小さな詩の思い出を。
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■ショートシナリオ
担当:相楽蒼華
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月09日〜07月14日
リプレイ公開日:2005年07月13日
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●オープニング
「あの‥‥ここが冒険者ギルド、ですか?」
一人の少女が顔を覗かせる。
そうですよ。とギルド員が答えると、安堵した様子でおずおずと入ってくる。
まだ十代後半の少女。少しおどおどしていて、何処か落ち着きがない。
「あ、あのですね?わっ、私‥‥その‥‥詩を、歌いたいんです!」
「詩、ですか?」
「はい‥‥でも、それが怖いんです‥‥私、歌えなくなったんです‥‥」
少女の顔色が少し悪い。どうやら今まで怖いものを見てきたらしい。
一体どうして歌えなくなったのか、訳を聞こうとするも黙り込んでしまう。
「詩を歌えないって‥‥貴女はちゃんと声が出てるじゃないですか」
「違うんです!そっ、その‥‥歌おうとすると、声が‥‥!みっ、見ててくださいっ!」
少女は大きく息を深呼吸して、詩を歌おうと口をあける。
その瞬間、少女に異変が起きた。
何か苦しくてもがいている。そう、呼吸困難が起きているのだ。
慌ててギルド員は少女の背中を擦り、歌うのをやめさせる。
「はっ‥‥はぁっ‥‥すっ、すみません‥‥」
「いえ、いいんです。しかし‥‥これは一体‥‥?」
「分からないんです‥‥詩を歌おうとすると何時もこうなって‥‥まるで、私に歌うなって言っているみたいで‥‥私、怖くて‥‥!」
「‥‥原因は分からないんですか?」
「それがさっぱり‥‥。父は、商人で色々と珍しいものを持って帰ってくるのですが‥‥『謳う貝』という不思議なものを貰ってきてくれて‥‥その前で歌ったらこうなったんです‥‥」
謳う貝。聞いた事のない名前。確かに珍しいのだろう。
原因はきっとどこかにあるはずだ。人が簡単にこうなるはずがない。
ギルド員は少し考えると小さく頷いた。
少女の願いを叶えようというのだ。
「お名前を教えていただけますか?」
「あ‥‥芹香って、いいますっ!」
芹香。不思議な名前だと思いながら、ギルド員は依頼を引き受けた。
●リプレイ本文
冒険者ギルドにて。
冒険者達は歌えないという少女、芹香に会うこととなった。
「貴方達が、私の歌を何とかしてくださる人達ですね?」
「はい‥‥しかし、原因が何かわからない以上、手のうちようが‥‥」
「多分、その謳う貝ってやつに何かついてると思うんですよね」
パレット・テラ・ハーネット(eb2941)が疑問を素直に取り上げる。
やっぱり現在怪しいと思うのはそれしかないのだ。
「でも、あれは父上が貰ってきてくれた大事なものですし‥‥」
「でも謳う貝の前で歌えばそうなったわけでしょう?」
「それも、そうなんですけど‥‥」
「とりあえずその謳う貝を見せて貰った方がはやそうね?」
桐生蒼花(eb2427)がそう提案すると、他の冒険者達も頷く。
しかし、芹香には一つ気になる事があった。
「あ、あの‥‥その、服だけは着てくださいませんか?父上になんていっていいか解りませんし‥‥」
申し訳なさそうにルゥナ・アギト(eb2613)に言う。
野生児のような格好をした彼女を「友達」とは言いにくいのだそうだ。
結局、ルゥナには簡単な着物を着せて、芹香の家に急ぐ事にした。
●辿りつくまで、の歌
芹香の家についた一行は、芹香の口ぞえで何とか芹香の部屋に入る事が出来た。
その部屋の机の上に置いてある、小さな小さな蒼い貝。
それが謳う貝だというのだ。
実物を見れば何かわかるかも知れないと思っていた蒼花は、貝をじっくりと観察する。
風樹護(eb1975)は、その貝の文献を調べたい。という事で図書館へと足を運んでいる。
「これが謳う貝ですか?」
「は、はい。とても小さな貝で、綺麗でしょう?」
「確かに綺麗だわ。でもこの貝が貴方の歌を奪ったのかも知れないのでしょう?」
ちょっと苦笑を浮かべる蒼花。もしこれがそんな言われのないものであったならば、自分も欲しいと思っただろう。
「いっその事、これ破壊しちゃダメですか?」
「だ、ダメですよ!もしそれで私が謳えないままでしたら‥‥」
考えるとゾッとします!と付け加えて、パレットの提案を芹香は否定する。
「じゃあ自分が歌ってみようか?」
「でも、それでは貴女にまでご迷惑が‥‥」
