【水戸】シビト
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■ショートシナリオ
担当:相楽蒼華
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 87 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月20日〜09月26日
リプレイ公開日:2005年10月13日
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●オープニング
「頼房様‥‥!」
「どうした、春日?騒々しいぞ!」
「‥‥前田殿が、重傷を負いました。今、此方で手当てはしているのですが‥‥」
「何と‥‥!やはり一人で行かせたのは不味かったか‥‥!」
頼房も頭を抱える。
冒険者にまた頼らなければいけないという状況だ。
前田慶次は今、東の死人憑きの群れを一人で退治しにいったが為に負傷し。
本田忠勝は城内の事もあり、今手が離せない。
「もし、こんな時に襲って来られたら‥‥」
「‥‥死人憑きの群れはもう水戸を目の前にしているみたいだな」
「御屋形様の帰りを待つしかないね」
「いや、もう一度冒険者を頼ろう。もし、これが無理なのであれば‥‥水戸は」
「本当に大丈夫なのでしょうか?」
水戸の忍軍、御庭番の春日が不安そうに呟いた。
頼房の言う事に逆らうつもりはない。
しかし、今までを見るに動ける冒険者も限られているのだろう。
「水戸の城下に入られては被害は甚大。というて藩士達は城と町の防備で手一杯なのだ。冒険者を頼る他ない」
「しかし、其れを期待して東の群れを頼みにいったのに‥‥!」
「確かにそうね。頼みの前田殿は負傷してしまうし。‥‥東の村も全滅したしね」
「春日。不安なのは分かる。そして、此れがダメだとするのであるならば!‥‥水戸は死人憑きを防げんだろう‥‥」
「もう一度頼んできてみます!これでダメなら‥‥」
春日の不安は消える事はなかった。
翌日。江戸のギルドに死人憑き退治の仕事が張り出された。
「‥‥水戸は江戸の防波堤。失えば足がかりになってしまいますねぇ‥‥」
「だから私達は必死なんです。分かってもらえますか‥‥?」
「分かるといえば分かりますよ。別の報告書で気になる報告も頂いてますし」
「気になる?」
春日が尋ねる。ギルド員は苦笑を浮かべた。
「どうやら、この死人憑きの原因‥‥黄泉人の仕業かも知れないという事ですよ?大変なのに目をつけられちゃいましたね」
「! だったら、放っておいたら民は‥‥!?」
「皆、死人憑きになってしまう恐れがありますね。ですが、これはまだ確定ではないのです。後は冒険者達に任せましょう」
ギルド員の言葉は、春日の耳には届いていない様子だった‥。
●リプレイ本文
わずか六人。
水戸藩の大事ならばこの2倍、いや5倍の冒険者を雇っても良さそうなものだ。
水戸の内情、それほどに苦しいのか‥‥。無論、藩士達はそれぞれの持ち場で力を尽くしていたし、冒険者だけで全ての死人を食い止める訳では無い。
それが分かっていても、参加した六人の不安は膨張した。
「水戸の地形をよく知る春日嬢の手を借りたい。江戸にいらっしゃるのか?」
ビザンチンのルイ・アンキセス(ea8921)は冒険者ギルドで水戸の御庭番、春日を探した。
「春日さんなら、一足先に帰られましたよ。水戸の事が気になる様子で‥‥」
ギルド員は言葉を濁したが、おそらく春日は江戸で黄泉人の話を聞き、居ても立ってもいられなくなったのだろう。
「うーむ、それならば仕方無いな‥‥」
水戸入りの前に詳しい話を聞きたかったルイだが、それだけ事態が切迫しているのだろう。
幸いに参加した冒険者の中に水戸を知る者がいるから、水戸までの道程に心配は無い。それからの事は、現地で考えるより他無かった。
「道中の無事を祈っていますよ」
「任せておけ」
江戸城で剣が見つかったという噂で、江戸もざわついていた。
異変が続くように感じるのは、何か関連があるのだろうか。
「――今は、一刻も早く水戸に到着することが先決です」
イギリス出身の女騎士ルナ・フィリース(ea2139)はルイから借りた韋駄天の草履を使って、水戸街道を急いだ。
ルナに同行するのは忍者の玄間北斗(eb2905)。
「‥‥みっちゃん、大丈夫かなあ」
北斗は以前の仕事で水戸の次期藩主光圀を江戸から水戸まで護衛したことがある。幼い光圀が今、水戸で窮地に遭っていると思うと北斗の胸は痛んだ。
「早いな。てるてる坊主の御利益があればいいが‥‥」
