妖精の願い
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:sagitta
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:4人
サポート参加人数:2人
冒険期間:04月05日〜04月10日
リプレイ公開日:2008年04月10日
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●オープニング
「ねぇ、おねえさんたち、ぼうけんしゃなんでしょ? ようせいさんをたすけてよ!」
昼下がりの冒険者ギルドに響き渡ったボーイソプラノ。
声とともに飛び込んできた少年の幼さに、ギルドの受付嬢は目を丸くする。おそらくまだ十にはならないだろう。
「ちょ、ちょっと、僕? だめよ、一人で入ってきちゃ。おとうさんおかあさんはどうしたの?」
「お父さんもお母さんもしんじてくれないんだ。ジミーがゆってたよ。ぼうけんしゃならたすけてくれるって! ねぇ、ようせいさんをたすけてよ!」
かみ合わない二人の会話。少年は、どうやらずいぶんと焦っているらしい。
「とりあえず落ち着いて。話を聞きましょう。ええっと‥‥」
「ぼく、ジョンだよ」
「では、ジョン。妖精さんがどうしたの?」
「えっとね‥‥」
ジョンは年齢の割にずいぶんと利発な子供のようだ。少し混乱しながらも明瞭に、ことの顛末を話し始めた。
ジョンによれば、いつごろからか彼の部屋を頻繁に訪れる「ようせいさん」がいるらしい。ジョンの両親も彼の家のメイドもその存在を信じてはいないため、妖精はジョンの前にだけ現れるという。
「ちょっと待って、メイドさんって‥‥ジョンはどこに住んでいるの?」
受付嬢が問うと、ジョンは不思議そうな顔で裕福な商人達の集まる住宅街の方を指差した。なるほど、あの辺りにある屋敷ならばメイドの一人か二人はいてもおかしくない。そして、十に満たない子供に一人部屋が与えられていても。
「なるほどね‥‥それで? ジョンの前にだけあらわれる妖精さんが、どうかしたの?」
「昨日おうちにきたようせいさんは、けがしてたみたいなんだ! それだけじゃなくて『おともだちもこまってるから、たすけて』って」
「ジョンあなた、妖精の言葉がわかるの?」
目を丸くした受付嬢に、ジョンはふるふると首を横に振った。
「でも、なんとなく言いたいことはわかるよ」
(「すごい感受性だわ‥‥だから妖精も、この子にだけは近づいてもいいと思ったのね」)
「それで、冒険者に妖精さんを助けてほしい、ってことね。うーん、でももう少し詳しい情報がないと動きようがないわね。その妖精とは、連絡取れないの?」
受付嬢が腕組みをして首をひねると、ジョンは目を輝かせた。
「おねえさん、信じてくれるの?」
「ええ。あなたが嘘をついているようには見えないわ。こう見えてもお姉さん、毎日たくさんの人を見てるのよ。誰が嘘をついているかくらいわかるわ」
受付嬢がそう言って微笑みかけると、ジョンは彼女の瞳をじっと覗き込み、それから力強くうなずいた。
「お姉さん、実は‥‥」
そう言ってジョンはぐっと受付嬢に近づき、背負っていたバックパックを降ろした。ジョンが袋の口を緩めると、そこからピョコン、小さな顔が覗く。
「まぁ」
30センチほどの背丈に、ふわふわの赤い髪とだんご鼻。いたずら好きの小人で、地の精霊でもあるピクシーだった。ジョンが「怪我していた」といったとおり、左腕に小さな包帯のようなものを巻いているが、それほど深いものではなさそうだ。
「このようせいさんのおうちがかいぶつたちにおそわれて、おともだちがこまってるんだって。かいぶつたちはおうちから、ようせいさんとおともだちをおいだしちゃったの」
ジョンが説明すると、ピクシーがしきりに首を縦に振ってみせる。どうやらうなずいているようだ。
(「ピクシーとここまで意思を通じ合わせられるなんて‥‥」)
受付嬢が感心していると、ジョンがきらきらする目で見つめてくる。
「ねぇ、おねえさん! ようせいさんをたすけられるの?」
「‥‥そうね、なんとかしてみるわ」
「やった! おねえさん、ありがとう!」
彼女がそう答えると、ジョンとピクシーが手を取り合って喜び合う。
昼下がりのギルドで手を取り合う少年と妖精。妖精の都キャメロットにあっても、その姿はひときわ幻想的だった。
●リプレイ本文
●
「私、ピクシーちゃんの名前が知りたいわ」
「あ、あたしも知りたい。フィムス、聞いてみてよ」
冒険者ギルドの一角。
口々に言ったのは、マール・コンバラリア(ec4461)とアニェス・ジュイエ(eb9449)。二人ともはじめて見るピクシーにいささか興奮気味だ。
