言うこと聞かない悪い子はデビルになるよ!

■ショートシナリオ


担当:sagitta

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 87 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月12日〜06月18日

リプレイ公開日:2008年06月20日

●オープニング

「‥‥すみません、冒険者ギルドとはここでしょうか」
「ええ、そうですよ。どのようなご用件でしょう?」
 かけられた言葉に、受付嬢は振り返って笑顔を向けた。店の入り口に立っていたのは弱り切った顔をした背の高い老人だ。僧服を着ているところからするとクレリックなのだろう。冒険者としてのではなく、村や町の教会に勤める司祭に違いない。ひょろりと枯れ木のような体つきと、穏やかさを絵に描いたようなタレ目の顔は、冒険者のような荒事には似合うまい。
「私、近くの小さな村で司祭をしておりますスタンレーと申します。じつはその、大変お恥ずかしい話なのですが‥‥こどものいたずらを、やめさせて欲しいのです」
「いたずら?」
 受付嬢が首をかしげると、スタンレー司祭は話し始めた。
 キャメロットから歩いて2日程度の小さな農村。豊かではないがのんびりとした、犯罪も少ない平和な村だ。
 ところがその村が、最近ではこどものいたずらにほとほと手を焼いているのだという。いたずらの主犯はスタンレーの息子、ダミアンだ。年は11才。
「息子、とは言っても血の繋がりはないのです」
 スタンレーは言う。
「私は、教会で身寄りのない孤児を引き取ることもしておりまして。現在5人の子供を育てております。ダミアンはその中で一番最近に入った子でして‥‥」
 半年ほど前にスタンレー司祭の教会に迎え入れられたダミアンは、しかし決してスタンレー司祭や他の子供たちになじもうとはせず、ひどく反抗的にいたずらを繰り返しているのだという。
「ただのいたずらなら可愛いものなのですが、ダミアンのそれは、『いたずら』と呼べる域を超えておりまして、周囲の村人たちから疎まれております。ダミアンを追い出せという声すら聞こえてきておりまして‥‥」
 スタンレーはそう言ってため息をつく。
 たとえば、やっと芽が出始めた畑を踏み荒らしたり、大切な水車を壊したり、挙げ句の果てには農民たちが飼っている鶏を殺して、その血を庭にまき散らしたり。
 確かに、もはや到底「いたずら」と呼べるレベルではなく、犯罪行為だ。
「親であるというのなら、あなたが叱ってやるべきではないのですか?」
 スタンレー司祭が語る、耳を覆いたくなるような行為の数々に眉をひそめて、受付嬢が言う。
「‥‥おっしゃるとおりです。怒鳴りつけてでも、引っぱたいてでも、私がやめさせなければならない。そうは思うのですが‥‥あの子には少し、特殊な状況がありまして」
「特殊な状況?」
「あの子が教会に引き取られた経緯です。両親がともに亡くなり、孤児になったために我が教会に引き取られたのですが‥‥両親が亡くなった理由が、処刑されたから、なのです」
「‥‥処刑」
「あの子の両親は乱暴な物盗りでした。旅人を騙して身ぐるみをはいだり、時には老人や子供の寝込みを襲って傷つけたり、殺したりしたこともあったようです。それが、たまたま我々の村に滞在していた時に『仕事』をして、城の兵士に捕まり――私が呼んだのですが――縛り首になりました」
 スタンレーが淡々と語る事実に、受付嬢は言葉を失う。よくある話、といってしまえばそれまでだが、当事者にとってはどれほど衝撃的なことだろうか。
「そう言った状況があって、ダミアンは誰にも心を開こうとはしません。村の者たちもダミアンの両親のことは知っていますから、中には心ないことを言う者もおります。それでも先月くらいまでは、ダミアンはむしろこもりがちで、直接我々に危害を加えるようなことはなかったのですが‥‥」
「いたずらが始まったのは、一月ほど前からなのですか?」
 受付嬢の問いに、スタンレーはうなずく。
「それと‥‥これは、はっきりと確かめたわけではないのですが‥‥」
「なんです?」
「ダミアンが、醜い毛むくじゃらの小鬼のようなものを何匹も連れているのを見た、という証言がいくつかあります。ダミアンに聞いても答えませんし、正体は定かではないのですが‥‥もしかしたらデビルなのではないか、などと言われています」
「その小鬼のようなものが見られるようになったのは、最近なのですか?」
「ええ、ちょうど一月ほど前からなのです」
 なるほど、だとすればそれは、ダミアンがいたずらをはじめたわけと関係があるのかもしれない。
「分かりました。冒険者を募ってみましょう」
「‥‥お願いいたします」
 受付嬢の言葉に、スタンレーは深々と頭を下げた。

