嘆きの恋
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■ショートシナリオ
担当:相楽蒼華
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月05日〜01月10日
リプレイ公開日:2005年01月07日
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●オープニング
平和な江戸。そんな平和さとは別に江戸から北にある町では、今にも種族争いが起ころうとしていた。
その話は、その町の一人の老婆が江戸の酒場で話していたのをギルド員が聞いたものである。
その町は、他国から移り住んだエルフの家族と町の人間が仲良く暮らしていたのだが、エルフの娘と人間の青年が恋をしたと聞いてから互いの仲が悪くなり始めたのだと言う。
この世界では人間とエルフが婚姻する事は忌み嫌われており、その間に生まれるハーフエルフもまた忌み嫌われた存在。そんな存在が自分達の町にいれば誰だって嫌になるというもの。更には近年移り住んできたエルフ達が人間を誑かしたと言う噂まで広がっており、それが後押しとなった形になってしまった。
こうしてエルフと人間は対立を始め、挙句にはモンスターを使っての種族争いが始まったのだと言う。
些細な争いの繰り返しによって、少数のエルフは一部の地域に追いやられてしまったのだという。流石にこれには他国から移り住んだエルフも気分が悪いというもの。エルフの定住はジャパンでは珍しい為、ここに移り住んだエルフも3家族ぐらいである。
人間の代表として存在しているのは僧侶の青年。ズゥンビを駆使してエルフの排除を考えているらしく、夜な夜な墓地から死体を運び出し、準備を整えているという話がある。
エルフの代表として存在しているのはレンジャーの娘。その娘は身振り手振りでコボルトを口説き落とし、人間を襲わせようとしている。しかも統率が下手にとれている分、厄介なものになりうるだろう。
総数はコボルト4匹と2匹だという。このままでは町の対立は激しくなり、最終的には治安も悪くなってしまい、落ち着いて住めなくなってしまう。そんな話を聞いてしまったギルド員はお金になる仕事かも知れない、とその老婆に依頼を薦めた。
どうやら、今も対立状態にあるその町は一触即発状態だという・・・・。
●リプレイ本文
冒険者達が依頼を受け、辿り着いた時には町は既に険悪なムードがじんわりと滲み出てきていた。今まさに一色触発状態という事が感じ取れる。
冒険者達は別れて説得に当たる事にした。人間は人間達へと。エルフはエルフ達へと。それぞれの思いと思考を抱きながら・・・・。
●ヒトを忌み嫌う者達
エルフを説得に向かうはエレオノール・ブラキリア(ea0221)とハロウ・ウィン(ea8535)。そしてジャン・グレンテ(ea8799)、灰色狼(eb0106)である。ジャンと狼に関してはハーフエルフであるという事は隠しておく事にした。
「貴方達、何の用なの?」
「争うのはやめて欲しいんです。こんな事したって何の解決にもならないじゃないですか?」
「貴方達もエルフなら分かるでしょ?ハーフエルフという異端な者は生まれてはダメなのよ!」
「争って残るのは憎しみと虚しさ‥‥そんなの悲しすぎるじゃない。それに、何故コボルトを巻き込んだの?‥‥あなたたちは、間違ってる」
エレオノールがエルフの代表である女性にそう言い放つも彼女は自分の考えを曲げる事はない。そんな彼女にエレオノールは続けた。
「エルフも人間も、どちらも悪く無い。すれ違いや誤解、ただそれだけ。だから、人間と正面から向き合って。どんなに疑われても言葉に込めた想いは、必ず届くから皆同じ「人」なのだから・・・・分かり合える」
「貴方達のいう「同じ」って、何なの?何が同じだっていうの?人間とエルフは違うわ、そうでしょう?」
「・・・・・やはりここの人もエルフも所詮は自分のことしか考えてない生き物ということか・・・・」
狼が小さく呟く。灰色のローブで身を隠している為、ハーフとは悟られて居ない。だがその一言によって状態は変わってしまっていく。
「!・・・・貴方、人間ね?人間が私達に何の用だと言うの?早く帰って頂戴っ!」
ここで話は一時中断という形をとるしか得ないという形になってしまった・・・・。
●異端を恐れる者達
人間サイドの説得を試みる冒険者達は人間達が集まっている広場まで辿り着く。そこには武器を片手に持つ女達の姿もある。
灰原鬼流(ea6945)はその光景を見てあきれ始めていた。結局人間は怒りに任せて誰だろうが巻き込んでいく。
「人間の代表である男と話がしたい。通してくれるか?」
「ボクがそうだけど・・・・何か用?」
「なぁ、エルフとこんな貶し合いやら争いやらしても仕方ないんじゃないのか?今まで助け合ってきたんなら、もう一度助け合えるはずだろ?」
「・・・・君達、エルフサイドの回し者?油断させる為にきたんなら生憎だけどそういう話には乗らないよ?」
