【跡取り息子】はじめてのおつかい

■ショートシナリオ&プロモート


担当:sagitta

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月28日〜06月02日

リプレイ公開日:2008年06月06日

●オープニング

「ってなわけでさ、そのちっぽけな村に、売り物を運びに行かなくちゃいけないんだけど」
 かったるそうな様子を隠そうともせず、ギルドの受付嬢に告げたのはジュリアン・アンダーソン。
 穀物や生活必需品を扱う商人である、アンダーソン家の跡取り息子だ。先日成人の儀式を終え、正式に後継者候補となったばかりの15才の彼は、まだまだ遊びたい盛りで、商人としての自覚に欠けているようだ。
 ジュリアンが父親であるエイブラハムに言いつけられた仕事の内容はこうだった。
 キャメロットから徒歩で2日ほどの小さな村に、商品である生活必需品の類を届けにいく。そしてその代わりに、小麦の粉をいくつか仕入れてくるのだ。
 お金のやり取りはすでにエイブラハムと村の間で済んでいるから、今回は単純に物を運ぶだけだ。
 ちょうどエイブラハムは別の方向に行商に出なくてはならないから、その間にアンダーソン家の代理としてジュリアンが村に届けて来い、とのことだ。
「よかったじゃない、ジュリアン。立派な商人になるための大事なお仕事なんだから」
 受付嬢が言うと、ジュリアンは大袈裟に肩をすくめて見せる。
「とんでもない。めんどくさくてしょうがないよ。そんなことよりオレは、お姉さんみたいな綺麗な人とデートでもしてる方がずっといいのになぁ」
「はいはい。お世辞は結構よ。で、ギルドにはどんな依頼なの?」
「お世辞じゃないんだけどなぁ」
 取り付く島もない受付嬢の態度に、ジュリアンがため息をつく。
「‥‥まあいいや。その村までは、途中から街道を外れなくちゃいけないからさ、さすがに護衛が必要ってわけ。いつも雇ってる用心棒たちはオヤジの行商の方に着いていかなくちゃならないから、冒険者を雇おうってことになったんだ」
「なるほど。それじゃあ、護衛として同行する冒険者を募ればいいわけね」
「そう、あ、そうそう、条件がひとつ! 参加する冒険者は、若くて綺麗なお姉さんに限る!」
「‥‥却下」
「えー!」
「護衛をするのに、若くて綺麗な必要はないでしょ! そんなことばっかり言ってたら、いつまでたっても一人前にはなれないわよ!」
 呆れ顔でお説教をする受付嬢は、まるで姉のような気分だ。なんだかんだ言って、放っておけない雰囲気のジュリアン。もしかすると結構なお姉さんキラーかもしれない‥‥。

●今回の参加者

 eb5808 マイア・イヴレフ(25歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb9449 アニェス・ジュイエ(30歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ec4179 ルースアン・テイルストン(25歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec4929 リューリィ・リン(23歳・♀・レンジャー・シフール・イギリス王国)
 ec4936 ファティナ・アガルティア(24歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec4967 フィン・レリクトア(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec4979 リース・フォード(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec4984 シャロン・シェフィールド(26歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

リリー・リン(ec4638

●リプレイ本文


「ひゃっほう! 綺麗なお姉さんばっかりじゃん! そっちの金髪の背の高いお姉さん、良かったら僕とデートでも‥‥」
 依頼主のジュリアンは8人の冒険者を見回し、とりあえず手近にいたリース・フォード(ec4979)に言い寄りはじめた。
「俺は、男だってば!」
 リースがジュリアンの顔をぐいっと押しやり、低い声で不機嫌そうに返す。
「え? ええっ! 嘘だ! 詐欺だ!」
「知るか!」
 確かに、長髪で女性的な顔立ちの彼はしゃべらない限り、どこからどう見ても女性に見える。それも、かなりの美人だ。
「ふぅ、性格は全然変わっていないようですね」
 溜息をついたのは、前回もジュリアンの護衛に参加したルースアン・テイルストン(ec4179)だ。気品を漂わせた美しいエルフ。
「あ、エルフのお姉さん! また来てくれたんだ、嬉しいなぁ」
「前から言おうと思っていたのですが、私の名はエルフのお姉さん、ではないのよ。あなたがそう呼ぶのなら、私はあなたの事を人間の少年、と呼びましょう」
 ぴしゃり、と言ったルースアンに、ジュリアンが肩をすくめる。
「あはは、怒られてるねぇ」
 明るく笑ったのは、アニェス・ジュイエ(eb9449)。露出度の高い衣装から覗く健康的な手足がまぶしい。
「うわ、こっちのお姉さん‥‥えっと、アニェスさんもエキゾチックな感じが素敵だなぁ!」
「ふふ、坊や、女を素直に誉められるってのは、大切な資質だよ」
 そんな事を言いながら、アニェスはジュリアンの頭をなでなでする。ジュリアンは小動物のように目を細めて気持ちよさそうだ。
「でもね、だだ漏れは良くないな。ここぞ、という時の一言に、女の子はトキメクものなんだからさ」
 そう言って、ジュリアンの背中をばしっと豪快に叩くアニェス。
「‥‥護衛だと聞いて意気揚々と来てみれば。これはいったい何なのです? 依頼主がこんな女たらしだなんて聞いていませんわ!」
 口を尖らせて言ったのはファティナ・アガルティア(ec4936)。人形のように愛らしい外見とは裏腹に、語気は荒い。お嬢様として育てられた彼女は、プライドが高く、高飛車とさえ言えそうだ。
「わ、す、すごいおっぱ‥‥」
 振り向いたジュリアンの鼻の下がだらしなく伸びる。
「きゃー、ど、どこ見てるのよっ!」
 バチーン! 小気味よい音が響き渡る。
「わ、依頼主さん殴っちゃいました‥‥」
 見ていたフィン・レリクトア(ec4967)が目を丸くする。当のジュリアンはと言うと‥‥
「あいたたたた。でも、この外見と性格のギャップ! えへへ〜悪くないかも‥‥」
 全く懲りた様子はない。
「やれやれ、賑やかな道中になりそうですね‥‥」
 ウィザードのマイア・イヴレフ(eb5808)が溜息をつくと、レンジャーのシャロン・シェフィールド(ec4984)もうなずいた。
「そうみたいですね。ジュリアンさんも私も、駆け出し同士。お互い頑張っていけると良いのですが‥‥」


