【夜空の女騎士】墓場の幽霊

■ショートシナリオ


担当:sagitta

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 40 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月28日〜07月04日

リプレイ公開日:2008年07月05日

●オープニング

 月のない夜。寂しい村の外れ。
 深夜を回った今、そこには人気も明かりもなく、本当の闇と静寂に満たされていた。
 と、突然現れる青白い炎。ほんのわずかな明るさのそれも、深い闇の中ではひときわ輝いて見える。
「ぉぉ‥ぉぉ‥‥」
 かすかにもれるうめき声のような音。それもまた、深い静寂の中で不気味に響く。
 いつからそれは現れていたのだろう?
 誰に知られることもなく、何を訴えるでもなく。
 たまたま通りがかった村人が驚いて腰を抜かすまで、毎日毎日、「それ」は届かぬ声で叫び続けていたのだ。

「なるほど‥‥村の方が、墓場で青白い光と、うめき声のようなものを聞いたんですね」
 尋ねた受付嬢にうなずいたのは、全身を漆黒の鎧に包み、その鎧よりもさらに深い黒の長い髪を美しく伸ばした女性。下級貴族の、アヴリル・シルヴァンだ。ギルドに来るのは、今日で二回目。
「そのとおりだ。自分たちが住んでいるところの近くに幽霊のようなものが出るとあって、民たちはひどく怯えてしまっている。なんとしても原因を絶って、民を安心させたい。ついては、この間のコボルト退治と同様に、また冒険者殿に手伝いを頼みたいのだが‥‥」
「それはお安い御用です。ですが‥‥アヴリルさん、どうしました? 顔色が優れないみたいですが‥‥」
 受付嬢が心配そうに尋ねる。確かに、アヴリルの美しい顔は蒼白だ。
「いや、なんでもない」
「でも‥‥」
「じつは、その」
「?」
「私は、幽霊とか、そういうものが、苦手なのだ」

●今回の参加者

 eb3583 ジュヌヴィエーヴ・ガルドン(32歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ec3246 セフィード・ウェバー(59歳・♂・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ec3682 アクア・ミストレイ(39歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ec4114 ファビオン・シルフィールド(26歳・♂・ファイター・人間・エジプト)

●サポート参加者

陰守 清十郎(eb7708

●リプレイ本文


 純白の愛馬を駆って街道を行く黒衣の騎士アヴリルに、それぞれのペットの背に乗った3人の冒険者が並ぶ。
「順調ですね。この分だと思ったより早く着けそうです」
 親しげにアヴリルに話しかけたのはクレリックのジュヌヴィエーヴ・ガルドン(eb3583)だ。同年代の同性であるためか、彼女はアヴリルに対して親近感を覚えているようだ。アヴリルの方も悪い気はしないらしく、寄り添うように並んで馬を進めて話に花を咲かせている。冒険者たちがそれほど馬に乗りなれてはいないため、駆ける、というにはゆったりとした速度ではあるが、それでも普通に歩くよりはずいぶんと早く進むことができている。
「時間は貴重ですから。移動時間を短縮するに越したことはない」
 そう言ったのは、アヴリルの反対側の隣で馬を駆るエルフのセフィード・ウェバー(ec3246)だ。彼もまたクレリック。彼は同年代ではなく、長命なエルフであることを差し引いても、アヴリルたちの親くらいの世代だ。
「そうだな」
 セフィードの言葉に、アヴリルが小さくうなずく。
「それにしても‥‥冒険者はペガサスに乗るのが普通なのか?」
 呟いたアヴリルの視線の先には、純白のペガサスにまたがるアクア・ミストレイ(ec3682)。ゆっくり飛んでも通常の馬よりもはるかにスピードが出るペガサスは、時々一行の道のりを先行し、危険なものがないか偵察をしては戻ってきたりしている。
「この先には特に危険はない。このまま行くと村にたどり着く前に日が落ちてしまうから、今日はこのあたりで早めに野営の準備をしようか。私が料理を作るよ」
 アクアは嬉しそうにそう言いながら、ペガサスの背中に括りつけてある袋をごそごそと探り、中から鍋を取り出す。なんでも、料理をおいしく作れる魔法の鍋らしい。
「賛成だ! アクア殿の作る料理はおいしいからな!」
 アヴリルが思わず、はしゃいだ声を上げる。
 彼女がやっと見せた歳相応の表情に少しだけ安心しながら、冒険者たちは野営の準備を進めるのだった。


 東の空がようやく白みはじめた明け方。
 アヴリルは幽かな衣擦れの音で目を覚ました。
「あ。すまない、おこしちゃったかな?」
「いや、私もそろそろ起きて、朝の稽古を、と思っていたところだ」
 あわてたような声を出すアクアに、アヴリルが首を振ってみせる。
「アクア殿も稽古か?」
「ああ。‥‥もし、よければなんだけど」
「何だ?」
「手合わせ、願えないかな?」
 荷物から十手を引き抜いて言ったアクアに、アヴリルは苦笑する。
「前にも同じことを言われたな。全く、冒険者と来たら戦闘好きだ」
 そんなことを言いながら、アヴリルも嬉しそうだ。
 早朝の空の下、剣戟の音は長く響いた。


