【水戸】反乱分子
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■シリーズシナリオ
担当:相楽蒼華
対応レベル:3〜7lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 25 C
参加人数:5人
サポート参加人数:4人
冒険期間:08月22日〜08月28日
リプレイ公開日:2005年08月23日
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●オープニング
ギルドへと急ぐ人影が其処にはあった。
その表情はどことなく曇っている。
ギルドへと辿り着くと、一度立ち止まり、大きく深呼吸をして中に入る。
「冒険者を数名、水戸の為に貸してほしい」
「と、唐突ですね?一体どうしたんですか?」
「今詳しい事は言えないのだが‥‥あの穏やかな水戸で内乱が起きるという情報があったのだ」
目隠しをした青年‥‥十兵衛がそう告げる。
ギルド員も少し首を傾げて十兵衛を見る。
雲野十兵衛。若くして水戸藩の隠密の長である。
いつも目隠しをしているようだが、聴覚、嗅覚はいいらしい。
「確か、水戸というとあの勇猛な武将、本田忠勝殿がいらっしゃる藩ではないですか?」
「‥‥うむ、そうなのだが‥‥彼は今表立って動けない。藩主の命令により光圀様をお守りしている」
「御庭番でも手が足りないのです?」
御庭番。
其れは水戸藩の隠密部隊の名前である。
名前だけは水戸では知られているものの、顔は未だ知られてはいないという。
今現在のメンバーは5人いるという。
「俺達は存在を知られている。つまり、存在をあまり知られていない、冒険者の方が役に立つ」
「ははぁ‥‥其れは大層‥‥。で、依頼内容はどういったもので?」
「黒奇堂‥‥今水戸ではそういう名の商人達があくどい商売をして回っているという」
「あくどい‥‥と、いいますと?水戸藩では手が出せない理由でも?」
「相手がどうやら一部の藩士と手を組んでいるらしくてな。その証拠がないのもあって手が出せないでいる‥‥もし、現状況で此方が動いてしまえば、藩士の方は姿をくらましてしまうだろう‥‥商人達を囮にして、な?」
十兵衛がこめかみを押さえてそう言う。
そして、気になる言葉をつけくわえる。
「それに、ここ最近水戸の付近で死人憑きが多発していてな‥‥其れの原因も調べねばならない‥‥」
「妖怪‥‥内乱‥‥死人ですか。何だか大荒れしそうですね‥‥」
「悪徳商人達のこともあるが、流石に死人憑きを放置は出来ない。悪徳商人の事を頼む前に何とかしてほしいのだ。冒険者達なら出来るだろう?」
「‥‥手配だけはしてみましょう」
「鎮める為に、どうか力を貸してほしい。何の繋がりがない事を祈りたいが‥‥」
十兵衛は深く頭を下げた。
●リプレイ本文
「さて、準備は整っているようだな?」
冒険者ギルドにて。
出発の前に情報を集めてくれた仲間達と一時の別れの挨拶をしているその時に。
彼、雲野十兵衛が姿を見せた。
目隠しをしている忍。其れはどの冒険者にも珍しく見えるだろう。
「そういえば、十兵衛様もご同行なされるのですか?」
十兵衛に聞きたい事があるという桂春花(ea5944)が尋ねる。
十兵衛は静かに首を縦に振る。
「冒険者だけで行かせて、死なせては私の名にも関わるからな。悪いが、同行させて貰う」
「そうですか。では、手間が省けますね。水戸周辺ということですが、大体はどの位置に?」
「まずは水戸から少し南へと下った地。其処から排除せねばならないだろう」
「まずは?ってことはぁ‥‥他の場所にもいるってことねぇん?」
卜部 こよみ(ea8171)が少し溜息をつきながらも尋ねると、十兵衛はまたも頷く。
「しかし、そんな目隠しつけながらついてきても大丈夫なんじゃろか?」
「‥‥これでも水戸の御庭番。早々とは討たれる事も無い。安心するといい」
こうして、冒険者達は水戸までの道のりを出発するのであった。
○道中に見た狂気
「それでは、歩きながらでも死人憑きについてお話しておきましょうか」
春花がそう告げる。唯一死人憑きについての知識を持つのは一人だけ。
なので、前もって死人憑きについて教えておこうというのだ。
「そうですね、お願いできます?」
「それでは、恐縮ながらも。死人憑きというのは、大体は死者の躯に悪霊が乗り移り、そうなるといわれています。神聖黒魔法なんかでは、死人憑きを作り出す魔法もあったりはしますが‥‥」
「魔法かどうかっていう見分けはつくのかしら?」
不安そうに緋月飛鳥(eb1574)が呟く。確かに魔法ならば何かしら形跡はありそうだし、すぐに分かるかも知れないのだが、もしそれが‥‥自然発祥だとするのならば、以前の京都の乱の事もある。
