●リプレイ本文
じっちゃんの夢をかなえるべく、冒険者達はツボほ探しに出る。
大体のお風呂というものは、半身が浸かるぐらいまでのが普通。
だが、依頼人は人一人がすっぽり入るくらいのがいるという。
‥‥果たして、そんなツボでお風呂だなんて本当に入る心算なのだろうか?
●頼み込む人達VS頑固親父
「よしっ!じっちゃんの為だ!ここは一つ頑張って‥‥!」
「説得だな、頑張ろうか」
説得に挑戦するのはどうやら四人。
羽鳥助(ea8078)、グレン・ハウンドファング(eb1048)、ブルー・サヴァン(eb2508)、緋月飛鳥(eb1574)。
どういった激戦が見られるというのだろう。
「とりあえず、親父さん!これやろう、これ!」
「なんじゃ?将棋か?突然尋ねてきたと思ったらこんな事させるのかっ!わしは忙しいんじゃ!」
助の誘いも断る陶芸の親方。流石に頑固と呼ばれるだけの事はある。仕事熱心だ。
「ん〜とさ おっちゃんは 自分の作った壷をどう使って欲しいの?その人が必要だと求めて大切に扱ってくれるならいいんじゃないかなぁ‥‥俺達冒険者もそうだけどさ、依頼人が喜んでくれるのが一番だと思うんだけどな」
「お前さん等に職人の何が分かるんじゃ!陶芸はな、この京都の伝統ある風の一種じゃ!それをなんじゃ?風呂じゃと?人の垢つくようなもん作ったわしらが恥をかく!」
‥‥ジャパンでは、お風呂に入るという風潮はあまりない。やるとするならば、半身浴程度。
其れに何故自分達の壷が必要なのか。
それに彼等は陶芸職人。それなりのプライドというものがついている。断るのも無理はないのかも知れない。
「それとも おっちゃん‥‥。人が入れるくらいの壷、作る自信ないとかそう言うんじゃないよな?もう一度お願いするよ。じーちゃんのお願い、叶えてください!」
「! やっぱりお前達、あの爺の回しもんだったか!ででけ、でてけっ!あんな爺に作ってやる壷なんざないわっ!」
「あっちゃあ‥‥ちっと、まずったかな‥‥?」
「では、貴殿の作品に花を活けるのではなく‥‥人という華を活けるおつもりはありませんか?」
「人っつーもんは飾られるもんじゃねぇっ!人にはそれぞれ、そのままの姿でも立派な作品になる輩もおるんじゃよ!それもわからんのか、若造めっ!」
グレンの口優しい説得も、頑固親父の耳には届かない。
爺さんの名前を出してしまった以上、親父さんの頑固の強度さも強くなっている事だろう。
其処でさっきから仕事を色々と手伝っていた飛鳥が少し笑って親父の隣に座る。
「使ってこそ器、思い浮かべてください。花瓶に花を生ければ華やかに、雅な壷で湯浴みをすれば疲れた体も心も癒されますよ」
「‥‥煩いッ!お前さん達が自分の興味で入りたいというのなら赦したかも知れん!だがな、あの爺の願いで来たんだったらお門違いじゃ!自分が無理だったからといって他人を使うなど!下らん!実に下らん!」
「作って貰えないのならボク達に作り方を教えてよ!」
「は?」
「作って貰えないのなら自分で作るよ♪」
サヴァンの言葉に、親父の動きがピタリと止まる。
「壷って奥が深いんだよねー‥‥」
「悪いが、お前さんにゃ無理だ!」
「えっ!?なんでー!?」
「陶芸っていうもんはな、体力が必要なんじゃ。見たところお前さん‥‥そんなに体が丈夫そうにも見えん!お前さんにゃ無理じゃ!」
結局説得は失敗に終わる。
仕方がない、街に探しにいったメンバー達の帰りを待つ事にした。
●街へと繰り出せ。求む、壷!
