【変態演出家】出張夏公演!
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■ショートシナリオ
担当:sagitta
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:4人
サポート参加人数:2人
冒険期間:08月14日〜08月21日
リプレイ公開日:2008年08月23日
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●オープニング
「私はいつも洗練された都会でばかり公演をしているからな。たまには何も知らぬ田舎者相手に私の芸術がどれだけ理解されるものか、試してみようと思ってな!」
唾を飛ばしながら熱烈に語るのは、熱血的で、変人で知られる演出家のアーチボルドだ。
「なるほど、それで彼女の村に‥‥というわけですね」
受付嬢が、ちらりと店の奥に腰かける少女に目をやり、それからアーチボルドに向けて納得したようにうなずいてみせる。
(「本当のところは、予定していた夏祭りが中止になってしまって落ち込んでいるジュディスさんを慰めよう、って思ってるくせに。素直じゃないんだから」)
実は心の中ではそんなふうに苦笑している受付嬢。
店の奥に腰かけている純朴そうな少女――ジュディスは、キャメロットから歩いて二日ほどのところにある小さな村の村長だ。正確には、村長だった彼女の父が数年前に病気で亡くなってから、次の村長が決まるまでの代理、だが。
彼女は、寂れていく村の活気を取り戻すために夏祭りを企画し、冒険者の力を借りて実行しようとしていた。だが、残念ながら人出が集まらずアイデアも浮かばなかったため、夏祭りは計画倒れに終わってしまったのだ。
「それで? 具体的にはなにをなさるんですか?」
アーチボルドの行動に彼が決して表には出さない優しさを感じ取った受付嬢が、暖かい表情で尋ねる。アーチボルドは照れ隠しのためか、ことさらに大げさな身振りで答えた。
「田舎者の度肝を抜く演劇を、村で行うのだ! 今私は決まった劇団には所属していないからな。役者は冒険者にやらせようと思う」
「冒険者に、ですか?」
「うむ。私は幼い頃から洗練された都会で育ったからな。泥臭い田舎のことなどわからん。 田舎者どもを相手にするのは、日頃から街を出て外を駆けずり回っている冒険者どもにこそふさわしいだろう! 冒険者は前にも一度役者として使ったことがある。‥‥技術は酷いものだったが、まぁ‥‥それほど悪くもなかった」
口が悪いのも彼流の照れ隠しだということを、受付嬢は知っていた。どうやら、前に冒険者を雇っておこなった公演を随分と彼はお気に召したらしい。受付嬢がほほ笑む。
「アーチボルドさんは何か演出を考えておられるのですか?」
「いや、具体的にはまだだ。そのあたりも、冒険者たちに考えさせる方がいいだろう。何せ、田舎者に見せる芝居だからな! 私の高尚な芸術は奴らには理解できんだろう。過去に体験した冒険をもとにした芝居や殺陣などが、単純な田舎者には喜ばれるかもしれん。それから、あまり大規模な舞台装置を運ぶわけにもいかん。現地で村人たちに手伝わせて作ることにしよう。よいな?」
アーチボルドがジュディスに問うと、ジュディスは嬉しそうにこっくりとうなずいた。
「ええ。みんな珍しいイベントに飢えていますから、喜んで手伝ってくれるでしょう!」
「そういうことだ。わかったら、熱意ある冒険者を集めるのだ!」
「はい、お任せください!」
受付嬢は、勢いよくうなずいた。
●リプレイ本文
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「ってなわけでさ、対立する家の人間同士の恋物語、なんてどうかな」
村へ向かって歩きながら、アーチボルドに向かって自分の考えた筋書きを話して聞かせたのはヒンメル・ブラウ(ea1644)だ。
「ぼくがヒロインをやろうと思うんだ。‥‥猫を被ったお嬢様の役をね」
「不肖ながら、僕が相手役をやらせていただこうと思いますりょ。あと、できたらナレーションも」
隣で、童顔のヴィ・ヴィラテイラ(ea5522)が言う。
「で、俺がヒロインの婚約者の役だね。ちょっと暴走気味の青年のようだけど、精一杯頑張るよ」
リース・フォード(ec4979)も楽しそうに言う。
「なるほど、あれ? もう一人は? 確か女性の役ですよね?」
