●リプレイ本文
●出発前の情報を
「其の隠忍を登録する場所というのは公式のものなのですか?」
そうギルドに尋ねるのはマハラ・フィー(ea9028)。
この依頼を受けた冒険者の一人である。
「あぁ、ちゃんとした公式だ。そうやって管理しないと、逆に幕府が狙われる可能性もある。そういう意味合いも兼ねて登録してくれといってあるんだが」
「登録していない隠忍をそのままにしておくとどうなるのですか?」
「さぁなぁ‥‥その組織によって決まりは違うが、大抵の者は抜け忍と認定され、追われる身になるだろう」
ギルド員の男がそう答える。マハラにとって満足出来る答えだったのかは分からない。
「大変だとは思うが、頼まれてくれよ。攻撃しなけりゃ害はねぇ。要は鬼ごっこなんだからな?」
「はい、それは分かっています。無茶な行動はしないようにします、ご忠告ありがとうございました」
そう言うと、マハラは軽く頭を下げ現地へと赴く。
さぁ、鬼ごっこの始まり‥‥。
●シャイな忍者もいたものだ
「まったく、気配がない‥‥これが差か」
現地に辿りつき、気配を探す風斬乱(ea7394)。
だが、気配なんて何処にもありはしない。何せ忍びの上級者なのだから、相手は。
それでも探すのがこの依頼。どうやら乱は何かを考えながらもわくわくしている様子。
そんな時、微かながら子供の泣き声が聞こえた。
「お嬢ちゃん、どうした‥‥怪我をしているな‥‥」
どうやら怪我をした女の子を見つけたようだ。足には怪我。
これはこれで助けなくてはならないだろう。
「迷子にでもなったのか?ここは危ないぞ?」
羽織を破り、不器用に手当てをしてやる。
だが、少女は何処までも沈黙を保つ。
「綺麗な髪をしてるな‥‥しかし、何処で迷子になったんだ?」
話しかける乱を見て、少女は少し顔を紅くする。
そして、答える事がないまま、立ち上がり‥‥。
「はや、い‥‥?」
そのまま姿を消してしまった。見えないまでの早業で。
「まさか‥‥今の‥‥?」
推測になるその答えに答えてくれる者はいない。
●混血でも‥‥
「追いかけっこ‥‥なんだか、疲れるイメージもしますが」
サラ・エレーラ(eb1170)は夜営の跡を探し歩いているようだ。
こうした地道な手数で、偶然にも発見出来たらと願っているのだろう。
「あら、これは‥‥?」
そして一つの夜営の跡を見つける。
それは微かなもの。されど、夜営の跡には変わりない。
手にとり、匂いを嗅いで、推測から確信へとする。
「ここで寝泊りしていた形跡がありますね。とりあえず、位置はメモに記しておきましょう」
そんな時だった。
一つの人影がサラの目の前に見えた。
「あれは‥‥?」
メモし終えたサラは、その影が向かった方角へと向かう。
そこには綺麗な滝が一つ。そしてその影も其処にあった。
「汝、何者ぞ?何故我等の臭いを嗅ぎまわる?」
突然後ろから聞こえる声。
どうやら遭遇してしまったようだ、彼ら隠忍と。
「私は決して怪しい者ではありません!ギルドに雇われて、貴方達に登録を促しにきたんです!」
「隠忍の存在を知る‥‥か?」
「私はこの依頼で初めて知りました。ですが私は貴方達と戦うつもりはありません」
サラは両手を広げて武器を所持していないのを見せる。
すると、隠忍も少し安堵したのか。それでも目の前にまでは近寄ることはなかった。
「了承した。ではその件、山の中にいる者に伝えてやって貰おうか」
「あ、待ってください!」
「?」
「一つだけ、質問させてください」
「何だ?」
「混血でも、異国人でも、隠忍になれますか?」
「それは全て汝の意思と心の強さ次第。元より忍びは嫌われる存在。血等関係せぬ」
そう言い残すと隠忍にはその場から姿を消した。
この答え、満足した答えだったのだろうか?