『ピクシーさんのお名前はなんていうのですか〜?』
ピクシーを刺激しないよう努めて穏やかな声で、フィムス・ルーン(ec4045)が言う。声と言っても心の声、テレパシーの魔法によるものだが。
『名前?』
『なんと呼ばれているのですか?』
『‥‥トゲトゲ葉っぱ』
住処の中でお気に入りの寝床がトゲトゲの葉っぱの近くだから、らしい。フィムスが通訳すると、冒険者達とともにジョンが目を輝かせた。
「ようせいさん、とげとげ葉っぱ、ってゆうんだね!」
心からうれしそうなジョンの顔に、しばしあたりが和む。
とはいえ、今回の依頼は危険があるかもしれない。ジョンには留守番してもらうことに決めていた。口を開いたのはマールとルチア・シビル(ec4683)だ。
「帰りが遅くなったら、ご家族が心配するでしょう?」
「ジョンくんが家で待っててくれると、私たちも安心だわ」
アニェスもどん、と自分の胸を叩いてみせる。
「心配するなって。ピクシーたちの住処はあたし達がきっちり取り戻してくるからさ」
3人の説得に、ジョンはしばらく考えていたようだが、やがて力強くうなずいた。
「ぜったいぜったい、ようせいさんたちを、たすけてあげてね!」
「う〜、なんて素直ないい子なの! この子がピクシーに好かれた理由がわかりますね!」
そう言ってフィムスが、思わず、といった感じでジョンの頭に抱きついた。
ジョンは留守番のあいだ面倒をみるアニエス・ジュイエに手を引かれて背を向けようとし、ふと立ち止まって振り返り、しっかりと手を振った。
遠ざかるジョンの背中を見つめ、マールが呟く。
「できれば連れて行ってあげたかったんだけど‥‥ごめんね」
●
そびえた木々の間に、フィムスの奏でるオカリナの音色が響き渡る。タイトルは「春の陽気」。
パタパタと空を飛ぶマールとフィムスのシフールコンビ。フライングブルーム(空飛ぶホウキ)にまたがってゆっくりと飛ぶアニェス。実は、地上を歩いているのはルチアだけだったりする。
ちなみにトゲトゲ葉っぱは、ルチアの胸に抱かれて上機嫌だ。時折もぞもぞと動いては、ルチアに悲鳴を上げさせたりしている。
「ちょ、だめよそんなとこ触っちゃ!」
『うきゅ。やわらかい』
「あら、柔らかさならあたしだって負けませんのに」
フィムスが、思わず唇をオカリナから離し、小さく呟く。何を張り合っているんだか。
「ねぇ、ちょっと情報収集しておきたいんだけど」
さりげなく周囲を警戒しつつ、マールが言う。
「敵と仲間の数、あと敵の特徴。それから住処の様子なんかも聞きたいわ」
『仲間は7人。敵は5人。リーダーが一人いて、悪そうな顔した、怖いやつら。住処は、行けばわかるよ‥‥ほら』
トゲトゲ葉っぱの指差した先に目をやると‥‥そこに、ピクシーの住処はあった。
葉の茂った太い木と丈の高い草に囲まれ、一見しただけではそこに空間があることはわからない。だが今は、本来なら住処を隙間なく囲んでいたであろう木々の一角がぽっかりと空いていた。
『怪物たち、木を切り倒して中に入った』
呟いたトゲトゲ葉っぱの表情には、怒りと――悲しみがにじみ出ていた。地のエレメントである彼らにとって、森の植物達は友人も同然だ。その痛み、苦しみを自分のことのように感じてしまうのだろう。
「お仲間さんたちはどうしてるんですか?」
『他のところに避難してる。住処と違って、危ない動物多いから、みんな、隠れてる』
フィムスの問いに、悔しそうに答えるトゲトゲ葉っぱ。
「私たちが必ず住処を取り返して見せますから」
ルチアが硬い声で宣言する。冒険者達の目に、決意の炎が浮かんでいた。
●
「これでよしっと。しっかし、すごい匂いだわ‥‥」
鼻と口を布で覆い、顔をしかめながらアニェスが住処から少し離れた切り株の上に置いたのは、強烈な匂いのする魚の干物だ。数十メートル離れても十分に匂いをかぎ取れるほどのそれは、食べることに目がないゴブリンどもをおびき出すにはもってこいだ。
アニェス自身は、干物を設置し終えると近くの木の陰に身を隠してゴブリンたちが来るのを待つ。仲間達もそれぞれに近くで身を隠しているはずだ。
「でも、いくらなんでもこんなのに引っかかるかな?」
アニェスがさすがにちょっと不安になった時。
「がうがうがう」
「うがうがうが」
我先にと群がるように駆け寄ってくるゴブリンたち。
「ひぃ、ふぅ、みぃ‥‥5匹か。しっかり全員来やがったね」
あきれた様子でアニェスが呟く。干物の匂いがそれほど魅力的だったということだろうか。
「がうっ!」
興奮したリーダー格らしいゴブリンが、干物に手を伸ばそうとしたその時。
「意地汚い人には、おしおき」