首をかしげたのは村長のジュディスだ。今回参加した冒険者は四人。残るもう一人は‥‥。
「もちろん、私がやりますよ。楽しそうですわ♪」
すでにノリノリの女性言葉で言ったのはウェーダ・ルビレット(ec5171)。確かに女性と見間違えそうな顔をしているが‥‥れっきとした男性だ。
「な、なるほど‥‥いいですね‥‥」
童顔少年のヴィと女装したウェーダのラブシーンでも思い浮かべたのだろうか、ジュディスがごくんと喉を鳴らす。
「ふむ‥‥くだらない、実にくだらない三文劇だが、田舎者どもにはちょうどいいかもしれんな」
自慢の髭をしごきながら、アーチボルドが呟く。
「だが役名はすべて変更だ! ここはイギリスだぞ! 村人どもに馴染みのある名にせねば共感は得られん。何せ、外国人などほとんど見たこともないような田舎者どもばかりだろうからな! ‥‥それと、ヴィとやら!」
「な、なんですりょ?」
「仮にも主役をやろうというものが、ナレーションと兼任だと? 役者を舐めるな!」
どでかい声で一喝され、ヴィは首をすくめる。
「ひぃっ! で、でも、じゃあナレーションはだれがやるんだりょ?」
「もちろん、この私だぁっ!」
偉そうに胸をそらして宣言するアーチボルド。
なんだ、自分が出たかっただけじゃん。
誰もがそう思ったが、口にはしなかったのだった。
●
「というわけで、この舞台は始まるのだぁっ! 始まった途端に大展開! ジュリアの家、キャンベル家は、華々しくも破産してしまったのだったぁっ!」
アーチボルドの暑苦しいナレーションが、にわか作りの舞台の上で響き渡る。
「ぜんっぜん華々しくないよ!」
そう言いながら舞台上に現れたのは、ヒンメルが演じる物語のヒロイン、ジュリアだ。美しい黒髪にアーチボルドが用意した白いドレスがよく映え、なかなかの舞台映えだ。
そこに現れたのはリース演じるジュリアの婚約者のマーク。冠に黒い鎧、サーコートといった飾り立てた姿。ちなみに衣装はすべて自前だ。
「あぁ美しい私のジュリア! 君の家が今や火の車を通り越して、もはや焼け落ちていることは分かっている。それでも構わない! 私の心は君のものだ。一瞬でも早く、君の花嫁姿が見たい!」
「あぁ、素敵な婚約者マーク! ありがとう! ところでマーク? 私は今とってもおなかがすいているのだけど、私のために食べ物を買ってきてくれないかしら〜♪」
片言のイギリス語をごまかすために、なぜかセリフが途中から歌になるヒンメル。しかしながら、異常にうまい歌のおかげで不自然さなど吹っ飛んでしまう。
「君のためなら地の果てまで行って食べ物を取ってこよう!」
そう叫んで、全力疾走で舞台から去るリース。体力のないリースは舞台裏に引っ込んだ途端息も絶え絶えでしゃがみこんでいたりする。
「マークって、顔はいいんだけど頭がいまいちなの〜♪ 貴族の息子だけど没落しそうだわ〜♪ あれ、誰か来たみたい!」
舞台端っこに隠れるヒンメル。
そこへ、ヴィの演じる主人公のレイが登場。そのかわいらしさに、観客のおばさんたちから黄色い歓声があがる。
ヴィと一緒に現れたのはウェーダ演じるローズだ。ピンク色のひらひらドレスをまとったウェーダの姿に今度は男たちから野太い歓声。もちろん、ウェーダが男である、ということにはだれひとり気づかない。
「ローズ、なぜ僕の方をむいてくれないのですりょ? やはり小柄で大福餅体形の僕ではだめなのですかりょ?」
「説明しよう! 大福餅とは、ジャパン特産の菓子で、こんな形だ」
舞台端にいたアーチボルドがナレーションを入れる。手に持っているのは、ヒンメルの持ち物から借りた桜まんじゅう。大福とは多少違うが‥‥まぁ、形は大差ないだろう。
「そうねぇ。どちらかというと私、羊羹の方が好みですわね」
ウェーダの声は男性にしては比較的高めで、ハスキーな声の女性、と言えないこともない。そもそも彼女――いや、彼の魅力にメロメロになっている男どもは、疑問に思いもしない。
「そんな! 僕はこんなにもあなたのことを愛していますのにりょ!」
「ふふ、素敵な羊羹になれたら、またおいでなさいな〜」
そう言って去るウェーダ。立ち去る間際に投げキッスまでしてみせて、観客の男たちの中には失神者が出た。
「あれは、わがキャンベル家とは犬猿の仲のモートン家の跡取り息子。モートン家と言ったら、うちとは大違いの立派な家柄、財産もたんまり。しかも意中の人には冷たくされてるみたい‥‥ふふふ、いいこと思いついた♪」
