悩みの種 花魁編
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■ショートシナリオ
担当:相楽蒼華
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月07日〜12月12日
リプレイ公開日:2004年12月10日
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●オープニング
最近、江戸の一部で一つの噂が立っていた。
江戸のとある屋敷に、専業の花魁がいるというのだがこれがなかなかの男嫌い。
滅多にいない美人な為に、言い寄る男は数知れず。
だが、誰一人口説き落とせた者はいないというのだ。
無口でおしとやかな花魁でもあるので人気は高いのだが、「高嶺の花だ」と諦めてしまう男が多い為、
「あの花魁を口説き落とせる者はいない」と言われる程になってしまっていた。
「そんな噂立てられると、こっちも商売あがったりなんだよねぇ‥‥」
屋敷の主人がトホホと机に塞ぎ込む。屋敷の主人は接待業に身を投じており、巷では高級店と噂されるまでにのし上がっている。
しかし、無闇に噂を立てられてしまい、どんな人物なのか?と屋敷の周りを無数の男達が屋敷に群がるようになってから、屋敷へと向かう客はこんな状態じゃなにをされるかたまったもんじゃない、とすぐ帰ってしまうのだという。
そうして、客足も途絶え始めたのだと言う。
「しかも、難儀な事に‥‥その花魁を絶対に口説き落としてみせる!と男達が息巻いておっての‥‥。このままじゃあの花魁も仕事が手につかなくなってしまう‥‥」
悩んだ挙句、ギルドにどうにかして欲しい。という依頼を持ち込んだのである。
「しかし、追い払うだけでは諦めはせんだろうし‥‥。いっそ、あんな奴等より先に口説き落として諦めさせてほしいのじゃが‥‥。あの花魁は噂の通り、なかなかの男嫌いで無口でおしとやかな分、口ぶりも冷たく棘があるのでな‥‥気難しい所なんじゃよ‥‥」
そこで、冒険者ならば色々な経験がある為、どうやって扱っていいかも分かりやすいだろうからという事で最後の頼みで来たという。
「このままでは商売にならんのじゃ。どうか頼む!なんとかあの男達を諦めさせてはくれんかね?」
結局、ギルド員も押しに負けてしまい、承諾。「口説き比べ」として依頼の紙を貼り出したという‥‥。
●リプレイ本文
屋敷の使いの者の案内で、冒険者ご一行は男達が群がる屋敷の前まで案内された。
いきなりへんてこな花魁女性を口説けという変わった依頼を受けてくれた冒険者達に感謝すべきなのだろうか。
「まずはこの男達を何とかしねぇと中に入れそうにねぇなぁ‥‥」
巴渓(ea0167)がめんどくさそうにぼやくと、男達の抑えに入る。しかし、この人数を一人で抑える‥‥というのはまず難しいだろう。
口説くのが目的である為、二人ずつその花魁がいる縁側へと赴く事になった。
●酒で悩みは飛ばせるか?
まず赴く事になったのは灰原鬼流(ea6945)と伊達正和(ea0489)である。
縁側にすわり綺麗な着物を着こなした女性、星蘭は二人に気がついたのかちらりと視線を移すが、すぐにまた違う場所へと視線を移す。二人は顔を見合わせ、少しため息をつきながらも、星蘭の隣に座る。
「酒でもどうだ?、一人で飲むのも味気ねぇしよ?」
「‥‥‥」
星蘭は黙っているものの少し小さく頷くが、やはり距離をあけてほしそうに自分から少しずつ離れ始めていた。
鬼流は、やはり苦笑していたが気にしないように猪口に酒を注いでやる。二人には聞きたい事が山ほどあった。まずはそれを知るべきだと判断したのか、鬼流が話を切り出す。
「‥そーいや‥男嫌いなのに何で花魁何てやってんだ?」
この疑問はどの冒険者も持っていたものだろう。星蘭もやっぱり聞いてくるか、と予感していたのだろうか。苦い顔をしながら、まだ空を眺めている。懐かしい何かを思い出すかのように。
「別に貴方達には関係ないでしょ?アタシと貴方は他人。他人に話す話はないわよ?」
「でもやっぱり不思議じゃないか。俺も聞きたいんだ、教えてくれないか?」
星蘭の冷たい口調を宥めるかのように正和が呟くと、暫く押し黙っていた彼女も口を開く。
「別に花魁にも男嫌いって人いてもおかしくないじゃない。‥‥仕方なくこんな仕事やってる人もいるってことよ、我慢してさ?」
「なんで我慢してまで続けるんだ?そういう理由でもあるのか?」
「‥‥そこまでは男なんかにゃ話せないわよ。用事が終わったんなら帰ってくれない?一人になりたいのよ」
星蘭にそういわれ、ほかの人が待つ場所へと戻ろうとする時、鬼流はふと立ち止まって星蘭へと振り返った。
「‥そういや星蘭って名前‥本名か?、ジャパンじゃ珍しい気がするんだが‥華国の名前みてぇだな」
「星蘭という名しかアタシにはないよ。本名なんてありゃしない。それが花魁でしょ?」
そう答えられ、鬼流はふぅんと頷いて、その場を後にした。
●蜜柑坊主と筋肉少女?