「村人さんへの聞き込みでは、やはり最低でも3人の方が、深夜にうめき声を聞いているそうです。そのうちの一人は、墓場で青白い光を見た、と言ってますね」
 ジュヌヴィエーヴが聞き込みの結果を報告する。こういう話は子供たちの興味を引くから、と村の子供たちに聞き込みをしていたアクアもそれに続ける。
「ここの子供たちは勇敢だな。何人か、肝試しと称してわざわざ墓場に行った者がいるらしい。その全員が青白い光を見て、うめき声を聞いている。うめき声は幽かに『苦しい‥‥』とか『助けて‥‥』などと聞き取れたそうだ。風の音や獣の声と間違えた、という線はなさそうだな」
「教会の司祭様にも、同様の報告が上がっています。しかも、司祭様が昼間墓場を点検して回ったところ、不審な猫や鼠の死骸が墓場内で見つかっているとか」
 セフィードも、教会へ赴き自らが聞いてきたことを披露する。
「猫や鼠の死骸‥‥それがその、青白い光の仕業だとするならば、人に危害を加えることもあるかもしれないな‥‥」
 アクアが呟くと、アヴリルは顔色を変える。
「人に危害が及ぶ前に、何とか解決せねばならんな。しかし、得体の知れないものを、どうやって倒せば‥‥」
「キャメロットで友人に調べてもらったところ、アンデッドの一種の『レイス』というものは青白い光のような外見をしているそうです‥‥今回のがそれである可能性は高いですね」
 苦悩するアヴリルを励ますように、セフィードが言う。
「なるほど、レイスでしたら触れるだけで生き物の生気を奪う能力がありますから、不審な猫や鼠の死骸も説明がつきます」
 言ったのは、様々なモンスターに詳しいジュヌヴィエーヴ。
「レイスってのはどうしても退治しなければならないやつなのか? 話が聞けるのならば聞いてやりたい、とも思うんだが」
 アクアの問いにジュヌヴィエーヴは首を横に振る。
「レイスは成仏できずに凶暴化してしまっています。おそらく‥‥ほとんど本能で動いているような状態で、会話は難しいと思います。ちなみに、レイスには銀か魔法の武器しか効きません。ここでは主に戦えるのは‥‥アクアさんと、アヴリルさんですね」
「なるほど、素直に退治してやるのが、成仏するための最もいい方法だ、と言うことだな」
 そう言いながらも、アヴリルの表情は蒼白だ。
「退治したあとは、墓をきれいに直し、できる限り丁重に弔うようにしましょう」
 セフィードがクレリックらしく、十字を切ってみせる。
「亡者とは概ね、未練を残してこの世を去ることになった方々。未練を抱いたまま地上を彷徨い続けるのはあまりに辛い事。彼らをその苦しみから解き放つために、アヴリルさん、あなたの力をお貸しください」
 真剣な表情で見つめるジュヌヴィエーヴに、アヴリルは青い顔のままでうなずいた。


 時は深夜。
 アヴリルと冒険者たちは墓場に向かっていた。
 ジュヌヴィエーヴの提案で昼間にも墓場に行ったのだが、彼らは出てくる時間を選ぶのか、空振りに終わった。しかし、そのおかげで、墓場内部の位置関係は彼らの頭の中に叩き込まれている。
「や、やはり夜の墓場とは、ぶ、不気味なものだな‥‥」
 アヴリルの声は震えている。
「大丈夫か? 必要なら手を貸すが?」
「す、すまない‥‥」
 アクアが手を差し出すと、アヴリルは震えたまま顔を真っ赤にしてその手を取った。本当に幽霊が苦手らしいその姿に、アクアは苦笑する。
「アヴリルさんも重要な戦闘要員なんだから、頼むよ? アヴリルさんは村人たちの信頼を受けてるんだから」
「あ、ああ。かたじけない」
「おっと、お出ましのようですよ」
 ディテクトアンデッドの魔法で墓場内を探っていたジュヌヴィエーヴが仲間たちに注意を呼びかける。反応があったようだ。
「あ、あそこです。確かに青白い光だ」
「レイスですね、間違いありません」
 セフィードが墓場の奥に目標らしき影を見つけ、ジュヌヴィエーヴがその正体を断定する。耳を澄ませば、獣の咆哮のようなうめき声も、幽かに聞こえてくる。
「アヴリルさんとアクアさんにレジストデビルをかけておきます。前衛、よろしくお願いいたします」
 ジュヌヴィエーヴが魔法を唱え、アクアが魔法の槍「グランドクロス」を構える。アンデッドスレイヤーの効果が付与された、今回の依頼におあつらえ向きの武器だ。
「ぉぉぉぉ‥‥苦しい‥‥ぉぉ‥‥助けて‥‥」
 青白い光に近づくにつれて、うめき声は大きくなり、意味が取れる単語が僅かに混じってきた。その苦しそうな声を聞いて、アヴリルも決心したらしい。両親の形見の銀の剣を鞘からすらりと抜き放つ。もはや迷いはない。
「行くぞ!」
「おお!」
 アヴリルとアクアが視線を交わし合い、一気にレイスとの間合いを詰める。
 彼らを敵とみなしたのか、青白い光が怪しく煌いた。

「くらえっ!」
「‥‥ぉぉぉっ!」
 アクアの最後の一撃が決まり、セフィードのコアギュレイトに捕らえられていたレイスが身の毛もよだつ叫び声をあげる。断末魔。
 やがてレイスの青白い光が点滅し、そして最後にひときわ大きく輝き、ふっと掻き消える。
「‥‥成仏したか」
 アヴリルが、ふっと息を吐く。セフィードとジュヌヴィエーヴが、消え去ったレイスに向けて十字を切る。
「願わくは、迷える魂が天上へとたどり着かんことを」
「この者の魂が安らかに眠れますように」
「‥‥もし、このような願いが許されるのならば」
 消えゆく魂に向けて、アヴリルが凛とした声で告げる。
「あなたの仲間や、子孫たちのために、この村を見守っていてくれ」
 冒険者たちは、一瞬だけ、年老いた男性のほっとしたような笑顔を夜の闇の中に、見たような気がした。

 アクアがこの直後、気を失ったアヴリルの体を抱きとめ、滞在の間借りている村人の家まで彼女を運ぶ羽目になったのは、お約束というものだ。