●今回の参加者

 eb2779 ロルフ・ラインハルト(31歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ec4929 リューリィ・リン(23歳・♀・レンジャー・シフール・イギリス王国)
 ec4979 リース・フォード(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec4984 シャロン・シェフィールド(26歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文


「誰か、ダミアン君のそばに毛むくじゃらの生き物がいるのを見たことある?」
 教会で開いた「お茶会」に集まった子供達に、リューリィ・リン(ec4929)が尋ねる。この会は、ダミアンに関する情報収集のために彼女が提案したものだ。
「僕、見たことあるよ!」
「あたしも!」
 リューリィの言葉に、子供達がいっせいに口を開く。
「もじゃもじゃを3つ、ダミアンが連れてたよ。それなあに、って聞いたら、ダミアンがうるせぇって、石投げてきたの!」
「3つ? 小鬼は1匹ではないのですね‥‥」
 女の子の言葉に、腕組みをして首をひねったのはシャロン・シェフィールド(ec4984)だ。
「小鬼は、前からこの村にいたの?」
 尋ねたリューリィに、子供達はいっせいに首を横に振る。
「ダミアンは、お父さん達が連れてきたんだってゆってたよ」
「もじゃもじゃは、背中に羽が生えてたよ。コウモリみたいの」
 子供達が次々に話す。
「なるほど‥‥。背中にコウモリの羽、ということはおそらく下級のデビルでしょうね。毛むくじゃらでそれくらいの大きさ、というと‥‥」
「たぶん、グレムリンだわ」
 シャロンとリューリィが顔を見合わせうなずきあう。グレムリンは、人間を唆して性質の悪い悪戯を繰り返すデビルだ。それほど強力ではないが、姿を消すことができるので厄介だ。
「‥‥両親が連れてきたグレムリンが、その死後、ダミアンを唆したと考えるのが妥当ですね」
 シャロンが口の中で呟く。
「みんな、ありがとう。とっても助かったわ。でも、子のことは誰にも話しちゃダメよ。あたしたちとの、約束」