「そういえば、一つ聞きたい事があったのですが‥‥やはり費用はかかってもよろしいのかしら‥‥?」
街を歩きながら、水神観月(eb1825)がぽつりと呟く。
まぁ、あの老人の事だ。金に糸目はつけんだろう、という言葉をギルド員から貰っていたようだったのだが、まだ不安ではいるらしい。
「とりあえず聞き込みを優先すべきじゃないかしら?陶芸の人には後で謝罪に行くんでしょう?」
柚月由唯乃(eb1662)が苦笑してそう提案する。どうも此方に来る時、陶芸の小屋前を通ったのだが、やはり怒鳴り声は聞こえていたようだ。
「やれやれ。あんな言い方じゃ怒るに決まってるだろうにねぇ?あたいでもそんな言い方はしないね」
花風院時雨(eb1945)もどうやら謝罪に行くというのには賛成のようだ。
京の街には漬物などに壷やらかめやらを使っているところが多い。
ならば、余っていたり、譲ってくれたりするような店もあるかも知れない。
その僅かな可能性に賭けて、街を歩く。
「あの、すみません」
「はい?何でしょう?」
「此方で使っているあの大きな壷‥‥お譲り頂けないでしょうか?」
観月がとある漬物屋で尋ねる。漬物屋の女将もびっくりして目をパチクリさせている。
「は、はい?あの壷、ですか?」
「はい。実は私達、冒険者でして‥‥」
「とある爺さんがあんな大きめの壷で風呂に入りたいって言うんだ」
「私達は何とかして叶えて差し上げたいのですけど‥‥ダメでしょうか?何でしたら、御代もお支払いしますから‥‥!」
懸命に頼み込む三人を見て、女将も困ったような表情で壷を見る。
「困ったわねぇ‥‥いえね、別にお譲りしてもいいのだけれどねぇ‥‥?」
「何か、ご不満でもございますでしょうか?でしたら私は謝らなければ‥‥」
「そんなんじゃないのよ。ただねぇ?」
「ただ?」
「あの壷の中身、漬物がいっぱい入ってるから‥‥ちょっと臭いするのよ。それに後少しだけだけれど残ってるし」
女将が困ったようにそう言う。まぁ、確かに漬物の臭いは独特な臭いで好き嫌いが分かれる。
しかし、この場合、それで引き下がるわけにもいかない。
「分かりました、ここは私達が責任を持って食べさせて頂きます!勿論、御代はお支払い致しますッ!」
「おや、いいのかい?助かるねぇ、それじゃあ今持ってきますからね」
嬉しそうに笑顔を見せる女将。言ってしまったからには食べなければいけない。
「ほ、本当に食べるんですか?」
「食べるしかないだろ?ああまで言っちまったんだい!」
「‥‥ふ、太りそうですね」
「‥‥ゆっくり食べれば平気だと思いますけど‥‥」
こうして三人は壷の為にその店の漬物の半分を頑張って食べたという。
●謝罪
お腹いっぱいになりながらも、観月は説得班が向かった陶芸の小屋へと向かった。
そこにはグレン達が待機している。
「どうでしたか?」
「ダメでした。やはり、爺さんの名前を最初に出すのはよくなかったようですね。そちらは?」
「はい、壷一つなら何とか。私はこれから陶芸の親方さんとお話してみようと思います。謝罪を兼ねてですが。グレン殿、同伴お願いします」
観月がそう言うと、グレンは小さくうなずく。他の三人には時雨達の所へ行くようにと伝えて。
「失礼します」
「なんじゃ!?またお前達か!人をとっかえひっかえよこしても‥‥!」
「この度は大変ご迷惑をお掛けしました。一人のご老人の真剣な願いを叶えて差し上げたい一心でとはいえ、何かと行き過ぎた所もありましたでしょう。ただ、私達が芸術を蔑ろにしている訳では無いという事はご理解頂きたく存じます」
そう言うと、観月がふかぶかと頭を下げる。これには頑固親父も面を喰らった様子。
「私達はただ、その壷をどうしても使いたいというご老人の熱意を持ってここへ来ました。確かにご老人は自分では無理だからと私達に頼みました。でも、私達もその壷風呂に興味を持ち、ここに来ているのです」
「じゃが‥‥」
「隠さずに言いましょう。私は、ハーフエルフです‥‥体が汚れる事で狂化を起こしてしまう体です」
「! なっ、なら何でこんな汚れるところに来るんじゃっ!?」
「一人の老人の熱意に動かされたからです。‥‥人一人の熱意によって出来上がる夢の素晴らしさ。それは陶芸も同じですよね?」
グレンの言葉に頑固親父も少し唸る。どうやら冷静になって考え始めたようだ。
「‥‥分かった!お前さん達二人に免じて、壷を一個やろう!」
「親父さん‥‥!」
「じゃが、勘違いするなよ!?わしは決して同情したから壷をくれてやるんじゃない!お前さん達の話に納得出来たからやるんじゃ!」
「はい、分かっております。本当に有難う御座いました‥‥」
二人は、そういって一つの大きな壷を外で待っていた貴藤に持たせ、依頼人が待つ場所まで戻る。
「おー!立派な壷じゃのぅ!いい壷だっ!」
「依頼に添えるような壷でよかったです」
「早速風呂だ!風呂の準備をせいっ!ほれ、二つもあるんじゃ、男と女で別れてはいりゃいいだろ!」
老人がはしゃぐ姿を見て、グレンは小さく笑った。
「‥‥よかったですね、グレン殿?」
「正体をバラした甲斐があったみたいだな」
「あの親方殿も、優しいお方だったという事ですね」
そう言って笑う観月とグレンを他所に、他の面子は風呂だとはしゃいでいる。
今、起きている事件の合間を縫い、疲れを癒すかのように‥‥。