【北海の港町】はぐれた人魚を救え!
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■ショートシナリオ
担当:sagitta
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:10 G 95 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月30日〜07月10日
リプレイ公開日:2008年07月07日
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●オープニング
キャメロットから北東、徒歩4日で辿り着くロッチフォード東端の港町『メルドン』でも北海の異常による余波が訪れていた。
主に漁猟で支えられている素朴で小さな港町で、大らかな性格の民が多い。特色はないものの、漁で獲れた海の幸が民の自慢で、酒場や食堂、宿屋など幾つか見掛けられ、船乗り達の憩いの場だ。
メルドンからキャメロットの冒険者ギルドに依頼が届くようになったのは最近の事である‥‥。
「彼女を、助けてあげてほしいんです」
ギルドの受付嬢にそう告げた日焼けした肌の筋骨たくましい好青年テリーは、メルドンの若き漁師だ。時折、傍らの灰色のローブで全身を隠した小柄な人影に気遣わしそうに目をやっている。
「助ける‥‥というと?」
「彼女は――エルサは人間ではありません‥‥マーメイドです」
声を低くして言ったテリーの言葉に、受付嬢は目を丸くする。
マーメイド――上半身が人間、下半身が魚のデミヒューマン――は確かに人間に変身することができるらしいと聞いたことはあったが、彼らは人間に対する警戒心が強くめったに人の住むところに姿を現すことはない。まして、海から離れたところにあるキャメロットでマーメイドに会うことなどなかなかないだろう。
テリーの話はこうだ。
マーメイドのエルサは、仲間たちとともにメルドンの近海まで来ていた。こっそりメルドンに上陸していたエルサは、急に移動した仲間たちに気づかず、はぐれてしまったのだという。
仲間たちが移動した先はわかっているのだが、最近では海のモンスターたちが以上に凶暴化していてとても一人ではそこまでたどり着くことができない。
だから、彼女を護衛して仲間の待つ海域まで連れて行ってほしいのだという。
「なるほど‥‥状況はわかりました。ところで、なぜテリーさんがそのようなことを?」
「僕は‥‥エルサに命を助けられたんです」
テリーがまだ漁に出始めたばかりのころ、乗っていた船が嵐で転覆し、溺れかけたところをたまたま近くを泳いでいたエルサが助けてくれたのだという。それ以来、エルサとテリーは親しくなり、毎年エルサの仲間がメルドンの近くを訪れるころ、こっそりとエルサはテリーの家に通っていたのだ。
「船は、僕が漁で使っている小型船を出します。もちろん、操縦は僕がやります。船の定員は10名」
「小型船‥‥最悪の場合、転覆する可能性もありますね‥‥」
「ゼロ、とは言い切れません。でも、北海が危険になって、彼女の仲間たちはもっと沖合に移動する予定だったと言います。急がないと、彼女は二度と仲間たちに会えなくなってしまうかもしれない。幼い彼女はまだ、一人では生きられないんです。どうか、お願いします!」
熱い口調で頭を下げるテリー。その隣で、エルサもちょこんと頭を下げるのだった。
●リプレイ本文
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絶え間ない波が港の縁に打ち寄せては白く砕け散り、儚い泡となって消えてゆく。囂々と不気味な音を立ててうなる海に、テリーは舟を出す。
「最近の海の荒れようは酷いな‥‥、本当に、どういうことなんだ?」
小型船の上、テリーの横で呟いたのはレイア・アローネ(eb8106)。北海に関わる依頼をいくつも受け、最近の海の異常さを身をもって感じている。
「あなたは無事私たちが送り届けますから。心配しなくても大丈夫です」
アイシャ・オルテンシア(ec2418)がテリーにぴったりと身を寄せるエルサ――今は人間の姿をしているが、正体はマーメイド――に声をかける。エルサも上目づかいでアイシャを見つめてうなずく。愛馬の後ろに乗せられてメルドンまで旅をした行程で、エルサは同年代の彼女にすっかり打ち解けていた。