地上を行く二人を上空から見下ろすのは大凧に乗るルイ。大凧が風に流されたり、地上の二人を見失わないように気を使った。
江戸から水戸までは直線距離で約百キロ。先行組はこの距離を一日で走破するつもりだった。
しかし、韋駄天の草履で地上を行く二人はともかく、ルイの大凧は水戸まで魔力がもたない。何時間も大凧を操って飛ぶのも疲れるから、途中で地上の二人と交代しながら移動した。
ルイ、ルナ、北斗の三人に遅れて後発組も江戸を出発していた。
先行の三人には敵うべくも無いが、こちらも荷物を馬に載せてなるべく急いでいた。
「京都で暴れている奴等か‥‥。はたしてどんな奴等なんだろうな」
用心棒の鬼嶋美希(ea1369)が仲間達に尋ねる。
彼女達が水戸に着くのはどんなに急いでも二日目の夜だろう。すぐに戦闘が始まる事も十分に在り得る。
「伝聞でしか知らないが、何でも干物のような姿らしいぞ。それが死人どもを操ってるんだ、気味の良いものじゃ無いな」
桐澤流(ea4419)が言った。流は刀鍛冶を生業とする侍で、口調は荒っぽい。
「強いのか?」
「でなけりゃ、俺達が呼ばれたりはしないさ‥‥しかし、水戸藩というのは貧乏なのかね」
流は疑問を口にする。自分達が弱いとは思わないが、江戸には彼らより高い名声をもった高名な冒険者が幾らでもいる。水戸が大藩なら、高名な冒険者に頼むべきでは無いのか。
「詮索しても、意味は無いが‥‥俺達は受けた仕事をこなすだけだ」
「そうっ、力の限りぶちのめしてやろぅっ!」
大道芸人の狗芳鈴(eb3258)が元気に宣言した。
「何処の誰か知らないけど、せっかく寝てる人を無理から起こして悪いことさせるなんてあったま来るよ。正義のてっけんをお見舞いしてやる〜〜」
芳鈴は華国出身のハーフエルフ、世間一般の混血児のイメージと異なり、えらく明るい。
「‥‥大筋に異論は無いが」
「問題は相手の数だな」
流と美希が頷きあう。死人の数が十や二十なら個人の武勇で対応できるが‥‥もし、それより多かったら‥‥手が足りない。その確認と、可能な限りの事前準備の為に冒険者達は半数の人数を先行させた。
「そーそー、動くシビトはぞんびってゆって、油揚げに弱いって酒場にいたおっちゃんが教えてくれたよ。だから必勝祈願にくばっとくねぃ」
真顔で油揚げを配る芳鈴。
大真面目らしいので美希と流は神妙な顔で受取り、対処に困った。死人憑きや黄泉人に詳しい僧侶が居れば失笑したかもしれないが、このあと冒険者達は油揚げをぶら下げて戦っている。
「どうかしたか?」
水戸に着く直前、流が思いつめた表情をしているので美希が尋ねた。
「顔が強張っているぞ」
それほどお節介な質でも彼女が殊更に聞いたのは、今回の仕事で仲間との連携が生死を分けると思う故。
「他人に話すような事でも無いんだが‥‥久しぶりの仕事なんだ。緊張ぐらいするさ」
冒険者は辞めた。誰のためにも二度動かん‥‥そう思っていた。
「‥‥」
●死人戦
水戸藩、西部の山地。これより更に西へ行くと下野の国に至る。では西の村々を襲う死人憑きは下野から来たのかと思えるがその痕跡は無い。東の時もまた然り。
まるで地面から湧き出たような大量発生は、確かに大和の亡者騒動を思わせた。
「間に合ったっ!?」
御庭番の春日は藩主頼房に黄泉人の情報を伝えた帰りに、先行組とバッタリ出会う。
福原、笠間の村を襲った死人の群れは数を増やして水戸への道を行こうとしていた。春日は縋りつかんばかりの勢いで冒険者に頼む。
「今、水戸へ行かれたらお城も町も大変な被害が出てしまいます。なんとしても、ここで防ぐしかありませんっ!」
「勿論なのだ。でも、そんな怖い顔しちゃ駄目なのだ。確かにおいら達は未熟で頼りないかもしれないけど、一人が無理するよりもよっぽど事を成せるのだ」
北斗が安心させるように笑った。
その笑顔は、暗い表情の春日と水戸の武士達に僅かな光明となるか。
「力を貸してくださいっ」
「任せるのだ」
春日は村々の防御に手一杯の侍に代わって、冒険者に西の死人の核を――死者を操る元凶を叩いてくれと頼む。
「ふむ、核か‥‥おそらく群れの中で一番の塊だろう。それは俺の役割だな」
休息を取って魔力を回復させたルイが大凧で偵察に行く。
その間にルナと北斗は迎撃に手頃な場所を調べた。時間的な余裕は殆どない。陣地作りや罠の設置は望めないが、せめて近隣の村人の避難、それに武士達との連携を決めておく必要がある。
春日が藩主から冒険者に協力するようにとの命令を貰ってきていたので、足軽が6人、冒険者の援護に回された。
しかし、ここで問題が起こる。
「間に合わない?」
「ええ。ルイさんの話から、群れのおおよその速度が分かったんですが、鬼嶋さん達より先に接触する事になりそうです」
