【跡取り息子】どきどき川遊び!

■ショートシナリオ


担当:sagitta

対応レベル:1〜5lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月18日〜07月24日

リプレイ公開日:2008年07月26日

●オープニング

「ってなわけでさ、うちの家では奉公人さんたちを連れて毎年恒例、夏の川遊び大会!ってのをやってるわけなんだけど」
 冒険者ギルドの受付嬢に親しげに話しかけているのは、代々続く商家、アンダーソン家の跡取り息子候補、十五才のジュリアンだ。
「川遊びですかぁ。これから暑くなりますし、気持ちよさそうですねー」
 ジュリアンの言葉に、受付嬢がほほ笑む。
「まぁ、川遊びって言っても、みんな思い思いに魚を釣ってみたり、河原で飲んだり食べたり、あと、酔っ払って川に飛び込んだり‥‥まぁ、勝手に騒いでるだけなんだけどさ」
「そういうのが骨休めにはとてもいいのですよ。エイブラハムさんが奉公人の皆さんに慕われるわけですね」
 受付嬢が口にしたのは、アンダーソン家の現当主でジュリアンの父の名前。
「そうなんだよな、うちの親父、意外といろいろ考えているみたいで‥‥」
「あら、意外と、だなんて失礼ですよ。すぐれた商人でいることはとても大変なんですから」
 受付嬢に真剣な顔で説教され、ジュリアンはちょっときまり悪そうに頭をかく。
「それで? その川遊び大会がどうしたんです?」
 受付嬢に尋ねられ、ジュリアンが気を取り直したように身を乗り出す。
「ああ。それがさ、うちの親父、今年に限って参加できない、って言い出したんだ。なんでも、大口のお客さんが付きそうで、ジャパンの方まで行かなきゃならないんだってさ」
「あらら、でも、当主さんが参加できないんじゃ、いろいろとご不便ですねぇ」
「そ。だから今回、俺が代わりにみんなを連れてかなきゃなんないんだよ。その‥‥当主代行として」
 照れたようにぼそぼそとジュリアンが言う。しかし、その表情は心なしか誇らしげだ。受付嬢も「ジュリアン君ってば成長したなぁ」とばかりに微笑ましげにそれを見つめる。
「でさ、いつも親父が雇ってる護衛たちもそっちについて行っちゃうから、こっちに割く人員がないんだ」
「なるほど、それで冒険者を雇おう、とそういうことなんですね」
「そ。冒険者には何度かお世話になってるし。まぁ、ただ川遊びするだけだから、護衛ってのは形ばかりで、どっちかって言うと‥‥」
「どっちかって言うと?」
「一緒に川遊びしましょうよ〜ってこと! というわけで、募集条件は‥‥わかくてきれいなおねーちゃん!」
「‥‥却下」
 成長した、とか思ったあたしが馬鹿だった、と心の中で呟く受付嬢であった。

●今回の参加者

 eb5357 ラルフィリア・ラドリィ(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec4929 リューリィ・リン(23歳・♀・レンジャー・シフール・イギリス王国)
 ec4979 リース・フォード(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec4984 シャロン・シェフィールド(26歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文


 すっかり夏らしくなった今日この頃。一行を乗せた馬車がゆっくりと進む。
 リース・フォード(ec4979)が、隣に座るジュリアンに親しげに話しかける。
「久しぶりだね、ジュリアン。少しは商人としての意識は芽生えた?」
「わお、美人のお姉さん、どこかでお会いしましたっけ? ‥‥って、なんだ、リースさんか」
 振り向いたジュリアンが一瞬、リースを女性と間違えかけて、がっかりしたような顔をする。
「わざとやってるだろ!」
 ぱん、と頭をはたいたリースに、ジュリアンがペロッと舌を出す。
「ジュリアンさん、お久しぶり‥‥というほどでもないですかね。なんだかんだ言いつつ、跡取りとして頑張っていらっしゃるようで安心しましたわ」
 二人のやり取りを微笑ましげに眺めながら言ったのはシャロン・シェフィールド(ec4984)。
「が、頑張ってなんて‥‥シャロンちゃんも相変わらずかわいいね!」
「かーいい? シャロン、かーいい」
 ほわ〜と呟いたのは、ラルフィリア・ラドリィ(eb5357)。まるで幼い子供のように見えるが、これでも立派な冒険者だ。
「うわ〜、ラルフィちゃんの癒し系っぷりもたまらないなぁ」
 涎を垂らさんばかりのジュリアンの言葉に、シャロンが苦笑する。
「そういえば、偵察に行ったリューリィはまだかな?」
 リースが呟いたのとほぼ同時に、シフールのリューリィ・リン(ec4929)が前方の道からふわふわと戻ってくる。
「あ、お疲れ〜。ふわふわ飛んでるリューリィちゃんはまるで妖精みたいだ〜」
 ジュリアンがひらひらと手を振る。
「ふふ、ただいま、ジュリアンさん。もう少しすると木の多い地帯に入るから見通しが悪くなるわ」
「念のため、ブレスセンサーで警戒しておくよ」
「基本的には、野生動物なら威嚇して追い払いたいですね」
 リースとシャロンが口々に言う。
「ミミちゃんたち、僕守る‥‥」
 ラルフィもしっかりと言う。
「俺は? ‥‥なんか俺にできることないかな?」
「ジュリアンは、みんなのそばにいて堂々としていればいい。なんといっても当主代行なんだから」
 励ますようなリースの言葉に、ジュリアンは少し緊張気味にうなずいた。