「そういうのじゃない。若者は性急だぜ。下手に引き離して自殺でもされたら困るだろ?むしろ、時間をかける事で自ら悟らせる方がいいんじゃねぇか?」
バーク・ダンロック(ea7871)の言葉に青年も少し考え始めているようだ。どうやら人間サイドの方は物分りがよさそうにも見える。
「今はまだコボルト程度で済んでいるが、報復を繰り返すうちに、さらに厄介なモノが出てくるだろう。
モンスターばかりではない。用心棒気取りで戦う術の無い者から大金を要求する、ならず者も数多く集まってくる。‥‥モンスターや悪人が跋扈する町を、御上は決して放ってはおかないだろう」
リィ・フェイラン(ea9093)の言葉は一種の脅しともとれよう。青年にとっては耳のいたい言葉でもあるのだから。しかし、ここで引き下がれば結局はエルフにバカにされてしまう。引くに引けないといった状態なのだろうか。
「大体、エルフに誑かされた人とかいるの?エルフに悪い人、いるの?」
月陽姫(eb0240)の問いに青年が重い口を開いた。
「僕達だって好きで戦ってるわけじゃない。けど、何時かはこうなる事だったんだ。種族の違いとかそういうのって、意識すればするほど気になっていくんだ。・・・・心が弱いって事ぐらいは分かってる・・・・でも、結局は・・・・」
話し合いの場が持てそうな気がする。そんな期待を胸に、人間サイドの交渉は終了となる。
●結末
エルフと人間の話し合いの場が持たれる事になったのはそれから数時間後だった。エルフサイドは嫌がっていたものの、渋々頷いたのである。
ズゥンビやコボルト達は未だ手放されてはいないものの、話し合いの場だけでも持てたのはよしといえよう。
「・・・・まず、どうして二人が一緒になるのが嫌なの?」
その場の話し合いの中立はエレオノールが代表としてとる事になっている。エルフ側の承諾も、人間側の承諾もとれている。冒険者なのだから中立であってくれるだろうと思って。
「忌み嫌われる異端児が産まれるからよ」
「ハーフエルフは僕達にとっても未知なるものなんだ。そんな人種が初めてこの町に産まれる。恐怖感があるんだ」
「嫌ならどうしてエルフ達はこの村を出て行かなかったの?ここを開拓したのは人間。私達は余所者のはずよ?」
「何故私達が出て行かなければならないの?人間だけが開拓してきたわけじゃない。私達の父や母達も関わっているのよ?」
エルフ代表の女性は相変わらずぶっきらぼうにそう言い放つ。植えつけられた因縁はそう感嘆には取り除けない。けれども、少しずつでも取り除けていけるはずだ。冒険者達の思いは一緒である事をこの場で伝えたい。
そんな時である。子供が泣く声が聞こえた。
「・・・・っ!今、悲鳴が・・・・!」
「ちっ・・・・行くぞ、ジャン!エレオノール、ここは頼んだ!」
鬼流とジャンがこの予測不能な事態に飛び出していく。辿り着いた先には人間の子とエルフの子がコボルトやズゥンビ達に囲まれているのが見えた。鬼流は舌打ちをするとズゥンビの背を切り払う。それと同時にジャンのクーリングがコボルト達へと向けられる。
「これは一体どういう事だよ!?話し合いするだけじゃなかったのか!?」
「そっちこそどういうつもり!?ズゥンビでエルフの子を噛み殺そうとしてたの!?」
「落ち着いてください!まだこうなった原因は分かってないじゃないですか!」
鬼流とジャンのお陰で半数は片付けたものの、これだけの数を相手にするのも不利。しかしここで誰かを呼べば町人達も襲われないとは限らない為、手薄になってしまっては危険が残る。
そんな時、勢いよく一つの矢が風を切りながら飛びコボルトの眼を射抜く。その矢の持ち主は・・・・。
「エルフが・・・・人を、助けた・・・・?」
ハロウのその言葉は意外という意味ではなく、嬉しそうな声に聞こえた。そう、その矢を放ったのはエルフ代表の女性だったからである。
「勘違いだけはしないでよね!?エルフの子を助ける為なんだから!」
「眼を射抜けるのなら確実にトドメを刺したほうがいい!僕も応戦する!」
これが冒険者達が望んだもの。種族は違えど、協力すればなんだって出来る。この町の因縁も少しずつだが取り除かれていく事だろう。
二人の恋人については、20年間子を作らずにいる事を前提として試す事が決められた。これで冒険者達も安心して帰路につく事が出来る。
「・・・・覚えておいてください。今もハーフエルフだからといって忌み嫌われる者達がいる。その人達の気持ちは計り知れない悲しみだという事を」
「僕達に出来るかどうかは分かりませんが・・・・」
「なんとかやってみる事にするわ。時間は、かかるでしょうけど」
ジャンが望んでいた答えが帰ってきた。それだけでも嬉しかったジャンはにっこりと笑みを浮かべる。
「ヒトに種族なんてない。愛する事に種族なんてないのよ。・・・・私もそうであるように」
最後にエレオノールが呟いた言葉。まるで自分と大切なヒトを重ねた言葉。その言葉は後に町の人達の胸に深く刻まれる事になった。