そう言って、ヒンメルは舞台に残されたヴィに近付いていく。
「レイ様、レイ・モートン様」
「貴方はジュリア・キャンベル殿りょ?」
「本当は私、ずっとあなたのことを想っていたのです。つれないローズさんなど放っておいて、私と一緒になりましょう」
「ジュリア、仇敵の僕を好いてくれるのですかりょ?」
「もちろんです! あぁレイ様、あなたこそ私の恋人‥‥」
そこまで言ってヒンメルは、くるっと客席の方に顔を向けて舌を出してみせる。
「本当に必要なのは君の財産だけどね〜♪」
「ああ、ジュリア、素敵だりょ! すぐに結婚しましょうだりょ!」
ヴィとヒンメルは舞台上で抱き合った。観客席からは大きな拍手。
(「ああ、僕には婚約したばかりのエレナさんという愛する人がいるのに」)
不意にヴィの脳裏をよぎる。が、すぐに頭を振って自分に言い聞かせる。
(「いやいや、劇の中だけなのです。やましくなんてないのですりょ!」)
「こうして、結婚を約束したレイとジュリア。しかぁし! そんなものがうまくいくはずもない! なにせモートン家とキャンベル家は宿敵同士なのだぁ! 結婚は当然のごとく反対され、レイは自暴自棄になるっ!」
叫ぶアーチボルド。
「むきーっ! こうなったらジュリアを殺して僕も死ぬのだりょ!」
「その宣言は、声がどでかかったために、ローズの耳にも届いたのだったぁっ!」
相変わらずうるさいナレーション。観客は、「声がどでかいのはおまえだろ」という突っ込みが喉まで出かかったに違いない。
舞台の上は場面転換を示すように一瞬暗くなり、また明るくなる。舞台にはウェーダとリース。
「なんですと! ‥‥マーク、心中の邪魔をしに行きますわよ! あなただってジュリアに死んでほしくはないのでしょう?」
「おのれ、レイ! 許せん! この聖なる剣で切り捨ててくれよう!」
二人とも走って舞台を去っていく。
場面転換。ヴィとヒンメル。
ダガーを抜いてヒンメルに向けるヴィ。
「僕と一緒に、死ぬのだりょ!」
「待って、レイ様、まだ望みを捨てないで〜♪‥‥冗談じゃない! 愛してもいないのに殺されてたまるかー!」
そこへやってくるウェーダとリース。
「私のジュリアを返せ! この外道が!」
そう言ってリースはスワードリリーを引き抜く。
「マーク、どうし‥‥やめるのですりょぅう! あわわ、仕方ないりょ‥‥受けて立つ!」
応じるようにダガーを構えるヴィ。しかし腰が引けている。
リースもヴィも、普段は剣など扱ったこともない。だが、アーチボルドに叩き込まれた殺陣のおかげで、なんとか様にはなっている。
(アーチボルド曰く、なぜ私が冒険者相手に剣の稽古をつけねばいかんのだ!)
「くらえっ!」
その時。リースの振るった剣が、ヴィの胸を貫通した! 観客がしん、と静まり返る。
が、一瞬のち、ヴィが灰になって崩れ落ちる。それはヴィが魔法で作り出した身代わりだったのだ。観客からはため息が漏れる。
「もらった!」
ヴィが剣を突き出す。油断していたリースはよけられない。
「負けてたまるか! ジュリアは渡さないぞ!」
よけることをあきらめ、あえて剣を突き出すリース。互いの剣が、互いに迫る!
「やめて!」
同時に叫んだのは、ローズ(ウェーダ)とジュリア(ヒンメル)。ローズがレイを、ジュリアがマークをかばったのだ。
「‥‥もうやめてっ! 私もう見たくないですわ! レイ、あなたが心中なんてしようとするからっ‥‥私は‥‥」
「そんな、ローズ! だってあなたは大福は好きじゃないんだりょ?」
「何言ってるのよ、レイ! 私本当は、甘いものなら何でも好きなの!」
「ローズ‥‥!」
よくわからないセリフで、見つめ合う二人。改めて言うが、二人とも男だ。
「マーク、本当は私‥‥」
「ジュリア‥‥」
ヒンメルはリースに手を差し伸べる。その手を取ろうとするリースの手は、震えている。過去の悲惨な記憶から、他者と触れ合うことに恐れを抱いているのだ。
(「くそ、こんな時に。これは単なる演劇なんだぞ」)
必死で自分に言い聞かせ、リースはヒンメルの肩を抱いた。
「宝石も真珠も求めない、他の人の愛情もいらない〜♪ あなたの眼差しは私の歓び、あなたの口づけは私の宝〜酔いしれよう愛に〜♪」
ヒンメルが打って変わって真面目なラブソングを見事に歌い上げ、ゆっくりと幕が降りた。
一瞬のち、割れんばかりの拍手と、歓声。
こうして出張夏公演は、大盛況のうちに幕を閉じたのだった。