次に向かう事になったのは渓と八幡伊佐治(ea2614)である。
星蘭を見つけると、何を思ったのか伊佐治が懐から蜜柑を取り出し、投げる。気づいた星蘭は少し慌ててその蜜柑を受け取った。その時、いい匂いを感じたのかずっと蜜柑を眺めていた。
「隣、いいか?」
渓にも蜜柑を渡しながら、返事を待たずに隣に座る。やっぱり星蘭は自然とその距離を自らあける。
その光景を見て少し呆れながらも、蜜柑の皮をむいていく渓を見て星蘭もゆっくりと皮をむき始める。
「でも、どうして蜜柑なわけ?」
「僕が蜜柑を食べたかったから♪」
「‥‥珍しい組み合わせなうえに蜜柑‥‥変な人達ねぇ‥‥」
ぼやきながら蜜柑の皮を剥く星蘭に、伊佐治はゆっくりと話し出す。
「周りが煩く思えて、全てを拒否していたような時期があったんだが、師匠様に一つ一つ細かく指摘され、ようやく気付いたウツケだ。何もせずとも人が集まって来てくれるというのは、何と幸せな事だったのだろう、とね。星蘭殿も幸せだね」
「‥‥別にアタシは望んでないのに」
小さく呟かれた言葉を聞き逃す事はなかったが、何か事情があるのだろう。あまり深くまで踏み込むと厄介なのであえて突っ込まないでおくことにした。
へっ、言いたい事があんなら、さっさと客でも取りな。男嫌い?だったら、何で花魁なんぞ名乗ってる?甘えてんじゃねェぜ!」
「アンタにはわかんない事よ。別に好きで名乗ってるわけじゃ‥‥ってこれじゃ堂々巡りよね‥‥」
言葉に困る星蘭を見て、伊佐治は何かをひらめいた。
「ほれ星蘭殿、あ〜ん♪」
「へ!?な、なんのつも‥‥むぐっ!」
振り向いたとこいきなり蜜柑を突きつけられたのでかわす事も出来ず蜜柑を食べてしまう。甘酸っぱい香りと味で少し心が落ち着いたのか、ほんの少しだけ、笑みを見せた。
が、渓はあまりよろしくないと思っているご様子。そんな彼女を見て、伊佐治は蜜柑をもうひとつとり
「ほれ巴ちゃんも、あ〜ん♪」
「バカ!俺は別にそんなもん‥‥!」
「たまには可愛い顔も見せればいいのに♪」
‥‥口説くというよりも雑談に華が咲いたのはいうまでもない。
●口説きと口説きのぶつかりあい
次に向かったのはクリス・ウェルロッド(ea5708)とデュラン・ハイアット(ea0042)の外国人ペア。
しかもこの二人は口説きの術だけは自信ありのご様子。とんでもない展開が予想されるこのごろ。
「何時も縁側に座っていらっしゃるようですが‥‥何かお気に入りのものがあるんですか?」
「ん‥‥強いて言えば空よ。空の色がいいと風も気持ちいいし、気分が晴れるの」
「空ですか。確かに、空が綺麗だと気持ちも晴れ晴れしますよね」
星蘭の話にクリスが話を合わせ、雑談を繰り広げていく。今までのナンパの技術を駆使しているようだ。
「そういえば君の名前‥‥綺麗だね?空に輝く星と鮮やかに咲く蘭の花か、美しい名前を持っているのだな」
「でしょ?ここの主人がつけてくれたのよ。アタシもお気に入りなの」
会話のお陰か、少しずつ心を開いているがやはり距離はあけたまま。よほどの男嫌いなのか、トラウマでもあるのか。
「何か事情があるのかは分かりませんが、貴方はとても美しい‥‥。ですが、私は、貴女の運命の人では無いでしょう‥‥。でも、宿り木にはなってあげられる。羽を広げたままでは、疲れてしまうでしょう?私で良ければ、何時でも羽を休めてください」