心配なのだろう。
「見分けは‥‥残念ながらつかないでしょう。何処かにその死人憑きを生み出した人がいるかどうか、そして魔法の痕跡があるかどうか。そうやって調べるしか見分けは出来ないでしょうね‥‥」
「そういえば、一つ奇怪な話があったな‥‥頼房様は考えたくないと言っておられたが」
十兵衛が呟くと、今まで黙っていたフィーナ・グリーン(eb2535)が口を開いた。
「奇怪な事?一体どういったものなんですか?」
「ふむ‥‥この事は他言無用でお願いしたい」
「その辺は安心してよねぇん?これでも冒険者、お仕事受けたからにはお口チャックもお仕事よん」
こよみが笑顔でそう言うも、少し心配なような十兵衛だったが、小さく頷いて告げる事にした。
「先程いった、水戸を南へと下った地‥‥昔は村だった地なのだが、もう村はない。生存者はいない」
「生存者がいない!?どういう事なんですっ!?」
「‥‥其れが不思議なのだ。京都のあの乱の後‥‥その村で一人男が何者かに襲われたらしい‥‥」
十兵衛のその言葉に少し思いあたる節がある飛鳥。しかし、確証も持てぬままなので話を続けてもらう。
「その男は死んだ。そして蘇ったのだ‥‥死人憑きとしてな。そして、その村は一日で全滅してしまった」
「其れは‥‥本当なの!?」
「あぁ、確かに全滅という報告があった。‥‥何か存じているのか?」
「しかし、村が全滅しているのに報告がきたんですか?」
「その村は光圀様が歩き回られていた村だからな。御庭番がいつも監視していたのだ」
「もしかすると‥‥黄泉人の仕業かも知れない。でもどうしてあれがこんな所にまで‥‥?」
「黄泉人‥‥ふむ、京都に連絡をとった方がいいかも知れないか」
十兵衛がそう呟くと同時に、遠くから悲痛な死人憑き達の叫びが聞こえてきた。
‥‥其れは、群れを作り‥‥水戸へと向かうかのように北上しているように見えた‥‥。
○死人を鎮める為の歌
「どうやら‥‥遭遇出来たようだな」
「そうみたいですね。これも退治するのですか?」
「援護はする。そうしてくれると助かる」
「んじゃ匂いが付かないようにさっさと片付けないとねぇっ!!」
こよみが邪笑を浮かべながら小太刀を抜く。
「こよみ殿!これも貸しておくのじゃ!」
苗里功利(eb2460)も得物を抜きながら、こよみに道返の石を渡す。
にぃっと笑って、こよみと功利は前線へと走り出す。
「それでは、私は援護に回りますね」
詠唱を始める春花。
其れを狙ってわらわらと群がり来る死人憑きにスマッシュが叩き込まれる。
「桂さんは私が守ります!他の人は薙ぎ払ってください!」
「まるで先の京都だわ‥‥」
「飛鳥殿、だったか‥‥。京都の人もこのような事態になったのだとしたら、心苦しいだろうが‥‥歌ってやってくれ。鎮める歌を」
十兵衛の口元が少し緩んだように見えて、笑ったかと思えた。
飛鳥は大きく頷くと、自分の得物である薙刀を構えた。
「うっしゃあぁぁぁぁ!」
グシャリと功利の得物が死人憑きを潰していく。
そして、功利の周りの死人憑きが全て倒れた時、功利は突然死人憑きの懐を探り始めた。
「南無〜‥‥すまんが、コレも仕事じゃからの‥‥死人憑きになったのが運の尽きじゃと思うて勘弁じゃ。解決したら、遺品があれば遺族に届けてやるからの?」
どうやら、遺品等を捜しているようだ。
生前の身元が分かりそうなものをと思ってこうして探っている。
「んもぅ!一体何なのよ、この群れはぁ!むかつくぅ!」
「仕方ありませんよ、きっと好きでこうなったわけではないのでしょうし」
春花がディストロイでとよみ達を援護する。
「本当にこの死人憑き‥‥悲しい目をするものだな」
「十兵衛様、危ないですから此方へ‥‥!」
春花がそう言おうとすると、十兵衛は素早く刀を抜き、切り伏せる。
その手に持たれていたのは小太刀二刀。忍刀ではなかった。
「意外です‥‥目隠しをしながらもあんなに戦えるだなんて‥‥」
死人憑きは冒険者達によって蹴散らされた。
死人憑きの山の真ん中には、疲れ果てた冒険者達が立っていた。
「はぁ‥‥はぁ‥‥やっと終わった‥‥ぁ!」
「本当に沢山の‥‥死人憑きがいました、ね‥‥」
「しかし、これで本当に供養になるのでしょうか‥‥」
春花が小さく呟いた。その言葉に十兵衛は軽く頷いた。
「‥‥きっとなっただろう。そして、皆に感謝してると思う」
「そおねぇん。望んでああなったわけではないしねぇん?」
「まぁ、幾つかの遺品もあった事じゃし、供養していくかのぅ‥‥」
そして、功利が遺品を地に埋め、冒険者全員で手を合わせた。
死者への冥福の祈りを捧げたのであった。
「これは一刻も早く水戸に向かわなければならないようだな‥‥」