 冒険者たちの警戒の甲斐あって、道中は何事もなく一行は目的地である河原へたどり着いた。
 さわさわと木の葉が風に揺れる音、太陽の光を反射してきらめく川の水の中にあっては、灼熱の太陽さえも世界を祝福しているように思われる。実に気持ちのいい昼下がりだった。
「ただ休暇ってのもいいんだけど、新鮮でおいしいものが食べたいと思わない?」
 リューリィが提案する。
「いいね! 俺、リューリィちゃんの料理食べたい!」
 ジュリアンが大喜びで賛意を示す。
「せっかく川なんだから、魚とか採ってみたらどうかな? ジュリアンやテッドも一緒にさ」
「私たちは木の実とかハーブを採ってみようかしら。ラルフィさんやミミちゃんと一緒に、ね」
 リースとシャロンがそれぞれに言うと、ラルフィも同意する。
「うん、おいしそうな草、いっぱい‥‥じゅる」
「あたしも、魚採りの方に行こうかな。適当な木の枝とつる植物の筋‥‥それからこのダーツの針先を外せば釣竿になるんじゃない?」
 言ったのはリューリィだ。
「魚釣りかー。やったことないけど、なんか楽しそうだな!」
「くさ、おいしいの?」
「兄ちゃんよりはたくさん採ってやるぜ」
「ふふ、なんだか楽しそうね」
 アンダーソン家の子供たちも楽しそうだ。
「せっかくだから、どっちが多く食材を集められそうか競争、ってのはどうです?」
「‥‥シャロンちゃん、それって俺たちの方が思いっきり不利じゃない?」
 笑顔で提案したシャロンに、ジュリアンが言う。
「あら、ジュリアンさん、勝負する前から降参ですか?」
 シャロンは涼しい顔だ。こうして、二手に分かれての食材集め競争は始まったのだった。


「うわ、魚釣りってなかなか難しいな。全然釣れない‥‥」
 さっきからずっと釣り針を垂らしているジュリアンが、早くも音を上げる。彼以外も、釣り経験のある者はおらず、苦戦しているようだ。
「リリちゃん、すごいなぁ」
 リューリィがうっとりと呟く。リースのペットで、最近大きくなったばかりのイーグルのリリが川面に急降下しては魚を捕えているの。
「うーん、負けてられないなぁ。こうなったら、直接掴んじゃった方が早いんじゃ‥‥とりゃ!」
 リースが、靴を脱ぎすてて川に飛び込む。
「おお! 採れた!」
 すぐれた動体視力を生かして狙いを定め、魚を掴み上げる。いつの間にか腰の辺りまで水につかってびっしょりだが、そんなことは気にならない様子だ。
「あ、俺も俺も!」
 ジュリアンとテッドも一緒になって我先に水の中に入っていく。
「リューリィもおいでよ! 気持ちいいよ!」
 いつになくはしゃいだ声でリースが誘う。
「あ、あたしはえっと‥‥」
 リューリィが戸惑ったような表情になる。ちょっぴり自分の体形にコンプレックスがある彼女は、水に濡れて体の線が出てしまうことを気にしているのだ。
「あれ、リューリィって泳げないの? だったら手を貸してあげるよ?」
 そんな乙女心など知る由もないリースは、あっけらかんと尋ねる。
「そんなことないわよっ!」
 言い返しながらも、気持よさそうな水の誘惑に魅かれるリューリィ。
(「ま、いっか。リースは気にしてないみたいだし」)
 そんな風に考えながら、彼女もまた川に入っていくのだった。