「ウチ、海はとても久しぶり、です。こんな時でなかったら、ゆっくりと楽しめるんでしょうけど」
うねる海面を見つめながら、ラミア・リュミスヴェルン(ec0557)が言い、ちらっとテリーとエルサの方に目をやる。二人は何も言わないが、その手は堅く繋ぎあわされている。
「一番ゆっくりしたいのは、お二方、なのでしょうね。でも、今はこの荒れた海の中、エルサさんが行方不明であればお仲間さんたちはさぞ心配なさっているでしょうし‥‥ここは、一度海に帰るべきなのでしょうね」
「ええ。そのために、水中での戦闘訓練までしてしっかりと準備したのです。急がば回れ。万全な準備で、エルサさんを無事にお仲間のところまでお連れするのが私たちの役目ですわ」
テリーやエルサに言い聞かせるようにそう言ったのは、フィーナ・ウィンスレット(ea5556)。彼女は頭の中で、今も水中訓練の時の魔法発動の感覚をトレースしている。どんな状況にも対応できるように、事前準備を欠かさない。それが彼女の身上だ。
「まぁ、今からそんなに緊張していたんじゃ、いざという時に体が動かないよ。あとは、起こった出来事にベストを尽くすだけだ」
長大な槍を軽々と担いで、船の中心にどっかりと腰をおろしたのは、ジャイアントのヒースクリフ・ムーア(ea0286)だ。口調は軽いが親愛を感じさせる表情で、エルサたちに語りかける。
「人と人魚が仲良くしているところをみると嬉しいよ。以前にも依頼で人魚に関わったことがあってね。もっと、人と人魚が交流しやすくなればいいのにね」
ヒースクリフの言葉は、間違いなく、二人の実感でもあるのだろう。二人はお互いに見つめあい、そしてうなずく。
「あ、魚が釣れましたよ。あとで料理しましょう。さすが、獲れたばかりの魚は新鮮だ」
呑気に言ったのは、船の縁で釣竿を垂れていた陰守森写歩朗(eb7208)だ。とはいえ彼も、決して遊んでいるわけではない。ペットのグリフォンを海上に飛ばして警戒させ、彼自身も船の縁から海面に目を凝らしている。
「ん?‥‥お出ましだな」
不意に、ヒースクリフがつぶやき、遠くの海を指差した。
海面からぬっと突き出した黒い塊。そこに輝く二つの赤い円は、瞳だろうか? だが突き出たそれを頭とするのならば、相当な巨大さだ。
「海の巨人‥‥うーん、聞いたことがる気がするけど。すまない、思い出せないな」
レイアが言う。彼女の他にモンスターに詳しいものはおらず、その正体はわからない。
「素通り‥‥してはくれないみたいだな。二人は私の後ろに隠れていな」
黒い巨人は一直線に船に向かっている。友好的な様子ではないようだ。ヒースクリフが立ち上がり、槍にオーラパワーを付与して構えた。
「ウチたちに向かってくる敵であれば、全て撃退します、です」
そう言って両手に得物を構えるラミア。のほほんとしていたその表情が、一瞬して戦士のそれになる。アイシャとレイアも、剣を抜き放って前線に立った。
「船に全員が固まっていると危険ですね。自分は離れて囮になりましょう」
そう言って森写歩朗がスクロールの力を解放し、船から飛び降りて海面に立つ。
「相手を倒すことが目的ではありません。痛めつけて、船を襲うのは危険だ、と思い知らせるのです」
フィーナの言葉に、みんながうなずく。
「ではこちらから‥‥思い知らせてやりましょうか」
フィーナが放ったライトニングサンダーボルトが、戦いの始まりを告げる合図となった。
巨大な海の妖怪も、熟練した冒険者たちの前ではひとたまりもなかった。
接近する前にフィーナが強力な電撃を連射し、海上を疾走した森写歩朗が斬り付け、船までたどり着いたころにはすでに満身創痍。船に近付けば4人の戦士たちの集中砲火。苦し紛れにテリーに向けてアイスブリザードを放つが、レイアから借りた指輪の効果でわずかな凍傷を負わせるにとどまり、次の瞬間には戦士たちの強力な攻撃を一身に受けて文字通り、海の藻屑と消えるのだった。
●
一転して、穏やかな海。
先程までのうねる海面が嘘のように静まり返り、たださざ波が優しく揺れている。
エルサの仲間たちが待つ海域の、真上だ。
「ここからが本番だな」
レイアが透き通った海の底を見つめながらつぶやく。地上(というか海上)では圧倒的な強さを見せつけた彼女たちも、慣れない海中となればそうはいかない。気を引き締めるべきはここからだった。
