては悔しい物となるだろう。