「このくさ、おいし〜よ」
 森の中を歩きながら、ラルフィが的確に食べられる草を指示していく。
「あ、ミミちゃん。あそこにおいしい木の実があります。採ってきてくれます?」
「うん、ミミ、きのみとってくる!」
 シャロンの言葉に、ミミが元気良くうなずく。自分で採りに行かず、ミミに頼んだのは「自分で集める楽しみ」をミミにも味わってもらおうというシャロンの配慮からだ。
 もちろん、シャロンもラルフィも一緒に楽しみながらもミミが危ない所に行かないように、つねに注意を払っている。 
「こっち、綺麗なお花‥‥花束、プレゼント‥‥喜ぶよ?」
 目を細めて花を見つめるラルフィはとても幸せそうだ。
「そうだ、いいことを思いつきました。ねぇ、ミミちゃん、協力してくれる?」
 ぽん、と手をたたいたシャロンがにっこりとミミに笑いかける。一瞬、きょとん、としたミミは、すぐに笑顔で大きくうなずいた。


 川と森の自然を満喫しながら食材集めを終えたみんなが、河原に集合した。すでに日は傾いている。
 競争は、山ほどのハーブや木の実を採ってきた森のグループが圧勝。とはいえ、川のグループもなかなかに健闘して(主にリリが)、新鮮な魚がかなり手に入った。
「これだけあれば、おいしいものが作れるわよ♪ アマンダさんとクレアさん、手伝ってくれる?」
 意気揚々と調理道具(中には魔法がかかっているものもある)を用意しながら言ったリューリィに、長女アマンダとジュリアンの母であるクレアが、うれしそうにうなずく。

 リューリィ達がご飯を作っている間、たき火を囲んでの他愛ない話に花が咲く。
 ひときわ好評だったのはラルフィの冒険譚。
「人に恋した可愛い人魚さん‥人の世界で迷子になって‥男の子に助けられて‥最後は海に帰っていくの‥‥初恋の思い出‥‥」
 ラルフィらしいゆっくりとしたテンポで語りながら、スクロールを使って幻影を作り出してみせる。人魚の少女、人間の少年、少女を狙う影から護る冒険者たち‥‥。みんな、一言も口をきかずにラルフィの話に聞き入っていた。
 それから、アマンダの竪琴の演奏に合わせてリースは珍しく歌声を披露したりしていた。彼が歌うたびに、聖鈴の首飾りが澄んだ音を立てる。リースの穏やかな歌声にアマンダの優しい竪琴の音色が混じり合って、暗くなり始めた夏の空に静かに溶けていく。
「素敵な歌ね。‥‥ちょうど料理もできたわよ」
 ちょうど歌が終わったころ、リューリィが呼びに来る。本当はもう少し前にできていたのが、リースの歌に聞き惚れていたようだ。
「うっわ! めっちゃいいにおい!」
「おいしそう〜」
「リューリィ、おつかれさま」
「おつかれさまです」
 口々に言うみんなに、リューリィがちょっと胸を張ってみせる。
「さぁ、冷めちゃわないうちに食べましょう! あたしの自信作だから!」
『いっただっきまーす!』
 穏やかな風が吹く夏の夜の河原に、みんなの幸せな表情が弾けた。

 おいしい食事をとって、みんなが幸せな気分になったころ。
 シャロンとリースが目配せをしながらリューリィに向かってにっこりと笑いかける。
「ちょっと遅くなっちゃたんだけど‥‥リューリィ、お誕生日おめでとう!」
 そう言ってリースが差し出したのは、小さな青い石だ。
「さっき河原で見つけたんだ。たぶん、サファイアだと思う。すごくきれいだったからさ、ぜひリューリィにと思って」
「私たちからは、これを。ね、ミミちゃん」
「うん、おめでとー」
 シャロンに促されてミミが差し出したのは小さな白い花で作られた花冠だ。ラルフィーが見つけた花を、ミミとシャロンと三人で編み上げたものだ。
「え、これ、あたしに? 本当? ありがと!」
 全く予想もしていなかったことに、リューリィが目を丸くして、それから満面の笑みを浮かべる。
「し、しまったー! かわいいリューリィちゃんの誕生日だったなんてー! 俺としたことが、調査不足だった!」
 素っ頓狂な声でジュリアンが言って、みんなが盛大に笑う。
「‥?? だいじょう‥ぶ? これ‥あげる‥いい人みつかる?」
 がっくりとうなだれるジュリアンに、ラルフィーが差し出したのは赤い糸の指輪。
「大切な人一人‥手当たり次第ダメ」
「あ、あはは‥‥」
 ラルフィーの正論に、返す言葉を失ったジュリアンは決まり悪げに頬を掻くのだった。