「水の中、ちょっとだけ楽しみです」
ラミアがほほ笑む。
「えっと、全員で潜る、ってことでいいんですよね?」
森写歩朗が尋ねると、フィーナがうなずいた。
「空っぽの船が襲われる、という可能性は低そうですし。戦力を分散するのは危険ですから全員で行った方がいいと思いますわ。本当は、テリーさんは残しておきたいのですけど‥‥」
「エルサとしばしの別れ、ってことになるからな。無事仲間の元に送り届けるまで直接自分の目で見たい、ってもんだろ」
レイアの言葉に、テリーは漁に使う銛を握りしめてしっかりとうなずく。
「はい。どうかお願いします」
その顔を見て、ヒースクリフがほほ笑む。
「ふふ、いい目だ。よし、野暮なことは言いっこなしだ。私たちがテリー君とエルサ嬢を、しっかりと護ろう」
透き通った海の底。透明度が高いとはいえ深く潜るにつれて太陽の光は拡散し、だんだんと薄暗くなっていく。
エルサのウォーターダイブのおかげで、息苦しさはない。だが冒険者たちの魔法のアイテムを使っても、エルサが魔法をかけられるのは全員にあと一回ずつが限界だ。時間はあまりない。逃げ場のない水の中で、漠然とした不安が冒険者たちの心に居座っている。
先頭はヒースクリフ。本来の姿に戻ったエルサと、彼女から片時も離れないテリーがその真後ろにいて、道を教える。
「もう少しで仲間が待つ場所です」
エルサが言う。心なしか、弾んだ声‥‥の後にさみしそうな表情。テリーがその手をぎゅっと握る。
「とはいえ、そうそう簡単にはいかないみたいだな」
ぼやくように言ったヒースクリフ。手にしたシャクティを剣に変化させ、早口に魔法を唱える。防御力を強化するオーラをその身にまとい臨戦態勢。
「シーウォーム、か。しかも2匹。麻痺させる触手に気をつけろ」
レイアが鋭く告げる。
「うーん、なんか気持ち悪いです」
言いながらも、ラミアは双剣を構える。彼女の流れる動作が水中でも有効なのは、訓練で実証済みだ。
「私がエルサさんを護ります」
「なら、私がテリーを」
オーラをまとい士気を高めたアイシャと、レイアが口々に言う。
「じゃあ自分はいつも通り、囮になりますよ」
そう言って仲間たちから離れたのは森写歩朗だ。
「みんな、準備はいいですね? では、行きます!」
フィーナが視界の先の巨大ミミズに、威嚇の電撃を放った。同時に、戦士たちが一斉に飛び出す。
事前の水中訓練の成果と持ち前の適応能力で、冒険者たちの動きに遅滞はない。
「はっ、はっ、とりゃっ!」
ラミアの流れる連続攻撃が、シーウォームの体を引き裂いた。
もう一匹はすでにヒースクリフによって両断されている。戦闘を終えた冒険者たちは荒い息をついた。
「ヒースクリフさん、大丈夫ですか?」
森写歩朗が尋ねる。シーウォームの触手をかわし損ねたヒースクリフは、麻痺の毒をもろに受けてしまったのだ。
「く、面目ない‥‥」
「これを使ってください。シーウォームの毒ならたちどころに治ります」
ヒースクリフのもとに駆けつけようとした森写歩朗を遮って、鈴のような声がかけられた。全員の視線が、そちらに向けられる。
「お姉ちゃん!」
エルサの声。視線の先にいたのは、美しい金髪を透き通った水になびかせる、美しい女性のマーメイド。見れば、冒険者たちの周りを10人近い人魚たちが取り囲んでいる。
「エルサ! 心配したのよ!」
飛び込んだエルサを、やさしく抱きとめる姉。感動の対面だった。
「ふぅ、なんとか無事たどり着いたみたいですね」
フィーナがつぶやく。
「さて、これでテリー君とエルサ嬢もひと先ずお別れか。野暮は言わない。時間の許す限り名残りを惜しんでくるといいよ」
すっかり麻痺も解けたヒースクリフが、そんな風に言ってテリーの背中を押す。
「エルサ、想いは大切にな。これに懲りずにまた会いに来るといい。気にするな。はぐれた時には、手を貸してやる。‥‥何度でもだ」
レイアがエルサに笑いかける。
気を利かせた冒険者たちとマーメイドたちががそっぽを向く中、テリーはエルサを抱きしめその頬にそっと口づける。
「必ず、また会おうエルサ」
「ええ、会いに行くわ、テリー」
しばしの別れ。
後ろ髪をひかれながら水面に向かって泳ぎ始める時、ラミアがエルサに告げる。
「また、会える日を楽しみに。その頃には、北海も落ち着いているといいのですけれど‥‥」