●リプレイ本文
江戸の町。もうすぐ出発という時。
冒険者達は大事な人の護衛だという事で、少し緊張しているようだ。
光圀がギルド員に連れられて姿を現したのは少し前の事。
旅人に見えるような服装に着せ替えられている。
「貴方達が僕を届けてくれる人達なんですね‥‥」
その声は明らかに低い。まるで帰るのを嫌がっているようだ。
「光圀様は研究が御好きなようですね。見たり聞いたりする事は良い事だと思います。‥‥ただ、親に心配をかけるような事は良い事だとは思えませんよ?」
「‥‥僕はただ‥‥」
何かを言おうとして止まった。何だかちょっと暗い雰囲気の少年だ。
桂春花(ea5944)もちょっと戸惑ってしまっている。
「おいらは玄間北斗なのだ。『げんちゃん』でも『北斗』でも呼び易い方で呼んで貰えればいいのだ」
玄間北斗(eb2905)が笑顔で光圀の肩を叩き、そう言う。そしてまた言葉を紡ぐ。
「光國だから…『みっちゃん』って呼んで良いかなのだ?」
「み、みっちゃん‥‥ですか?」
「大衆の前で光圀様の名前を出すと危険ですので、偽名や俗称のような呼び方をしたいのです。また全員の口調も崩した形にします。どうかご協力をお願いします」
「‥‥皆さんがそう言うのでしたら、私は何も言いません。どうか、宜しくお願いします」
ぺこりと頭を下げる光圀に、笑顔を向ける冒険者達。
この少年が、水戸の大事な大事なご子息なのだな、と実感出来る時だったろう。
そんな時でも、一人ペースを崩されている者もいる。
「また受けちゃったじゃん、カギの世話‥‥あたしって馬鹿じゃん‥‥」
アルティス・エレン(ea9555)が少し苦笑を浮かべ、ガクリと肩を落とす。
何か、子供に縁があるようだ。
●出発。そして道のり。
江戸を出発して一日目。
町の外での移動は、シフールのウィザードであるミラルス・ナイトクロス(ea6751)が空を先行して進み、警戒する。
「しかし、プリンス・ミツクニ。一体エドまでどうやって来たでヤンス?」
「あ、えっと‥‥ずっと歩いてきました。山道とか、街道とか」
金にものをいわせたものとばかり思っていたファニー・ザ・ジェスター(eb2892)。
それを歩いてきた、と言われたのだから驚きも倍だ。
「旅は道連れ世は情け、何はともあれ、幼いながらに独りで来たのは偉いのだ♪」
光圀の体力を考慮して、北斗は自分の馬の手綱を引く。
其処に乗っているのは勿論光圀。何だか少し疲れている様子も見せていたが、其れは今まで歩き続けたからだろう。
これでうまく馬子だと騙せればいいのだが、と。
「みっちゃんは、どうして江戸が見たいと思ったのですか?勉強するだけなら水戸でも出来たのでは?」
「其れは‥‥父上が、そうさせてはくれないから‥‥」
「父上?という事は、頼房っていう人?」
赤霧連(ea3619)が尋ねると、春花は小さく溜息をついて、連の肩を叩き首を横に振る。
身分なんかどうでもいいと思うのは勝手にしろ、ジャパンの侍でその聞き方はどうなのか?というのもあるのだろう。
「ギルドでも聞いたと思いますが、頼房様は家康様のご兄弟‥‥水戸藩では一番偉い人になります。向こうについてそんな言い方していますと、白い目で見られますよ?」
と、注意する。流石に無知なのはアレだと思ったわけで、教えておいて。
「でもあたしには関係ないじゃん?ガキ送り届ければそれだけでいいじゃん‥‥」
ぶっきらぼうに答えるアルティス。そんな素振りを見せる彼女にも、優しい面はあるのだ、と。
春花が後にフォローをしたのであった。
●二日目〜三日目。 そして騒ぎは訪れた。
幾つかの町を宿経由で突破して、そしてもうすぐ水戸に辿りつける頃。
街道から少し外れ、山際の方を歩く事になった。
それは何故か?この季節、山というのはとてもいいものだ。
それを光圀に見て貰いたかったのだろう。
「ここからが正念場ですね!ちょっと注意しながら偵察してきますっ!」
連の頭の上でそう言うと、ミラルスはふわりと羽を動かして空へと舞う。
もうすぐ水戸だ。しかし、ここら辺は山賊が出やすいという事を前もってアルティスが聞いていた。
こういう所は抜け目なく、優しい。
まぁ、戦闘でしかしゃきっとしないからなのでもあるのだが。
「山賊がこのまま出てくれなければいいのですが‥‥」
「でも注意はするのだ。多分きっと出てくるのだ」
「そうでヤンスねぇ‥‥これだけの人数が動き回っているでヤンスから‥‥」
北斗はちょっと考え込んでいた。本当はこの馬子の役は逆に目立つのではないか?と。
しかし、子供の体力を考えると今更歩けとはいえない。