お得意の笑顔を見せて、星蘭を安心させようとするクリスに思いがけない言葉が心に突き刺さる。
「あ、アタシは確かに花魁だけれど、女性の客は取らないわよ、流石に!?」
「へ‥‥?」
「え?女性じゃなかったの?」
星蘭のその一言は、クリスの心にクリティカルヒットした様子。クリスはほろほろと涙を流しながらも隅でいじけ始める。そして、さっきの口説きに負けじとデュランが言葉をつむぎだす。
「君は確かに誰よりも綺麗だ。月道で色々な国の女性を見てきたがその中にも綺麗な女性はいたがね。でも‥‥君が笑ってくれたら。誰も君には敵わないな」
「あら、お世辞が上手いのね。そういう言葉、花魁じゃなかった時に聞きたかったわねぇ‥‥」
からかうように笑いながら星蘭はそう告げた。
●最後はまったり♪
最後に向かったのは神山明人(ea5209)と魅繰屋虹子(ea2851)の二人。
虹子はどうやら姿絵を描かせて欲しいとの事。男装して、道具一式を片手に一足先に星蘭の元へと走る。
明人は美味しい団子を買いに出ている為、少し遅れるだとか。
「俺は魅繰屋虹之介という絵描きだ。貴女の姿絵を描かせて欲しいと思っているんだが‥‥」
「姿絵ぐらいだったらいいわよ?でも、あんまり近くに来ないでね?」
了承が楽にとれたのが意外だったのだが、虹子は嬉しそうに絵を書き始める。その間に明人も団子をもって戻ってき、お茶を入れてまったりとした雰囲気にかわっていった。
「そういえば、貴女は好いた男はいたのかい?」
「いたけど、どうしようもない男だよ。そんな男に引っかかってこんなとこにいるアタシもアタシだけどね」
それ以上の言葉は綴らなかった。やはり何かがあるのだろうか。
「俺でよければ何時でも話相手にはなるぞ?‥‥落ち着いた一時があれば、だが」
「その気持ちだけ受け取っておくわ。アタシには話す事なんてないわけだしね?」
相変わらず冷たい口調が苦笑を誘う。それでも虹子は姿絵を書き上げていった。出来た姿絵を星蘭に手渡し、
「単に眼に映るものをそのまま描くのではないのだよ。対象となるものの所作や眼差し、香りや温もり、そこから感じられる内なる思いまでそのまま紙に焼き付ける。美しいものを描くということは、そういうことなんだ。描かせてくれてありがとう」
「素敵な絵ね‥‥此方こそありがとう。大事にさせて貰うわね‥‥?」
寂しそうな彼女の目が二人にとっては印象に残ったという‥‥。
●出来事の結末
そして、次の日。屋敷の主から手紙がギルドに届いた。
どうやらあの花魁の星蘭は過去にとある人に売られてきた華国の人間で無理矢理花魁として働かされていたのだという。冒険者達と話をして花魁という職業に縛られるのをやめたいという事を言い出したらしい。屋敷の主としては、看板娘がいなくなるのは寂しいが本人の意思が強かった為、花魁をやめさせ故郷へと帰らせたそうだ。
その日から群がっていた男達も生気が消えたように無気力になっているのだとか。
いい結果かどうかは分からないが、彼女は何時か自分だけの笑みを見つける事が出来るかも知れない。
そうなる事を冒険者達は願うのであった。