ルナが仲間達に説明する。春日の意見も聞いた上の推測だから精度は高い。
「仕方ありません。私達だけでも‥‥戦いましょう」
「春日嬢の気持ちは立派だが、それは無謀だ。君や俺達がやられたら、水戸はどうなる? 何か方法があるはずだ‥‥それを考えよう」
ルイは春日を諭したが、名案は無かった。おそらくは数刻の差か、自分達が骸に変わるには十分過ぎる時間だ。
「想定よりも東‥‥水戸寄りで戦うしかありません。群れを相手にするには十分な地形とは言えませんが」
「その程度は予想の範囲というより他無いな。少しばかり運が無いと言って、腐っていては戦えない」
ルイは北斗に大凧を貸した。
「俺は魔力切れだ。すまないが代わりに行って、今の事を彼らに教えてくれないか?」
「おいらが? 分かったのだ」
北斗は急いで飛び立つと、鬼嶋達に死人の群れの動きを教えた。
「来ました!」
前衛に立つルナは亡者の群れの前列を確認するとオーラパワーを愛用のレイピアにかけた。死人相手に突剣では不利と言われたが、欧州を発つ時にも持参した家名の刻まれた剣だ。
「これ以上先には行かせません!」
前列の死人憑き達は、眼前に立ちはだかった女騎士に声にならない叫び声をあげた。
不幸にして命を落とした彼ら、彷徨う亡者となった者は、生きる者を激しく憎む。貪り喰おうと、女騎士に殺到した。
「ハァーっ!」
裂帛の気合いと共に放ったレイピアの突きが衝撃波を生み出し、前方の死人憑き達の体を刻む。恐れを知らない死人達は傷つきながらも向ってくるが、確実にダメージは与えられた。
「気を抜くな! どんどん来るっ」
女騎士の左後方にいたルイは、積極的にルナを援護した。赤糸威の鎧に身を包んだ長身の戦士は半ば自分の体を盾にして死人の攻撃から仲間を守った。
「何とか、やれるか‥‥」
急所を避ける見切りと厚い鎧のおかげで、亡者の爪も牙もルイを傷つける事は出来ない。無論、押し倒されでもすればおしまいだから、捕まらないように必死で体を動かす。
「おいらもやるのだ〜」
仲間の善戦で死人の前列が止まった。北斗は二枚の八握剣に紐を通して振り回し、死人の群れに飛び込む。そして斬りつけられた亡者が北斗の方を向くと、彼は誘うように下がった。
多勢に無勢は自明。冒険者もそれに従う足軽も踏ん張らずに後退した。上手い後退戦とは行かないが、足を止めて踏ん張れば囲まれて終わる。
ルイ達が全滅する前に、亡者の後方が崩れた。
「待たせたな! 仲間を可愛がってくれた借りは返させてもらう!」
美希は両手で握った日本刀を死人憑きの背中に叩きつけた。流のオーラパワーを付与された一撃は、死人を粉砕する。
「何とかか‥‥だが」
流は戦場に倒れる犠牲者達に目を向けて歯軋りしたが、生きている味方に向けて叫ぶ。
「戦いはこれからだ! 手柄を立てた暁には、水戸藩主光圀公より褒美が賜られるぞ!」
色々と問題発言だが、咎める者はその場にいない。せいぜい亡者を落とし穴に落としていた北斗が「みっちゃんは藩主じゃないのだ〜」と小声で反論したくらいである。
「水戸を守りたければ己が手で戦え! 死神は実力で追い払え!」
自分達に気付いて方向転換した死人憑きに向けて、流は離れた距離から野太刀を振り下ろした。衝撃波が死人を破壊する。
たった二人だが、一撃で亡者を倒す事の出来る戦士が加わった事は大きい。瓦解寸前の防衛陣を支えた。
難点を言うなら美希も流も防御が薄いこと。死人に囲まれたら、簡単にやられてしまうことだ。
「僕が守りまーす」
芳鈴は大技を使って隙の多い流と背中を付けて戦った。囲まれた時は金棒を振り回し、また両手の金属拳の強打を死人に見舞った。
「‥‥くっ」
早期決着を狙って敵中深くに切り込んだ美希は窮地に立った。
「あわよくば黄泉人を倒せればと思ったのだが‥‥甘い考えだったか」
孤立した美希を四方から死人が襲う。二体までは倒したが、一体が美希の背中を引き裂く。動きの鈍った彼女の喉笛に別の一体が食らいつく。
「!」
寸前で滑り込んだ北斗が八握剣を亡者の口に叩き込む。口を裂かれて呻く死人を蹴倒して北斗は美希の前に立った。
「‥‥無茶をする」
「気になった子を護るのは、男にとって当然の事なのだ」
北斗は倒れた死人の口を砕いて八握剣を回収し、真顔で言った。
「‥‥これはおいらの自己満足だから気にしなくて良いのだ」
その後、冒険者達は死人の群れに打撃は与えたが倒し切る事は出来ず、後退した。
群れは水戸に入ったが、冒険者達の働きで数を減らした亡者達は水戸の武士達に撃退される。被害は出したが、ひとまず水戸陥落の危機は免れたのである。
(代筆:松原祥一)