‥‥そんな時、意外な一言が飛び出た。
「あ、あの‥‥僕、歩きますよ」
「え?で、でもみっちゃん、それじゃみっちゃんの体力が‥‥!」
「十衛兵が言ってたんです。強くなりなさいって。だから、体力もつけなくちゃいけないと思うんです」
子供ながらにしっかりとしていて、褒めたい気持ちがあふれるような子だ。
十衛兵?と首を傾げながらも、北斗は頷いて馬を止めた。
「じゃあ無茶しないように歩くでヤンスよ?」
「疲れたら私に言ってくださいね?何時でも休憩をとりますから」
「は、はい。優しくしてくれてどうもありがとうございます」
「仕事なんだから気にする事ないじゃん?お金貰えればいいんだし」
アルティスの言葉がちょっと棘になっているのもあるが、冒険者というのは其れが仕事なんだと。
光圀はそう言い聞かせていた。
「大変ですーーー!賊が来ましたあぁぁぁっ!」
ミラルスが慌てて飛んでくる。
やっぱり来てしまった。あまり光圀にこういうシーンを見られたくなかったのだけど‥‥。
そんな冒険者達の願いは、脆くも崩れ去る。
「山賊の数は?」
「五人ぐらいいましたっ!ちんぴら風な人達でしたけど!」
「みっちゃんは後ろへお下がりください!」
「そうそう!私たちで何とかするから!」
連の言葉に少し複雑を感じていた。頼るしかないのだけど、頼りすぎているんじゃないのか?と。
「来ましたよ!」
「へへっ!団体さんがいるぜぇ?」
「ちょうどいい、金がなくて困ってんだ。身ぐるみ置いて‥‥」
「爆撃ミラを甘く見ないで下さいませ!! れっつ!! いぐにしょん!!」
相手が前置き述べてる途中にも関わらず、ミラルスのファイヤーボムが炸裂する。
手加減なんてナシのご様子です。
「彼女達は優しいのだ、まだまだ本気じゃないのだ。優しい内に降伏するのだ」
「うるせぇっ!卑怯な事しやがって!」
「あたし達は甘くないじゃん?襲われるなら先手打って‥‥じゃん」
アルティスがニィと笑う。北斗は少しやれやれと困った表情を見せる。
春花は光圀の前に立ってガードしている。子供が狙われれば、此方は容赦できないのだから。
「ファニー様、後はお願いします!私が前に‥‥」
「だっ、ダメですよ!危ないです!」
「みっちゃん‥‥大丈夫です、私たちは冒険者なのですから」
「だからって危ない事をしていいって事にはなりませんっ!」
光圀が懸命に声を張り上げる。
今までこの道中の間自分を世話してくれた春花が前に出る。
それは傷つくかも知れないという事で怖さを持っているのだろう。
本来ならば自分が前に出られればいいのだが、そんな強さを持ち合わせていない。
歯がゆい。とても歯がゆい。
「‥‥みっちゃんは春花さんを守りたいなのだ?」
「傷つく姿は、見たくないです‥‥」
「ならおいらと一つ約束をするのだ♪」
「約束‥‥?」
「ここはみっちゃんの代わりにおいらが彼女を守るのだ。その代わり、何時か強くなるのだ!そして守ってあげるのだ♪」
約束出来るか?と北斗がつけくわえ、尋ねる。
光圀は少し悩んだものの、小さく頷いた。苦手な剣術もしっかり頑張るよ、と。
「そういうわけなのだ♪だもんでちょっと手痛いけど勘弁するのだ♪」
結局山賊達は北斗の火遁の術によって退治され、水戸まで拘束する事となった。
●水戸到着
「さぁやっとついたのだ♪」
「お疲れ様でした、光圀様。後は、入り口にお迎えが来ているはずですが‥‥」
「光圀様」
水戸藩の入り口で、合流すると聞いた人たちを探している冒険者達を他所に、一人の男が光圀に声をかけた。
それは見るからに怪しい人だ。
黒のつなぎ服で、包帯で両目を隠している。歳は見て二十歳ぐらいだろう。
しかし、そんな怪しい男を見て、光圀は少し嬉しそうな顔をしていた。
「十衛兵!」
そう光圀は呼んだ。そういえばさっき言ってた人の名前‥‥この人だったのか、と北斗は納得する。
「あの、貴方は?」
「‥‥光圀様を無事運んでくれた事、感謝する。後は水戸でも観光していくといい‥‥」
「ま、待ってください!貴方が合流予定の人なんですか!?」
「‥‥そうだ」
そう言い残すと、男は光圀を連れて歩き出す。
光圀は嬉しそうに男の手を握りながらも冒険者達の方へと振り返り、笑顔で手を振っていた。
「何だか、不思議な人でしたね‥‥」
「多分、あの人が光圀様のお目付け役だったのだよー」
「さて、あたし達はどーするんだい?」
「水戸の町でも、見て回りましょうか?外国の方にとっては珍しいものが沢山ありますから」
私が案内しますよ、と春花の言葉。
そのお言葉に甘えて、冒険者達は水戸を堪能するのであった。