 道中。街道を少し外れたあたりを、一行がゆっくりと進んでいく。
「前方には異常ないみたいね」
 上空を舞いながらあたりの様子を調べていたシフールのリューリィ・リン(ec4929)が、そう伝える。フィンとルースアンも歩きながらよく利く視力であたりを警戒している。
「動物の糞や食べ残しなどの痕跡にも気をつけないといけませんね。‥‥我々は接近戦には向いていませんから、近づかれる前に決着をつけないと」
 シャロンがそう言い、みんながうなずく。
「『ブレスセンサー』! ‥‥近くに生き物はいないみたいだな」
「『サンワード』! うん、オーガ、猛獣、盗賊もこの周りにはいないみたい」
 リースとアニェスが交互に魔法を唱え、備えは万全だ。
「鮮やかな手際だなぁ」
 しきりに感心するジュリアン。
「このパーティーのリーダーはあなたなのですから。商品が傷つかないように、常に見張っていないと」
 ルースアンに言われ、うなずくジュリアンの表情は少しだけ真剣だった。


 やがて一行は、森の近くにたどり着いた。
「森の奥まで入ってしまうとあたりを警戒するのが大変ですから、とりあえず今日はこのあたりで野営にします?」
 シャロンの提案に、ジュリアンを含むみんなが同意した。
「せっかくだから、食材になるものを探してこない? 保存食だけの食事よりずっといいと思うの♪」
 リューリィが提案する。
「食材を? でもこんな森の中に店なんてないし‥‥」
 きょとんとした顔で言うジュリアンに、マイアが笑う。
「ジュリアンさん、食材とは店に売られているものだけではありませんわ。たとえば、あそこ、あれは野ウサギの巣穴ですよ」
 ルースアンも続ける。
「今の時期なら、ベリーが成っている頃ですね。他にも、食べられる木の実を探してみましょう」

 しばらくすると、ジュリアンたちのもとにいくつかの食材が集まった。シャロンが弓で狩った野ウサギと何種かの鳥、それにベリーにハーブにキノコ。時間の関係でみんなのお腹を満たすほどには集められなかったが、保存食ばかりを食べている彼らにはごちそうだ。
「す、すごい! こんな風に食材をとれるものなんだ!」
 ジュリアンが感動の声を上げる。
「さ、料理できたよ! みんなで食べようよ!」
 火をおこして調理をしていたリューリィが嬉しそうに言う。新鮮な食材とリューリィの料理の腕。これがおいしくないわけがない。
「よっしゃあ! うまそう!」
「食べる前に、我々に食べ物を与えてくれた自然の恵みに、感謝の祈りを捧げましょう」
 焼き上がったウサギの肉に手を伸ばそうとしていたジュリアンを制して、マイアが言う。
「感謝? 肉に?」
「命に、です。‥‥命に感謝もできない人は嫌いです」
 皆でしばし祈りを捧げる。ジュリアンも神妙な顔つきで目を閉じている。
「‥‥もう、いいかな?」
 待ちきれない、といった感じで尋ねたジュリアンに、マイアが笑ってみせる。
「ええ」
「じゃ、じゃあ‥‥」
『いっただきまーす!』
 森の中に、ジュリアンと冒険者たちの声がこだました。