 しばらくして、村に聞き込みに回っていたリース・フォード(ec4979)とロルフ・ラインハルト(eb2779)が戻ってくる。
「なるほど。グレムリンか。そいつが唆した、ということなら合点がいくな。‥‥あれはとても子供の仕業じゃないからね」
 苦々しげな表情で呟いたのはロルフだ。彼は悪戯の現場検証ということで、ダミアンが鶏を無残に殺し、その血をばら撒いた庭を見てきていた。
「村人の話じゃ、処刑されたダミアンの両親はデビルやらオーガやら、趣味で『収集』していたらしい。大半は没収されたはずだが、今回のグレムリンは、その生き残りかも知れないな」
 やはり晴れない表情でリースが言う。
「俺はダミアンの事情に首を突っ込む気はない。経験したこともない痛みを『わかる』なんて簡単には言いたくはないからな。誰にだって心に傷くらいあるけれど、それは自分じゃなきゃ越えられない。‥‥だけど、グレムリンに唆されているというのなら、やれることはある」
「で、肝心のダミアンはどこにいるんだ?」
 ロルフが尋ねる。答えたのはスタンレー司祭だ。
「教会の奥の部屋に一人でおります。その小鬼とやらは、一緒にはいないみたいですが‥‥」
「今聞いてもきっと答えてはくれないだろうし‥‥となると、ダミアンが外に出て小鬼と合流するのを待った方が良さそうだな」
 リースがそういうと、シャロンもうなずいた。
「あまり気はすすみませんが、悪戯の現場を押さえるしかなさそうです。昼間ですと村人さんに目撃されているはずですから、陽が落ちてからでしょうね」
「ダミアンが外に出たら、あたしが空からぴったりくっついて尾行するわ」
「俺も気づかれない程度の距離から尾行しておこう」
 リューリィとリースが口々に言う。
「あたしは教会の鐘楼をお借りして、村を見渡しておきましょう」
「俺は‥‥そうだな、教会の中でダミアンの動きを見張っておくよ」
 シャロンとロルフもそう言って立ち上がる。そのまま歩き出しかけてロルフがふと立ち止まり、司祭に向き直る。
「司祭さん、ひとつ言っておくよ」
「なんでしょうか?」
「事情があるのはわかったけど、それがあの子を叱らない理由にはならないんじゃないかな。むしろ、あんたのその態度が事態の悪化を招いた気がするんだけど」
 口調は軽いが辛辣なロルフの言葉に、司祭はうなだれる。
「あの子にとっては親だったかもしれないが、悪人であったことに違いはない。それを通報した村やあんたに非は一切ないんだ。反発されるのを怖がる前に、きちんと筋を通して『立派な親』になること。それができればダミアンも心を開いて、今回みたいなことにはならなかったと、俺は思うけどね」
「‥‥そのとおりだと思います」
 ロルフの言葉を噛みしめるように、司祭がうなずく。
「まぁ、柄でもない説教はこんなもんにして、とりあえず、小鬼の件を解決しに行かなきゃね」


 農村の夜は早い。太陽が地平線に沈んであたりがうっすらと青い闇に包まれ始めると、もはや外で動いているものは誰もいなくなる。
 そんなうす闇の中、教会からこっそりと抜け出す小さな影があった。もちろん、ダミアンである。
 教会で彼を見張っていたロルフがダミアンに続いて外に出て、鐘楼にいるはずのシャロンに向けて小さく手を上げてみせる。それを見つけたシャロンは小さくうなずいて、鐘楼に備え付けられた燭台に、ほんの一瞬だけ火を灯してすぐに消す。それだけで、外で見張っていた全員がダミアンの外出を知ることになる。
 最初に動いたのはリューリィだ。彼女はふわりと飛び上がり、ダミアンのすぐそばの上空から尾行を開始する。上空からのリューリィの尾行は気づかれる心配をすることなく、ダミアンに近づける。
 リューリィほど近づくことはできないものの、リースもその視力を生かして遠くからダミアンを監視している。
(「ダミアンの周り‥‥あれは、グレムリンに間違いないわ」)
 リューリィが心の中で呟く。いつの間に合流したのか、小鬼たちが現れたり消えたりをくり返してダミアンにまとわりついているのが見える。
(「向かっているのは‥‥羊飼いの家か?」)
 昼間に村を一通り回ったリースがあたりをつける。ダミアンたちはまっすぐに羊達が寝ている小屋へと向かった。
「ギャギャギャッ!」
 グレムリンの1匹が耳障りな声を上げると、その手に火の玉が出現する。普通の火ではない。悪魔の魔法による、黒い炎だ。
「ギャギャ!」
 もう1匹のグレムリンも鳴き声をあげる。すると突然、ダミアンが虚ろな表情になって、肩に担いでいた袋から何かを取り出した。それ月光を反射し、ギラリと剣呑な光を放つ。
(「刃物だわ! これ以上ダミアンに無駄な血を流させてはいけない!」)
 鐘楼から様子を見ていたシャロンが、反射的に矢を放った。矢は風を切って飛び、小鬼の足元に突き刺さった。
「ギャウ!」
「人を傷つける魔物は‥‥絶対に、ゆるせないっ!」
 動いたのは、シャロンだけではなかった。ほぼ同時に、リューリィがダーツを構えてグレムリンたちの前に飛び出し、リースとロルフもそれぞれの武器を抜き放って彼らの元に駆け出していた。
「わああっ!」
 突如現れた冒険者達を見て、ダミアンは情けない声を上げてへたり込む。どうやら腰を抜かしたらしい。一方、グレムリンたち――どうやら、3匹いるようだ――は、冒険者達を敵と認識したらしい。火の玉を手に持ったグレムリンが、それをリューリィに向かって投げつけた。
「きゃっ!」
 襲い来る黒い火の玉を、リューリィがひらりとかわした――と思いきや、なんと軌道を変え、避けたはずのリューリィに直撃して軽いやけどを負わせる。
「そちらがその気なら、こちらも容赦しない!」
 たどり着いたロルフが、抜き放った二本の刀でグレムリンたちを薙ぐ。リースもサンダーボルトを放ち、シャロンも鐘楼から降りて、遅れてこちらに駆けつけている。
 戦いの火蓋が切って落とされた。