頭上の木の枝に仕掛けられていた毛布がふわりと舞い、ゴブリンの頭にまとわりつく。明確な意思を持ってゴブリンの視界を塞ぐそれは、マールのサイコキネシスの仕業だ。
「がう〜! うが〜!」
リーダー格のゴブリンが恐怖の叫び声を上げると、他のゴブリンどもも慌てふためき、四方へ散ろうとする。
「おっと、そっちに行ってもらっては困るのよ」
呟いたルチアがストーン・ウォールを発動すると、住処の方に逃げようとしていたゴブリンの眼前に3m四方の石の壁が出現してゆくてを阻む。驚いたゴブリンは、慌てて向きを変え逆方向へと走り出した。
「そうそう、もっと森の奥に逃げとくれ!」
叫んだアニェスが両手に刀を抜き、舞うように振り回してゴブリンどもを追い立てる。恐慌をきたしたゴブリンたちはただひたすらに逃げ続ける。
「ダメ押しに、っと。こいつでもくらいな! オニワソト!」
ジャパン語の掛け声とともにアニェスがゴブリンたちの背中に投げつけたのは鬼を追い出すために特別にお祓いされた『追儺豆』。もはやゴブリンたちはリーダーを先頭に、森の奥へと一丸となって逃げ続ける。
「そのまま逃げて逃げて、迷子になっちゃいなさい!」
ひとかたまりで逃げるゴブリンたちの周囲をルチアがフォレスト・ラビリンスで迷宮化する。これでゴブリンたちは、住処の場所に戻ってくるのも容易ではないはずだ。
『これ以上ひどい目に遭いたくなければここから立ち去ることだ。さもなくば、今度は地割れがお前達を飲み込むだろう』
ゴブリンたちの心に直接響く警告の声。もちろんフィムスのテレパシーによるものだが、ゴブリンたちにはそんなことはわからない。もしかしたらそれが、『森の怒り』のように思えたかもしれない。
こうしてピクシーの住処を奪った無法者どもは、命からがら森の奥へと逃げ込み、さらにどんどんと迷っていくのだった。
●
トゲトゲ葉っぱに案内されて、冒険者たちはゴブリンたちが出て行った住処の中へと足を踏み入れた。
背の高い木にぐるりと囲まれて、暑さや寒さは防ぐけれど、太陽の優しい光はしっかりと降り注いでくれる。雨が降っても無数にある大きな葉っぱの下で雫を防げるし、怖い動物はそもそも入って来られない。小さくて可愛らしい小鳥たちだけが入ってきて、素敵な声で楽しませてくれる。
そこはまさに理想的な住処だった。
だが、逃げ出したピクシーたちは誰も戻ってきてはいない。
「ふふふ、こうすればきっとみんな帰ってきてくれると思うんです」
そう言ってフィムスがオカリナに口を当てた。流れ出すのは軽快なメロディ。思わず踊りだしてしまうような。タイトルは「地の精霊の賛美」。
「ふふ、いいねぇ! トゲトゲ葉っぱ、一緒に踊ろうよ!」
アニェスが言う。フィムスはオカリナを吹いているから通訳できないが、そんなものは必要なかった。パッと顔を輝かせたトゲトゲ葉っぱはアニェスの手をとり、むちゃくちゃに踊りだす。アニェスも負けじと全身を揺らして踊る。
「ひゃっほう!」
頬を紅潮させたアニェスが情熱的に踊る。
いつの間にかアニェスの周りで踊る姿が増えていた。トゲトゲ葉っぱとそっくりな妖精たち。男も女も、若いのも年寄りも。みんなが楽しそうに踊っている。
「ピクシーちゃんたち、帰ってきたのね」
「みんな楽しそうで、よかった!」
喜び合うマールとルチアもピクシーに手を引かれ、踊りの輪の中に入っていった。
●
目が覚めると、4人の冒険者達は大木の陰に身を預けていた。踊り疲れて、いつの間にか眠ってしまったらしい。
「あれ、ここどこかしら?」
ルチアが呟いて、あたりを見回した。ピクシーたちの住処の中ではない。どうやら森の入り口辺りのようだ。
「私、今度ジョンくんと一緒に住処に行ってもいいか、ピクシーちゃんたちに聞こうと思っていたんだったわ」
マールが慌てて住処へ戻ろうと起き上がった。‥‥しかし、住処の場所がどうしても思い出せない。
「大丈夫だよ」
アニェスがゆっくりと立ち上がって言った。
「トゲトゲ葉っぱはまたきっとジョンのところに来るからさ。その時に聞いてみればいい」
マールがそれにうなずく。
「そうね。まずは帰って、ジョンくんに報告してあげましょう。フェアリーテイルだもの、ちょっと脚色しても罰は当たらないわ」
「あれ?」
起き上がったルチアが、自分の荷物を拾い上げようとして小さく声を上げた。バックパックの中に青々とした草が詰まっている。よく見ればそれは、どれもが薬になるハーブの束だ。そういえばどのハーブも、ピクシーの住処の中に生えていたものだ。
「お礼ってことですかね〜」
「へへ、最後の最後に粋な悪戯をしてくれるじゃない」
その時駆けぬけた一陣の風の中に、冒険者たちは、ピクシーの陽気な笑い声を聞いたような気がした。