 時は夜。闇に包まれた森の中で、夜営の焚火だけがあたりをうっすらと照らしている。周囲には、三つの人影。
「なんでオレが見張りまで‥‥ふぁ〜あ」
 盛大にあくびをして、ジュリアンがぼやく。
「まぁ、そう言うな。これも大事な修行だ」
 言ったのはリース。彼自身は周囲の警戒を怠らない。あたりにはシャロンの仕掛けた鳴子の罠もある。
「まぁ、シャロンちゃんがいるからオレも頑張っちゃうけどねー」
「あのですね、ジュリアンさん。仕事とはそれに関わるすべての人‥‥自分や家族だけでなく、奉公人、それに取引に向かう村の人、そういう人たちすべてに責任を持つことです。浮かれすぎは良くないですよ?」
「男だから女性に興味を持つ気持ちは分かるけれど、それよりもまず勉強しなきゃいけないことが山積みだろ? 男として一人前になったら自然と女性は好意を寄せてくれるはずだよ‥‥って、おい」
 リースがふと見ると、いつの間にかジュリアンは寝息を立てている。
「ふふ、ああ見えて、結構気を張ってたんですよ」
「ったく、仕方ねぇなぁ。見張りは俺たちで何とかするぞ」
「ええ」


「皆さん、下がっててください! ローリンググラビティー!」
 次にジュリアンが目を覚ましたのは、フィンの切羽詰まった声でだった。はっと目を開けると、フィンの唱えた魔法で5匹のオークが地面に叩きつけられたところだった。
「ナイス! 次はこれをくらいな! サンレーザー!」
 アニェスが月桂冠をきらめかせて魔法を放ち、オークの体を焦がす。一緒に見張りをしていたリューリィは、他のみんなを起こして回っていたようだ。もちろん、目を覚ましたのはジュリアンが最後。
「前衛は私が引き受けます!」
「ウィンドスラッシュ!」
「私は鎧の隙間を狙って‥‥はっ!」
 ばっと飛び起きて鞭をつかんだマイアが飛び出し、リースとシャロンもそれぞれ飛び道具を放ってオークに怪我を負わせている。
「ぎゃうっ!」
 怒ったオークが闇雲に持っていた斧を投げつけた。不運にも、冒険者たちのわずかな合間を縫って斧は一直線にジュリアンに向かう。
「わ、わあっ!」
 ジュリアンがとっさに目をつぶる。‥‥しかし、いくら待っても痛みはやってこない。
「斧は逸れましたよ!」
 背中からルースアンの言葉。彼女のサイコキネシスで斧の軌道をそらしたのだ。
 ジュリアンは魂が抜けたような顔で、ほっと息をつく。その間にも冒険者たちは着実な攻撃を繰り返し、ようやくオークたちが接近戦の間合いに近づいた頃にはすでに半数以下になり、もはや決着はついたも同然だった。
 誰もが勝利を確信しはじめたその時。
「うわぁああっ!」
 けたたましい雄叫びを上げてジュリアンが護身用の曲刀を引き抜き、残るオークに向かっていった。自分だけ何もせずに守られていることをふがいなく思ったらしい。
 ところが。
 力みすぎていたためか、たどり着く前に下生えの草に足を引っかけて盛大に転ぶジュリアン。転んだ先には着込んだ鎧の重さに身動きがとれなくなっているファティナの後ろ姿が。ジュリアンは、ファティナに背中から抱きつくような格好になって‥‥。
「むにゅ、な、なんだ? やわらかい‥‥」
「‥‥きゃああっ!」
 あたりをつんざくファティナの悲鳴。
 反射的にがっしりと腕をつかんだファティナに投げ飛ばされ、ジュリアンが宙を舞った。落下した先には唯一残っていた一匹のオーク。
『ぴぎゃっ☆』
 声にならない声を上げ、一人と一匹は仲良く気を失った。


 ‥‥幸いジュリアンの怪我はたいしたことはなく、何とか事なきを得た。
 それ以降は特に何事もなく、一行は無事に目的の村にたどり着くことができた。
 ジュリアンもたどたどしいながら何とか村の人へ品物を渡し終え、ほっと一息ついた彼にリースが話しかける。
「お前は戦士じゃないんだから、無理して戦おうとすることはないさ。商人には商人のかっこよさがあるんだから」
 アニェスもそばにやってきて、仕事を終えたジュリアンをねぎらう。
「本当はさ、あんた、何になりたいの? 絶対商人になんなきゃってことは、ないでしょ。あんたの人生だもの。あたしは自由でいることを選んだ。それがあたしの性にはあってる。でもね、自由と気楽は、同義じゃないわよ、坊や」
「‥‥まだ、自分がどうしたいとか、よくわかんないんだけどさ」
 照れたように、ジュリアンがぽつりと話し始める。
「さっき品物を村の人に渡した時、村の人たちがすっげぇうれしそうだったんだ。そういうの見てたら、その‥‥商人も悪くないかな、って。ちょっとだけ」
「ふふふ、なんだか、安心しました」
 いつの間にか来ていたルースアンが嬉しそうに微笑む。
「へへ、ちょっとお説教したかいがありましたね〜」
 シャロンも嬉しそうだ。
 マイアとリューリィも満足げにうなずいている。ファティナやフィンは、どちらかというとジュリアンの立場で、みんなの言葉に感心しているようだったが。
「自覚や責任感ってのは、責任背負って初めて生まれるものなんだよね。商人になるなら、もちろん、多くのものを背負うことになる‥‥それが、大人ってもんよ」
 アニェスの言葉に、ジュリアンは小さくおずおずと、けれど確かにうなずいた。