●呼びかけて、答えて‥‥
「やれやれ、ここら辺で情報でも集めるか」
「そうですね。ここだと麓の村も近いですし、誰か何か見ている可能性もあります」
鶴来五郎太(eb1755)とマハラがそう話し合いをして決定する。
まずは情報収集だ。
他の冒険者達も山に散策に行ってくれている。その間を利用しての情報集め。
「すみません、ここらへんで隠忍って見た事ありませんか?」
「隠忍?いんや、知らないねぇ‥‥アンタ等、探してるのかい?」
「あぁ、依頼でちっと用事があってな」
「そうかい‥‥なら、村長とこさ行ってみるとえぇ。あの人なら何かしら知ってるだろうて」
丁寧に教えてくれる村人に感謝しながらも、二人は村長の元へと訪れ、事情を話す。
すると、村長は小さく唸って首を傾げる。
「確かに、この付近の山には隠忍がおる。しかし、ギルドに依頼される程悪さはしとらんのじゃが‥‥」
「いえ。ただ、未登録なので公式に登録して欲しいというお願いですから」
「あぁ、ギルドにじゃな?そういう事なら教えなくもない。この村の井戸付近にいってみなされ。すぐに見つかるじゃろうてなぁ‥‥小さな隠忍が」
くすくすと笑って見える村長の話を聞いて、二人は村の井戸へと向かう。
「何だか、怪しくなかったですか。あの村長?」
「だな。何か俺達の事を笑ってるように見えたが‥‥」
其処に他の冒険者達も戻ってきて集う事に‥‥。
●鬼ごっこの終わり
「本当に村長がここにいろっていったのか?」
「あぁ、さっき言われた。しかし驚いたな。そんな小さな子供までもが‥‥」
「あ、あの‥‥貴方達ですか?私達を、探してる‥‥って」
声がした方向へと視線が集まる。其処にはサラが山の中で会った男と、乱が山の中で会った少女が立っていた。
やはり彼女もまた隠忍だったらしい。
「あ〜〜、俺たちはあんたに危害を加える為に来たんじゃない。忍びの組織がアンタに繋ぎを付けたいと言ってて、それを伝えに来たんだ!」
「はい、その事に‥‥関しては、その‥‥聞きました、から」
「汝等は我等に危害を加えないという事も今までの監視で察させて貰った」
「監視?まさか‥‥ギルドからついてきていたのですか!?」
「は、はい‥‥し、知ってて‥‥隠れてましたから‥‥」
少女が苦笑しながらそう告げる。
驚いた。もうギルドから鬼ごっこが始まっていたのだから。
「出来れば俺たちと一緒に山を降りてくれると助かるんだが‥‥あ、別に今すぐでなくてもいいぞ。それでも組織の人が来るって言うしその時でも」
五郎太が諭すように交渉する。少女は少し隣の男の顔を見上げ小さく頷く。
「な、なら。一つだけ、約束してください」
「約束?」
「この麓の村の秘密。守ってください‥‥。も、もう。お気づきになってるのでしょう?」
少女がそう言う。この村、確かに怪しかったが‥‥。
「まさか、ここが隠忍の村、なのですか?」
「は、はい。私達は、こういう所で暮らす、しかない、ですから」
「して、汝等に同伴させるのはあまり好ましくないが、我等の組織の姫様を同伴させて頂く事にする」
「姫様、ですか?」
「あ、はい。わ、私です」
冒険者達の驚きは頂点だった。こんな子供が、この隠忍の組織の姫をやっている。
しかも冒険者の一人、乱はそんな少女に声をかけていたのだからもっと驚きだ。
「ま、まぁ!何にせよ登録に来てくれるのは嬉しい!俺達と一緒に降りよう!」
「後で責任をもってお届けにあがります。隠忍だからとはいえ子供。送り届けだけでも」
「そうしてくれると有難い。汝等の言葉に偽りはなさそうだ」
こうして、探されていた未登録の隠忍の登録は無事に終わり。
つれてきた少女もまた山の麓の村へと帰る。
その後の話。
その山の麓の村はその日から三日も立たぬうちに消えていたそうだ。