「大丈夫。それで原因がわかるなら‥‥」
「ちょっとまって?もしルゥナが歌っても変化がなかったら、其れは其れで王手になっちゃうわ」
蒼花がそう言ってルゥナをとめる。ルゥナはそれじゃあどうすればいい?という顔だ。
「もしかすると、この貝って‥‥何か祭られてたりしていなかったかな?」
「え?あ‥‥父が言うには、そのように聞いています」
北宮明月(eb1842)はその答えにやっぱり。と納得するように頷いた。
「どういう事なの?」
「多分、風樹様が見つけてきてくれるとは思いますが‥‥もしかしたらその貝には何かがついていて、その何かが芹香様の声を奪ったものだと思うんですよ」
「なるほど‥‥その何かが幽霊だったら災難ね」
「その為に、芹香様には少し遠くにいて貰いましょう、危険ですから」
明月の言葉に、少し不安を覚える芹香だった。
●大切な歌
数時間たった頃に護が冒険者達と合流する。
その手には多くの文献が持たれていた。全て、謳う貝についてのものだという。
「おかえりなさい、どうだった?」
「やっぱり明月殿が指摘した通りでした。その謳う貝にはとても凄いものがついているようです」
「凄いもの?」
蒼花が聞き返すと、護は小さく頷いて文献の一つを開き、ページを見せた。
其処には謳う貝の事について事細かに書かれているようだ。
「まず、この貝の由来なのですが‥‥どうやらこの貝はイギリスから流れてきたとても珍しいもののようです」
「イギリスから?」
「はい。イギリスではさも珍しくはないという事なのですが、ジャパンにあるというのは珍しい事だそうです」
護が説明すると、パレット達はふぅんと頷いた。
パレットやルゥナにとっては珍しいものではないという事なのだろうが、こういうものを見るのは初めてだ。
「次に、言われなのですが‥‥どうやらこの貝には精霊がとりついているようなのです」
「精霊?」
「はい、貝の色によって異なる妖精がついているようです。で、この謳う貝は蒼‥‥つまり、水を司る精霊がついているようです。ですが、その精霊は悪戯好きで稀に人の声を奪ったりするそうで‥‥」
「そ、それじゃあ私の歌声は、精霊さんにとられちゃったんですか!?」
芹香がそう言うと、小さな笑い声が謳う貝より発せられた。
辺りが一瞬暗くなる。そして、その謳う貝の上に、一匹のフェアリーが座っていた。
「アハハ♪よく辿り付けたわね、人間にしちゃあ上出来よ♪」
「あ、貴女が精霊なの?」
「一応ね?」
「では、貴女様が歌を取り上げたわけだな?」
「取り上げたっていう言い方も何だかねぇ?」
と、精霊は首を傾げる。しかし、現に声が出なくなっているわけだし、悪戯もするという話もある。
疑うしかないわけなのだが。
「出来れば歌声を返してあげて欲しいんだけど」
「んー、どうしても返さなきゃダメ?」
「そ、その前に‥‥どうして私の歌声を、とったんですか?」
芹香が慌てて尋ねる。だって自分の声が取られた理由がわからない以上、少し怖いものがあったから。
精霊はきゃははっと笑って、芹香を見上げる。
「貴女の歌声、綺麗なんですもの。羨ましくなっちゃってつい取り上げちゃったの」
「う、羨ましいですか?」
「そ!でも歌を取り上げているうちに何だか妬ましくなって〜。で、謳えなくしちゃったわけ」
困った妖精もこの世の中にはいたものだ。
まさか妬みだけで人の声を奪ってしまうなんて。
「あ、あの。出来れば返していただけませんか?」
「彼女も大好きな歌を歌えなくて、困っているそうなんです。もしこのままだと、貴女も綺麗な歌が聴けなくてつまらなくなりますよ?」
護も懸命にお願いをする。妖精は考える仕草を見せながら沈黙を続ける。
どうやら交換条件を考えているようで。
「じゃあこうしましょ?貴女は一日一回、私に詩を歌うの。勿論、この貝の詩を」
「い、一日一回ですか!?」
「そ。それ以外は夜なら詩ってもいいわ。どお?」
悪くないでしょう?と付け加える。
確かにこれ以上交渉しても、相手は譲歩しないだろう。
芹香も、歌えるのであればとそれを承諾する。
●詩は‥‥
数日後、風の噂によれば。
芹香は詩を歌えるようになり、毎日妖精の為に歌っているようだ。
妖精も、イギリスでは祭られていたのに、ジャパンではそうでもなかった為、いじけていたようでもあるといっていた。
「何だか、本当に迷惑な妖精さんでしたね‥‥」
「でも、芹香の声はとても綺麗だから。妬ましく思っても無理はないと思うわ」
蒼花が苦笑を浮かべて、そう言う。
冒険者達は、芹香から預けられた依頼金をギルドから受け取ると、それぞれの旅路へと戻るのであった。