「はぁ、はぁ。思ったよりてこずったな」
 ロルフが荒い息をついて武器を鞘に収める。
 グレムリンのうち1匹はその場で気を失い、後の2匹は傷を負って逃走している。
 冒険者達はそれぞれに軽い傷を負ってはいるものの、深手を負ったものはいない。
「お‥俺‥‥」
 ダミアンはまだ焦点の定まらない瞳で、冒険者達を呆然と見つめている。
「洗脳‥‥とまではいかないけれど、唆されていたのは事実みたいね。低級の魔法なんかも使って」
「けれど、それはあくまで二次的なものであって、やはり根本にはダミアン自身の問題があるんだろうな」
 リューリィとロルフが言葉を交わす。
「ダミアン君。もう大丈夫よ。私たちはあなたの味方だわ」
「み‥‥味方?」
 ダミアンを抱きしめようとシャロンが伸ばした手は、乱暴に払いのけられる。
「俺に、味方はいない‥‥お父さんとお母さんは悪い奴で、だから、俺は悪い奴で‥‥否定されるなら、こっちから否定してやればいい‥‥」
「お前の親は私だ。私は決してお前を否定したりしない!」
 俯いて呟くダミアンの言葉をさえぎったのは、心配して様子を見に来ていたスタンレー司祭だ。昼間のロルフの言葉で腹を括ったらしい。断固とした口調で宣言してみせた。
「俺の考えを言わせてもらうなら、ダミアンと村人の和解は正直言って難しいと思う。だから、俺としてはダミアンを他の村に連れて行った方が精神衛生上いいと思っている」
 真剣な表情でスタンレー司祭を見据えて言ったのはリースだ。彼はまっすぐに司祭の瞳を見つめ、続ける。
「もちろん、ちゃんとここで生きていけるって言う気持ちになるのならば、それが一番いいことなのかもしれない。あなたと、ダミアン自身が」
 みんなの視線が、ダミアンに向けられる。ダミアンは何も答えない。
「もう少しだけ」
 慎重に言葉を選びながら口を開いたのは、スタンレー司祭。
「もう少しだけここで、ダミアンと話してみようと思います。私はもっとダミアンに向き合ってあげなくてはならない。村を出るかどうかは、それから決めても遅くないと思うのです」
 言いながら司祭はダミアンの背中に手を回し、彼の手をとり立ち上がらせる。ダミアンは相変わらず黙って俯いたままだが、握られた手を解こうとはしなかった。